問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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今回は少し長めです。
あと、この話ではイオちゃんは割と空気です。
イオちゃんを出せ! という方には申し訳ありませんが、今回で第一章プロローグも終盤に入るので、ガルド戦から少しずつイオちゃんの活躍がある予定ですので、そちらをお楽しみにね。


第12話 決戦前夜

 その夜は十六夜の月だった。

 

 館を出た十六夜は、コミュニティの子供達が眠る別館の前で仁王立ちしていた。

 

「・・・・・・そろそろ決めてくれねえと、俺が風呂に入れねえだろうが」

 

 ザァ、と風が木々を揺らす。一見して人の気配はないものの、十六夜は面倒くさそうな顔をしながら誰かに話しかけるように独り言を続ける。

 

「ここを襲うのか? 襲わねえのか? やるならいい加減に覚悟を決めてかかってこいよ」

 

 ザザァ、ともう一度だけ風が木々を揺らす。やはり誰かが隠れているようには見えない。

 

 呆れたようにいくつか石を拾った十六夜は、木陰に向かって軽く投石した。

 

「よっ!」

 

 軽いフォームからは考えられないデタラメな爆発音があたり一辺の木々を吹き飛ばし、同時に現れた人影を空中高く蹴散らせ、別館の窓ガラスに振動を奔らせる。

 

 別館から何事かと慌てて出てきたジンが十六夜に問う。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「侵入者っぽいぞ。例の“フォレス=ガロ”の連中じゃねえか?」

 

 空中からドサドサと落ちてくる黒い人影と瓦礫。

 

 意識のあるものはかろうじて立ち上がり、十六夜達を見つめる。

 

「な、なんというデタラメな力! 邪神を倒したというのは本当だったのか」

 

「ああ、これならガルドとのゲームに勝てるかもしれない・・・・・・!」

 

 侵入者の視線に敵意らしいものは感じられない。

 

 侵入者の姿はそれぞれの一部が人間とかけ離れたものだった。おそらくみな動物のギフトを持つ者なのだろう。

 

「・・・・・・で、何か話したくて襲わなかったんだろ? ほれ、さっさっと話せ」

 

 十六夜はにこやかに話しかける。しかし侵入者は全員、沈鬱そうに黙り込む。

 

 互いに目配せした後、意を決するように頭を下げて、

 

「恥を忍んで頼む! 我々の、いえ、魔王の傘下であるコミュニティ“フォレス・ガロ”を完膚なきまでに叩き潰してはいただけないか!!」

 

「嫌だね」

 

 決死の言葉をサラリと一蹴する。侵入者は絶句して固まっていた。隣で様子を見ていたジンもあっけにとられて半口を開けている。

 

「どうせお前らもガルドに人質を取られている連中だろ? 命令されてガキを拉致しに来ってところか?」

 

「は、はい。まさかそこまで御見通し立ちは露知らず失礼な真似を・・・・・・我々も人質をとられている身分、ガルドには逆らうこともできず」

 

「ああ、その人質もうこの世にいねえから。はいこの話題終了」

 

「十六夜さん!!」

 

 ジンが慌てて割って入る。しかし十六夜は冷たい声音で接する。

 

「隠す必要はあるのかよ。お前らが明日のギフトゲームに勝ったら知れ渡る事だろ?」

 

「それにしたって言い方というものがあるでしょう! いくら何も知らされていないからと言って簡単にガルドの言いなりに人を攫っているのが気に入らないからと言って」

 

「ハッ、言うようになったじゃねえか、御チビ」

 

「イオさんに言われて、十六夜さんがどういった人なのか少し分かりましたからね」

 

「そうかいそうかい。・・・・・・たく、イオの奴め、余計なこと言いやがって」

 

「そ、それでは、本当に・・・・・・」

 

「はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺していたそうです」

 

「そんな・・・・・・!」

 

 侵入者は全員項垂れた。その衝撃は計り知れない。

 

 そんな彼らを見ている十六夜は、急にフッと笑い、侵入者たちに告げる。

 

「お前等の気持ちはよく分かった」

 

「・・・・・・え?」

 

 いきなり分かったと言い出した十六夜の顔をジンは見つめる。

 

「ガルドが、いや、すべての元凶である魔王そのものが憎いだろ。だが安心しろ」

 

 十六夜は両手を広げ、まるで演説をしているかのように続ける。

 

「お前たちの敵はこいつが討ってくれる」

 

「え!?」

 

「すべての魔王を倒すために立ち上がった男。―――この、ジン=ラッセルがな!」

 

 十六夜の宣言にジンは大変なことになりそうだと茫然自失になって膝を折るのだった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 お風呂から上がった娘四人は、パジャマ代わりに用意されたネグリジェを着たまま、明日からの着替えのために黒ウサギの部屋までやってきていた。特に飛鳥の場合、正装でこの箱庭に来てしまったため、普段着が一着もない。耀は依然として変わらないシンプルな服を好んでいたから問題はなかったが、飛鳥はどうにも納得できなかったのだろう。

 

「せっかくこんな素敵な世界に来たのだもの。相応の衣装を普段着に使っても問題はないでしょう?」

 

「それは勿論でございます。しかし、黒ウサギの衣装棚に飛鳥さんの気に入るようなものがあるかどうか・・・・・・」

 

 ゴソゴソ。衣装棚を漁る黒ウサギ。

 

 ちなみにイオは、最後にかっこよく宣言した直後に、遊びすぎたせいでのぼせて倒れこんだ。そのため、あの後の空気は正直微妙なものになってしまい、最後の言葉は流されてしまっている。

 

 という訳で、彼女は今、黒ウサギのベットの上で寝転がっている。部屋で休んでいていいと三人は言ったのだが、なぜか断固として拒否してついてきたのだ。

 

 フッと飛鳥が視線を泳ぐと奥にあるクローゼットが目に留まった。

 

 それに気づいた黒ウサギは、妙案を思いついたとばかりにウサ耳を跳ねさせる。

 

「そういえばあのクローゼットには、審判用に着用を求められた衣装が・・・・・・!」

 

 クローゼットを開く黒ウサギ。其処には様々なコスチュームが飾られていた。

 

「飛鳥さんの好みはワンピースですか? ツーピースですか?」

 

「どちらかといえば、ワンピースかしら」

 

「そうですよね~♪ 黒ウサギもワンピースのほうが好きです。スカートはどうです?」

 

「特にこだわりは無いけど・・・・・・黒ウサギのスカート丈は、少し恥ずかしいわ」

 

「うう、そうですよね。黒ウサギもロングスカートのほうが好みでございます・・・・・・」

 

「わかってないな! その恥じらう姿と合わせて、そのスカート丈は素晴らし―――あぅぅ・・・・・・」

 

 勢いよく起き上がり叫ぶも、最後まで言い切ることもできずに、再びベットの上に倒れこむ。それを三人はこれまで一緒に過ごして身に着けたスルースキルを使って無視した。

 

 ゴソゴソ。いったい何着のコスチュームがあるというのか。黒ウサギは取り出しては投げ捨てて、それらを物色していく。

 

 クローゼットを漁る黒ウサギが突然声を上げた。

 

「あ、コレなんていかがでしょう!?」

 

 バサァ、と広がる真紅の衣装。ワンピースのロングスカート―――というよりは、完全にドレススカートそのものだ。あまりの派手さに耀は三度瞬きする。

 

「・・・・・・。これを普段着に?」

 

「あら、素敵じゃない? 私はこういう衣装も好きよ」

 

 意外と好感触の飛鳥は、さっそくその場で服を着替える。

 

「この衣装は審判用に白夜叉様から戴いたものでございます。ウサギ達はご依頼があれば審判役と共に進行役としてゲームを盛り上げる仕事も御座いますから」

 

「そうなの?」

 

「YES。ですのでこの衣装には、身を守るための加護が付属されています。明日のギフトゲームの際に着ていくのもよろしいかもしれません」

 

 飛鳥はそこでようやく、黒ウサギの意図を理解した。

 

 ギフトとしての加護が宿るこのドレスならば、普段着にも有事の際にも着ていられると思っての事だろう。

 

 足もとまで伸びる美麗なレースの布地は飛鳥のステップに合わせて踊るように舞い、着る事で逆に身軽さを感じるような錯覚があった。

 

「驚いたわ。こんなに凄く動きやすいスカートは初めて―――」

 

「ふふ、当然でございます! なんといってもこの衣装は、」

 

「―――だけど、胸が余るわ」

 

 へ? と言葉をなくし、飛鳥の胸からのボディラインを凝視する黒ウサギ。

 

 飛鳥も十五歳の少女にしては発育がいいのだが、黒ウサギの発育と比べればまだ幼い。

 

 一見して少女のような黒ウサギだが、放漫な胸と臍から臀部にかけての女性らしい肉付きは理想的なボディラインを描いている。

 

 ちなみに、お風呂で確認したところ、イオは見た目の年齢に合わない、四人の中では二番目の大きさだった。しかしそれでも飛鳥よりは少しある程度で黒ウサギには及ばない。

 

 飛鳥はかろうじて胴回りは同じサイズのようだが、ドレスの胸の部分は完全に余っていた。

 

「あやや、こ、これは・・・・・・! え、えーとですね! 今晩の内に服のサイズを飛鳥さんに合わせておきますので! 明日のゲームには間に合うかと・・・・・・!」

 

「・・・・・・そうね。お願いするわ」

 

 複雑な表情で承諾する飛鳥。口にはしないものの、言いようのない敗北感があった。

 

「あー、その服ちょっと貸してくれる?」

 

「イオ、もう大丈夫なの?」

 

 先ほどまでベットで倒れ伏して動かないままのイオが言い、となりで軽く扇いでいた耀が尋ねる。それに大丈夫と言って、イオは渡された飛鳥の服を手に取り、

 

「うーん? これならまあ、一瞬で終わるかな。ちょっと待ってね?」

 

 そう言って、どこからか裁縫セットを取り出して、すぐさまサイズを直して見せた。

 

 本拠の廊下をドタバタと走り抜ける音がしたのは、それから少し後の事である。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 本拠の最上階・大広間に十六夜を引きずって連れてきたジンは、たまりかねて大声で叫んだ。

 

「どういうつもりですか!? あれではまるで・・・・・・」

 

「“打倒すべての魔王とその関係者”。お困りの方はジン=ラッセルまで。キャッチフレーズはこんなとこか?」

 

 軽薄な笑みを浮かべてそう告げる十六夜にジンは詰め寄る。

 

「ふざけないでください! そんな宣誓が流布されたら、他の魔王にも目をつけられるかもしれないのに・・・・・・!」

 

「おう、そいつは大歓迎だ」

 

「馬鹿なことを言わないでください! 今はギフトゲームを堅実にクリアし、コミュニティが力をつける大事な時期です。これだけ才のある方々が集まれば、どんなゲームにも対応できます。なのに・・・・・・」

 

 どこまでも楽しそうに言う十六夜の姿に、ジンは肩を震わせる。その姿に十六夜は普段通りの軽薄な笑顔を浮かべたまま、

 

「ほんと呆れた奴だな、御チビ。ギフトゲームで力をつけるのは大前提だろうが、肝心なのは“魔王”に“どうやって”勝つかだ」

 

「そ、それは」

 

 ジンは何も言い返すことができない。十六夜の言うことはもっともだったから。

 

 笑みを消して真面目な顔で十六夜はなおも続ける。

 

「俺達には名前も旗印もない。組織を主張する旗頭が何一つない状態だ。コミュニティの主張となるものが何もない。それはとんでもねえハンデだ。だがな、お前はそいつを背負ったまま先代を超えなきゃならないんだぜ?」

 

「・・・・・・先代を、超える」

 

 ハッ、とジンも気づく。

 

 自分が考えていたコミュニティの再建は所詮机上の空論。あまりにも時間がかかりすぎてしまう、ただの理想論。

 

 “魔王”を倒すためには最低でも、以前の“魔王”に敗れたコミュニティを超える実力が必要不可欠。少しずつ堅実に、なんて考えでは、かつてこの箱庭の都市に一目置かれるほど強大だった、先代のコミュニティを超えることはおろか、足元にも届くことはない。

 

 それに気づいたジンを見て、十六夜はニッと笑い言った。

 

「で、名も旗もないとなるともう、リーダーの名前を売り込むしかねえよな。ジン=ラッセルって名前を」

 

「僕の名前を?」

 

「それもただのリーダーじゃねえ。“打倒魔王”を掲げたコミュニティのリーダーだ。そいつが明日のゲームに勝てば、いい宣伝になる。そしてそいつに反応するのは“魔王”だけじゃない」

 

 パシン、と十六夜が自分の掌に拳をぶつける。それにジンは少し驚き、そのまま十六夜は続けていく。

 

「“打倒魔王”を胸に秘めた奴らだ。今俺たちに足りねえのは人材だ。俺並みとは贅沢は言わないが、俺の足元並みは欲しい。そうすればどっかに消えちまったいつかのお仲間よりは、当てにできるぜ?」

 

 十六夜の言うことはきっと正しい。それはジンにも分かる。だから賛成するのは簡単だが、大きな不安要素があるのも忘れてはいけない。それを踏まえたうえで、ジンは条件を出す。

 

「一つだけ条件があります。今度開かれる“サウザンドアイズ”のギフトゲームに、十六夜さん一人で参加してください」

 

「なんだ? 俺に力を見せろってことか?」

 

「それもありますが、理由はもう一つ。このゲームには僕らが取り戻さなくてはいけない、もう一つの大事なものが出品される」

 

 名と旗印、それに匹敵するほど大事な、コミュニティの宝物。

 

「まさか・・・・・・昔の仲間か?」

 

「はい。それもただの仲間ではありません。元・魔王だった仲間です」

 

 十六夜の瞳が光、軽薄な笑みに凄味が増した。

 

「へぇ? 元・魔王様が昔の仲間か。これの意味することは多いぜ?」

 

「お察しの通り、先代のコミュニティは魔王と戦って勝利した経験があります」

 

「そして魔王を隷属させたコミュニティすら滅ぼせる―――仮称・超魔王とも呼べる超素敵ネーミングなやつも存在している、と」

 

「そんな名前では呼ばれてはいませんが、魔王にも力関係はありますし、十人十色です。白夜叉様も今はもう魔王とは呼ばれていません。魔王とはあくまで“主催者権限”を悪用するもの達の事ですから」

 

 “主催者権限”そのものは箱庭を盛り上げるための装置でしかなく、それが悪用されるようになって“魔王”という言葉ができたのだとジンは語る。

 

「ゲームの主催者は”サウザンドアイズ”の幹部の一人。僕らを倒した魔王と何らかの取引をして仲間の所有権を手に入れたのでしょう。相手は商業コミュニティですし、金品で手を打てればよかったのですが・・・・・・」

 

「貧乏は辛いってことか。とにかく俺はそいつに勝てばいいんだな?」

 

 ジンは頷いて返す。それができるのならば是非にでもお願いしたかった。

 

「それができれば対魔王の準備も可能になりますし、僕も十六夜さんの作戦を支持します。ですから黒ウサギにはまだ内密に・・・・・・」

 

「あいよ」

 

 十六夜が席を立つ。大広間の扉を開けて自室に戻るとき、ふとひらめいたように人に声をかけ、

 

「明日のゲーム、負けるなよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」

 

「はい。・・・・・・え?」

 

 とんでもないことをサラリと言い残し、十六夜は大広間の扉を閉めるのだった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 自室への帰り道。その途中で十六夜はイオに出会った。

 

「・・・・・・で、結果はどうだったの?」

 

「おいおい、覗き見しておいて何言ってんだよ。どうせ全部見てたんだろ?」

 

 十六夜は、お風呂に向かう前のイオに言われてからずっと、イオの視線を感じていた。

 

 その場にイオはいなかったが、水樹を手に入れた時にも同じような視線を感じていたため、その視線が彼女のものだと理解していた。

 

「おお! まさか気づいていたとは!」

 

 全く驚いていないくせにイオはおどけて両手を挙げて見せる。

 

 十六夜が無反応で返してきたため、仕方なくイオは手をおろし、話を続ける。

 

「とりあえず、やっぱりキミも同じように考えていたみたいでよかったとでも言っておこうかな?」

 

「そうかい。それはどうもありがとう」

 

 二人で特に意味もない言葉を交わす。

 

 十六夜はどうにもこの少女の事が不可解だった。普段の態度は見た目通りの子供のようなものだが、時々感じる得体のしれない悪寒のようなもの。

 

 特に、先刻コミュニティの惨状を見て錯乱した彼女が最後に一瞬放った殺気。自分に向けられたものでもないのに、まるで白夜叉と対峙した時に匹敵するかのような威圧感を感じた。

 

 それはたまたまイオの目の前にいた十六夜だから分かったものだが、それでもあれは、とてもじゃないが普通の人間に出せるようなものではなかった。

 

 イオの事を観察するように見つめる十六夜をよそに、イオは普段の子供らしい態度ではしゃいでいる。

 

「ふふふ、これから先は、もっとオモシロオカシイことになるといいな♪」

 

 これが彼女の本当の姿なのか、それとも別のものなのか。今の十六夜には判断することはできない。

 

「それじゃあ、おやすみ。また明日ね、十六夜君?」

 

「ああ、また明日だ」

 

 そう言って二人は自分の部屋へと帰って行った。

 




さて、十六夜君の嫌な予感はどうなるのか。それはこの先明らかになるまでは分かりません。
ジン君は第二の主人公というもと話は進んでいきます。
ジン君頑張って!
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