問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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今回初めて、本格的にあの人が出ます。


第15話 後悔を超えて

 夢。人間が眠っているときに見る夢。其処は異なる世界とつながることができる世界。心の中と繋がる世界。

 

 暗闇に包まれた空間の真ん中にイオは座り込んでいた。そんな彼女の下に、着物を着た身長170程度の一人の和服姿の青年が近づいていく。

 

 イオは顔を上げることなく、青年に向けて言葉を発する。

 

「・・・・・・ねえ、これでよかったのかな。天燈?」

 

 和服姿の青年の名前は依桜天燈。そう、本当の依桜天燈だ。

 

 あの時。イオを置いて一人でこの世界に来ようとした彼は、イオによってその存在を奪われた。

 

 イオの持つギフト『蒐集者』は、奪うギフト。他人からどんなものでも一つだけ奪うことができるギフト。彼女がそれを一つだと判断すれば、たとえ一人の人間の存在すら奪うことができる、最凶のギフト。

 

 すでに天燈とイオは一人の人間として混ざってしまったため、現実世界で会うことはできない。この世界だけが二人が会える唯一の場所だった。

 

「きっと、ここに来たのが僕じゃなくて天燈の方だったら、きっと耀ちゃんはあんな怪我をしなかった」

 

 天燈は答えない。ただただ黙って、無表情でイオの言葉を聞いている。

 

「僕が天燈を奪えたのは、本当に運が良かっただけ。本当ならあのまま僕たちは別れるはずだったのに、僕の勝手な思いでこんなことになっちゃって」

 

 心なしかイオの背中が小さくなっていくように見えた。まるで今の彼女の後悔を現しているかのように。

 

「天燈も僕を恨んでるよね。ずっと僕に奪われないように抵抗してたのに、最後の最後でこんなことになって。謝って済むことじゃないけど、本当にごめん」

 

 そこで初めて、天燈は口を開く。

 

「おいおい、どうした? 随分らしくないじゃないか」

 

 軽薄そうに笑い、馬鹿にするように告げる。だけどイオは何も答えない。それでも天燈は続ける。

 

「いつだってお前は誰がどうなろうと何とも思わなかったじゃないか。それがいったいどんな風の吹き回しだ? 一丁前に人間の真似事か? この化け物が―――」

 

「―――それ以上言うな」

 

 あからさまに挑発を続ける天燈に、彼以外聞いたことのないあまりにも低い声音。タダの人間なら向けられただけで死んでしまいかねないほどの殺気。

 

 それはまさしく、化け物の気配だった。

 

 満足そうに笑う天燈。その表情が、昔からイオは気に入らなかった。

 

「誰のせいでこうなったと思っている」

 

「誰のせい? おいおい、お前が自分でさっき言ってたじゃないか。お前のせいだ」

 

「・・・・・・そうだね。僕と―――君のせいだ」

 

「・・・・・・」

 

 天燈はまた答えない。だが、今度は笑みを崩さない。

 

「僕たちはもう、一人の存在だ。僕の事は君の事。君の事は僕の事。過去も未来も、罪も全部。僕たちのものだ」

 

「それは違うぜ」

 

「え?」

 

 イオは天燈の顔を見上げる。だが、何度見てもその表情は変わっていない。

 

「確かに俺たちは一つになった。だけど、俺達二人のものは何もない。俺はあくまで俺だし、お前もお前でしかない。それを、全部自分のものだなんて、自分勝手もいいところだ」

 

「な、何を言って・・・・・・」

 

「いいか! 確かに今のお前には俺の記憶や考えが混ざっている。だけど、それはあくまで俺のものだ。お前が勝手に背負い込むものなんかじゃない」

 

 相変わらずその表情は変わらない。なのに、そこにはどこまでも真面目な、絶対に譲れない何かがある気がする。

 

「だからイオ。俺の真似なんかをしてるんじゃねえよ」

 

「・・・・・・」

 

 二人の眼差しが交差する。

 

「・・・・・・ふふ」

 

「・・・・・・っは!」

 

 そして唐突に二人は笑いだす。

 

「あっはっは! 君の真似? 何を言っているんだい、天燈。君も知っているだろう? 僕は強欲な人間なんだ。この世のすべては僕のもの。君が何を言おうとも、今の君のすべては僕のものだ」

 

「はは! そうだ。それでこそお前だぜ、イオ」

 

 一通り笑い終えると、二人は互いに背を向ける。

 

「それじゃあ僕は帰るよ。僕を待っている人がいるからね」

 

 イオは歩き出す。それが彼女の進む道だから。

 

 天燈は立ち止まる。其処が彼のいるべきところだから。

 

 やがて、イオの姿は霞んでいき、夢から覚める時が近づいてきた。

 

「あ、そうだ」

 

 最後に思い出したように、だが決して振り返ることなく彼女は告げる。

 

「僕は君の真似をしているんじゃない。僕は、―――僕がしたいからこうしているだけさ」

 

 夢は、覚めた。

 

 いつものように天燈は一人そこに残り続ける。

 

「―――イオ。お前はいつでも、どんな時でも、笑顔のままでいてくれ」

 

 それが彼の最後に残したたった一つの願い。

 

 最後まで、彼は笑顔を崩さなかった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 目が覚めると、見覚えのある天井が見えた。

 

「ここは・・・・・・」

 

 そこは館の中のイオが泊まっている部屋だった。

 

「・・・・・・イオ!」

 

「耀ちゃん?」

 

 友達の声が聞こえ、顔をそちらに向けるとベットの隣に耀がいた。

 

「よかった、目が覚めて」

 

「あはは、大げさだよ。ちょっと疲れて眠ってただけなんだから」

 

「ちょっとって、二日も眠ってて何を言ってるの」

 

「二日? ・・・・・・僕そんなに長く眠ってたんだ」

 

 流石のイオも予想外だった。彼女の予想ではせいぜい半日眠るぐらいだと思っていたのだが、予想外に体力を使いすぎたのだろう。

 

 その時、ドアをノックする音が鳴り、ジンが部屋の中に入ってきた。

 

「イオさん! 目が覚めたんですね!」

 

「うん。ついさっきね」

 

 起き上がっているイオの姿を見てジンも安堵の表情をする。

 

(う~ん、こりゃ心配かけちゃったな~)

 

 失敗失敗と思いながらベットから降りる。今は聞かなくちゃいけないことがある。

 

「ねえ、あの後どうなったの?」

 

「そうですね。それは僕が話します」

 

 ジンがそう言い、離しはじめる。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 ゲームが終わり、“フォレス・ガロ”の解散令が出たのは間もなくの事だった。

 

 居住区から避難していた人間は鬼化した木々が消えたのを知り門前に集まっていた。今はジンがその人たちに説明をしているところだ。

 

「はい。ガルドは僕たちが倒しました。人質の件に関しては“階層支配者”にも連絡してあります。もう襲われる心配はないでしょう」

 

 ざわざわと衆人に声が広がる。しかし歓声のようなものは少ない。人質が殺されたと知った者達はその場で泣き崩れてさえいる。それに“フォレス・ガロ”は近隣で最大手のコミュニティだったのだ。それが無くなることに対する不満もあるのだろう。

 

「一つ、とても重要なことをお聞きしたい」

 

「なんですか? お困りなら多少の相談には」

 

「いえ、その、俺達は貴方たちのコミュニティ―――“ノーネーム”の傘下に?」

 

 ジンの表情が強張った。それは感謝の言葉でもなければ、解放された喜びの言葉でもない。

 

 これから自分たちが名も無き“ノーネーム”のコミュニティを背負わされるのかという失意だ。恩人に対する感謝よりも、明日を憂う心から出た言葉だった。

 

(やっぱり・・・・・・、ノーネームでは信頼されないのかな・・・・・・)

 

 ジンは返答に詰まる。なんと言葉を返せばいいのか分からなかった。

 

(でも、此処で何もできないようじゃ、僕は本当に何もできない・・・・・・)

 

 だが、ジンは諦める訳にはいかない。さっきイオが自分にくれたギフト。彼女は“勇気”のギフトと言っていた。その意味は自分で見つけなくてはいけないとも。

 

 今でもどういう事かはわからない。けれど、あの時ジンはイオに確かに背中を押されたような気がした。頑張れと言われたような気がしたのだ。その期待に応えたい。彼女を率いるリーダーとして。

 

 だからジンは、後ろから肩を抱き寄せて何かを言おうとする十六夜を制して宣言する。

 

「今から“フォレス・ガロ”に奪われた旗と名前を皆さんに返します! 代表者は前へ!」

 

 昨日までのとはまるで別人のように、覚悟を込めた顔で宣言したジンに十六夜は驚く。何があったのかはわからないが、少なくとも今回のギフトゲームで何かを見つけたのだろう。今のジンはそんな人間の目をしていた。

 

 一斉に総勢一〇〇〇は超えているだろう衆人環視の的となるジン。だが彼は何一つ物怖じしていない。面白いと笑った十六夜がらしくない尊大な物言いで衆人へ叫んだ。

 

「聞こえなかったのか? お前たちが奪われた誇り―――“名”と“旗印”を返還すると言ったのだ! コミュニティの代表者は疾く前へ来い! “フォレス・ガロ”を打倒したジン=ラッセルが、その手でお前たちに返していく!」

 

 囚人たちは身内同士で顔を見合わせながら、ジンの前に一斉に雪崩込む。幼いジンを押しつぶしてしまいそうな人の群れを、十六夜は大一括と大地を砕く足踏みで押し返す。

 

「列を作れ戯け! 統率のとれない人の群れなど、“フォレス・ガロ”の獣にも劣るぞ!」

 

 年齢からは想像できない口ぶりと威圧感で衆人に列を作らせる。十六夜は語調を戻して耳打ちする。

 

「流れは作った。手渡す時に、しっかりと自己主張するんだぜ?」

 

「はい。分かってます」

 

 その後、順調に返還は進んでいく。あるものは狂喜して踊り回り、あるものは旗を掲げて走り回り、ある者は失った仲間の名前を叫びながら泣き崩れていた。

 

 最後のコミュニティに旗印を返還したジンと十六夜は、全員の前に立ち、

 

「名前と旗印を返還する代わりに、いくつか頼みたいことがある。お前たちの旗を取り戻した、このジン=ラッセルの事を今後も心に留めておいてほしいというのが一つ。そしてジン=ラッセルの率いるコミュニティが“打倒魔王”を掲げたコミュニティであることも思えておいて欲しい」

 

 囚人が一斉にざわめいた。昨夜の侵入者たちから話を聞いていた者は、信じられないという顔でジンに目を向ける。

 

「まさか・・・・・・あの話は本気なのか・・・・・・?」

 

「相手は魔王だぞ? あんな子供達で」

 

「しかし彼らのコミュニティは神格を倒したそうじゃないか」

 

 ざわざわと波紋が広がる。十六夜は話を続ける。

 

「知っているだろうが、俺タッチのコミュニティは“ノーネーム”だ。魔王に奪われた名と旗印。それを自らの手で奪い返すため今後も魔王とその傘下と戦うことはあるだろう。だから覚えておいてほしい。俺たちは、“ジン=ラッセルの率いるノーネーム”だと。そして名と旗印を取り戻すその日まで、彼を応援してほしい」

 

(随分と饒舌だこと)

 

 隣で笑いをかみ殺す飛鳥。普段の彼を知っているのならばこの演説はむずがゆいに違いない。ジンも少し笑いそうになったのを、十六夜に背中を叩かれてハッとする。

 

「ジン=ラッセルです。今日を境に聞くことも多くなると思いますが、よろしくお願いします」

 

 衆人から歓声が上がる。激励の言葉を贈られた彼らの作戦は、ひとまず成功を収めるのだった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 ジンからギフトゲームの後の事を簡単に聞いたイオは面白そうに笑う。

 

「あはは! 随分面白そうなことをやってたんだね」

 

「笑い事じゃありませんよ。イオさんにも働いてもらうんですから」

 

 苦笑してイオに返すジン。そんなジンを見てイオも少し満足そうに微笑む。

 

(少なくとも、前向きにはなってくれてるみたいでよかったよ)

 

 一通り三人で笑った後。ジンが表情を引き締めて話し出す。

 

「実は、あの後にもっと大変なことになっているんです」

 

「・・・・・・大変なこと?」

 

「はい。実はあの後、僕たち“ノーネーム”は“ペルセウス”とギフトゲームをすることになりました」

 

「“ペルセウス”? ・・・・・・何かあったんだね」

 

 イオも真面目な顔になり、ジンに質問した。

 

「・・・・・・あの後、僕たちは館に帰ってきたのですが、十六夜さんと黒ウサギの下に僕たちの仲間だった、元・魔王で吸血鬼の方が来たんです」

 

「ふ~ん。吸血鬼ね」

 

 特に興味ないといった表情で話を聞いているイオに、不思議に思った耀が質問する。

 

「最初話を聞いたときはあんなに喜んでたのに、もう吸血鬼には興味ないの?」

 

「う~ん、だってその吸血鬼ってガルドとのギフトゲームの時のやつでしょ? 近くで見てたみたいだけど、正直期待はずれな感じだったし、それに吸血鬼と言ってもガルドの強さを見たところ、全然よわっちいんだもん」

 

 ジンはまずいと思った。“ペルセウス”とのギフトゲームの時、おそらくイオは紛れもなく強力な戦力になってくれる。だけど、今の彼女は吸血鬼に興味を失っている様子。もしその吸血鬼を取り戻すためのギフトゲームだと言ってもこのままでは全力で戦ってくれるかどうか。

 

「・・・・・・実は、その吸血鬼、レティシア様が“ペルセウス”に連れ去られ、危険な状態なんです」

 

「そう。それで?」

 

 やはりあまり興味がない様子だった。どうにかして興味をひかなければと思い、ジンは頭を回らせる。

 

「実は彼女はその力のほとんどすべてを失っているんです」

 

「・・・へぇ」

 

 これには少し興味があるようだ。手ごたえありと思ったジンは続ける。

 

「そのほとんど失った力でガルドをあそこまで強くすることができるだけの力なんです。もし本来の力を取り戻せば、イオさんの望むものが手に入るかもしれませんよ?」

 

「・・・・・・あは♪ なるほど。それはいいね」

 

 イオの瞳に生気が宿る。これなら大丈夫だと安堵するジンと耀を連れて、イオは他のメンバーにも詳しい話を聞きに行った。

 




天燈さんはこの先何度も出てくる人ですから、少しでも彼のことを知ってもらおうと思いこの話を考えました。どんな時もにこにこと笑っている姿は、本来は天燈さんの物です。
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