問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
これからはおそらく、基本的には週一更新になると思います。待たせてしまうのは申し訳ないのですが、あいにく忙しくなってしまいましたので。
それでは本編をどうぞ~。といっても、今回もあまり話は進みませんけどね。
それは、まだイオが眠っている頃。十六夜、飛鳥、黒ウサギの三人が、“サウザンドアイズ”の支店にて、“ペルセウス”のリーダールイオスと話し合いをしていた時の事である。
座敷に招かれた三人は“サウザンドアイズ”の幹部二人と向かい合う形で座る。対面に座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギを見ていた。
黒ウサギは悪寒を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。
「―――“ペルセウス”が私たちに対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」
「う、うむ。“ペルセウス”の所有物・ヴァンパイアが身勝手に“ノーネーム”の敷地に踏み込んで荒らしたこと。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」
「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。この屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」
両コミュニティの直接対決。それが黒ウサギの狙いだった。
レティシアが敷地内で暴れ回ったというのはねつ造。しかし彼女を取り戻すためにはなりふり構っていられる状況にはない。使える手はすべて使わなくてはいけない。
「“サウザンドアイズ”にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし“ペルセウス”が拒むようであれば“主催者権限”の名のもとに」
「いやだ」
唐突にルイオスは言った。
「・・・・・・はい?」
「決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れまわった証拠はあるの?」
「それなら彼女の石化を解いてもらえれば」
「ダメだね。あいつは一度逃げ出したんだ。口裏を合わせる可能性が高いじゃないか。そもそも原因はお前たちだろ、元お仲間さん? 実は盗んだじゃないの?」
「何を言うのですかッ! そんな証拠が一体何処に」
「そう。お互い証拠なんてないんだ」
黒ウサギはその言葉に黙りこむ。両者の主張も、第三者がいないという点では同じなのだ。ルイオスはへらっと笑うと畳み掛ける。
「どうしても決闘に持ち込みたいならちゃんと調べないとね。・・・・・・もっとも調べらると一番困るのは別の人だろうけど」
「そ、それは」
視線を白夜叉に移す。彼女の名前を出されては手が出せない。ただでさえ彼女には苦労を掛けているのだ。今回の一件でさらに苦労をかけるのは避けたかった。
「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を売り払うか。愛想ない女って嫌いなんだよね。特にあいつは体も殆どガキだしねえ―――だけどほら、あれも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないんだと。気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せ啼かす、ってのが好きなやつもいるし? 太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」
ルイオスは挑発半分で商談相手の人物像を口にする。案の定黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫んだ。
「あ、あなたという人は・・・・・・!」
「しっかし可哀そうな奴だよねーアイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間のせいでギフトまでも魔王に譲り渡すことになっちゃたんだものさあ」
「・・・・・・なんですって?」
飛鳥が声を上げる。黒ウサギは声を挙げなかったものの、はっきりと動揺した表情を浮かべている。
「報われないやつだよ。“恩恵”はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初のもの。他人の所有物っていう極めつけの屈辱に耐えてまで駆けつけたってのに、その仲間はあっさり自分を見捨ててやがった!」
「・・・・・・え、な」
黒ウサギは絶句し、見る見るうちに蒼白に変わっていく。
ルイオスはにこやかに笑うと、蒼白な黒ウサギにスッと右手を差し出す。
「ねえ、このまま彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同志として義が立たないんじゃないか?」
「・・・・・・どういう事です?」
「取引をしよう。吸血鬼をお前たちに戻してやる。代わりに、君が生涯僕に隷属するんだ」
「なっ」
「一目ぼれって奴? それに“箱庭の貴族”という箔もつく」
再度絶句する黒ウサギ。これには飛鳥も堪らず怒鳴り声をあげた。
「外道とは思っていたけど、ここまでとは思ってなかったわ! もう行きましょう黒ウサギ、こんな奴の話を聞く義理はないわ!」
「ま、待ってください飛鳥さん!」
悩んでいる黒ウサギに、ルイオスは厭らしい笑みで捲し立てる。
「ほらほら、君は“月の兎”だろ? 仲間の為に煉獄の炎で焼かれるのが本望なんだろ? 君たちにとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」
「・・・・・・っ」
「ねえ、どうしたの? ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ? 安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!? 箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!? ホラどうなんだよ黒ウサギ
『黙りなさい!』
見かねた飛鳥がその力でルイオスを黙らせる。
「っ・・・・・・!? ・・・・・・・・・!!?」
「貴方は不快だわ。『そのまま地に頭を伏せてなさい』!」
ルイオスは体を前のめりに歪める。だがしかし、命令に逆らって強引に体を起こす。飛鳥が何をしたのか理解したルイオスは強引に言葉を紡いだ。
「おい、おんな。そんなのが、つうじるのは―――格下だけだ、馬鹿が!!」
激怒したルイオスが取り出したギフトカードから現れた刃を、飛鳥を庇うように受けとめたのは、そばに控えていた十六夜だった。
「な、なんだお前・・・・・・!」
「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子付けても買うぜ? 勿論トイチだけどな」
軽薄そうに笑うと、握った柄を蹴って押し返す。ルイオスは堪らず飛び退いた。
「ええい、やめんか! 話し合いで解決できぬのなら門前に放り出すぞ!」
「ちっ。けどその女が先に手を出したんだけどね?」
「ええ。分かってます。これで今日の一件は互いに不問としましょう。・・・・・・後、先ほどの話ですが、少し時間を下さい」
黒ウサギの返事に驚く飛鳥は、堪らず叫んだ。
「ま、待ちなさい黒ウサギ! 貴方、この男の物になってもいいというの!?」
「・・・・・・仲間に相談するためにもどうかお時間を」
「オッケーオッケー。こっちの取引ギリギリ日程・・・・・・一週間だけ待ってあげる」
にこやかに笑うルイオス。黒ウサギはそれだけ口にして早足に座敷を出た。
☆ ☆ ☆
そして、イオが見て、聞いたのはそこまでだった。
「ルイオスって男、絶対に許さない・・・!」
十六夜達から“サウザンドアイズ”であった会話を詳しく聞いたイオは怒っていた。より正確には、話を聞きながらこっそり天燈のギフト“見たいものを見るギフト”を使ってその時の状況を確認した。このギフトは文字通り見たいものを見ることができる。それは場所だけでなく、“時間”をも超越する能力だ。
イオがギフトを使って状況を理解し、今に至る。
闘志を燃やすイオの姿を見て、ジンは肩を落とす。
「僕のついた嘘は、なんだったんだろう・・・」
せっかく罪悪感を感じながらも、嘘をついてまでやる気を出してもらったのに、これでは必要なかったのではないかと一人落ち込む。そんな彼に唯一一緒に話を聞いていた耀が声をかける。
「・・・たぶんだけど、イオはあれが嘘だってわかってたと思う」
「え?」
ジンは驚きの声を上げ、耀を見る。
「わかっていたなら、なぜ何も言わずにあんなことを?」
「そんなこと決まってる。だって―――」
耀は一度怒っているイオの姿を見て、微笑みながら言う。
「―――イオは、優しいから」
その一言に、不思議とジンも納得してしまう。
いつも自分勝手に行動し、問題を起こすことはあったが、思えばそれで誰かが傷つくようなことはなかった。
初めて会った時のマジックでも、決してルールは侵さないように注意してやっていたし、ガルドに宣戦布告をした時も飛鳥が怪我しないように自分から止めに入った。あの後の黒ウサギと十六夜の二人を瞬間移動で呼び出したことだって、思い返せば疲れた黒ウサギへの配慮の意味もあったのだろう。水路を直したのも浴場の掃除をしたのも飛鳥の服をすぐに直したのも。
イオがこの短時間でやったことはすべて、思えば誰かのためにやったことばかりだった。
ガルドに一人で挑んだことだって、きっとあのまま三人がまともにぶつかったら誰かが怪我をすると考えてのことかもしれないし、ジンではなく飛鳥を戦いに行かせたのも、そのほうが怪我をする確率が低いと感じたからだろう。耀の怪我だって自分の命を削ってまで直したのだ。
そんな優しい彼女なら、自分のついた小さな嘘も、笑って受け止めるのが普通なのかもしれない。
「・・・やっぱり、イオさんはすごいひとだな」
今も仲間のために起こっているイオを見て、ジンは自分でも気づかないままそう呟いていた。
☆ ☆ ☆
「さてと。それじゃ、“ペルセウス”退治と行こうか!」
あれから、黒ウサギが勝手に交渉に行ってジンに謹慎処分にされた後、十六夜と一緒になってクラーケンとグライアイをぶったおしたりした後。“ノーネーム”一同は二六七四五外門・“ペルセウス”本拠に来ていた。
白亜の宮殿の門を叩いた“ノーネーム”一同を迎え、謁見の間で両社は向かい合う。
交渉の席に着いたルイオスは終始にやけた顔で黒ウサギに熱い視線を送っていたが、それを無視して黒ウサギは切り出す。
「我々“ノーネーム”は“ペルセウス”に決闘を申し込みます」
「何?」
ルイオスの表情が変わる。予想していなかった返答に眉を顰めるが、黒ウサギは続ける。
「決闘の方法は“ペルセウス”の所持するゲームの中で最も高難度のもので構いません」
「・・・・・・はぁ? 何? そんなつまらないことを言いに来たの? つーか決闘なんてしないって言ったじゃん」
ルイオスは拍子抜けしたように声を上げた。彼は自分たちが戦って負けることなどありえないと思っているが、それでも相手は“箱庭の貴族”。インドラの武具を所持したウサギがいる以上うかつにゲームを受けるのは危険でしかない。
「それが用件ならとっとと帰れよ。あーマジうぜえ。趣味じゃねえけど、あの吸血鬼で鬱憤でも晴らそうか。どうせ傷物でも気にっしねえような好色化野ブタに売り払うんだし―――」
「聞いた通りのクソ野郎だね。アンタは」
「・・・あ?」
突然の暴言にルイオスは眉を顰めて、それを言った少女、イオを睨み付ける。
「おい、今なんつった?」
「クソ野郎って言ったんだよ。それとも何?人間のクズとでも言ってやったほうがよかった?」
「てめえ、生意気な口を―――」
「生意気なのはどっちだ」
ぴたりとルイオスの動きが止まる。
「あんたみたいなのがあのペルセウスだと思うと、本当にがっかりだよ。本当なら今すぐにでもその首をはねてやりたいところだけど、今はこれで勘弁してあげる」
「っ・・・!?」
イオは別に何もしていない。威圧感だけでルイオスの動きを止めていた。
だがルイオスはそれに気づかない。いや、気づけなかった。それほどまでに二人の間には差があった。
―――ドサッ、っとイオはルイオスの前に巨大な大風呂敷を広げる。
風呂敷の中からは“ゴーゴンの首”の印がある紅と蒼の二つの宝玉が転がり出た。
それを見てそばで控えていた“ペルセウス”の側近達は眼をひん剥いて叫び声をあげる。
「こ、これは!!?」
「“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト・・・・・・!? まさか名無し風情が、クラーケンとグライアイを打倒したというのか!?」
困惑する“ペルセウス”一同。本来ならば、挑戦権を得たコミュニティが出た場合、本拠に通達がいくのだが、気が付いていなかったらしい。
しかしそれもそのはず。ここ数日の書類はルイオスの部屋で山積みになっているのだから。
「「あんな奴等、ただの雑魚でしかなかったぜ」」
同時に首をすくませるイオと十六夜。この宝玉は、ペルセウスの伝説に出てくる怪物たちをギフトゲームで倒すことにより得られるギフトだ。
このゲームは力のない最下層のコミュニティにのみ常時開放されている試練で、ペルセウスの武具のレプリカを与えるというもの。様式も整った、立派なギフトゲームである。
ルイオスは宝玉を見つめて盛大に舌打ちした。
(ちっ。下層のコミュニティが相手なら楽に戦えると思って放置してたってのに・・・・・・!)
なんて思っているんだろうな。いかにも小物らしい考えだね。とイオは平気で相手の心を読んでいた。
ルイオスの不快感は絶頂に達していた。
「ハッ・・・・・・いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思いあがったコミュニティに身の程を知らせてやる為のもの。二度と逆らう気がなくなるぐらい徹底的に・・・・・・徹底的に潰してやる」
華美な外套を翻して憤るルイオス。
それを睨み、黒ウサギは宣戦布告する。
「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早不要でしょう。“ノーネーム”と“ペルセウス”。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」
という訳でついに、ペルセウス戦です。イオちゃんはどう動くのか!
元気に暴れまわってもらうとしましょう。