問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
まぁ、本編とどこまでかかわってるのか疑問なので、正直過去編の話は別の小説にして書いてもいいかとは思うのですが、どうでしょうか?どっちがいいと思いますか?
これは、桜咲 依桜《おうさき いお》という一人の少女が、父親を殺してから約三年後の話である。
地獄のような世界において、その頂点に自然と君臨した化け物であるイオには、その地獄ですることは何もなくなっていた。父に教えてもらった技術も、すでに使う必要のないぐらい、彼女は化け物として完成してしまった。
誰一人彼女に反逆する者はいない。禁止都市の住人といえども所詮は人間。完全な化け物にただの人間がいくら束になろうとも無駄なことを、住人達は二年前に悟っている。
本来だれもが苦労するはずの食事すら、彼女は自分で動くことなく勝手に周りが持ってくる。その際誰もが殺さないでくれと頼んでくるのだが、イオとしては意味が解らなかった。
彼女自身に誰かを殺す気はそもそもない。生きるために必要だから殺し、殺されないために殺す。だから、必要のない殺しをすることはない。それはこの都市に住む誰もが知っているルールだ。だからイオは自分に危害を加えない相手を殺したことはない。だから皆がなぜ毎日彼女のもとに来て命乞いをするのか理解できていなかった。まぁ、中にはこっそり毒を入れてくる人間もいるのだが、彼女の鼻と本能によりすぐにばれ、即座に殺されることもあるにはあるのだが。
とはいえ、食事を集める必要がなくなるため、基本的に渡されるものはすべて受け取っている。そもそも毒で死ぬほど化け物は弱くはない。
イオは、おおむね都市の住人としてはあり得ない生活をしていた。
しかし、そうなってしまっては都市においてやることはほとんどなくなってしまう。イオはずっと、何をするでもなく都市の中を渡り歩いていた。
たまに見つけるスズメなどといった食料を集めたり、たまに巻き込まれる他人の殺し合いで相手を皆殺しにしたり、たまに生まれるどうしようもない衝動に任せてそこら辺にいる男を襲い自身の性欲を満たす、などといった生活をあれから三年間続けている。
何をすればいいのかはわからなかったが、イオは暇だとは感じていなかった。
そもそも暇という感情を知らなかった。
イオの持っているものは、父親から教えられたものがすべて。その中に感情などといったものはない。生きてきた中で自然と生まれたものはあっても、それを何と呼ぶのかを知らない。だから彼女は暇ではなかった。
いつものように適当な男を捕まえて性欲を解消したイオは、いつものように夜の都市を放浪していた。
―――そしてその日はいつもと違うことが起こった。
ただの気まぐれで、都市のはずれまで歩いてくると、目の前の道からイオと同じぐらいの背丈の少女が走ってきた。何かにおびえているような表情で。
少女は、イオを見つけるとすがるようにしがみつき、叫ぶように告げた。
「お願い、助けてください!」
必死な形相でそうお願いしてくる少女にイオは戸惑う。
ここの住人において、誰かが誰かを助けることは絶対にない。そんなことをしても誰も感謝しないし、逆に助けたものに殺されるだけだから。だからまず、命乞いをされたことならまだしも、誰かに助けを求められたことは一度もない。戸惑うのも当然と言えた。
ふと違和感を感じ、イオは少女の姿を注意深く確認する。必死に走ってきたときに転びでもしたのだろう土汚れがある程度で、その服装事態はきれいなものだった。それはこの都市の住人にはありえないものだ。まともな服などここには流れ着いてくることはないし、あったとしても、これ程上等な服など全て売って金にした方が効率が良い。だというのにこんなにも綺麗な服を着ているということは、この少女はおそらく、
(外の人間か・・・)
十中八九そうだろう。この都市にそんな格好で出歩き、不用意に誰かに助けを求める。そんなことをする人間はこの都市には存在しない。考えられるのは、この都市の外側から来た人間だけ。
外の人間。それは、この都市の外側に住む人間という意味である。イオは直接見たことはないが、こことは違い食べ物や水に困ることはまったくない世界だという。もしそれが本当だとしたら、なんて贅沢な世界であろうか。ここでは毎日生きるために死ぬよりもつらいことを強いられている人間ばかり。そんな人間にとって、外の人間など憎しみの対象でしかない。まして、外の世界から追い出され、此処に逃げてきた人間は山ほどいるのだ。見つかったが最後。奪えるものはすべて奪われ、無残に殺されるだけしか道はない。
本来なら、そんな世界から来た人間はこの世界の住人にとっていい餌でしかない。助ける義理など、存在すらしないはずなのに、
「お願いだから、お《・》父《・》さ《・》ん《・》を助けて!?」
「―――っ!」
その一言が、イオの心を揺さぶった。
お父さん。父親。数年前、自分が自分の手で殺した、自分に生きる力を与えてくれた人。
―――自分の、大好きだった人。
イオは首に下げた、父のつけていたドックタグを手に取り、見つめる。イオ自身には、それがどういうものなのかは理解していないが、そこに書かれた名前だけは、小さいころに父から教わって知っている。
『桜咲 大河』。それが、父の名前。そして、『桜咲 依桜』。それが、自分の名前。
名前など、此処では意味をなさないものでしかないが、父は私に名前をくれた。それがどういう意味だったのか、今ではもう二度と分からないけれど。
「・・・これ、持ってて」
唐突にイオはドックタグを首から外し、目の前の少女に渡す。
「もし、誰かに襲われそうになったら、それを見せて。そうすれば、あなたは無事でいられるから」
「・・・え? そ、それってどういう?」
「私が、助けてあげる。だから、あなたはここで隠れてて」
「あ・・・! は、はい。ありがとうございます!」
目から涙を流して、少女は頭を下げる。今まで感謝されたことのないイオには、それの意味も理解できなかったが、特に気にせず少女が走ってきた道を静かにたどっていく。彼女の匂いは特別だ。簡単にたどっていける。
ただの気まぐれで、イオは少女を助けることに決めたのだ。
イオは、知らないことも多いですが、全くの無知という訳ではありません。この場所にも、知識を得ようとすれば一応手に入れることができるので。
泣くという事や、感謝するということも、意味としては知っていても、現実にどういうものなのかわわかっていませんが。
まだ、普通の化け物でしかなかった頃の彼女の物語。これから先にもちょこちょこと書いていこうと思います。
ちゃんと次は《偽物転生者》本編の投稿をするので、どうぞお楽しみに♪