問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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申し訳ありません! 次こそは絶対に戦闘に入りますのでもう少しお待ちください。

どうにもちょうどいい文章量にするにはここで一度区切るべきだと判断しました。

一生の結末まであともう少し。それまでお付き合いいただけると幸いです。

という訳で、本編どうぞ!


第20話 まだ戦いは始まらないのさ!

 時は少しさかのぼり、十六夜とジンの二人は白亜の宮殿をまっすぐ突き進み最奥にたどり着く。そこに天井はなく、まるで闘技場のような作りだった。

 

 そんな闘技場で、黒ウサギは一人そわそわと落ち着きなく過ごしていた。

 

「・・・みなさん、どうかご無事でいらっしゃいますように」

 

 胸の前に手を挙げて、心配そうに呟く。が、

 

「あっははっは! あはははは!? くすぐったいくすぐったいくすぐったい! な、何事でございますか!?」

 

 突然笑い声をあげて体をよじり始める。何が起こっているのか理解できない黒ウサギはただ困惑の声を上げる。

 

「いやあ、ほんと弄りがいがあるよなあ。黒ウサギ」

 

 当然のごとく。それは不可視のギフトで姿の見えない十六夜の悪戯である。

 

「せっかくのギフトで何をしているんですか。まったく」

 

 呆れたように言いながらジンは兜を外す。十六夜も黒ウサギをくすぐるのをやめて同じように兜を外し、もう必要ないとそのまま地面に放り捨てる。

 

 黒ウサギは、手をわきわきさせながら笑う十六夜と、ジンの姿を見て、

 

「十六夜さん、ジン坊ちゃん・・・・・・!」

 

 二人が無事にたどり着いたことに安堵し、瞳に涙を浮かべて安堵する黒ウサギ。

 

「って、この期に及んで緊張感なさすぎですぅ! 全くもう、このおバカ様!」

 

 だが、あんな悪戯をされて素直に喜べるわけがなく、どこからか取り出したハリセンで十六夜の頭を叩く黒ウサギ。

 

 十六夜達は、此処に来るまで特に何事もなくたどり着いてしまっているのだ。緊張感も何もあったものではない。

 

 ジンが二人を呆れ笑いで見つめていると、

 

「おいおい、マジかよ」

 

 眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、見下ろす人影があった。

 

「―――ふん。ホントに使えない奴ら。今回の一件でまとめて粛清しないと」

 

 空に浮かぶ人影には、確かに翼があった。

 

 膝までを覆うロングブーツから、光り輝く対の翼が。

 

「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できているのか分かっただろうね。自分達の無能っぷりを顧みてもらうにはいい切っ掛けだったかな」

 

 バサッと翼が羽ばたく。たった一度での羽ばたきでルイオスは風を追い抜き、落下速度の十倍の勢いで十六夜達の前に降り立った。

 

「何はともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。・・・・・・あれ、この台詞を言うのって初めてかも」

 

 それは全て騎士達が優秀だったからだ。今回のように準備が整わない突然の決闘でさえなければ、此処まで十六夜達の目論見通りことが進む事は無かっただろう。何より相手がイオでさえなければ、もっとまともなゲームになっていただろう。

 

 十六夜は肩を竦ませて笑った。

 

「ま、不意打ちを打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」

 

「フン。名無し風情を僕の前にこさせた時点で重罪さ」

 

 ルイオスの翼がもう一度羽ばたく。彼は“ゴーゴンの首”の門が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。

 

 そのギフトを見て黒ウサギの顔色が変わった。

 

「・・・・・・炎の弓? ペルセウスの武器で戦うつもりはない、と言う事でしょうか?」

 

「当然。空が飛べるのに何で同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」

 

 小馬鹿にするように天へと舞い上がる。だが戦いの意志はまだ見られない。壁の上まで飛び上がったルイオスは、首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。

 

「メインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま“ペルセウス”の敗北になる。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

 黒ウサギは慢心しないルイオスに対して焦り始めていた。もしも彼女の想像通りならば、ルイオスの持つギフトはギリシャ神話の神々に匹敵するほど凶悪なギフトだろう。

 

 ルイオスの掲げたギフトが光はじめる。星の光のようにも見間違うその光の波は、強弱をつけながら一つ一つ封印を解いていく。

 

 十六夜はとっさに構えた。ジンを背後に庇い、いつでも戦えるように臨戦態勢を取る。

 

 光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。

 

 

「目覚めろ――― “アルゴールの魔王”!!」

 

 

 光は褐色に染まり、三人の視界を染めていく。

 

 白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。

 

「ra・・・・・・Ra、GEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。

 

 冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。

 

 現れた女は体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立てて叫び続ける。女は両腕を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ、黒ウサギ!!」

 

 えっ、と硬直する黒ウサギ。十六夜は黒ウサギとジンを抱きかかえるように飛び退いた。

 

 直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきた。二度三度と続く落石を避ける十六夜達を見てルイオスは高らかに嘲った。

 

「いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」

 

「く、雲ですって・・・・・・!?」

 

 ハッと外に目をやる。雲が落下しているのはこの闘技場の上だけではない。

 

 “アルゴールの魔王”と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化の光を放ったのだ。

 

 瞬時に世界を満たすほどの光を放出した女の名を、黒ウサギは戦慄とともに口にする。

 

「星霊・アルゴール・・・・・・! 白夜叉様と同じく、星霊の悪魔・・・・・・!!」

 

 “アルゴル”とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、“悪魔の頭”という意味を持つ星のことだ。同時にペルセウス座で“ゴーゴンの首”に位置する恒星でもある。

 

 一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強種の一角“星霊”がペルセウスの切り札だった。

 

「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になってるだろうさ。ま、無能にはいい体罰かな」

 

 不敵に笑うルイオス。何の防御もしていない黒ウサギや十六夜達が石化せずに済んだのは、彼の遊び心だろう。

 

 本拠を舞台にしたゲームで、ようやく訪れた初めての挑戦者。すぐに終わらせてはもったいない。

 

 ルイオスの吐く軽口よりも、内心の闘志は遥かに高まっているのだろう。

 

 だがそれは十六夜も同じこと。白夜叉のゲームの恥をすすぐには最高の舞台だった。

 

 

「―――あれ? じゃあ僕はここに来ないほうがよかったかな?」

 

 

 そんな緊迫した空気をぶち壊すように、飄々とした態度でイオが入口から闘技場に現れた。

 

 思いもよらない客の登場に、ルイオスは驚きを隠せなかった。確かに城内にいたすべての人間は石化したはずだというのに。

 

「な、なんでお前は石化していないんだ!」

 

「何でも何も、逆にあの程度で僕をどうにかしようと思うなよ三下」

 

 ニコニコとした笑顔を崩さずに、毒舌で返す。

 

 イオは悠々とした態度のままで十六夜たちの元に歩いていく。

 

「まったく。誰かさんが全員を石になんてするから、僕のやることが何もなくなっちゃったじゃないか。どうしてくれるのさ」

 

「な、なんなんだお前は・・・!?」

 

 困惑するルイオスをよそに、十六夜達は特に驚くことはない。

 

「イオさん! ご無事だったのですね!」

 

「やはは! 本当にお前は規格外だな。おい」

 

「“星霊”のギフトも通用しないとは。本当にすごいですね」

 

 前から、黒ウサギ、十六夜、ジンの順番でイオに話しかける。黒ウサギは純粋に安堵の表情を浮かべ、十六夜は面白そうに、ジンは呆れたように、でもどこか当然のことのように受け入れている。

 

 三人にとっては、もはやイオが何をしようとも驚くようなことではない。むしろ、やっぱりかと納得してしまうほどだ。

 

 何やら安堵の表情を浮かべている黒ウサギとジンを見て、イオは少しだけ困ったような表情になる。

 

「あ~、最初の予定通り、僕は手を出したりしないから。ここは十六夜君たちだけで何とかしてね?」

 

「当然。こいつは俺の獲物だ。いくらお前にでも譲ってなんかやるかよ」

 

「・・・やはり、イオさんは戦ってはくれないのですね」

 

「当然。ジン君も聞いてたでしょ? 今回は十六夜君にしっかり働いてもらわないとね♪」

 

 あまり期待はしていなかったジンも特に食い下がることなく受け入れる。今までイオが素直に言う事を聞いてくれたことなどほとんどない。本人にその気がないことをいくら頼んでも無駄なのだ。

 

「じゃ、僕たちは下がっているとしようか。さすがの十六夜君でも、ジン君を守りながら戦うだけの余裕はないだろうし」

 

「はは! 全く持ってその通りだ。言い返せないのが逆に悔しいくらいだぜ」

 

 イオの言葉を素直に肯定する。今回の相手はそれほどの相手なのだろう。イオにとってはただの雑魚でしかないが。

 

 十六夜と話のあるジンを置いて、イオは一人観客席へと向かう。

 

 ジンは申し訳なさそうに一歩下がると、

 

「すいません。何も出来ずに」

 

「別にいいさ。それより例の件は覚えているか?」

 

 ジンは慌てて頷く。彼らが“打倒魔王”としてコミュニティの活動を始めるという話。

 

 十六夜はジンの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、内緒話をするように話を続ける。

 

「目論見が外れたな。レティシアが戻ってくることで魔王に対抗するつもりだったんだろ?」

 

「・・・・・・はい」

 

 元・魔王である彼女がいれば、それも不可能な話ではなかった。

 

 だが、肝心の彼女は魂を削られ、多くのギフトを失っていたのだ。

 

 ぶっちゃけイオがいれば大抵の相手には負けるとは思えないが、素直に手伝ってくれるのかはまだ微妙なところ。期待はできない。

 

「どうする? 例の作戦はやめておくか?」

 

 十六夜の声と表情は至って冷静だ。

 

 責めることも、小馬鹿にする事もない声音と視線に、ジンはハッキリと首を振る。

 

「僕らにはまだ貴方がいます。貴方が本当に魔王に打ち勝てる人材だというのなら、―――この舞台で、僕らに証明してください。むしろこの程度の相手にすら勝てないようなら、正直僕達のコミュニティには必要ありませんしね」

 

 ジンの真っ直ぐな瞳と返事。そして最後に付け加えた挑発に、十六夜は高らかな哄笑で返した。

 

「本当に、随分というようになったじゃねえか。イオにでも何かされたのか?」

 

「さぁ? どうなんでしょうね。僕にもよく分かりません」

 

「まあいいさ。―――OK。よく見てな御チビ」

 

 最後にぐしゃぐしゃと髪を撫でてから前に出る。

 

「さ、それじゃ準備はいいかよゲームマスター」

 

「・・・三人でかかって来ないのかい?」

 

「おいおい自惚れるなよ。オマエ如き、うちの坊ちゃん達が手を出すまでもねえ」

 

 十六夜の軽薄そうな笑いに、ジンは薄ら寒い悪意を感じる。どうやら今回の騒動も広報に使うつもりらしい。

 

 以前までのジンであればしり込みするようなことだが、今のジンにとってはむしろ望むところだ。自分たちの目指すもののためならこの程度の重圧、耐えられなくては意味がない。

 

 ルイオスは侮辱されたと思い、肩を震わせて叫んだ。

 

「―――っは。名無し風情が、精々後悔するがいいッ!!」

 

 ついに、十六夜の戦いが始まろうとしている。

 

「・・・ま、僕には関係ないし、興味もないけどね」

 

 ただ一人、イオは観客席に座って欠伸をした。

 




さて。イオはこの戦いにどう関わっていくのでしょうね~♪

ただ、圧勝するのは当然です
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