問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
次からはいつも通りに土曜更新できると思いますので、またおつきあいくだされば幸いです。
それでは本編どうぞ~♪
つまらなそうに地面に寝転がったイオの前で、輝く翼と、傷だらけの灰翼が舞う。
ルイオスはアルゴールよりさらに上空に飛び、陰に隠れながら炎の弓で攻撃する。
「喝ッ!!」
蛇のように蛇行する軌跡の炎の矢を、十六夜は気合一喝で弾き飛ばす。デタラメな肺活量である。
「ちっ、うちの海魔《クラーケン》を打ち倒すだけの実力はあるってことか!!」
ルイオスは無駄を悟り、舌打ちして炎の弓を仕舞う。代わりにギフトカードから取り出したのは、“星霊殺し”のギフトを新たに付与された鎌のギフト・ハルパー。
込められたギフトにほんの少し興味をひかれたイオは、表情を少しだけ明るくする。
縦横無尽に空を駆けるルイオス達は挟み込む形で十六夜を追い詰める。
「押さえつけろ、アルゴール!!」
「RaAAaaa!! LaAAAA!!」
甲高い叫び声を上げながら両腕を振り下ろすアルゴール。
それを受け止めた十六夜は、相手の両手を組み合う様にして握りしめる。
信じられない事だが、真正面から星霊と力比べをするつもりなのだ。その気持ちは何となくイオにも理解できる。力比べは相手が強いほど面白い。
「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ!! いい感じに盛り上がって来たぞ・・・・・・!」
「RaAAaaaGYAAAAAaaaaa!!」
十六夜の手とアルゴールの手が重なる。しかし押し合いになったのはわずか一瞬。
アルゴールは耐え切れずに押し切られ、その場でねじ伏せられたのだ。
「GYAAAAAaaaaaa!!」
「ハハ、どうした元・魔王様! 今のは本物の悲鳴みたいだぞ!」
獰猛な笑顔でねじ伏せ、更に腹部を幾度も踏みつける。十六夜の足踏みはそれだけで闘技場全体に亀裂を発生させ、白亜の宮殿を砕くほどの力があった。ただの人間にしては大したものだと感心する。同時にルイオスには失望する。
「・・・つまんないつまんないつまんなーい!」
十六夜に圧倒されているアルゴールの姿を眺めて、イオはため息をつく。
石化の光を浴びた時に期待外れの力しか持っていないことは分かっていたが、実際に目の前で見てより一層がっかりしてしまう。
単純な腕力でさえ十六夜に劣っている。“星霊”と呼ばれるような強力な力の気配すら全く感じ取れない。ルイオスにそれだけの実力がないからというのも理由の一つなのだろうが、もし全力で戦えていたとしてもせいぜい十六夜といい勝負ができるかといったところではないだろうか。
ルイオスのハルパーに込められた“星霊殺し”にもほんの少し期待したが、イオならそんなものがなくとも自力で同等の力を発揮する事が出来そうなくらいお粗末なものだ。
イオは今の十六夜相手になら負ける事は絶対に無いだろう。最低でも今の十六夜を圧倒できるだけの実力がなければ彼女を満足させる相手たりえない。
「この程度なら、まだ十六夜君の方が―――」
ムスッ、っと不機嫌そうな表情でイオは十六夜の戦いを眺め続ける。
ルイオスは十六夜の背後に飛びまわって襲いかかる。
「図に乗るな!」
「テメェがな!」
ハルパーを片手に疾駆するルイオスを、下半身を捻った勢いで蹴り上げる。辛うじて柄で受け止めたルイオスだったが、重たい一撃に、堪らず空へと吹き飛ばされた。
防いだにも拘らず嘔吐感がこみ上げるほどの一撃。第三宇宙速度で殴り飛ばされた騎士達よりさらにはやい速度で吹き飛ばされたルイオスに、十六夜は跳躍して追いつく。
「どうした? 翼があるのに不便そうだな?」
挑発するように軽薄に笑う十六夜。
「き、貴様っ・・・!」
怒りに任せてルイオスはあたりもしないハルパーを振りかざす。
十六夜は難なく受け止め、今度は地面に向かって投げ飛ばす。ルイオスは闘技場で昏倒しているアルゴールに重なるように叩きつけられた。
「ガッ!」
「Gya・・・・・・!」
二つの呻き声。ルイオスはそのデタラメっぷりに、体を起こしながら狼狽して叫ぶ。
「き・・・・・・貴様、本当に人間か!? いったいどんなギフトを持っている!?」
“星霊”を力で捻じ伏せ、天駆けるヘルメスの靴より早く走る人間など存在しない。イオは正確には人間とは若干違うのでカウントされない。疑問に答えようと、十六夜はギフトカードを取り出す。
「ギフトネーム“正体不明”―――ん、悪いな。これじゃわからないか」
飄々と肩を竦ませて笑う。余裕を見せる十六夜の背中を見てジンは叫んだ。
「今のうちにトドメを! 石化のギフトを使わせては駄目です!」
星霊アルゴールの本領は、身体能力とは別のところにある。
世界を石化させるほどの強大な呪いの光こそ、彼女の本領なのだ。
勝てるときに勝つ。それが勝負事のセオリー。
だが自分の力で捻じ伏せたいルイオスは、更に正面対決を望んだ。
「アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 奴を殺せ!」
「RaAAaaa!! LaAAAA!!」
謳うような不協和音が世界に響く。途端に白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がった黒い染みから、蛇の形を模した石柱が数多に襲う。
イオは面倒くさそうに傘を一振りし、彼女を中心とした半径2mほどの範囲に影響が及ばないように不変のギフトを展開する。それだけで、仮にも“星霊”のギフトを無効化してしまった。
だが、そんなとんでもないことをしているイオに誰も気づかない。闘技場にいる全員が十六夜のデタラメさに目を奪われていて他の事に気を配る余裕がなかったのである。
十六夜は避けながら思い出したように呟く。
「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」
ゴーゴンには様々な魔獣を生み出した伝説がある。
そもそも“星霊”とはギフトを与える側の種でもあるのだ。今や白亜の宮殿は魔宮と化している。
「もう生きて返さないッ! この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ! 貴様にはもはや足場ひとつ許されていない! 貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの! このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場はない物と知れッ!!!」
ルイオスの絶叫と、魔王の謳うような不協和音。
それに合わせて変幻する魔宮は白亜の外壁を、柱を、蛇蝎の如き姿に変えて襲い掛かり、十六夜の体を覆う。千の蛇に飲み込まれた十六夜は、その中心でボソリと呟いた。
「―――・・・・・・そうかい。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな?」
「「え?」」
にべもなく答える。ジンと黒ウサギは、嫌な予感がした。
十六夜は黒く染まった魔宮に無造作に拳を向かって振り下ろした。
千の蛇蝎は一斉に砕け、十六夜の周囲から霧散する。直後に宮殿全域が震え、闘技場が崩壊し、瓦礫は四階を巻き込んで三階まで落下した。
「わ、わわ!」
「ジン坊ちゃん!」
崩壊に巻き込まれそうになったジンを黒ウサギが受け止める。翼をもつルイオス達は上空に逃げていたが、その惨状に息を呑んでいた。
この闘技場は宮殿内と違い、常時防備用の結界が張られている。それこそ山を打ち砕くほどの力がなければ、この最上階を崩落させることなどできないはずなのだ。
まあ、イオなら破壊はおろか消滅させることも朝飯前なのだが、とにかく普通ならできないはずなのだ。
「・・・・・・馬鹿な・・・・・・どういう事なんだ!? 奴の拳は、山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」
上空で怒りとも恐怖ともいえる叫びをあげるルイオス。
イオも同時に少し驚いていた。なぜなら、彼女の周囲にまで十六夜の拳は影響を及ぼしたのだ。傘のような完全な不変ではないとはいえ、アルゴールのギフトを無効化するほどのギフトを、十六夜は破壊したと言う事だ。
残った闘技場の足場から見上げる十六夜は、やや不機嫌そうに声をかけた。
「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?」
「・・・・・・っ・・・・・・!」
まだ宮殿の怪物は生きている。だがこのまま続けても結果は好転しないだろう。
ルイオスは屈辱で顔を歪ませた。彼にとって本拠での正式なゲームは、これが初めてだった。それがまさかここまで一方的に押されるなど、考えてもいなかったのだろう。しばし悔しそうに表情を歪めていたルイオスは―――スッと真顔に戻る。そして極めつけに凶悪な笑顔を浮かべ、
「もういい。終わらせろ、アルゴール」
石化のギフトを解放した。
星霊・アルゴールは謳うような不協和音と共に、褐色の光を放つ。これこそアルゴールを魔王に至らしめた根幹。天地に至るすべてを褐色の光で包み、灰色の星へと変えていく星霊の力。そして、イオに簡単に防がれた力である。
「―――・・・・・・カッ。ゲームマスターが、いまさらずるいことしてんじゃねえ!!!」
それなら、十六夜にだってできない道理はない。十六夜は褐色の光を、踏みつぶした。
比喩はなく文字通りに。アルゴールの放つ褐色の光は、逆廻十六夜の一撃でガラス細工のように砕け散り、影も形もなく吹き飛んだ。
「ば、馬鹿な!?」
十六夜とイオを除く全員が驚きの叫び声をあげた。
「せ、“星霊”のギフトを無効化―――いえ、破壊した!?」
「あり得ません! あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」
白夜叉が“ありえない”と結論付けた理由。その二つの恩恵は、相反するギフトのはずなのだ。先も説明したとおり、この神々の箱庭において、“恩恵”を無効化するものなどさして珍しくはない。だがそれは武具などの形で肉体と別に顕現しているものに限る。・・・これもイオに言わせれば簡単に両立させることが出来るのだが、それはまた別の話。
十六夜は他に“恩恵”を持ってない。イオとは違い、それはギフトカードを見ても明らかだ。
なのに天地を砕く恩恵と、恩恵を砕く力が両立していることになってしまう。
だがそんな魂は、絶対にありえないはずなのだ。
(ありえないとか、なに勝手なことを思っているんだろうねえ、みんなは。現にこうして目の前にあるんだし、奇跡を砕く奇跡じゃなくて、全てを砕く奇跡だってあるんだから、なにもおかしくないだろうに)
そう思うイオの表情は、この戦いが始まった時とは違い、これまで通りのニコニコとした笑顔に戻っていた。
「さあ、続けようぜゲームマスター。“星霊”の力はそんなものじゃないだろ?」
軽薄そうに挑発する十六夜。だがルイオスの戦意はほとんど涸れていた。
“箱庭の貴族”はおろか、“白き夜の魔王”でさえしらない出自不明・効果不明・名称不明と三拍子そろった、正真正銘の“正体不明”。
奇跡を身に宿しながら、奇跡を破壊する矛盾したギフト。
(そうだそうだよ。なんでこんなことに気づかなかったんだろう)
今までのつまらなそうな表情から一転。面白い玩具を見つけたイオは途端に瞳を輝かせる。
思えば簡単なことだ。ルイオスには最初から期待はしていなかったし、アルゴールの方は期待外れだった。でも、それよりもはるかに面白い存在がこんな身近にいたではないか。
「ふふ、ふふふ・・・! そうだよ。別に、遊ぶだけなら相手が敵である必要なんてなかったじゃないか・・・!」
楽しそうに、嬉しそうに、いつものようにニコニコとした笑顔を浮かべて心を躍らせる。
―――“化け物”が、ついに動き出そうとしていた。
という訳で、あともう一話二話ぐらいは続くかもしれません。話の流れが本当に遅くて申し訳ない気持ちです。もっと簡潔にまとめる力がほしい!(切実)