問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
長々と引き伸ばしてしまい、申し訳ありません。
それでは、第一章最終話。どうぞお楽しみください!
レティシアの受難はむしろそれからだった。
所有権が“ノーネーム”に移ったまでは本当に良かったのだ。“ペルセウス“に勝利した六人はレティシアを大広間に運び、石化を解いた途端、問題児四人は口を揃えて、
「「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」
「え?」
「・・・・・・え?」
「え? じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって、私達だけじゃない? 貴方達はホントにくっ付いて来ただけだったもの」
「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」
「不可視のギフトだって全部僕が手に入れた。一番活躍したのは僕だね」
「つーか挑戦権を持ってきたのは俺とイオだろ。所有権は俺達で等分、2:2:3:3でもう話は付いた!」
「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」
もはやツッコミが追い付かないなんてものじゃない。黒ウサギとジンの二人は完全に混乱している。
唯一、当事者であるレティシアだけが冷静だった。
「んっ・・・・・・ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れた事に、この上なく感謝している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」
「レ、レティシア様!?」
黒ウサギの声は今までにないくらい焦っていた。まさか尊敬していた先輩をメイドとして扱わなければならないとは・・・・・・と困惑しているうちに、飛鳥とイオの二人が嬉々としてメイド服を用意し始めた。
「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな花も無い可愛げの無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」
「ちなみにこのメイド服は僕が一から作ったものだから、大事に着てくれると嬉しいな♪」
「よろしく・・・・・・いや、主従なのだから『よろしくお願いします』のほうがいいかな?」
「使い勝手がいいのを使えばいいよ」
「そ、そうか。・・・・・・いや、そうですか? んん、そうでございますか?」
「黒ウサギの真似はやめとけ」
ヤハハと笑う十六夜。意外と和やかな五人を見て、黒ウサギは力なく肩を落とすのだった。
☆ ☆ ☆
―――“ペルセウス”との決闘から三日後の夜。
子供たちを含めた“ノーネーム”一同は水樹の貯水池付近に集まっていた。
その数、一二六人+一匹+“一体”。数字だけ見れば中堅以上のコミュニティとも呼べるだろう。
「えーそれでは! 新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」
ワッと子供達の歓声が上がる。周囲には運んできた長机の上にささやかながら料理が並んでいる。本当に子供だらけの歓迎会だったが、それでも四人は悪い気はしていなかった。
「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」
「うん。私も思った」
「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってところじゃねえか?」
「ふふ♪ さて、何を見せてくれるのかな~」
実を言えば、“ノーネーム”の財政は想像以上に悪い。あと数日で金蔵が底をつく。
四人が本格的に活動し始めたとしても、百人を超える子供達を支えるのは厳しいかもしれない。ましてやその中で、魔王との戦いや仲間達の救出まで行わなければならないのだ。
こうして敷地内で騒ぎながらお腹一杯飲み食いをする、というのもちょっとした贅沢になるほどに。そういった惨状を知っている飛鳥は、苦笑しながらため息を吐いた。
「無理しなくてもいいって言ったのに・・・・・・馬鹿な子ね」
「そうだね」
耀も苦笑で返す。二人がそんな風に話していると、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促す。
「それでは本日の大イベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」
十六夜達を含めたコミュニティの全員が、箱庭の天幕に注目する。
その夜も満天の星空だった。空に輝く星々は今日も燦然と輝きを放っている。
異変が起きたのは、注目を促してから数秒後の事だった。
「・・・・・・あっ」
星を見上げているコミュニティの誰かが、声を上げた。
「・・・なるほど。見せたかったものは、これの事か」
一足先にそれに気が付いたイオ一人、ニコニコとした笑顔で空に手を伸ばす。まるで、落ちてくる星を掴もうとするかのように。
それからすぐに全員が流星群だと気が付き、口々に歓声を上げる。
黒ウサギ皆に言い聞かせるような口調で語る。
「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群のきっかけを作ったのです」
「え?」
子供達の歓声の裏で、十六夜、飛鳥、耀の三人が驚きの声を上げる。イオは話を聞いていないのか、依然空に手を伸ばしている。黒ウサギは構わず話を続ける。
「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」
十六夜達三人は驚愕し、完全に絶句した。
「―――・・・・・・なっ・・・・・・まさか、あの星空から星座を無くすというの・・・・・・!?」
刹那、ひときわ大きな光が星空を満たした。
そこにあったはずのペルセウス座は、流星群と共に跡形もなく消滅していたのだ。
ここ数日で様々な奇跡を目の当たりにした彼らだが、今度の奇跡は規模が違う。
言葉を失った三人とは裏腹に、黒ウサギは進行を続ける。
「今夜の流星群は“サンザンドアイズ”から“ノーネーム”への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いを賭けるもよし、皆で観賞するもよし、今日は精一杯騒ぎましょう♪」
嬉々として杯を掲げる黒ウサギと子供達。だが三人はそれどころではない。
「星座の存在さえ思うがままにするなんて・・・・・・ではあの星々の彼方まで、その全てが、箱庭を盛り上げるための舞台装置と言う事なの?」
「そういうこと・・・・・・かな?」
その絶大ともいえる力を見上げ、二人は呆然としている。
だが十六夜だけは、流星群を見ながら感慨深くため息を吐いていた。
「・・・・・・アルゴルの星が食変光星じゃないところまでは分かったんだがな。まさかこの星空すべてが箱庭の為に作られているとは思わなかったぜ・・・・・・」
星空を見上げ、先ほどまでペルセウス座が輝いていた場所を見る。
―――アルゴルが悪魔の星として伝承されたのは、変光星であるからだ。連なる連星が重なり合い、光の波長を変える星。それが食変光星であり、アルゴルの魔性の正体。
星の位置を自由に遊び、ソラの彼方まで支配するような絶大な何かが、この箱庭にはあるのだ。そのことに、イオもまた心を躍らせていた。
感動を補充するように目を細めると、元気な声が十六夜を訪ねる。
「ふっふーん。驚きました?」
「やられた、とは思ってる。世界の果てといい水平に廻る太陽といい・・・・・・色々と馬鹿げたものを見たつもりだったが、まだこれだけのショーが残ってたなんてな。おかげ様、いい個人的な目標もできた」
「おや? なんでございます?」
コミュニティの目標ではなく、十六夜個人の目標。十六夜は消えたペルセウス座の位置を指さし、
「あそこに、俺達の旗を飾る。・・・・・・どうだ? 面白そうだろ?」
今度は黒ウサギが絶句する。しかし途端に弾けるような笑い声を上げた。
「それは・・・・・・とてもロマンが御座います」
「だろ?」
「はい♪」
満面の笑顔で返すが、その道はまだまだ険しい。奪われたものを全て奪い返し、その上でコミュニティをさらに盛り上げなければならないのだから。
だが他の三人も反対はしないだろう。そんな予感が十六夜にはあった。
“家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い”
それだけの対価を支払った彼らの新しい生活は、まだ始まったばかりなのだから。
「ふふふ♪ なんだかいい雰囲気だね、御二人さん?」
そんな二人に、それまでずっと無言だったイオが唐突に声をかけた。
「イ、イオさん!? いえ、これはあの、その・・・!?」
ニコニコと茶化すように笑うイオに、黒ウサギは慌てる。だが、十六夜はそれ以上に、イオがその手で弄んでいる石ころに興味を持った。
「なあ、お前はなんでそんな石ころを持っているんだ?」
「ん? ああ、これ? これはね、“星のかけら”だよ♪」
あの星のね、といって、イオは空を指さす。
信じられないことだが、それは事実だ。彼女にはそれをなすだけの力がある。
“蒐集者”のギフトは、望んだものを一つだけ、手に入れることが出来る。その力は、目に見えている範囲であれば、距離や時間も関係なく発動される。何億光年と離れた空の果てであろうとも、関係ない。
「まあ、イオさんも随分とロマンチックなことを言うのですね♪」
だが当然ながら、その言葉を信じる者はいない。黒ウサギも場の雰囲気に合わせた冗談だと思い、満面の笑顔で返す。
ただ一人、十六夜だけはまさかと思い、冷や汗をかいた。
(こいつなら、もしかしたら・・・。いや、さすがにそれは無いか)
「・・・ふふ♪」
「!?」
何やら意味深な笑みを向けられ、心を読まれたのかと十六夜は一瞬ドキリとする。
(まさか、な)
それでも最後には、ありえないという結論を出すのだった。
☆ ☆ ☆
二六七四五外門・“ペルセウス”本拠。そこでは“ノーネーム”の皆と同じく、空から消えゆく自分たちの旗を見上げていた。
「我等の旗が・・・」
騎士達は皆そろって表情を暗くしている。それも当然だろう。これまで自分たちが気付きあげてきた物。あの旗はそれを象徴していたも同然なのだから、それを失うと言う事は彼らにとって、いったいどれほどの悲しみを与えるのだろうか。
「・・・何を呆けている。落ち込んでいる暇があれば、さっさと働け!」
しかし、そんな中でもただ一人。“ペルセウス”のリーダーであるルイオスだけは、変わらずに、叫ぶように告げた。
この結果は、彼が呼び込んだもの。自分たちのこれまでの頑張りを無に帰した者が何を言うのかと、決して少なくないもの達が思う。
ルイオスとてそれは理解していた。だからこそ、リーダーとしての責務を果たそうとしている。
「僕たちは確かに“サウザンドアイズ”を追放された。そして、あの星々からも旗を降ろすことになった。だが、それがなんだ。あんなものすぐにまた取戻しせばいいだけだ」
ルイオスの力強い言葉に、騎士たちは戸惑う。それはそうだろう。かつてのルイオスは、そんなことを言うような奴ではなかったのだから。
「僕たちが失ったのはそれだけだ。そして、それを手に入れたのは誰だ? ここにいる皆の力で手に入れたものだろう。それならばもう一度手に入れることが出来て当然だろう。・・・わかったら、これまで以上に働け! もっと強い力を手に入れて、今度こそ奴ら“ノーネーム”を完膚なきまで叩きのめして、僕達の栄光を取り戻すんだ!」
そこには、これまでにないほどの強い決意が込められていた。今までのような汚いやり方でコミュニティを大きくするのではなく、純粋に自分たちの誇りと力だけで成し遂げようという強い決意が。
自分たちのリーダーの変化に、最初こそ戸惑った騎士達だが、すぐに落ち着きを取り戻す。理由が何かは関係ない。どんな理由であれ、自分たちのリーダーは変わった。それも、いい方に変わったのだから、不満などはなかった。
すぐさま彼らは歓声を上げ、自分たちにできる事をするために動き始めた。
それを見届けたルイオスも、自分の仕事をするために動き出す。
(負けっぱなしでいられるか! 今度こそ、僕とアルゴールの力で、あの二人に勝ってやるんだ!)
「―――やあ。三日ぶり♪」
「お、お前は、“ノーネーム”の!?」
自分の部屋に向かって歩いていくルイオスの前に信じられない相手が唐突に現れた。
当然それはイオである。“ノーネーム”の皆と一緒にいるはずの彼女が、どういう訳か今目の前に現れたのだった。
「・・・いったい何の用だ。僕にはお前なんかに関わっている暇はないんだ」
「あらら、つれないな~」
ニコニコとあの時と変わらない笑顔でそんなことを言う。
「まあいいや。今日はこれをプレゼントしてあげようと思って来ただけだしね」
「プレゼント? ―――っとと、いきなり投げるな!」
言い終わると同時に無造作に投げられた何かを慌ててルイオスは掴み取る。
いったいなんだと思って、ルイオスはその手を確認し、それを確認してまた訳が分からなくなる。
「おい、これは本当になん・・・」
分からないから、それを渡した相手に聞こうと顔を上げると、すでにそこには誰もいなかった。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように。
「・・・いったい、なんなんだ」
それでも彼女は確かにそこにいた。それは、ルイオスが手に持つ“それ”が証明している。
結局これがなんなのかは聞けなかったが、今はそれよりもやらなければいけないことがある。
「さて、さっさとたまってる書類を片付けないといけないな。・・・面倒な」
面倒だと言いながら、その表情は笑っていた。
手に持ったプレゼントだというただの“石ころ”を握りしめ、ルイオスは自室に向かうのだった。
☆ ☆ ☆
依桜天燈は輝く翼で空を駆ける。“ノーネーム”の空をまるで妖精のように舞い踊る。
「・・・綺麗ね」
「うん。本当に」
飛鳥と耀の二人はそんなイオを見てそんな感想を漏らす。
右へ左へ、縦横無尽に空を舞い踊るイオの姿はまるで本物の妖精のよう。それを見ているすべての人々もまた、彼女たちと同じようにイオの舞を見ている。
「ふふ、ふふふ・・・♪」
当のイオもまた、楽しそうに笑っていた。やはり今までと同じニコニコとした笑いで。
「うん、うん。少し諦めてたけど、少しはこの世界にも期待が持てそうかな」
イオの力では、あの星空から星を奪うのには、手に収まるほど小さな石ころしか奪うことが出来なかった。
あの星空さえも自由にできるだけの存在が確かにここには存在している。それにイオは心を躍らせ、実際に空を踊り舞っているのだ。
「それに、火はつけてあげたんだから、少しは面白くなってもらわないと、嫌だよ?」
いつかまた、“ペルセウス”は強くなる。そうなるように仕向けたのだから。これから先どんなコミュニティになるのかはわからない。もしかしたら、このままコミュニティとして成り立たなくなってしまうことだってあるかもしれない。
だけどそれでかまわない。
期待はしていない。強くなったとしても、自分を満足させるような相手にはなれないのだから。
これはただの気まぐれ。地面に生えた雑草に、ほんの気まぐれで水を与えたのと同じこと。その後誰かに引っこ抜かれたとしても気にも留めない、その程度の事でしかないのだから。
静かに空を踊り舞う。彼らから手に入れたその輝く翼で。
宴が終わるその時まで、イオは一人星の流れる空の下で踊り続けるのだった。
ということで、第一章はこれで終わりです。本当に長かった・・・。
私の考えでは20話ほどで第一章は終わらせる予定だったのですが、思いのほか長引いてしまいました。
ここまでこの作品を読んで下さった方々に感謝を。初めての執筆で、いろいろと設定やら何やら下手な作品だと思いますが、読んでくださって本当にありがとうございます!
出来れば、この後の第二章も続けて読んで下さると嬉しいですが、こんなこと、何も言わないで続けて読ませるような文を書けるようになれば問題ないんですよね。
ですが私にはそんな力はないのであえて言います。拙い作品ですが、どうかこれからもよろしくお願いします!