問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
もしかしたら今後も更新が不定期になってしまうかもしれませんが、なるべく週一更新で頑張って行くので、気が向いたときにでも覗いてくだされば幸いです。
それでは、第2章開始です!
第26話 新たな日常?
“ペルセウス”とのギフトゲームに勝ち、レティシアを取り返してからもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。
「待ちやがれー!」
逆廻十六夜は獰猛に笑い、地面を砕くような勢いで何かを追いかけるように走る。
「ヤダヨ。待てなんて言われたらなおさら逃げるに決まってるさー」
追いかけられているのは依桜天燈である。ほぼ全力で追いかけている十六夜とは違い、こちらは余裕綽々にバックステップで一定の距離を取り逃げている。明らかに遊んでいる。
その光景を少し離れたところで見ていた飛鳥が、
「・・・イオは、十六夜君に何かしたの?」
隣で同じように傍観している黒ウサギに問う。
「い、いえ。そういう訳ではなくてですね・・・えっと、おそらく見ていればわかるかと」
苦笑で返す黒ウサギ。飛鳥も言われた通りに二人に視線を戻す。
「あんな中途半端に終わらせられて納得できるかよ! 今度こそ最後まで俺と戦いやがれ!」
「だから、やだって。メンドクサイ・・・」
スピードを上げて掴み掛かろうとする十六夜を、ひらりひらりと躱すイオ。やはりその表情はいつものようにニコニコと笑っており、何を考えているのかよく分からない。
二人のやり取りを見てなるほどと飛鳥は納得する。
「ああ、そういえば前のギフトゲームの時にあの二人、戦ったのだったわね」
自分は石化していたから見ていなかったが、あの後ジンと黒ウサギから話を聞いて飛鳥と耀の二人もそのことを知っていた。何やらとんでもない戦いをしていた、という程度にしか理解できなかったが。
「はい。その決着がつく前にイオさんの時間切れで勝負そのものがうやむやに終わってしまい、十六夜さんがそれに納得なさらずに、こういう事態になったという訳です」
「なるほどね・・・」
「まあ、すぐにイオさんが何とかするので、放っておきましょう!」
「・・・黒ウサギも慣れてきたわね」
実際は飛鳥が見ていなかっただけで、あれから何度も二人はこういったことを繰り返していた。黒ウサギも最初のころは止めようとしたのだが、そのたびにイオがいつの間にか姿を晦まして終わるので、最近はこうしてただ見ているだけにしている。
(ああもう、本当に面倒だなぁ。そろそろ、お仕置きでもした方がいいのかな)
ニコニコとした笑顔の裏で、イオは辟易としていた。さすがにこう何度も追いかけられているとあしらうだけでも面倒だった。
諦めずに何度も向かってくるので、そろそろ避けるのも面倒になってきた。なので『同行』のギフトを発動する。
『同行』は、特定の対象を相手に一定の距離を常に保ち文字通り同行するギフト。お金を使わずにいろいろなところを旅するために手に入れたギフトだが、使い方によっては、
「・・・なんだ、これは」
「ふふん~♪」
さっきまでは普通に近づけていたはずの十六夜が、最初に追いかけていた時と同じように、むしろそれよりももっと確実に距離を詰められなくなる。
「『同行』のギフトは、一定の距離を常に保ち続ける。使い方によっては、こうやって絶対に相手に近づかせないことだってできるんだよ♪」
「ちっ・・・なら、こうすればどうだ!」
どんなに追いかけても一ミリも近づけないことで、何を思ったのか十六夜は突然方向転換し、壁に向かって全力で突進していった。
何も知らない人からしたら血迷ったのかと思うかもしれないが、イオは感心した。
「あはは! さっすが十六夜君♪ 一瞬でこれの弱点に気づいたんだ!」
「これでもう、逃げられねえぞ」
絶対に近づけない。逆に言えば、絶対に離れることが出来ないのだ。
十六夜の行動はまさしくこのギフトを破る手っ取り早い最良の方法なのだ。
このままだと、イオは壁にそのままの速度で激突する。それだけならいいが、同行は距離を変えられないため、激突しても十六夜が速度を緩めない限りそのまま壁を突き破っていき、とてつもない衝撃を連続で受けることになる。
それを回避するためには同行のギフトを解除するしかない。そして、すでに背後は壁で、逃げるとしても左右のどちらかしかない。さらに今の十六夜との距離ではどちらに逃げても確実に捕まってしまう距離だ。
(ま、このまま壁に激突しても僕は何ともないんだけど、さすがにこれ以上コミュニティを破壊しても意味がないかな)
すでに二人の追いかけっこの影響でコミュニティには少なからず影響が出ている。主に十六夜が全力で動いた余波による影響だが、それを見過ごしてきたのもイオ。ある程度は修復しているとはいえ、完全に修復することはできないのだ。
「さあ、どうする?」
「ふふん。この程度で、僕を追い詰められたと思ってるなら、まだ甘いよ!」
イオが左右どちらに逃げてもすぐさま反応できるように走る十六夜に、ニコニコとした笑みをさらに深めてイオが宣言する。
イオは宣言すると、もはやすぐ真後ろに迫っていた壁をよけるために同行を解除し左右、ではなく、上に向かって大きく跳躍した。
一瞬戸惑った十六夜だが、それもほんの一瞬だけ。すぐさま自分も上に向かって跳躍する。この距離ならば、まだ十分手は届く距離だった。
「つかまえたぜ!」
「―――だから、甘いんだって♪」
ニコッと微笑んだイオの黒いゴシックロリータのスカートの中から、黒い何かがブワッと広がり十六夜の事を覆い隠した。
「なんだ!?」
「いっつ、いおちゃんマジック!」
足に光の翼をはやしたイオは、すぐさま十六夜を覆い隠した何か、白いカーテンの端を掴みふわりと空を駆けて地面に降り立つ。
地面に降りたと同時に、手につかんだカーテンを大きく投げあげ、広がったカーテンが地面に落ちる時には、そこには十六夜の姿はどこにもなかった。
「タネも仕掛けもありません、ってね♪」
観客、黒ウサギと飛鳥に向かって軽くウインクをしてお辞儀をする。
二人も久しぶりに見たマジックショーに笑顔で拍手をする。
「相変わらず、すごいわね。イオの手品」
「本当です。そのほかにも裁縫や掃除、料理もお得意で、戦闘も強い。黒ウサギ達としてはすごく助かってます」
カーテンを出した時と同じようにどこへともなく消し去ったイオは、二人の賛美にもう一度お辞儀で返す。
黒ウサギは、そこでふと思い出す。最近はいつも十六夜がイオを追いかけ回していたために黒ウサギがイオと会話する機会がほとんどなかったため、なんだかんだで考えてはいても言い出せなかったこと。
今いる場所を考えると、いい機会だと思い、それを口にする。
「あの、一つお尋ねしたいのですが、イオさんのギフトでこの農園をもう一度使えるようにすることは可能でしょうか?」
「ん? 農園?」
きょとんと首を傾げたイオは、自分たちが今いる場所。以前は“ノーネーム”の農園の一つだった土地を見渡す。
なるほど、言われてみればそこにはかつての名残が若干残っていた。
「・・・ここが、かつては農園だったの? 黒ウサギ」
「はい。今はごらんのとおり、土地は完全に死滅しておりますが、かつてはそれはそれは素晴らしい農園だったのです」
飛鳥は改めて、魔王とのギフトゲームによりもたらされた傷跡を思い知る。
農園だった土地の土をイオはおもむろにつかむも、その土に生気は全く感じられなかった。ただ耕しただけでは、この土地は絶対に使い物にはならないだろう。だが、
「うん。一応土地は残ってるみたいだから、一応は出来るよ」
簡単に肯定してみせる。以前水路を直した、他者の思いを糧にかつての姿を再現するギフトでも構わないが、土地を再生するギフトもイオは持っている。旅をしていると、どうしても同じように死滅した土地に滞在することもあったためだ。
「本当ですか! では、イオさんの力で―――」
「それは嫌だよ」
土地の再生は、“ノーネーム”にとってはかなり重要なことだ。今はただでさえ財政難であるため、農園を復活させることが出来れば自分たちの生活サイクルを確立することも可能になり、組織力を高めることもできるようになる。
だからこそ、イオのその返答に黒ウサギは動揺した。
「ど、どうしてですか!? イオさんだって今のコミュニティの状況は分かっているはずです。農園を再生すれば、どれだけコミュニティの助けになるか!」
「だからって、どうして僕が、僕一人で再生させなくちゃいけないのさ」
「・・・っ」
「都合がよすぎると思わない? 僕が何でもできるからって、何でもかんでも僕に頼らないでほしいな。もし僕が再生させたとして、それで得られるものを全部僕の物にしていいっていうんなら、直してあげてもいいけど、それじゃ意味がないんじゃない?」
イオの表情は、変わらず優しくにこにこと笑っている。
確かに、都合がいい話だ。イオの言う通り、これではまるで自分たちの為に彼女を利用しようとしているだけでしかない。
反論できずにしょんぼりする黒ウサギにイオは続ける。
「便利だからといって、それに頼るだけじゃ意味がない。他人にただ与えられたものを誇っても空しいだけだよ。どんなものでも、自分の力で勝ち取った物に意味があるんじゃない?」
飛鳥もその言葉で思い出す。かつての、此処に来る以前の事を。ただいいように利用されるだけで、籠の鳥のような生活に嫌気がさして、自分はここに来たのだ。
「・・・そうね。別に、こんなのギフトゲームで勝ち取ってしまえば簡単に取り戻せるんじゃない?」
「うんうん。そうだよ。この世界じゃそれがルールなんでしょ? だったらさ、ズルなんてしないで、自分たちの手でつかみ取ればいいのさ! その時は、僕だって協力してあげるからね♪」
「飛鳥さん、イオさん・・・そうですね。今はまだ、そんな大きなギフトゲームに挑むのは危険ですが、黒ウサギ達にはイオさんや十六夜さんという強力な仲間がいるのですから、いつか絶対に再生することもできるはずです!」
二人の励ましで、黒ウサギも元気になる。
「ところで、さすがに十六夜さんも反省したでしょうし、そろそろ元に戻して差し上げてもいいのではないですか?」
「そうね。いくらあの十六夜君でも、こんなにあっさりあしらわれたのだから諦めるでしょう。・・・で、今彼はどこにいるのかしら?」
「・・・え?」
何言ってるの、といった風に目を丸くするイオに、二人は途端に冷や汗をかき始める。まさかとは思うが、これまでの彼女の行動を考えると、もしかすると―――
「・・・あの、十六夜さんは今どちらにいるのでしょうか?」
「・・・さあ? 適当に飛ばしたから、どこかにはいるんじゃない?」
やっぱりかー!
「ちょ、どこかっていったいどこですか!?」
「んーと、たぶんどこかの森の中とかじゃない?」
「そんなあいまいな! い、いけません。このままでは十六夜さんが!」
「別に問題ないでしょ。十六夜君ならそう簡単に死にはしないって」
やらかした張本人がへらへらと何食わぬ顔でいることに、黒ウサギは顔を真っ赤にして怒り、ハリセンでその頭を叩く。
「この、お馬鹿様! たとえ無事だったとしてもどうやってここに帰ってくるのですか! 早く迎えに行ってください!」
「えー、別に後でも―――」
「今すぐに! 早く!」
有無を言わせぬ勢いで迫る黒ウサギに、さすがのイオも後ずさった。
「・・・まったく。しょうがないなぁ」
渋々と言った表情で、『見たいものを見る事ができるギフト』で十六夜の現在地を確認する。
自分でまいた種なのだから自業自得である。
怒る黒ウサギと呆れる飛鳥に見送られて、イオは急いで十六夜を迎えに行くのだった。
ちなみに、迎えに行った先で激怒した十六夜と再度追いかけっこを開始し、そのままコミュニティまでイオと十六夜は戻ってきたのだった。
激怒する十六夜をにこにこと笑って適当にあしらうイオ。二人の追いかけっこはその後も続いていくのだった。
という訳で、イオと十六夜の二人の追いかけっこがコミュニティの日常になりました。
来週はちゃんと更新できるといいな…。
それでは、また次回お会いしましょう!