問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
裏で何か画策しているイオを置いて、十六夜と天燈は戦いを続けていた。
「どうしたどうした。頑張れ少年!」
地面に倒れている十六夜に、少し離れた位置から天燈が声をかける。
「クソ・・・おわ!?」
十六夜が地面に手をついて立ち上がろうとしたが、なぜかバランスを崩してもう一度地面に倒れ込む。
間髪入れずにもう一度足に力を込めるが、今度はなぜかその足が滑って倒れる。
この戦いが始まった時からずっとその繰り返しだった。
「―――参った。降参だ」
「わはは。なんだ、もう降参か。情けないぞ、少年!」
地面に座り込んだ十六夜は荒い息を整える。
「手も足も出ないどころか、まともに立たせてすらもらえねえでどう戦えっていうんだよ。ちくしょう・・・」
「そこはあれだ。―――気合で何とかするんだ」
「出来るか!」
「わはは!」
楽しげに笑っている天燈を苦々しげに睨み付けるも、やはり天燈はそんなもの気にも留めない。
「―――そい」
気づかれないようにこっそり握り込んだ石を投げつけてやろうとしたが、投げようとした瞬間に見えない何かに手を打たれ、石を取り落してしまう。
これまでもことごとくその見えない何かに邪魔をされていた。それがなんなのか戦いながらずっと考えていたが、結局よく分からない。
「ったく、いいかげん、何をしてるのかぐらい教えてもらえないか?」
「ん? なんだ、そんなことも分からないのか? 本当によわっちいなぁ」
人を小馬鹿にした物言いにカチンとくるが、本気で何もわからない以上何も言い返すことはできなかった。
「いつか絶対ぶっとばしてやる・・・!」
「わはは、楽しみにしてるぜ? 少年!」
小さく呟いた言葉を聞きつけた天燈は実に楽しそうに笑う。
「さて、どうやら本気で分かってないみたいだから、今度はゆっくりにしてやってやろう。ちゃんと見ておけよ?」
天燈は近くにある手ごろな大きさの石を拾いながら言う。どうやらちゃんと教えてはくれるらしい。いったいどんなギフトを使っているのか、今度こそ見破ってやると意気込む十六夜を横目に、天燈は小さく苦笑する。
手のひらサイズの石を空に向けて軽く投げあげて、十六夜に見詰められる中、天燈はこれまでと違い、拳を構えた。そして、構えた拳を振りぬく。
ゆらりと影を残してわずかに揺れた程度だが、それでも天燈が拳を振りぬいたことだけは分かった。わずかに時間をおいて、空中にあった石が粉々に砕け散った。
「これで分かっただろう。俺は別にギフトなんて何も使ってなんかいねえよ。単純に、見えない速度で拳を振りぬいて衝撃波だけを飛ばしてただけだ」
目に映らない速度で、空気の揺らぎすら感じさせないレベルで、なおかつ相手を気づつけないよう威力を調節された衝撃波をいとも簡単に、それこそ相対する相手に気取らせることもなく行えるくせに、それだけだと断言する。繊細なコントロールと衝撃波を調整できるだけの実力。それだけで最早、同じ人間とは思えない。
イオと戦った時にも実力の差を感じたが、こうしていざその歴然とした差を見せつけられてよく分かった。
依桜天燈の実力は、次元が違う。
だが、そんなものは関係ない。実力が違う? それがどうした。そんなものは最初から分かっていたことだし、自分が強くなってその差を無くしてしまえば問題ない。
「いつかぜってえ、倒してやる」
問題児に常識なんて関係ないのだ。
(やっぱり、面白い奴らだな)
天燈もまた、そういった問題児の事が大好きな問題児。ゆえにそれを面白いと思う。
「さてと、十六夜君との遊びも終わったことだし、ウサギちゃんやジン君。飛鳥ちゃんや耀ちゃんとかにも挨拶に行くか。何時までこうしてられるか分から―――」
―――ブチン、と何かが切れた音が鳴り、同時に天燈の体が光を放った。
光の眩しさに、何事かと思った十六夜はとっさに目を腕で庇う。
そして、光が収まった時そこに天燈の姿はなく、代わりに黒い着物を着崩したイオがいた。
長い髪は、縛っていないため座り込んだ拍子に地面に起きく広がって土がついてしまっていた。同じくサイズの合わない着物は大きく肌蹴ており、戻った拍子に踏んづけてこけてしまったらしい。
転んだ拍子に打った鼻をさすりながら、イオは起き上がる。
「あらら、こんなに急に元に戻るとは思わなかったな・・・」
「本当に、イオだったんだな」
「あー、何? まさか信じてなかったの?」
「いや、別にそういう訳じゃねえが、いざこうして目の前で変わるのを見るのとは違うだろ?」
まあ、そういうものかあ。と軽く返すイオ。それなりに驚いた十六夜はそんな軽い反応でいいのかと思ったが、口には出さない。言っても無駄だし。
「んー、残念。もう少し楽しめるかと思ったんだけどなぁ・・・まあいいか。とりあえず、みんなに説明とかしたいから、十六夜君は先に行ってみんなを集めてくれる?」
「一緒に行けばいいんじゃないか?」
「あはは♪ こんな格好だから、簡単にでも着替えたいんだけど?」
「了解。じゃ、先に行って待ってるぜ」
またも体の大きさが変わったので、来ていた着物はぶかぶか。余った袖をひらひらさせてうったえると十六夜は素直に背を向けて戻っていく。
それを笑顔で袖を振って見送った。
☆ ☆ ☆
あの後、みんなに今の自分の状況。
依桜天燈という人間の存在を奪ったこと。今の自分は本物の依桜天燈の偽物、本来の名前が桜咲依桜だと言う事などを説明し、十六夜という証人がいたことと、これまでの経験から、特に疑われることもなく受け入れられた。
信じがたいことではあるが、イオであればおかしくはない。最近はそれだけでみんな驚いてくれなくなったことが、少し寂しい。
同時に、今回の事で多くの事に納得がいったとも言われた。
これまでの、人間とは思えない強さは、もともとが化け物のような存在だったとはいえ、一人の人間にできる範囲を超えていた。だが、同じように規格外の存在と融合しているのだとすれば、単純計算でも二倍。十分に人間の範疇をこえ、人外の存在に匹敵する力を発揮することも可能だろう。
そんなわけで、イオの男体化事件の方は何の問題もなく解決した。
ちなみにその後、天燈化がどういった条件で発生するのかを研究をした。
その結果分かったことは、ある程度であれば、イオの意志で天燈の姿に戻ることが可能であることが分かった。
ただし天燈化できるのは、一日のうち一回だけであることも分かった。これは天燈化していた時間に関係なく、たとえ一分だけであったとしても一度なってしまった場合日をまたがない限り二度と天燈化はできない。
次に、天燈化していられる時間だが、これは完全にランダムらしい。実験してみたところ、数時間天燈の姿でいることもできたが、基本的には数十分、場合によっては一分で戻ってしまう事もあった。こちらは、自分の意志で戻ることも不可能だった。
実用性としては完全に無駄なものでしかない。今後使う事は滅多にないだろう。
「こんなところかな・・・」
手に持ったペンを机の上に放り投げる。
研究結果をまとめ終えたイオは、椅子を引いて立ち上がる。
ここは“ノーネーム”の一室、ではなかった。
広さとしてはとてつもなく広大な部屋。その中を埋め尽くす大量の人形。
ここはイオの研究室、のような部屋。彼女の持つギフトにより形作られた世界の中。イオはそこで隠れて研究をしていた。
部屋にある人形は、ぬいぐるみのような小さな人形から、人間サイズの人形まで多種多様の人形が所狭しと並んでいた。
中にはマネキンのようなものもあったが、その中でもひときわ異彩を放っているとしたら、何から何までイオにそっくりの人形が何十、何百と並んでいる事だろう。
全く同じ顔が全く同じポーズで並んでいる光景は、あまりに歪で、あまり見ていて気分のいいものではない。そんな部屋を鼻歌交じりに、片足を引きずりながらイオは移動する。
部屋の奥にある無数の扉のうちの一つを開くと、そこは手術室のような部屋。メスやらの手術に使う道具も一通りそろっている。
誰もいない手術室の手術台にイオは座り込み、来ている服を脱ぎ棄てる。
そのまま手にメスを取って、自分の足を切り開く。
「うわー、やっぱりかなりガタがきてるなぁ」
痛みを感じていないのか、ぐちゃぐちゃと平気な顔で足を開き、固定する。
そのまま、人形師のギフトで作り出した糸を使って、引き千切れた足の筋を再生していく。足の筋を切り取って、適当に抛り捨てると、脇に置いておいた新しい筋をくっつける。それが終わると手早く縫合を済ませる。指から伸びた糸で、自分の足を操り何の問題もなく動くことを確認し、同時に簡単に壊れないように強化を施す。
「よし、これでまたしばらくは持つかな」
裸のまま立ち上がったイオの体には、先ほどの足の縫合後のほかに、体中に同じような傷があった。それはつまり、全身を足と同じように修理していると言う事。
くるりとその場で一回転し、そのまま手術台を蹴り飛ばす。
ぐしゃぐしゃになった手術台はそのまま壁にぶつかり、部屋の壁をに、世界にひびが入り、手術室の景色が砕け散る。
新しく構築された景色は、研究所のような部屋。コンソールやいくつもの機械が立ち並ぶ部屋。
「・・・この体も、そろそろ限界か」
蹴り上げた状態のままあげていた足を下ろす。そのままゆっくりと前に歩く。歩みに合わせて、手を触れてもいない周囲の機械が起動し、勝手に動き出すが、それに特に意味はない。見た目が機械であるだけで、実際の機械としての機能は何もない。
これまでの時間と同じように、特に意味のない機材でしかない。自分と同じ様に。
向かう先には二つの生態カプセル。
「作ったはいいけど、どうしようかな。稼働実験するにしても、十六夜君相手にしてもツマラナイし・・・」
その中に入った二つの人形を眺めてどうするか考える。
その時、ふと頭の中にとある情景が映し出される。“見たいものを見ることが出来る”ギフトにより見せられた、未来の景色。いわゆる未来視である。
少し先の未来に出会うことになる、とある魔王の姿。
「・・・あは、あはは♪ いいところに来てくれるんだね。まさかこのタイミングで来てくれるなんて」
くつくつと天を仰いで笑い声をあげる。
「ふふ、精々がんばってね―――天燈?」
ゆらりと笑う視線の先にある一つのカプセルの中にいる、依桜天燈の姿をした何かに、笑いかける。
これからまた、楽しくなりそうだね♪
今後は、不定期更新になってしまうことが増えるかもしれません。
もし楽しみにしてくださっている方たちがいたとしたら、申し訳ありません。