問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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タイトル通りです。


第29話 イオ不在の始まり

 ―――箱庭二一〇五三八〇外門住居区画・“ノーネーム”本拠。イオの私室。

 

 時は進んで、ペルセウス戦より一カ月。イオの天燈化事件? から十数日が経ち、窓に露がまだ残る、やや肌寒い時間帯。

 

 依桜天燈はまたも、不可思議な違和感をと共に目を覚ました。

 

(こうも何度も変な目覚めをさせられるのは勘弁願いたいね)

 

 起き上がるのも億劫だが、このまま寝転がっていても事態は何も把握できない。欠伸をかみ殺しながらベットから降り、大方の予想通り自分の姿が天燈のものであることを確認する。

 

 だが、今回の違和感はそれだけではないらしい。

 

(はっきりとはわかんねえけど、なんだろうな。なにかこう、心にぽっかり穴が開いたような、何かが足りないような感じがするぜ)

 

 天燈化できることが分かっていらい、常に天燈の普段着である黒い着物を持ち歩くようにしている。さっそく懐から着物を取り出そうとして、

 

「・・・服を、取り出せない?」

 

 いつものように服を取り出そうとしても、何もつかむことが出来なかった。

 

 気づけば、今自分が来ているのはいつもイオが来ている寝間着ではなく、以前まで自分が使っていた寝間着用の浴衣だった。

 

 なぜ気づかなかったのか。今の自分は、“桜咲イオ”ではない。完全に“依桜天燈”なのだ。

 

 考えられる原因は一つだけ。イオが何かしらをしたと言う事は確実だろう。今の自分はイオとは完全に隔絶されているため、イオの考えは何一つ理解できない。何かしらの思惑があってこうなっているのは分かるが、今の天燈には分からない。

 

「考えたところでしょうがねえ。あいつが何かしようとしてるんなら、普通に過ごしていればいずれわかんだろう」

 

 イオという化け物はそういうものだ。狡猾で面倒くさがりな性格ゆえに、回り道を嫌う。だから、自分の敷いたレールの上を確実に通って、より迅速に求める結果にたどり着くようにする。それが、依桜天燈と混ざる前の桜咲イオという少女。

 

 何も考えず、以前のように適当に、自分が楽しめるように行動していけば絶対に全てが分かる。だから俺はいつも通り行動すればいい。クローゼットに用意された自身の黒い着物に着替えながらそう結論づける。

 

 そこでふと、机の上に見慣れぬ手紙が置いてあるのに気付く。

 

 手に取った手紙の封蝋には向かい合う双女神の紋。見覚えがある。これは“サウザンドアイズ”の旗印だ。

 

 中身を確認し、天燈は口元に笑みを浮かべる。

 

「なるほど。道はもうできているっていう訳だ」

 

 くつくつと笑い、手紙を手に部屋を後にする。

 

「楽しいことは、みんなで分かち合わないとな。その前にまずは、朝飯でも食べるか」

 

 楽しそうに肩を揺らし、天燈はゆらゆらと扉を閉じる。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 それから数十分後、

 

(ああ、なんだかつまらない夢を見ていた気がするけど、まあいいわ。つまらない夢は所詮、思い出せないくらいにつまらない夢のなのでしょう)

 

 今朝の飛鳥は機嫌がよかった。寝起きの悪さは自分でも自覚していたつもりなのだが、今朝はそんな雰囲気は無い。これは怠惰と惰眠の極致、二度寝にはいろうと思ったその時。ドアを叩く音と共に声が聞こえた。

 

「えっと、春日部です。年長組の子と朝ご飯を持ってきた。飛鳥は起きてる?」

 

「・・・・・・」

 

 むう。これは困った、と飛鳥は蹲る。

 

 二度寝を決め込んだ手前、体を起こすのは非常に苦痛だ。しかし、あの大人しくも可愛い友人が自分の為に配膳してくれた朝食を無視してしまうのも心苦しい。

 

 コンコンコン。そんなことを考えている間にも、

 

「飛鳥? ・・・・・・寝てるの・・・・・・?」

 

 困ったような、寂しそうな声と控えめなノックが部屋と良心に響く。

 

 コンコンコンコン。

 

 一回分ずつ多くなるノック。

 

 飛鳥は申し訳なさを胸に怠惰と惰眠の海、贅沢で幸せな深層意識の中にどんどんと意識を沈―――

 

 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。

 

 

「ごめんなさい、私が悪かったわ」

 

 飛鳥は観念して身支度を整えるのだった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

「用意できたわ。どうぞ」

 

「失礼します」

 

「し、失礼します」

 

 春日部耀ともう一人。年長組の一人だろう幼い声がする。

 

 小さい背丈に合わせた、割烹着と狐耳が特徴的な少女がカートを押して入る。

 

「ごめんね、飛鳥。せっかく作った朝食が覚めたらもったいないと思って。・・・・・・」

 

「い、いいのよ春日部さん」

 

 頭を掻いて恥らいながら弁明する耀に、唇を引きつらせながら笑いかける飛鳥。

 

 一方で、耀は割烹着を着た狐耳の少女の背中を軽くポンと押す。狐耳の少女は緊張した面持ちで朝食の乗ったカートを押し、がちがちに緊張したまま飛鳥に一礼して、

 

「り、り、り・・・・・・りりとおんもします!」

 

 第一声から、思いっきり噛んだ。

 

「はい?」

 

「リリ、落ち着いて」

 

 耀が苦笑しながら背中を軽く叩く。

 

 パタパタと二本の尻尾と狐耳を忙しなく動かす少女は、年長組のリリというらしい。

 

「ああ、以前クッキーを持ってきてくれた時の? じゃあこの食事とお茶は貴女が?」

 

「は、はい。飛鳥様はハーブを好まれると聞きましたので、菜園で獲れるものを一式用意しました。特に朝の目覚めが良いものを用意しましたのでその・・・・・・喜んでもらえたらなあって・・・・・・」

 

 はにかみながら笑い、ハッと口調を改めようと慌てるリリ。

 

 ハーブティーの事は黒ウサギから聞いたのだろう。その心遣いが少し嬉しかった。

 

「“ノーネーム”の領地には菜園があるの?」

 

「は、はい。本拠地の裏手を切り開いた場所に、とっても小さいけど皆で育ててます。土地が死んでなければ家畜の飼育や昔みたいに大きな菜園を作ることが出来るのですけど・・・・・・」

 

「昔はあったんだ?」

 

 テーブルに配膳をしつつ質問する耀。リリはパタパタと二尾を動かし、瞳を輝かせる。

 

「はい! とってもとっても、すごく大きな農地があったんです。今は滅んじゃって死んだ土地ですけど・・・・・・昔の特別菜園場には有名な霊草とか、マンドラゴラとか、その他にもたくさんたくさん素敵な農園があって・・・・・・!」

 

「マン・・・・・・?」

 

「そ、そう。随分大きな土地があるのね」

 

 やや怯んだように頷く飛鳥。マンドラゴラは兎も角、大きな農園があった事は伝わった。

 

 彼らのコミュニティ――― “ノーネーム”の持つ土地は膨大だ。魔王に滅ぼされたとはいえ、居住区画の領地は丸々残っている。一都市に匹敵するだけの人間が住んでいたのだから、それを賄える農地は比例して膨大だ。

 

 焼きたての香ばしい匂いのするパンを齧りながら、耀はボソリと呟く。

 

「農園・・・・・・農園ってそれ、もう一度作れないかな?」

 

「ええ。それがあったら、日銭を稼ぐ為につまらないギフトゲームに参加する必要もないわ」

 

 飛鳥も同じく、ティーカップを口に運びながら頷く。

 

 “ギフトゲーム”―――箱庭で強大な“恩恵”を得る為の神魔の遊戯。

 

 しかし、このゲームにはもう一つの側面がある。

 

 それが“主催者”と“参加者”による決闘である。

 

 互いの組織が賞品とチップを賭け、金品・土地・利権・名誉・人間・・・・・・そして奇跡の結晶である“恩恵”を賭して戦う。それが『ギフトゲーム』だ。

 

 勿論、ギフトゲームは得られる恩恵が大きいほど危険になる。

 

 リリは少し心配したように胸に手を当てて二人に問う。

 

「け、けど、その、土地を復活させるような大規模なゲームは・・・・・・その、すごく危険だって、黒ウサギのお姉ちゃんが、」

 

「あら、面白いじゃない。私達も暇を持て余していたところよ」

 

 “ペルセウス”とのギフトゲーム以降、此処二一〇五三八〇外門のコミュニティと戦ってみたが、飛鳥達が期待していた程の刺激は得られていない。

 

 ―――“家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い”

 

 そんな素敵で胡散臭い誘いに乗ったのは、此処なら刺激的な日々を送れると期待してのものだ。しかし最近の惰性的な生活はどうにもいただけないと、飛鳥は頷く。

 

「じゃあ目下の目標は土地の再生という事にしましょう。黒ウサギにも相談を―――」

 

 と、話がまとまりかけた時。またもコンコンと扉を叩く音がなり、返事を待って一人の青年が入ってきた。

 

「あら、今日は天燈さんの方なのね?」

 

「おう。みんな大好き天燈さんだ」

 

 にやにやとおどけた態度で返す天燈に三人は苦笑で返す。そんな反応を何とも思わずに彼は続ける。

 

「白夜叉からちょいと面白そうな話がきたんだが、聞くかい?」

 

 ひらひらと指に挟んだ手紙を振って見せる。それを見たリリは大きく息を呑んで叫んだ。

 

「す、すごいです! “サウザンドアイズ”の印璽が押された封蝋なんて初めて見ました!」

 

「白夜叉から?」

 

「あのフロアマスターの?」

 

 天燈から手紙を受け取った飛鳥と耀は顔を見合わせ、その瞳を喜色に染める。そして嬉々として封を切った。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

『黒ウサギへ。

  北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してき  ます。貴女も後から必ず来ること。あ、後レティシアもね。

  私達に祭の事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達をつかまえられなかった場合四人ともコミュニティを脱退します。死ぬ気で探してね。応援しているわ。

      P/S ジン君は道案内に連れて行きます』

 

 そんな手紙を残して、問題児たちは目的地に向かったのだった。

 




というわけで、イオ不在のまま始まりました。彼女はどこにいるのか。何をしようとしているのか
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