問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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新年一発目の投稿。どうか今年もよろしくお願いします!


第30話 いざ、出発

 時は少しさかのぼり、飛鳥と耀が天燈から受け取った手紙を読んですぐ四人は十六夜がいるであろう“ノーネーム”本拠の地下三階の書庫に向かった。

 

 飛鳥達があわただしく書庫に飛び込んだとき、十六夜とジンの二人は健やかな寝息を立てていた。だがそんなこと知らない飛鳥は、

 

「十六夜君! どこにいるの!?」

 

 大声で呼びかける。

 

「・・・・・・ああ、お嬢様か・・・・・・―――」

 

 その声に反応した十六夜だが、相手が誰かを確認するだけして二度寝しようとする十六夜。飛鳥は散乱した本を踏み台に十六夜の側頭部へシャイニングウィザードで強襲する。

 

「起きなさい!」

 

「させるか!」

 

 飛鳥の蹴りを察知した十六夜がすぐ隣で寝ていたジンの襟首をつかみ盾にする。

 

「へ? うわぁ!?」

 

 目が覚めたら自身の顔面に迫る膝蹴りにギリギリのタイミングで気づいたジンはとっさに両手でガードする。しかし衝撃を完全に受け止める事は出来ずに一回転半して吹き飛んだ。

 

 追ってきたリリの悲鳴が書庫に響く。

 

「ジ、ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!? 大丈夫!?」

 

 突然の事態に混乱しながらも、ジンに駆け寄るリリ。

 

 ジンを吹っ飛ばした飛鳥は気にも留めず、腰に手を当てて叫ぶ。

 

「十六夜君、ジン君! 緊急事態よ! 二度寝している場合じゃないわ!」

 

「それは嬉しいが、シャイニングウィザードは止めとけお嬢様。俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」

 

「僕を盾にした人が言わないでください!」

 

 本の山から飛び起きるジン。思ったほど大した事は無いらしい。

 

「大丈夫よ。だってほら、生きてるじゃない」

 

「生きていても致命ですよまったく。飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも散々」

 

「御チビも五月蠅い」

 

 十六夜の投げた本の角がジンの頭にヒット、する直前に今度こそ両手でしっかりキャッチする。

 

「危ないじゃないですか!」

 

「・・・さっきも思ったが、御チビのくせによく受け止めたな、っと」

 

 スコーン! ッと、十六夜が投げた二冊目の本がジンの頭にクリティカルヒット。またも後ろに吹き飛びジンは失神。リリは混乱極まりあたふたしている。

 

 それをよそに、不機嫌な視線を飛鳥に向ける十六夜。

 

 飛鳥は構わず、眠たげな十六夜に招待状を手渡す。

 

 

「いいからこれを読みなさい。絶対に喜ぶから」

 

「うん?」

 

 不機嫌な表情のまま、開封された招待状に目を通す十六夜。

 

「“火竜誕生祭”だ? 北側の美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な“主催者”がギフトゲームを開催。メインは“階層支配者”主催する大会を予定しておりますだと!? クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」

 

「ノリノリね」

 

「北側!?」

 

 失神していたはずのジンが二人の会話を聞いて飛び起きる。隣で見ていたリリが少し驚いていたが、それは無視して話半分の情報で問い詰める。

 

「ちょっと待ってください! 北側に行くって、本気ですか!? そもそもどこにそんなたくわえがあると思っているのですか!」

 

「おいおい、こんな面白そうなことを隠していた奴が随分とまあいうじゃねえか」

 

 後からのんびりと後をついてきていた天燈がジンの頭にポンと手を置く。

 

 その言葉に、ギクリと硬直するジン少年。

 

「や、やだな~。何を言っているんですか天燈さん。隠していたんじゃなくて、先ほども言ったように蓄えがないから行きたくても行けないので黙っていただけですよ? 此処から境界壁までどれだけの距離があると思っているのですか?」

 

 冷や汗を隠して言い訳をするジンだが、問題児三人はそんなものは気にしない。

 

「・・・・・・そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

 

「毎日コミュニティを盛り上げようと頑張っているのに残念だわ。ぐすん」

 

 泣き真似をする裏で、ニコォリと物騒に笑う問題児達。

 

「あの~、聞いてます? あ、聞いてないですよね。・・・はあ、わかりました。僕もついていきますよ」

 

「お、随分物わかりがいいじゃねえか御チビ。それじゃ、さっそく向かうとするか」

 

 各隙のない悪意を前に、ジンは大人しく従う。それを皆が意外に思いつつも、問題児一同は東と北の今日界壁を目指す。

 

 リリに手紙を預けた後、十六夜、飛鳥、耀、天燈、ジンの五人は“ノーネーム”の居住区を出発し、二一〇五三八〇外門の前にある噴水広場まで来ていた。今朝方から賑わいを見せるペリドット通りの“六本傷”の旗印を掲げるカフェに入り、

 

「それで、北側まではどうやっていけばいいのかしら?」

 

 飛鳥はスカートからスラリと伸びた足を組み直し、ジンに問う。

 

 今日の彼女は以前黒ウサギから貰い、イオが仕立て直した真紅のドレススカートを着ている。黒い着物姿の天燈と並んでいるのを見ると、何やら微妙に変な感じがしたが、箱庭にはもっと突拍子もない姿をしているもの達もいるので、本人たちも違和感がなくなってきていた。

 

 飛鳥の隣で、耀が小首を傾げながら答える。

 

「んー・・・・・・でも北にあるっていうのなら、とにかく北に歩けばいいんじゃないかな?」

 

 無計画にも程がある。耀の提案を聞いた一同は思わず苦笑した。

 

「おいおい、とんでもない提案するなよ。俺はともかく、お前たちじゃそんなこと到底無理だぜ?」

 

 くつくつと笑いながら天燈が答える。

 

「よかった、天燈さんはちゃんとわかっていてくれたのですね。もしかしたら誰も北側の境界壁までの距離を知らないのではないかと・・・」

 

「なんだ、そんなに遠いのか?」

 

 ほっと安堵の息を吐いたジンに怪訝な表情で返す十六夜。他の二人も何も知らない様子なのを見て、痛そうに頭を抱えるジンを見かねて、天燈が軽く説明しようと立ち上がる。

 

「しょうがねえな。この俺様が簡単に教えてやるから、よく聞け~」

 

 にやにや笑いの天燈から全てを聞いた問題児たちはそのとんでもない現実に三者三様の反応を返したのだった。

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 天燈から聞いた話で、自分たちの力だけで目的地に行くのはとてつもなく不可能だったので、一同は駄目元のつもりでサウザンドアイズに来ていた。

 

「お帰り下さい」

 

 ついて早々に店前を竹箒で掃除していた割烹着姿の女性店員に門前払いを受けていた。どうも問題児達はこの女性店員に嫌われている節がある。

 

 飛鳥は髪を掻き上げ、口を尖らせて抗議する。

 

「そこそこ常連なのだし、もう少し愛想よくしてくれてもいいと思うのだけれど」

 

「何時も何時も換金しかしない者は、お客様ではなく取引相手というのです」

 

「あら、それもそうね。じゃあお邪魔します」

 

 あっさり納得。そのまま侵入。立ち塞がる女性店員。

 

 竹箒を片手に八重歯を剥きながら唸り、天燈達に叫ぶ。

 

「だからうちの店は! “ノーネーム”御断りです!」

 

「やっふぉおおおおおお! ようやく来おったかこぞうどもおおおおおおお!」

 

 嬉しそうな声を上げ、ズドォン! と地響きと土煙を舞いあがらせて派手に登場した白夜叉。

 

「ぶっ飛んで現れなきゃ気が済まねえのか、此処のオーナーは」

 

「まあまあ、別にいじゃないの十六夜君。面白いんだしさ」

 

 十六夜は自分の肩を叩く天燈の手を、若干ウザそうに払いのける。

 

 つれないねえとにやにや笑いのまま肩を竦めた天燈は、そのまま白夜叉に言う。

 

「とりあえず、こうして会うのは初めてなんで一応挨拶でも。俺は依桜天燈。イオのもう一つの姿といったところだ。よろしくな。で、招待者としてちゃんとあっちまで連れて行ってくれるんだよね?」

 

 質問ではなくすでに決定事項だとでも言うように告げる天燈。その顔を見た白夜叉は、

 

「・・・ふむ。お主がそうか」

 

「ん? なんか言ったかい?」

 

 小さく呟いた白夜叉。何を言ったのか聞きかえす天燈に白夜叉は何でもないというように軽く手を振って返す。

 

「気にするな。何でもない。招待者として条件次第ではそれぐらいしてやる。少し話したいことがあるからとりあえず中に入れ」

 

「楽しい話?」

 

「それはおんしら次第だな」

 

 意味深に話す白夜叉について一同は嬉々として暖簾をくぐった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

「本題の前に一つ聞く。フォレス・ガロの一件以降おんしらが魔王のトラブルを引き受けるとは真か?」

 

 五人は店内を通らず中庭から白夜叉の座敷に招かれた。

 

上座に立てかけられた屏風の前に座り、白夜叉は幼い顔に厳しい表情を浮かべ問う。

 

「その話なら、本当よ」

 

「ジンよ。それはコミュニティトップとしての方針と受け取っても良いか?」

 

「はい。僕たちのコミュニティの存在を広めるには、一番いい方法だと思いました」

 

 ジンの返答に、白夜叉は鋭い視線を返す。

 

「リスクは承知の上なのだな?」

 

「覚悟の上です。それにシンボルを取り戻そうにも、今の組織力では上層に行けません。それならおびき出して迎え撃った方が簡単です」

 

「無関係の魔王も呼び寄せるかもしれんのだぞ?」

 

 上座から身を乗り出し、更に切り込む白夜叉。

 

 その問いに、傍で控えていた十六夜と天燈が不敵な笑みで答える。

 

「それこそ大歓迎だ。倒した魔王を隷属させてより強力な魔王に挑む“打倒魔王”を掲げたコミュニティ」

 

「修羅神仏の集う箱庭でもこんな面白いコミュニティは他にないだろう?」

 

「・・・・・・ふむ」

 

 茶化して笑う十六夜だが、その瞳は相も変わらず笑っていない。この男は何も考えてないようだが、リスクを天秤にかけられる程度には、白夜叉も評価していた。

 

 それよりも問題は天燈の方だ。こちらも相も変わらずにやにや笑いだが、それが本当のものなのかどうかの判断が付かない。判断材料がないと言う事もあるが、それを踏まえたうえでも、何をしてもおかしくないというだけに、何をするのか予想しづらいのだ。

 

 白夜叉は三人の言い分を噛み砕く様に瞳を閉じる。

 

 しばし瞑想した後、口を開く。

 

「そこまで考えてのことならば、良いだろう。そろそろ本題に入ろう。その“打倒魔王”を掲げたコミュニティに、東のフロアマスターから正式な依頼したいことがある。よろしいかな、ジン殿?」

 

「はい。謹んで承ります」

 

 子供を愛でるような物言いから、組織の長として言い改める白夜叉に、ジンも佇まいを直して答える。その小さな成長に一瞬だけ軽く微笑みそうになるのを堪えて白夜叉は話を進める。

 

「さて、どこから話そうかのぉ・・・」

 

 煙管で紅塗りの灰吹きを軽く叩き、一息つく白夜叉。軽く遠い目をした後。思い出したように話し始める

 

「ああ、そうだ。北のフロアマスターの一角が世代交代するというのは知っておるかの?」

 

「え?」

 

「急病で引退だとか。此度の大祭は新たなフロアマスターである、火竜の誕生祭でな。五桁・五四五四五外門に本拠を構える、“サラマンドラ”のコミュニティ――――それが北のマスターの一角だ。ところでおんしらフロアマスターについてどれくらい知っておる?」

 

「私は知らないわ」

 

「私も全く知らない」

 

「面倒だから覚えてない」

 

「俺はそこそこ知ってる。要するに下層の秩序と成長を見守る連中だろ?」

 

 十六夜がそのあと軽く説明をし、全員がある程度理解したところでジンが話始める

 

「しかし、北は複数のマスター達が存在しています。それは複数の力ある種が混在した土地なので、それだけ治安も悪いですから」

 

 ジンは悲しみで目を伏せた。

 

「そうですか。“サラマンドラ”とは親交があったのですが、頭首が変わったとは知りませんでした。それで、今はどなたが頭首を? やはりサラ様か、マンドラ様が」

 

「いや、頭首はおんしと同い年のサンドラが火竜を襲名した」

 

「サ、サンドラが!? まってください! 彼女はまだ十一ですよ!?」

 

「あら、ジン君だって十一で私たちのリーダーじゃない」

 

「そうですけど・・・いえ、だけど、」

 

「なんだ? 御チビの恋人か?」

 

「違います! 失礼なことを言うのはやめてください」

 

 ヤハハと茶化す十六夜と飛鳥に怒鳴り返すジン。

 

 全く関心のない耀が続きを促す。

 

「それで? 私達に何をして欲しいの?」

 

「そう急かすな。実は今回の誕生祭なんだが、サンドラのお披露目も兼ねておる。しかし、サンドラがまだ幼いので共同で主催者をやることになったのだ」

 

「あら、それはおかしな話ね。北には複数のマスターがいるのなら北同士で共同にすればいい話じゃない?」

 

「うむ、まあそうなのだがの」

 

 急に歯切れが悪くなる白夜叉。

 言いにくそうにしている白夜叉に天燈が助け舟を出す。

 

「ま、そんな幼い権力者なんだから、良く思わない組織なんて当然あるだろうね。ありきたりな理由だとそんなところかね?」

 

「んー・・・・・・ま、そんなところだ」

 

 まさかそんな陳腐な話だとは思わなかった飛鳥の眼に見えるほどの強い怒りと、落胆の色が浮かぶ。

 

「・・・・・・そう。神仏の集う箱庭の長達でも、思考回路は人間並みなのね」

 

「そりゃ、そんなもんだろう。むしろ、そうでもなければこんな世界成り立たねえぞ? なあ、白夜叉?」

 

「うう、手厳しい。だが全くもってその通りだ。実は私に共同祭典の話を持ちかけてきたのも、事情があっての事なのだ」

 

 飛鳥の言葉と、にやにやと笑みを向ける天燈に申し訳なさそうな苦々しい顔で項垂れる白夜叉。

 

 重々しく口を開こうとした白夜叉を、耀が制す。

 

「ちょっと待って。その話、長くなる?」

 

「ん? そうだな。短くとも後、一時間はかかるかの?」

 

「ありゃりゃ、そりゃダメだ。ウサギちゃんに追いつかれるね」

 

 その言葉を聞き、問題児達とジンも気が付いた。

 

「白夜叉様、このまま」

 

「ジン君、黙りなさい!」

 

 そのまま引き留めてもらおうと口を開こうとしたのを飛鳥がギフトを使い阻止する。ジンは心の中で軽く舌打ちをした。

 

 その隙を逃さず十六夜と天燈の二人が白夜叉を促す。

 

「白夜叉! 今すぐ北に向かってくれ!」

 

「事情は後で話すし、何よりその方が面白いぜ? 俺達が保証する」

 

 その言葉を聞き、白夜叉は可々と交渉を上げて頷いた。

 

「そうか、面白いか。いやいや、それは大事だ! ジンには悪いが面白いなら仕方ないのぅ?」

 

 ジンは諦めたように静かに項垂れる。以前であればもっと必死に止めようとしていたはずだが、イオの影響か、こういった諦めの良さも身についてきていた。

 

 白夜叉がパンパンと柏手を打つ。

 

「―――ふむ。これで望み通り北側に着いたぞ」

 

「「「―――・・・・・・は?」」」

 

 大人しいジンを念のため縛り上げながら三人が素っ頓狂な声を上げる。それもそのはずだろう。

 

 北側までの980000kmというお馬鹿な距離を、今の僅かな時間で―――?

 

 ・・・・・・という疑問は一瞬で過ぎ去り、三人は期待を胸に外に走り出た。

 

 それを黙ってみていた天燈を疑問に思った白夜叉が声をかける。

 

「おんしは行かんのか?」

 

「ん? 別にいいさ。今のところはお祭りに興味はないし、俺としては少し危機痛いこともあるからね」

 

 意味深な表情を向ける天燈に、思い当たることのある白夜叉はなるほどと頷く。

 

「ま、俺の事は後でいいから、まずはあいつらの相手でもしてきてやってくれや。もう少ししたらウサギちゃんも来るだろうし。俺はここで待ってっからさ」

 

「うむ。了解した」

 

 そう言って天燈は、問題児達のもとに向かう白夜叉にひらひらと手を振って見送った。

 




少しずつ始まる話。いったいイオはどこに行ったのか。そして何をしているのかは、後々わかります。
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