問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
今回初めて天燈ちゃんが少しだけギフトを使いますので、気になっている方がいたとしたらやったね! という訳で、どうぞ
「見てください! こんなに大きな水樹の苗をもらいましたよ! これがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります! みんな大助かりです!」
ウッキャー♪ なんて奇声を上げながら水樹と呼ばれる苗に頬ずりをしながら抱きしめてクルクルと飛び回る。十六夜にコミュニティや箱庭の事情は分からないが彼女にはとても重要なものらしい。
「そうかいそうかい。喜びついでに一つ聞いてもいいか?」
「どうぞどうぞ♪」
「黒ウサギ、オマエ、なにか決定的なことを隠しているよな?」
「――――――!?」
ガルドの姿を見てからその気に食わない顔を見ていても面白くないと思った天燈は、努力の末に身につけた『思考分割』と、天燈の持っていたギフト、見たいものを見ることができるギフトを使って目の前のガルドたちの話を聞きながら、十六夜たちの事を観察していた。
(ふーん。あの十六夜っていう子も、黒ウサギも、なかなかやるもんだねえ)
ちなみに、黒ウサギが十六夜の事を見つけたところから見始めたので、ガルドの話など全く耳に入っていなかった。興味がなかったと言う事もあるのだが、だいたいの言おうとしていることは予想がついていたため、別に聞く必要もない。
十六夜の質問は意図的に黒ウサギが隠していたものであったため、表情には出さないが、黒ウサギの動揺は激しい。髪の色も見る見るうちに元の色に戻ってしまった。
何も言えずにいる黒ウサギに十六夜は容赦なく質問を繰りかえす。
「答えろよ。オマエはどうして俺たちを呼び出す必要があったんだ?」
「そ、それは・・・・・・前に言ったとおりです。ギフトを持つ十六夜さんたちにオモシロオカシク過ごしてもらおうと―――」
「本当にそうか?」
「――(ギクッ!?)」
愛想笑いを浮かべて半分嘘の説明を返す黒ウサギは、視線を鋭くして睨みつけてきた十六夜に言葉を止めてしまう。
十六夜は視線を外してから、自分の考えを語る。
「これは俺の勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームかなんかじゃねえのか?」
黒ウサギは耳をピーンと立ててだらだらと冷や汗を流している。もはや動揺を隠すことなどできていない。
(やっぱり。見かけによらず頭脳派みたいだね逆廻くんは。その割にさっきの僕のマジックのタネに気づいてなかったみたいだけど、それでもこれだけの情報でそこまで気づけるのは素直に感心するなぁ。ま、そもそも勝手に召喚しておいてこっちを試すようなことをするっている時点で気づいてもおかしくないんだけどね)
天燈は黒ウサギが体験版ギフトゲームを提案した時点で気づいていた。あの時の黒ウサギの態度、それ以前のこちらを観察していた視線だけで十六夜が考え出したことを導き出したのだ。
「・・・・・・(だらだら)」
「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ」
もはや隠すことはできないと、黒ウサギはあきらめたのだった。
とりあえず、水浸しになってしまった岸辺から離れて、森の中で落ち着けるところを探してだしてから話し始める。
「十六夜さんの仰るとおり、私たちのコミュニティは困窮に瀕しています」
「・・・・・・」
まじめな話をしているからか。十六夜も少し真面目に話を聞いている。
「先ほど話したコミュニティとは大小あれど一つの国のような存在です。ゆえに活動するうえで箱庭に名と旗印を申告しなければなりません」
「名と旗印? というと、国旗のようなものか」
「YES。その多くは領土の誇示に使われます。数年前まで私たちの旗印は東区画のいたるところでなびき、その輝かしい栄光を誇っておりました。ですがある日、私たちは敵に回してはいけないものに目を付けられました。そして―――」
一度そこで言葉を切り、黒ウサギは手にぎゅうっと力を込めて続ける。
「―――たった一夜にして壊滅させられたのです」
☆ ☆ ☆
一方それと同時期。噴水広場のカフェテラスでコミュニティの説明を聞いていた飛鳥と耀は、それぞれに出されたカップを片手に話を反復する。
「なるほどね。つまり“魔王”というのはこの世界で特権階級を振り回す神様などを指し、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として潰されたと言う事?」
「そうですレディ。神仏というのは古来、生意気な人間が大好きですから。愛しすぎた挙句に使い物にならなくなることはよくあることなんですよ」
ガルドは椅子の上で大きく手を広げて皮肉そうに笑う。
「名も、旗印も、主力陣のすべてを失い、残ったのは膨大な居住区画の土地だけ。今や名誉も誇りも失墜した名もなきコミュニティの一つでしかありません」
「・・・・・・」
何も言えないジンをよそに話は続く。
「そもそも考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます? 商売ですか? 主催者ですか? しかし名もなき組織など信用されません。ではギフトゲームの参加者ですか? ええ、それならば可能でしょう。では優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか?」
「そうね・・・・・・誰も加入したいとは思わないでしょう」
「そう。彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華に縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ。もっと言えば、彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりで殆ど活動していません。コミュニティの再建を掲げてはいますが、その実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもらうだけの寄生虫」
「・・・・・・っ」
「私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。“箱庭の貴族”と呼ばれる彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」
「・・・・・・そう、事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」
飛鳥は含みのある声で問う。ガルドもそれを察して笑う。
「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
怒りのあまりテーブルを叩いて講義するジンを、ガルドは獰猛な瞳で睨み返す。
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」
「そ・・・・・・それは」
「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか? その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら・・・・・・こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」
ガルドの言葉以上に、飛鳥たちに対する後ろめたさと申し訳なさが、ジンの中で濁りだし。それほどジンのコミュニティは崖っぷちなのだ。
(仁義、ねえ? あんたのどこにそんなものがあるんだか)
「・・・・・・で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
は? とジンとガルドは飛鳥の顔を窺う。
飛鳥は何事もなかったように紅茶を飲み干すと、耀と天燈に笑顔で話しかける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」
「あら。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
「あ、じゃあ僕も! 僕も友達二号に立候補するよ!」
飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。
耀はしばらく無言で考えた後、小さく笑って頷いた。
「うん。二人は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
『よかったな、お嬢・・・・・・お嬢に友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ』
「やった! こっちの世界で初めての友達ゲット! ねえねえ、今度から耀ちゃんって呼んでもいい?」
「う~ん。いいかな?」
「ありがと、耀ちゃん♪ あと、久藤さんも友達になってくれる?」
「えっ? 私も? ええ、喜んで」
「それじゃあ改めてよろしくね、耀ちゃん。飛鳥ちゃん。僕の事はそうだな、依桜《いざくら》の読みを変えて、イオって呼んでね。天燈だと女の子らしくないし」
「ええ、わかったわ。よろしくね、イオ」
「よろしく、イオ」
ガルドとジンを放って楽しそうに話を進める女子三人。ガルドは全く相手にされないことに顔をひきつらせ、それを取り繕うように大きく咳払いをして問う。
「失礼ですが、理由をお聞かせていただいても?」
「だから、間に合ってるのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけだから、どちらでも構わない。そうよね?」
「うん」
「僕としてはガルドさんみたいなピチピチタキシードよりも、ジン君みたいなかわいい男の子のほうがいいから最初から入るつもりなんてないしね」
「そして私、久遠飛鳥は―――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、この似非虎紳士」
「お・・・・・・お言葉ですが、レディ
「黙りなさい」
ガチン! とガルドは不自然な勢いで口を閉じられた。
本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、まったく声が出ない。
「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私の質問に答え続けなさい」
飛鳥の言葉に反応して、ガルドは椅子に罅が入る勢いで座る。
ガルドは完全にパニックに陥っていた。どういう手段かわからないが、手足の自由が完全に奪われていて抵抗さえできない。
その様子に驚いた猫耳の店員が急いで駆け寄る。
「お、お客さん!当店でもめ事は控えてくださ―――」
「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。多分、面白い話が聞けるはずよ」
首を傾げる店員を制して飛鳥は言葉を続ける。
「ねぇジン君。コミュニティそのものを賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」
「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、それはコミュニティそのものを賭けたかなりのレアケースです」
「そうよね。だからこそ魔王は恐れられている。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に続けることができたのかしら。教えてくださる?」
「あ、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。コレに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「まあ、そんなところでしょう。貴方のような小物らしい堅実な手です。けどそんな違法で吸収した組織が貴方の下で従順に働いてくれるのかしら?」
「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」
ピクリと飛鳥の片眉が動き。コミュニティに無関心な耀でさえ不快そうに目を細める。
「あっはっは、そんなんでよくもまあ仁義がどうだなんて言えたもんだねえ?」
場の空気を読まずに大声で笑う天燈。それに続けて飛鳥はさらに質問する。
「ますます外道ね。それで、その子供たちは何処に幽閉されているの?」
「もう殺した」
その場の空気が瞬時に凍りつく。
ジンも、店員も、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。天燈も、これにはさすがに空気を読んだのか、無表情で一人紅茶を飲む。
ただ一人、ガルドだけが命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。
「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食
「黙れ」
ガチン!! とガルドの口が先ほど以上の勢いで閉ざされた。
飛鳥の声は先ほど以上に凄味を増し、魂ごと鷲掴む用な勢いでガルドを締め付ける。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら・・・・・・ねえジン君?」
飛鳥の冷ややかな視線に慌てて否定する。
「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」
「そう? それは残念。―――ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるのかしら?」
「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが・・・・・・裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
「そう。なら仕方がないわ」
苛立たしげにパチンと指を鳴らす。それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は霧散し、体に自由が戻ったガルドはテーブルを勢いよく砕くと、
「こ・・・・・・この小娘ガァァァァァ!!」
雄叫びとともに曲を包むタキシードが膨張し弾け飛び、虎の姿へ変わった。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・・・俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ! その意味が
「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」
また勢いよく黙る。しかし今の怒りはそれだけでは止まらない。ガルドは丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かる。それに割って入るように腕を伸ばす耀を抑え、天燈が動いた。
「さっきから聞いてれば、雑魚のくせに粋がらないでほしいね。オマエ程度が僕の友達に怪我なんてさせられるはずがないでしょ?」
気づいたらガルドは地面に押し倒され、背中の上に天燈は座る。ただ座られているだけのはずなのに、なぜかガルドの体には力が入らない。それに気づいて目を向くガルド。
それもそのはず天燈はただ座っているのではなく、さり気なくその体制から動くために必要な筋肉を押さえつけて身動きをとれなくしているのだ。
飛鳥は楽しそうに笑って言う。
「さて、ガルドさん。私はあなたの上に誰がいようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」
その言葉にジンは大きく息を呑む。魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったが、自分達の目標を飛鳥に問われて我に返る。
「・・・・・・はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」
「そういうことだよ。だからあんたはおとなしく破滅すればいいの」
「く・・・・・・くそ・・・・・・!」
相手は小さな少女なのに、なぜ押しのけることすらできないのかわからず、ガルドは地に付した状態のまま。
飛鳥は機嫌を少し取り戻し、足先でガルドの顎を持ち上げて話を切り出す。
「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。―――そこで皆に提案なのだけれど」
飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。
飛鳥の言葉に頷いたジンや店員達は、首を傾げる。飛鳥は足先を話し、今度は女性らしい細長い美しい指先でガルドの顎を掴み、
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」
宣戦を布告したのだった。
まあ、天燈ちゃんのギフトではなく、天燈君の持っているギフトの方でした、というオチです。
どうやったら文字数を調整できるのだろうか……