問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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第七話 せっかくの試練なのに・・・

 魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度三人は息を呑む。

 

「水平に廻る太陽と・・・・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽とこの土地はオマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤・・・・・・!?」

 

「して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「・・・・・・っ」

 

 自信家の十六夜ですら即答できずに返事をためらう。

 

 そんな三人を見てイオは一人、その程度の覚悟しか持たずによくもまああんなことが言えたものだ、と思った。ちなみにもし自分だったなら、勝ち目がどうのは関係なく、即座に決闘を挑むだろう。自分から持ちかけた以上、それを取り下げることをイオはよしとしない。

 

 白夜叉がいかなるギフトを持つのか定かではないが、三人に勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪えきれず高らかと笑い飛ばした。プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

 

 一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく・・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・・・ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。満足そうに声を上げる白夜叉。

 

 一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろす。

 

「それではゲームに移ろうか。おんしたちにはあれの相手をしてもらおう」

 

 白夜叉が、自身の後ろを指さして告げる。その時、彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

 すると体長五メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く三人の元に現れた。

 

「あれは、グリフォン・・・・・・!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。ギフトゲームを代表する幻獣だ」

 

 白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「さて、肝心の試練だがの。このグリフォンで、おんしらの“力”“知恵”“勇気”を試させてもらおうかの」

 

すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。三人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          依桜 天燈

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ”印』

 

「あれ? 僕も参加させられるの?」

 

「なに、ついでじゃ。あまり気にせず楽しめばよい」

 

 それならばと白夜叉の言葉に納得する。どうせ自分の出番はないだろうし。

 

「私がやる」

 

 読み終わるや否やピシ! と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。比較的おとなしい彼女にしては珍しい。

 

『お、お嬢・・・・・・大丈夫か? なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「大丈夫、問題ない」

 

 耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。イオが吸血鬼の話を聞いた時と同じように。

 

 隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

 頷き、耀はグリフォンに駆け寄る。

 

 耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をぎらつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った。

 

 数メートルほどの距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

(・・・・・・凄い。本当に上半身が鷲で、下半身が獅子なんだ)

 

 鷲と獅子。猛禽類の王と、肉食獣の王。数多の動物と心を交わしてきた彼女だが、それはあくまで地球上の生物の話。

 

 幻獣と呼び称されるものと相対するのは、これが初めての経験。まずは慎重に話しかける。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

『!?』

 

 ビクンッ!! とグリフォンの肢体が跳ねた。その瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。彼女のギフトが幻獣にも有効である証だった。

 

「ほう・・・・・・あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

 白夜叉は感心したように扇を広げた。二種の王であるグリフォンの背に跨る方法は二つある。

 

 一つは、力比べや知恵比べで勝利する事。屈服させて背に跨る方法だ。

 

 二つ目は、その心を認められること。王であり誇り高い彼らに認められて跨る方法である。

 

 どの手法を選ぶにしても、言葉を交わすことができるなら有利だろう。耀は大きく息を吸い、一息に述べる。

 

「私を貴方の背に乗せ・・・・・誇りをかけて勝負しませんか?」

 

『・・・・・・何・・・・・・!?』

 

 グリフォンの瞳と声に闘志が宿る。気高い彼らにとって、『誇りを賭けろ』とは、最も効果的な挑発だ。耀は返事を待たずに、続ける。

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。・・・・・・どうかな?」

 

 耀は小首を傾げる。確かに、その条件ならば力と勇気の双方を試すことができる。

 

『お前の述べるとおり、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。―――だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』

 

「命を賭けます」

 

 即答だった。あまりに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がった。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!? 本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。・・・・・・それじゃ駄目かな?」

 

 耀の提案にますます慌てる飛鳥と黒ウサギ。それを白夜叉が厳しい声で制する。

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「そんな問題ではございません!! 同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

 

「大丈夫だよ」

 

 耀が振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いもなく、むしろ勝算ありと思わせるような表情だ。

 

 グリフォンはしばらく考えるしぐさを見せた後、背に乗るように促した。

 

『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』」

 

 耀は頷き、手綱を握って背に乗りこむ。が無いためやや不安定だが、耀は手綱を握り締めて獅子の胴体に跨る。鷲獅子の強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに囁く。

 

「始める前に一言だけ。・・・・・・私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

『―――そうか』

 

 グリフォンは苦笑してこそばゆいとばかりに翼を羽ばたかせる。前傾姿勢を取るや否や、大地を踏み抜くようにして薄命の空に飛び出した。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 衝撃で吹き付けられた風を、両腕で顔を庇うことで防ぐ。

 

 山脈へ遠ざかっていく姿を、残った五人は眺める。

 

 猛スピードでかけていくグリフォンを見て、飛鳥が心配そうに呟く。

 

「大丈夫かしら、春日部さん」

 

「さあな。だがあのスピードと山脈から吹き下ろす風・・・・・・体感温度はマイナス数十度にもなっているはずだ。―――それよりも気になるのは」

 

 なぜかそこで言葉を区切り、目線を少しだけ上に移す十六夜を見て、ほかの四人も目線を上げる。すると、そこには―――

 

「あっはっは! はやいはやーい! グリフォンってこんなに早く走れるんだ!」

 

 無邪気にはしゃぐイオの姿があった。

 

 空中に浮かび、グリフォンから少し離れた位置を離れることなくついていく、その姿を一同は呆然と見つめた。

 

「な、なぜあやつはあんなところにおるのだ?」

 

「さあな。それより、あの状況でも平気ではしゃいでることのほうが信じられないが」

 

「というより、あれって空を飛んでいるように見えるのだけれど、私の見間違いかしら?」

 

「い、いえ、黒ウサギにも飛んでいるように見えるので見間違いではないかと」

 

 耀が試練に臨んでいるというのに、そのはしゃいでいる姿のせいで皆の気が抜けてしまっていた。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 グリフォンの上をついて飛びながら、イオはその姿を観察し、感嘆の声を上げる。

 

「ふうん? グリフォンって、飛ぶのに翼は必要ないんだね。空を飛ぶんじゃなくて、空をかける、っていったほうが正しいんだ・・・・・・」

 

 夢がかなった感動で、上を飛ぶイオに気づかない耀も、強烈な圧力に苦しみながらも、感嘆の声を抑えられずに漏らした。

 

「凄い・・・・・・! 貴方は、空を踏みしめて走っている!!!」

 

 鷲獅子の巨体を支えるのは翼ではなく、旋風を操るギフト。

 

 その翼は彼らの生態系が、通常の進化系統樹から逸脱した種であることの証だった。

 

「力学を無視して空を駆ける、まさに“幻獣”っていう訳だね」

 

 グリフォンと耀はなおもイオの存在に気づくことなく試練を続ける。

 

『娘よ。もうすぐ山脈に差し掛かるが・・・・・・本当に良いのか?この速度で山脈に向かえば』

 

「うん。氷点下の風が更に冷たくなって、体感温度はマイナス数十度ってところかな」

 

 森林を越え、山脈を跨ぐ前に、グリフォンは少し速度を緩める。

 

 これはグリフォンの良心から出た最後通牒。耀の真っ直ぐな姿勢に思うところあっての言葉だろう。

 

 だが、その心配を耀は微かな笑顔と挑発で返した。

 

「だけど、それよりいいの? 貴方こそ本気で来ないと。本当に私が勝つよ?」

 

『・・・・・・よかろう。後悔するなよ娘!』

 

 次の刹那、大気が揺らいだ。今度は翼も用いて旋風を操る。

 

 遥か彼方にあったはずの山頂が瞬く間に近づき、衝撃は人間の身体など一瞬で拉げさせてしまうほどだが、耀は歯を食いしばって耐えていた。

 

 これだけの圧力、冷気。これらに耐えている耀の耐久力は少女を逸脱している。

 

(なるほど・・・・・・相応の奇跡を身に宿しているという事か・・・・・・!)

 

 グリフォンは苦笑を洩らす。それもそのはず。耀もまた、十六夜と同じく人類最高クラスのギフトを所持すると。

 

 そしてさらに彼は知らない。耀よりも驚くべき存在が自身の上空を飛んでいることに。

 

「うーん、さすがに少し寒いかなぁ。でもま、このぐらいの風ならまだ涼しいね」

 

 耀が必死なのに対し、イオは普段と全く変わらない態度で追随しているのだった。

 

 頂から急降下する際、速力は倍に等しいものにまで迫る。手心不要と悟るや否や、グリフォンは旋回を交えて耀を振るいかける。その動きに完全に同調するようにイオの体もついていく。まるで二人の体を何か見えない糸が繋いでいるかのような動きだった。

 

 鞍が無い獅子の背中は縋れるような無駄は無く、掴まるものは手綱だけになり、耀の下半身は空中に投げ出されるように泳ぐ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

 流石にもう軽口は叩けない。

 

「きゃー! こんな動きはジェットコースターでもないね!」

 

 だというのにイオは平気で軽口を叩く。

 

 耀は必死に手綱を握り、グリフォンは必死に振り落とそうと旋回を繰り返す。地平ギリギリまで急降下して大地と水平になるように振り回す。

 

 それが最後の山場だった。山脈からの冷風も途絶え、残るは純粋な距離のみ。

 

 勢いもそのままに、湖畔の中心まで疾走したグリフォン。耀の勝利が決定した瞬間。春耀の手から手綱が外れた。

 

『何!?』

 

「春日部さん!?」

 

 安堵を漏らす暇も称賛をかける暇もなく、助けに行こうとした黒ウサギの手を十六夜が掴む。

 

「は、離し―――」

 

「待て! まだ終わって―――」

 

 焦る黒ウサギと止める十六夜。

 

 しかし、決着がつき、慣性のまま打ち上げられたとき、耀の脳裏からは、完全に周囲の存在が消えていた。彼女の脳裏にあるのは只一つ、先ほどまで空を疾走していた感動だけが残っている。

 

(四肢で・・・・・・風を絡め、大気を踏みしめるように―――!)

 

 ふわっと、耀の身体が翻る。慣性を殺すような緩慢な動きはやがて彼女の落下速度を衰えさせ、遂には湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

 

「・・・・・・なっ」

 

 その場にいた全員が絶句した。

 

 先ほどまでそんな素振りを見せなかった耀が、湖畔の上で風を纏って浮いているのだ。ふわふわと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀に、呆れたように笑う十六夜が近づいた。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

 軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「・・・・・・違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか・・・・・・と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし? ・・・・・・まあ、実際に平気で耐えた奴がそこにいるんだが」

 

「いや~、割と楽しめたねえ。満足満足!」

 

 楽しそうににこにこと笑いながら、十六夜の隣に、召喚された時と同じように傘を使って降りてきたイオ。いったい何のことなのかわからない耀は、一人首を傾げるのだった。

 

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