He have gone to Gensokyo. 作:風峰 虹晴
にとりからベルトを貰った日の夜。俺は妖怪の森を警戒していた。極力俺から手を出すことはあまりしない。人間の天敵だからという理由で簡単に手をだすことはしない。しかし、一応動きは見守る。人里へと向かうことがあれば、それは誰か死ぬことがあるかもしれない。それを防ぐためには、そうするしかないのだ。しかし、最近『ヒトガタ』という妖怪の上位互換の個体が現れてきた。他の個体よりも身体能力が高く、戦闘能力も高い。何度も俺も戦ったが、中々強敵で霊夢達も苦しめられていた。強力な個体が現れれば、それだけ地形等に被害が出る確率が高くなる。だから、俺はそれを抑えるためにこのベルトをにとりと製作した。
「ん?」
夜なので割と暗く、見にくいが、何かが動いているのがわかった。全体を見るためにかなり高く飛んでいたが、滞空する高度を落とす。距離が遠くてわかりにくかったが、その光景が目に入った。妖怪が、子供を食べている。
「っ!!!」
俺はその場に向けて全速力で飛び始めた。食べられている子供以外にも、3人子供がいるようだった。なぜ、こんな夜に子供だけで外にいるのか……。確かに人里には妖怪という存在が認知されなくなっていた。博麗の巫女の役目も、妖怪絡みの事件を解決するものではなく、事件を起こす前に妖怪達を退治する役目に変わりつつある。しかし、安易に人里の外に出てはいけない。この風習だけは守られていたはずだ。人里は広い。なので人里内で生きていくのも十分可能だと思う。
「ッ!!やばいっ!!」
3人の子供の1人が、妖怪達に捕まった。他の2人はその状況に困惑して立ち止まっているが、どうやら、捕まっている子供が逃げるよう促し、嫌々逃げ出したようだ。よっしゃナイスプレーだ!俺は弱めの炎爆『ウルトラダイナマイト』を発動可能にして近くまで飛んでいき、発動した。
「グギァアアアアアアアッ!?」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
熱波で妖怪と子供が一緒に吹き飛ばされる。俺は全速力で空中の子供をキャッチする。先程捕まっていた男の子は、少しずつ目を開けると、驚いたように周りを確認し始める。
「大丈夫か?」
俺はそう言ってちゃんと立てるようにゆっくり地面に下ろした。すると、妖怪達は立ち上がる。まあ、そりゃ吹き飛ばすだけだからダメージはないか。……うわ、ヒトガタまでいるじゃん、こりゃいい。ヒトガタは妖怪達を率いるリーダーみたいな存在。倒せば近くの妖怪達戦意喪失するんだが……その前に倒してしまうのが大体なんだよなぁ……。とりあえず、この子を流さなきゃ。
「早く逃げろ。友達も先に言ってるぞ。」
「え、えっと、あなたはどうするんですか。」
おお、優しい子じゃないか。そんなことはともかく、早く逃げてもらわないと怪我をさせちゃうかもしれないから早く逃げてほしい。
「いいから、ほら。」
俺は、子供を少し押して逃げるように促す。これで、少なくとも少しの距離を取って俺の後ろには移動した。俺は妖怪達の方に向き直る。そして、今日試作段階からようやく完成にまで至った、『スルトベルト』を腰に装着する。すると、ベルト部分が伸びて俺の腰をガッチリロックする。
「初運転なんだ。お手柔らかにお願いするぜ。」
『Ready』
スルトベルトのボタン部分を押すと、無機質な電子音が聞こえる。これで準備は整った。すると、ヒトガタは嫌な予感を察したのか俺めがけて飛びかかって来た。
「いくぜ……変身!!」
『CHANGE!!FIRE!!FIRE!!』
電子音と共に俺の体を熱波とともにスーツが装着される。熱波でヒトガタは空中にいて防御を取れなかったのか地面に吹き飛ばされた。試験段階で使った時よりも、性能が上昇しているのがよくわかる。脳からの伝達速度も速くて、頭が冴える。体が上手く動く。妖怪達の細かな動作も、視力動作補正でよくわかる。俺は妖怪達にスーツに身に纏った右手の人差し指を向ける。少し失礼かもしれないが、この名前を借りるとしよう。
「俺の名前は……仮面ライダースルト!!冥土の土産に覚えていってくれよ!!」
俺はそう言い終えると、妖怪達を退治するために走り始める。スーツを守ってない時よりも、明らかに走る速度が速い。確か、100mを5.2秒の速度だったはず。
「グルルォォッ!」」
「オラッ!」
俺は妖怪の拳を最小限の動きで右に回避して右手で拳を握って胸部分を試しに1/2ぐらいの力で殴ってみる。すると、妖怪は大きく後ろに吹き飛び、殴った部分にはパンチの形の火傷跡ができていた。その妖怪へのトドメとして、全速力でダッシュする。妖怪も嫌な予感を察したのか、迎撃しようとして左脚を動かす。妖怪の蹴りは虚しくも空を切り、替わりに全速力で走った速度を乗せて思いっきり左足を妖怪の腹に命中した。そのまま妖怪は灰になってしまった。
「ギィィイィッ!!」
「あぶねっ!!」
俺は左に全力で回転する。元いた場所には、ヒトガタが攻撃行動を終了していた。強烈な殺気放つなこいつ……。まあ、戦いの場だとそれは命取りになる。今みたいに、気配を悟られて攻撃を躱されることだって多くあるはずだ。多分、妖怪達は気配を隠す必要がなかったんだろうな。そりゃ、力であいてを殺していたんだから、隠す必要はないか。
「お返しだっ!」
俺は両手で1発ずつ攻撃直後の隙にパンチを叩き込み、左脚で蹴りを入れる。ヒトガタは後ろに衝撃で後退した。
「ふっ!」
俺はそのまま体を捻って後ろに左脚で回し蹴りを繰り出す。すると、予想通り後ろには妖怪がいて、右方向に吹き飛んでいった。
「グャアァァァァ!!」
吹き飛ばされた妖怪の後ろからも妖怪が現れ、俺に右腕を叩きつけてきた。俺はそれを受け止めて右腕をしっかりと掴んで地面に叩きつけた。そのまま俺は空中に放り投げ、左脚で妖怪を妖怪に向けてダイレクトシュートする。
『ギャアァァァァァァ!!』
妖怪2体は衝突して地面に倒れこみ、そのまま動かなくなってしまった。これで、取り巻きの妖怪はいなくなった。残りはヒトガタのみ。
「ギィィィイイィヤァァアァ!!」
ヒトガタは俺に向かって取り巻きとは違って更に速く俺に飛びかかってきた。俺はそれを右に移動して躱しつつ、背中に右脚で蹴りをいれた。そのままヒトガタは地面に倒れる。ヒトガタが起き上がる間に俺はヒトガタとの距離を詰める。
「ギィイッ!」
「はぁぁっ!」
ヒトガタは声を上げながら右、左の順番でパンチを繰り出すが、俺はそれを読んで受け止め、代わりに左、右の順番で胸を殴る。ヒトガタは後ろに交代しつつも攻撃の意思を見せ、左脚で俺に蹴りかかってきた。俺はそれを右手で俺の右側に流しつつ、左足で顔を蹴り上げた。
「ギィイィィッ……!」
ヒトガタは頭を蹴り上げられたことにより怯み、俺に対して明らかな隙を見せた。このチャンスを俺は逃さない。俺はベルトのボタンを押した。
『Chance!』
「これでトドメだ!!フィニッシュ!!」
『FINISH!!FINAL ATAK!!!』
電子音が響くと、両足に対する鼓動のようなラインのエネルギーの流れがだんだん早くなり、その鼓動は全て繋がる。俺はその瞬間大きく跳躍する。そして、空中で一回転し、一回転した勢いのまま、両脚で2連続の踵落としを繰り出す。俺はヒトガタの後ろに着地する。
「ギィイィィイィ……。」
俺はしっかりと立って後ろを向いてヒトガタを見る。ヒトガタは断末魔を上げて俺の方向を向こうとする。しかし、俺のことをしっかりと見る前に、その体は攻撃により熱にやり、灰になってしまった。
俺はベルトのロックを解除して腰から外す。すると、スーツは粒子になって消えてしまう。元々男の子がいた方向を見る。どうやら俺の言った通りちゃんと逃げたようで、もうそこにはいなかった。
「……さて、人里に向かいますかね……。」
俺は飛行を開始して、人里の方にゆっくりと飛行を開始した。明日の昼になったら、今回の戦闘をにとりに教えないとな……。
♦︎
俺はミツルとカオルに比べて、遅れて帰ってきた。あの男の人はどうなったんだろ……。あの人も無事なのかな……。人里の出入り口の門に着くと、ミツルとカオルは既に大人の人に保護されていた。
「あっ!!ヤマト君が帰ってきた!!」
「ほんとだ!!ヤマトーー!!」
2人が俺に気付き、遠くから俺に声をかける。2人によって俺の存在が大人達に知られ、大人達のうちの2人が俺に駆け寄ってくる。それは、よく見るとうちの親だった。
「ヤマトー!!」
「ヤマト!!」
俺に近寄ってくると同時に、2人から頭に拳骨が振り下ろされた。久しぶりに食らった拳骨はめちゃくちゃ痛かった。頭の骨が割れるだろ!!
「この馬鹿息子がっ……!!」
「心配したのよ!?」
拳骨を俺に食らわせた後、2人は俺を抱きしめた。苦しい。めっちゃ苦しい。っていうか痛い痛い!!ミシミシいってる!折れる折れるっ!!けど、俺は何故か嬉しかった。同時に凄く安心した。
「さて、何があったのか家で聞かせてもらおうじゃないか。」
「だから、家に帰ろうね。」
父さんと母さんは俺の両腕を片方ずつ持って、俺の足が地面から離れた状態で家に連れてかれた。俺は犯罪者か?
「君!」
俺の親が歩き出す前に、後ろから声をかけられた。その声を、俺はさっき聞いた。親に腕を離すように言うと渋々離してくれた。俺は男の人の方に走っていった。
「大丈夫だった?」
「は、はい!」
俺は今気づけば、男の人に丁寧に話していた。普段なら大人の人でも普通に話しているはずなのに。見た目は父さんよりも若くて、背は同じくらいで父さんより痩せてる。
「良かった。あ……お願いがあるんだけど……。」
「な、なんですか?」
男の人はかがんでいたけど、しゃがみこんで、俺に近づくように促す。俺はそれに従って近づくと、口を耳に近づけた。
「さっき俺が変身したの……秘密にしてくれないかな。そしたら、またお礼を渡すよ。」
「うん、わかりました!」
俺は返事をして親の方に向かった。姿が変わったときのあの姿はなんだろう。お礼とはなんだろう。そんな考えが俺の中にあった。けど、2人の秘密。それが俺をワクワクさせた。そんな考え中、俺はまた足を地面から離されて連れていかれた。嬉しくねえ。家に着いた後、眠る前に父さんと母さんに事を話した。ヤマトの提案で妖怪の森の噂を確かめに行こうとしたこと。こっそり4人で抜け出して、森に行ったこと。そして、噂の通り妖怪が現れて……タケシが食われたこと。それを話した。しかし、俺はちゃんとあの男の人が妖怪と戦ったことは話さず、捕まったときに助けてくれて、流してくれたとだけ言った。あながち間違いじゃないから問題はないと思う。親は納得して、またお礼を言おうという結論を出して、俺は眠ることになった。
次の日、俺はドキドキしてしっかり寝ることは出来なかった。俺は朝食を食べながら、親から今日タケシの墓が、今日、仮だけどできるという話を聞いた。俺は朝食を食べ終わって、いつも4人で集まっている場所に行った。寺子屋は特別に今日は休みになっていた。
「ヤマト。」
「ヤマト君。」
少ししたら、ミツルとカオルが同時にやって来た。2人とも俺と同じ気持ちだそうだ。ここに集まっているのが、3人ではなく、いつもの4人だったら、良かったな……と、俺はそう思った。
「今日の昼に、タケシの墓が完成するらしい。」
「……そうなんだ。」
ミツルの情報に、俺は少し俯きながら答えた。正直なところ、自業自得だと気持ちも多少はある。けど、それ以上にタケシがいないことの悲しみの気持ちがあった。
「今日、私の家族と一緒に御墓参りにお昼行くんだけど、2人はどうなの?」
「俺ん家もおんなじだぜ。」
「俺も。」
朝食を食べているときにその話は出た。いつできるのかは知らなかったが、できたら一緒にお墓参りに行こうと親2人に言われた。
「んじゃ、昼前にここで集合な。」
「ああ……。」
「うん、いいよ……。」
俺の出した提案に、2人は少し暗めの声で答えた。理由はわかる。昨日のお昼みたいだからだ。でも、あの時はタケシが対案を出した。でも、そのタケシはここにはいない。だから、暗くなっているんだと思う。俺だって心の中は暗い気持ちだ。けど、ここで暗くなったら、タケシにも、助けてくれた男の人にも悪い。だから、
「2人とも暗いぞ!なんなら昼まで遊ぼうぜ!」
『え……?』
「ほら、向こうで遊ぼうぜ!」
俺は2人の手を引っ張る。さっきいたのは何か話すとき、そして、俺達はいつも何か体を動かして楽しむときに集まる広場に来た。俺は2人を無理矢理遊びに参加させた。鬼ごっこや、缶蹴り、かくれんぼなどをして遊んだ。最初は暗かった2人の顔、もしかしたら、俺も含む3人の顔は、明るくなった。
「じゃあ、また後でな!」
「おう!」
「また後でね〜!」
俺達は一旦、家に帰ることにした。俺がかけた言葉に対する反応は、少なくとも明るくなっていた。俺は家に帰り、親と一緒に昼飯を食べた。食べ終わったら、お墓参りに行こう。そう言われた。どうやら、もう完成しているみたいだ。俺は早々に昼飯を食べ終わって、部屋に戻った。今はまだ2人とも明るい。けど、タケシは俺達の中で一番楽しいやつだった。だから、その代わりをする役割を、誰かが代わりにやらなきゃいけない。
「ヤマト、行くわよ。」
「うん、わかった。」
俺は母さんに呼ばれて部屋を出る。この際押し付けてなんかできない。俺ができることをやろう。俺達は親子で外に出た。外は雨が降っていた。そういえば、朝も曇ってたな。
「ヤマト、自分の傘はちゃんと自分で持てよ。」
「わかってるよ。」
俺は父さんにそう言われて傘を持つ。そして、移動を開始した。お墓に行く前に、まずはいつも集まっている場所に向かった。すると、そこには、もうミツルとカオルの家族がいた。親達は互いに挨拶をし合っていた。それが終わると、俺達はタケシの墓に向かった。墓のある場所は、人気のない場所だった。いつもなら人が1人もいないことは不思議ではない。けど、俺達以外にも2人、墓の前にいる人がいた。それは、寺子屋の慧音先生、もう1人は、俺を助けてくれた男の人だった。慧音先生と男の人は、俺達に気付き、俺達の方を見る。
『こんにちは。』
俺とミツルとカオルの3人は、目の前の2人に同時に挨拶をしていた。
「こんにちは。」
「こんにちは、3人とも。」
俺達の挨拶に対して、2人も俺達に挨拶する。それに続いて、親達も挨拶していく。俺達そんな親よりも先に、タケシの墓の前に行った。この墓の下にはタケシはいない。だって、タケシは俺達の目の前で妖怪達に食べられた。魂ってやつは、ここで眠ってるはずなんだ。だから、俺は目の前の墓に、心の中でこう言った。
(タケシ、今までありがとな。)
俺はそう言って立ち上がる。すると、後ろから肩を叩かれた。俺の後ろには、いつの間にか男の人がいて、慧音先生や、親達も既にいた。
「ちょっといい?」
「うん。」
俺は男の人に呼ばれて、少しお墓から離れた。少し離れたところに行くと、男の人は俺の方を向いてしゃがんだ。
「あのこと、誰かに話したかい?」
俺はその質問に首を横に振った。約束は約束。親にも事情を話した時には、目の前の男の人のことは話したが、あのことは話してない。すると、男の人は顔の表情を緩くした。
「よし、じゃあこれを君にあげる。約束のお礼だよ。」
男の人は服のポケットから、赤い宝石を渡された。とても綺麗で、とても高そうなものだった。
「なんで僕に渡すんですか?」
「これは君の勇気の証だよ。いいかい?誰かが悪いことをしていたり、されてたりしたら、自分でできることはしっかりやるんだぞ。友達がイジメられてて、自分で止めることができなかったら、大人に言えばいい。でも、知らんぷりはしたらダメだからな。」
「うん、わかった。」
「じゃあ、俺は行くよ。」
男の人は立ち上がって、どこかに行こうとする。そういえば、俺も聞きたいことがある。
「ちょっと待ってください。」
俺が男の人にそう言うと、男の人は立ち止まって俺の方を向く。
「名前を教えてください。」
男の人は、少し笑って答えた。
「いいよ。俺の名前は、焔 炎火だ。何かあったら、俺にも言っていいからな。」
男の人は、そう言って、どこかに行ってしまった。俺はそれを数秒間見た後、みんなの元へと戻った。タケシはいない。だから、俺が明るいあいつの代わりになってやる。勇気を振り絞ってな。
久しぶりに長く書くことができて嬉しい