しばらくは響と友奈たち中心です。
時系列は「鷲尾須美は勇者である」の少し前です。
第1章1話 始まりと出会い
四国、讃州市のとある一軒家。そこにある一室にて一人の少女、栗色の雛を想わせる独特の髪型をした『立花響』という名の少女が目を覚ます。
まだ完全に覚醒しきっていない中で彼女はここまでの間に起きたことを思い出していた。
「本当に……転生したんだ」
先の空間にて神樹に言われたこと、今だに完璧には信じきれなかったことだが、こうして自らに起きたことを理解していくうちに、紛れもない真実だと響は確信した。
「アレ? 私って、こんなに……いや、本当にちっちゃくなってる!?」
ふと、窓に反射して映った自分の姿に驚く。それもそのはずだ、転生前の響は自ら曰く麗しい女子高生であった。しかし今こうして映る自分の姿はそれとは比べようがないほどに幼い外見であったのだ。
そういえば、ベッドから起き上がったとき、妙に視線が低く感じたようなと、起きてすぐに感じた違和感を響は思い出す。
「これじゃ私、小学生だよ……」
こう言ってはなんだが、今の響の年齢はまごう事なき小学生である。
響が自分自身の姿に若干落胆していると、突如響の部屋の中で電信音が響き渡った。音がした方向に目をやると、あの不思議な空間で神樹から渡されたものと、寸分違わぬデザインのスマートフォンが置かれていた。
「わわっ!?」
突然の事で響は驚き尻もちをついてしまう。
「響~起きてるの? それに何、今の音?」
あまりにも大きな音だったのか、下の階にいたであろう母親の声が聞こえて来た。そのことで響はハッとなる。
(そうか……この世界にも、私の家族がいるんだ……)
「ううん、大丈夫だよ~携帯のアラームが鳴って驚いてちょっと尻もち付いちゃっただけだから!」
「もう、気を付けなさいよね響。ただでさえ貴方はそそっかしいんだから」
「う……うん」
(こっちの私も結構そそっかしいんだ……まあ、私だから当然なんだけど)
母親からの指摘の声に苦笑いを浮かべる響。
「起きているのなら早く下りて、朝ごはん食べちゃいなさい。今日はお隣の結城さんのお家に、引っ越しの挨拶に行くんだから」
それだけ告げると母親はどうやら台所に向かったらしい。
響はそれを確認すると、すぐさまスマホを手に取り画面を確認する。
スマホには、恐らく同じように転生したであろう親友の未来からメールが入っていた。
【立花響様
この端末を起動されたということは、転生はうまくいったという事ですね。先程未来さま、翼さま、クリス様の端末も起動なされたのを確認しました。現在、この御三方はこの世界のある組織にかかわっております。連絡は双方で取れるよう配慮いたしますので、何かあった際はご活用ください。
尚、転生なされた際にお体が小さくなられておられることにお気づきでしょうが、それはこれから出会う方々の年齢に合わせた形の処置でございます。響様はじめ、こちらの世界に転生をなされた方々にはそれぞれにお役目を与えております。
響さまがたは先の世界にて『シンフォギア』なる力を使っておられ、その力はこちらでも使えるよう配慮いたしました。ですがまだその力を整備するための設備等は構築できておりませんので、扱いには十分注意してください】
メールは神樹からであった。神樹からのメッセージの内容に再び驚く響。ふとスマホの置いてあった机の上を見ると、見知った紅色の結晶状のペンダントが置かれていた。
「この世界でもシンフォギアを使えるんだ……」
響は元の世界で使っていたシンフォギア『ガングニール』を手に取ると再びスマホのメッセージを確認する。
【 響さまがお役目に付くまでにはまだかなりの期間がありますが、その間にどのような事態が引き起こされるかは、私にも断言することはできません。よって響様にも事が起きるまで、あるお役目を担っていただきたいのです。
それは、今響さまがおられるところ。これから響さまがお会いになる女の子を、来るべき時まで守り抜いてほしいのです。
重ねてお伝えいたしますが、どうかあなた方の新たなる人生に、幸有らんことを】
響はメッセージを読み終わると、早速スマホの中にある情報に目を通した。
スマホの中には、この世界での自分の経歴やこの世界の成り立ちなどが事細かに記されていた。響は早速スマホの中にあった親友、未来へと確認の電話をかける。
「もしもし、未来?」
《響!? てことは響も無事転生で来たんだね》
未来はすぐに電話に出てくれた。さすがは親友だと響は関心する。
「うん、無事出来たよ。それで、未来は今どこにいるの?」
《ここから少し離れた街にいるよ。車で1時間くらいかかるから、中々会えないんだけどね。後、翼さんとクリスからも連絡があったよ。2人は今この世界で神樹様を祀ってる組織に関わってて、そこで色々お役目を果たしているんだって。私も神樹様の巫女って事でお役目についてて、今は自由に会いに行くことは出来そうにないんだ》
「え!? 未来が巫女さん!?」
《うん……ほら、私も元の世界で神の力の器になれるって言われてたでしょ?神樹様が言うにはそれが影響してるんだろうって。私の方にはシンフォギアがなかったから、一緒に戦うことはできないみたいだけど……》
少しだけ未来の声に影が差したのが感じ取れた。しかし、響としては未来が戦場のような危ないところに来ることがないとわかり少しだけ安堵している。
「そっか、未来も翼さんもクリスちゃんも結構大変だね」
《うん、だからごめんね響、しばらくは一人で何とかしてね。何かあったら互いに連絡を取ろう。あ、もう行かないと。それじゃまたね響》
「うん! またね未来、頑張って」
電話を終えると丁度母親から早く起きて朝ご飯を食べなさいと催促が来た。お腹も減っていたので響は手早く寝間着から私服に着替え1階へと降りていく。
「ごめんなさいお母さん! 朝ごはんちゃちゃっと食べちゃ……」
「もう遅いわよ響。起きてるなら早くしなさいね」
「まあまあ母さん、響にとってはせっかくの御休みなんだから」
「そうだよ、ほら響、ご飯をお食べ」
「貴方とお母さんは響に甘いのよ! この子、普段からそそっかしいんだから……て、どうしたの響?」
「え?」
この世界での自分の家族の姿を見て、一瞬言葉を失い立ち尽くしてしまう。それを気にした母親から声を掛けられ咄嗟に響は我に返った。
「な……何でもないよ! あ~お腹すいたなぁ~朝ごはん速く食べないと!」
(ここまでやるなんて……)
響が言葉を失い立ち尽くしてしまったのには理由があった。
響と共にいま朝食を摂る響の両親ともう1人、響の祖母。彼らの姿は元々響がいた世界の両親、祖母と全くと言っていいほど瓜二つであったのだ。
家族と一緒に朝食を摂り始める響はふと元居た世界の事を思い出してしまった。
(最後にお母さんやお父さん、お祖母ちゃんと会ったのって何時だったんだろう……アレからずっと戦いだったから……きっと、すごく心配させて、悲しませちゃったんだろうな……)
朝食を済ませると早速響たち、立花一家はお隣の結城一家に挨拶に向かった。
「どうも、先日引っ越してきた立花です」
「結城です、ようこそこの町へ」
響の父親がお隣の結城家のご主人に引っ越しの挨拶を行う。結城家のご主人も同じように挨拶を返した。
結城家のご主人は武道の有段者らしく、その体はなかなか鍛えられた筋肉質でどことなく響がもとの世界で戦い方などを師事していた『風鳴弦十郎』を彷彿とさせた。
実際、結構豪放な感じの人物のようである。
「立ち話もなんですし、どうぞ中へお入りください」
結城家のご主人に促される形で響たちは結城家へと入っていく。
「お父さん、来たよ~。あ、こんにちは!」
居間に通されしばらくすると一人の女の子がやってきた。
「やあ友奈、こちらお隣に引っ越してきた立花さんだ」
結城家のご主人はそう居間にやってきた女の子に告げ自分の隣に招き座らせた。
「立花です、娘さんですか?」
「ええ、丁度響ちゃんと同い年ですかね」
「そうなんですか、ほら響も挨拶」
「あ、うん! 立花響です」
「私、結城友奈。よろしくね響ちゃん」
響がやってきた友奈と呼ばれた女の子に挨拶をすると、相手の女の子も、まるで天真爛漫を絵にかいたような笑顔で響に挨拶を返した。
それからしばらくは響も友奈も2人とも静かに両親の話を傍で聞いていた。話の内容はどちらも子供である友奈や響にはさほど重要なものと呼べない世間話であったが、どちらも親の事を考え静かに聞いていた。
しかし、こういった時間はさすがに子供に身には退屈でもある。
「そうだ響、せっかくだし友奈ちゃんにこの町を案内してもらったらどうだ?」
「え!?」
「ああ、それが良い! 友奈、響ちゃんにこの町の事を紹介してあげなさい。何も大人の退屈な世間話なんかに付き合う必要はないんだ」
「良いの!?」
それを察したのか、響と友奈の父親はそう響、友奈の2人に告げた。正直両方の父親の指摘通り、響も友奈も流石に暇を持て余していたところなので、この両家の父親の言葉はありがたい限りであった。
「それじゃ、響ちゃんとちょっとお出かけしてくるね。響ちゃん、行こうか」
「うん! お父さんありがとうね」
響、友奈両方の父親から許可をもらい、響と友奈は一緒に出かけることとなった。そんな2人の姿を立花、結城家両方の親たちは微笑ましそうに見送るのだった。
お互いの両親から許可をもらい、友奈と響は今街の商店街にやってきていた。
「ここが商店街だよ。私はこの街中の雰囲気が大好きなんだ」
友奈に案内される形で響も商店街を散策していく。元々いた世界でも響たちのいたリディアン近くにはこのような商店街が広がっていたのだが、そちらはかなりの近代化がなされ、町中の至る所に電子掲示板などが置かれていた。最も響の実家のある地域は、この讃州市にどこか近い雰囲気であったが、そちらはあまりいい思い出はなかった。
「どう響ちゃん?」
「あ、うん、色々わかりやすく教えてくれてありがとうね。でも結構友奈ちゃん詳しいね」
「えへへ、結構友達と街に出たりとかしてるんだ」
響が最初に感じた友奈の印象は、年相応の天真爛漫さがあり、他人を放っておく事ができないといった感じの明るく元気で優しい女の子といったものであった。
響も本来は口数が多い、というか周りからやかましいと言われるほど元気な性格ではあるのだが、一方で元の世界で起きたとある事件の事もあってか、どこか歪な感じの内罰意識、救済意識のようなものを持っていた。
しかし、それを除けば年相応な快活さのある少女であり、友奈ともすぐに打ち解けられた。
友奈と響は町を散策しながら、お互いにいろいろなことを話した。
友奈からは町の紹介のほか、仲のいい友達の事や学校での事、そして家族との暮らしのことなど。
響も一番大切な親友の事や、憧れの先輩のこと、家族や友人(もちろん元の世界のことはぼかしながら)のことなどいろいろと友奈に語った。
「なんか、響ちゃん見たると、他人って気がしないなぁ」
「そうだね友奈ちゃん、私も同じこと考えてた」
そんなこんなで互いに楽しそうに話しながら案内は続く。
だがそんな2人の前を突如、何やら黒い塵のようなものが横切った。
「何? この灰みたいなの」
「ッ!?」
友奈は突然自分の前を舞った黒い灰のようなものに首をかしげるが、響はそれを見た瞬間、その表情が険しいものに変わった。
「ちょっと、響ちゃん!?」
次の瞬間、響は友奈に見向きもせず駆けだした。
(そんな、こんな時に、なんで!)
響は、先ほど自分と友奈の前を横切った黒い灰に心当たりがあった。
それは、響が元居た世界で、誰もが知る絶望。それが現れる前触れ。
しばらく商店街内を走り続けた響は、やっと先程舞った黒い灰の発生源を見つけた。
「そんな……」
響がそこで観たのは、既に真っ黒な唯の灰の塊となってしまった人々の無残な姿であった。
「やっぱり、これは……」
「響ちゃん!」
するとそこへ息を切らしながら友奈が追い付いて来た。
「一体どうしたの響ちゃん……て、何……これ……」
響も目の前に広がる凄惨な光景に息をのむ。
「友奈ちゃん……今すぐここから離れるんだ……」
響は、先ほどまで友奈が聞いていたのとはまるで違う、静かな、しかし鬼気迫るような感じの声色で友奈にそう言う。
「え? 響ちゃ……」
「早く!!」
響は友奈が答えるよりも先に彼女の手を取り、一目散にその場から逃げ出す。
だが、時すでに遅く先程の灰と化した人々の周辺から、無数の半透明な異形たちが地面から滲み出るように姿を現した。
「な……なんなのアレ!?」
「今は黙って走って!!」
響はその異形たちを確認すると、逃げるスピードを上げる。響はその異形たちに見覚えがあった。忘れるわけもない。それは響が元居た世界では、教科書で題材になるほど知れ渡った存在。その名は特異災害『ノイズ』。どこからともなく現れ、人々を物言わぬ炭素に換える災厄だ。
来た道を走りノイズたちとの距離を開く響と友奈の2人だが、突如ノイズたちは体を鏃状に換え、2人に向かって突進してきた。
響は友奈を抱き寄せると路地の方へと飛びそれを躱す。
そして今度はその路地をまっすぐ友奈の手を引きながら走る。元の世界で分かっていたことだが、ノイズは一度狙った獲物を簡単に逃すような輩ではない。それこそ狙いを定めれば地の果てまでも追ってくる執拗さを併せ持っていた。事実、今もその異形たちは響と友奈を追ってきている。
元の世界でならすぐにシェルターへ友奈と共にはいるところだが、この世界にそんなものはなく事実こうして走っていてもそれへ繋がる入口すら見つけられない。
走りながら、響は転生前に神樹が言った言葉を思い出していた。
(やっぱり、この世界の人は誰もノイズを知らないんだ! でも、ここでギアを纏うわけにも……でもそれじゃ、それに――)
この世界で、ノイズが現れたことは西暦の時代からこれまで一度もなかった。故に街中のどこにも、元居た世界で当たり前にあったシェルターの入り口はなく、ノイズが現れているというのに、街のだれ一人逃げようとはしていない。
しかし、先ほど現れたノイズたちは、そんな当たり前の日常を送っていた人々にも、容赦なく襲い掛かる。
「なんだ、こいつらは……ッ!」
「うわぁああああ、体が、体がぁあああああ!!」
先程まで活気に満ち溢れていた商店街は、その瞬間、地獄に代わる。
ノイズたちは響を追いながらも、普段と変わらない日常を送っていた人々に容赦なく襲い掛かり、襲われた者たちはその全てが灰となって崩れ落ちる。
「人が……灰に……」
「くッ!」
その光景に友奈は絶句し響は苦虫を噛み潰したような顔になる。
しかし、戦う力を持たない今の少女たちには何もできない。生き残るために逃げる以外には。
だが、運命はそれよりも残酷であった。
「響ちゃん、前!」
「はッ!」
ノイズたちはあろうことか、響と友奈の前にまで現れた。
完全に囲まれ退路を失ってしまう響たち。
「響ちゃん……」
「大丈夫だよ友奈ちゃん……」
口ではそう友奈を励ます響だが、響自身どうすればこの状況を切り抜けられるか。妙案などなかった。
(今の私に、シンフォギアが使えたら……でも!)
『諦めてはなりません、響さま!』
全てをあきらめた。諦めようとしていたその時、突如響の頭の中に声のようなものが響き渡った。
その声に響は聞き覚えがあった。
(神樹!?)
『響さま、どうか勇気を、胸の歌を信じてください。そうすれば、それは響さんの思いに、きっと答えてくれます!! ですからどうか!』
それは転生前に聞いた。この世界の守り神である神樹の声。
「胸の歌……そうだ、まだ終わらない……胸の歌がある限り、諦めちゃダメなんだ。出来ること、私に出来ることが今、ここにあるのなら!!」
「響ちゃん……」
友奈は目をつむり響にしがみつく。
ノイズたちはついに響たちに向かって、その毒牙を剥いて来た。
♪喪失までのカウントダウン
その瞬間、周囲に煌びやかな歌が流れ渡る。それと同時に友奈が感じたのは温かな温もりであった。
「…………響ちゃん?」
恐る恐る友奈は目を開ける。するとそこに映ったのは、まるで陽の光のように、金色に輝く響と、自分たちに襲い掛かったはずの、先ほど見た人々のように真っ黒な灰へと姿を変じたノイズたちの姿。
「友奈ちゃん、大丈夫だよ。絶対にコイツ等に手出しはさせない。友奈ちゃんを傷つけたりなんかさせないから!」
その目は、先ほどまでとは違うもの、元の世界での彼女が持っていた戦士の眼差し。
「絶対に、守るから。だから――」
『生きるのをあきらめないで!!』
元の世界で、幾度となく自分を救い、支えたその言葉を友奈に聞かせ、響は今一度、自分たちの命を今まさに奪わんとする絶望達と向き合う。
そして響は、この世界で最初の戦いに、身を投じるのであった。
今回はここまで、次回はこの戦いの続きを少しと、少し時系列が飛びます。
例の子たちと響、友奈との出会いの回の予定です。