東京喰種 Another Rainy Blue(アナザー・レイニーブルー) 作:紗代
気が付くと自分は一人だった。
優しい両親は捜査官によって殺された。
正直自分は何かを傷つけるということそのものが苦手であり、両親が強かったし何より自分は幼かったので自分で狩りに行くことはなく、両親が取ってきたものを食べていた。なので両親がいなくなってからは必然的にこの暴力的な世界に身を置き、必死に生きてきた。
そうして暮らすうちに後の妻になる人に会った。彼女と結婚し、やがてケイタが生まれた。幸せだった。
それも長くは続かなかった。妻が喰種の縄張り争いに巻き込まれ命を落とした。その抗争のせいで捜査官たちが介入し、妻の遺体は回収され、弔うことさえできなかった。せめて妻の遺品である指輪を埋めようと墓を作ろうとしたところを捜査官に補足され、ケイタと二人で逃げ回った。
けど、今回の捜査官はなかなかに優秀らしく、ついに出遭ってしまった。クインケにより重傷を負わされ、なんとか路地まで逃げ込んだものの出血が酷くて動けない。ケイタが必死に呼びかけてくれるがいつものように頭を撫でてやることもできない。
もう、終わるのか――――――
「あの、大丈夫ですか?」
消えかけの意識の中で聞こえてきたのは心地の良い女性の声だった。
「!は」
目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。
「あ、おはようございます。」
「?!あ、あなたはっ!!」
「まだ動いちゃだめですよ。たぶんまだ塞がってませんし、ここには私とケイタ君とあなたしかいませんから、とりあえず安心してください。」
「・・・ここは、どこですか。あなたは何者ですか」
「ここは20区の私のマンションで、私はここに住んでいる者です。帰り際に血塗れのあなたとケイタくんを発見したので、捜査官に見られるとまずいしそのまま担いでここまで運んできたんです」
「・・・そうですか、ケイタは?」
「あの後泣き疲れたのかすぐに眠っちゃいまして、ほら。まだ寝ててください。」
「・・・はい」
不思議な少女だ、というのが第一印象だった。
自分たちを保護してくれた彼女の名前は氷室美月。都内の高校に通う高校生で「あんていく」という喫茶店でアルバイトをしているらしい。彼女からは人間と喰種両方の匂いがする。そのことを聞いたらどうやら元は人間で、最近事故に遭い喰種の友人の臓器を移植したことで半喰種になったのだという。辛くないのかと聞けば「辛くないわけではないが、友人がくれた命なので精一杯自分にできることをしたい」と言っていた。少し辛そうに儚く笑った彼女にとってその喰種の友人はかけがえのない人だったのだと、そう思った。
ミヅキさんは喰種に対して偏見がなかった。喰種と友人だったことから元々なのだろう。後、ぼろぼろで如何にもわけありっぽい自分たちを保護してこうして一緒に生活しているあたり、お人好しだ。自分も子持ちとはいえ男であることに変わりないのに。
ケイタも彼女に懐き、自分も前の穏やかな生活に戻ったようでこの環境を気に入っていた。それはきっと、ミヅキさんのおかげなのだろう。彼女の側にいると心休まるというか、安心するのだ。妻とは優しくてしっかりしているところ以外全く違うのに。たぶん助けてもらった恩もあると思うが、自分は彼女に惹かれているのだろう。
けどいつまでもここに世話になり続けているようではどうしようもないので、新しい生活をするためにもミヅキさんの働いている「あんていく」を紹介してもらい、喰い場を紹介してもらった。よし、これで後は捜査官の目を掻い潜りつつ新居に引っ越すだけ――――――そう、油断していた。
雨が酷い。今日は早めに上がれると言って出て行ったミヅキさんが心配になり、外の様子を見ようとベランダを開けた瞬間、悪寒がした。この気配は、あの時の白鳩だ!
「お父さん?」
「今すぐ、ここから出るぞ」
「な、なんで?お姉ちゃん帰って来てないよ?」
「ここの近くに、この前の白鳩が彷徨いてる。ここを嗅ぎ付けられたらミヅキさんにも迷惑がかかる。分かるな」
「!!」
この前のことを思い出したのか蒼白になりながら頷くケイタと世話になりっぱなしで何一つ返せないままのミヅキさんに申し訳なく思いながら、書置きを残してケイタと一緒に部屋を出た。
この間助けた親子のお父さんの方の視点です。独白なので名前は出していません。次回に主人公の方から出てくると思います。ちなみに薄々気付いてる人もいると思いますがケイタ君は主人公にとってのヒナミちゃんみたいな立ち位置になる予定。となるとこの人の末路は・・・。