東京喰種 Another Rainy Blue(アナザー・レイニーブルー) 作:紗代
173cm。
58kg。
O型。
足のサイズ26.5cm。
尾赫。
like:妻、ケイタ、家族団らん、ミヅキとケイタと過ごす時間、平穏。
見つからないように感覚を研ぎ澄まし急いで家に帰った。帰って来るまでケイタ君は終始無言で、お風呂から上がった後もずっと沈んだままだ。
シャワーの滴に温められているのに体の中は冷たいままで。今でも思い出すあのカサイさんが殺される光景。
微笑んで、彼は確かにこう言ったのだ。
『生きろ、幸せになれ』
それは間違いなくケイタ君に向けた父親としての尊い願いだった。
私は一体、二人に何をしてあげられたんだろう。結局、カサイさんは捜査官たちに殺されてしまった。
そこで改めて実感した。私達喰種の居場所は人間より更に狭く脆いものだということを。捜査官に狙われ、時には同じ喰種とも戦わなければ生きていけない。まさに弱肉強食の世界なのだと。
ダメだな私。今更実感するなんて。分かってたはずなのに、本当はずっと二人と暮らすこの当たり前みたいな毎日が続くと思って、全然解ってなかった。
「っ、う、ぅぅ」
――――――私は無力だ。
溢れる涙はシャワーの水と一緒に流れていく。私が泣いてはだめだ。本当に泣きたいのは目の前で父親を殺されたケイタ君だというのに。
こうしてはいられないと、シャワーを止めて風呂場から出る。とにかく今は私にできることをしなくては、カサイさんが命がけで守ったケイタ君が捜査官に見つからないようにここに匿っておく―――いや、ひょっとしたら目を付けられてる可能性も否定できないから、店長やみんなには悪いけどあんていくの2階を貸してもらえないだろうか。
着替えているとケイタ君がいるはずのリビングの方が静かな事に気付いた。物音一つどころか呼吸音さえしない。急いで着替えを済ますとリビングのドアを開ける。―――いない。
「!ケイタっ」
名前を呼んでも反応がない。玄関を見たら靴はあった。ならばとリビング以外の部屋もケイタ君が入れそうな場所も探したが見当たらない。
「一体どこに・・・!!」
リビングのベランダに続く大きな窓が、微かに開いていた。開けて確認するとベランダ用のサンダルが、ケイタ君の分だけ消えていた。まさかここから外に出たの!?ここは6階だから大丈夫だと思っていた。考えが甘かったのだ。普段肉を食べる以外で喰種だと認識することがなかったけど、そうだ、あの子は喰種なんだ。だから人間が出来ないような無茶も覚悟と方法さえあればできるんだった――――――!!
「急がないとっ」
私はフード付きのパーカーを着て念のためにマスクを首に着けると再び外に出た。
*****
外は、もう真っ暗で雨がさっきよりも酷くなっていて匂いというより気配を辿ると言った方がいいような状態だった。でも、それでも必死にケイタ君を探し続ける。失うのが怖い。カサイさんを失い、ケイタ君まで失ってしまうのが、怖かった。もうあの日々に戻れないのもわかってる。ケイタ君がもしかしたらもうあの無邪気な笑顔を向けてくれないかもしれない。でも、それがどうした。私は、私の守りたいものを守る。それさえできれば私は――――――
ケイタ君が無事であることを祈って走り続ける。―――きっと私の推測が正しければ、あの子はあそこにいるはずだから―――。
そんな私を遠目から見ている人影がいることを、私は見逃していた。
「何やってんだ、あいつ・・・」
走って走って、たどり着いたのは――――――カサイさんが殺された場所だった。そこに、雨に濡れるのも構わずひたすらに立ちすくんでいるケイタ君がいた。
「ケイタ君」
「!っ、お姉、ちゃん」
私に気付いて振り返るケイタ君はもうずぶ濡れで目元も泣いた跡で赤くなっていた。
「心配したよ、ほら、帰ろう」
「でも、お父さんがいない」
「それは・・・」
「・・・きっとお姉ちゃんも、いつかお父さんみたくなるんでしょ」
「!!」
私の言おうとしていた言葉の数々が、その言葉に消えた。
「僕、きっとまだあの人たちに狙われてるんでしょ?だから、僕と一緒にいればお姉ちゃんまでお父さんと一緒になっちゃう。・・・僕、もう一人でいいよ。だから、もう僕に構わないで」
「ダメ、帰ってきて。」
「でも・・・」
諦めたような、でも寂しそうな目で私を見るケイタ君を、私は抱きしめた。
「いいから、帰ろう。カサイさんだって最後に『生きろ、幸せになれ』って言ってたんだから。君は一人になっちゃダメ。カサイさんの分まで生きて幸せにならないと・・・君のお父さんが守ったものを無駄にしちゃいけない」
「・・・・・・うん。ねえお姉ちゃん」
「?」
「僕、生きてていいのかな」
震えながら、下を向いてケイタ君が呟いた言葉が雨の音を一瞬、遮って聞こえた。
「―――生きてていいんだよ、誰かに『生きて』って言われた。それだけで、充分生きる理由になるんだから」
「う゛ん゛」
そう、君は望まれてここに生きている。だから、そんな風に思う必要はないのだ。
腕の中に戻ってきた冷え切った体温に安心し――――――いや、まだだ!!
「ケイタ君・・・飛ぶよ」
「!」
私がケイタ君を抱えて後ろに飛ぶと鋭い金属音とともに私たちの元居た場所に刃が刺さっていた。
ケイタ君は顔を青くしてさっきより震えが酷くなる。
「あ・・・あ、あれ、お父さん、の」
「!」
私はフードを被り直してマスクを付け刃の飛んできた方向を睨みつける。
その刃が繋がるチェーンを手繰り寄せながらゆっくりこちらに向かってくるのは―――
「おやあ?避けちゃったの?これでも気配消してたんだけどなあ」
あの、カサイさんを殺した捜査官の片割れだった。
「しぶといなあ・・・いい加減死んでくれると俺も残業しなくて済むんだけ、ど!」
「!!」
捜査官の手元に戻った刃が数を四本に増やして再び私たちに向かって投げられる。
ケイタ君は私により強く抱き着き、私は防壁と迎撃を兼ねて四本の燐赫を展開した。迫りくる刃を相殺するように角度と距離を計算し、一つずつ壊していく。
最後の一本を砕き、そのまま先に壊し終わった三本で相手を拘束し投げ飛ばせば!!
「あらら・・・なんてな」
「!」
私の三本の赫子は相手の隠し持っていた五本目の刃のチェーンで縛られていた。
「く、この!」
私は解こうとするがなかなか解くことが出来ない。
「あー無理無理、君見たところ燐赫っしょ?こいつは尾赫だからそんな程度じゃ外れないよ」
「っ」
呆れたように言う捜査官。あれは尾赫のクインケなのか、赫子について聞いたときにケインケについても聞いたことを思い出した。
クインケは普通の武器や攻撃では歯が立たない喰種に対して人間が造り出した唯一の対抗することが出来る武器なのだと。その材料は喰種に唯一効く金属である「クインケ鋼」と喰種の「赫包」なのだと、だからクインケの入ったアタッシュケース・・・「箱持ち」の捜査官には気をつけるように言われて――――――待てよ、材料は
「っ、う゛、の!!」
「え、ちょ、マジで?!」
巻付いているチェーンを気にすることなく無理矢理赫子を持ち上げ相手に叩きつけた。轟音と地面の抉れが凄いがそんなものはどうだっていい。
『あ・・・あ、あれ、お父さん、の』
そういうことか、ケイタ君が言ったのはカサイさんを殺した捜査官のことじゃない。奴の使うこのクインケのことだったんだ。
「まさか拘束をものともしないとは、恐れ入った」
「・・・このクインケ、は」
「ああ、これ?今日仕留めたばっかりのそこにいる子の父親の赫包から作ってもらった急造品さ。ほんとはクインケってもっと時間をかけて作るもんなんだけど、そこはほら、折角だし父親で殺してあげた方がいいかなーっていう俺なりの気遣い、みたいな?」
「この、下種が!!」
赫子が動かし辛いまま相手に向かって振り回す。しかし相手は紙一重で回避した。
「っと、やべ。でも気付いてる?動けば動くほど、こいつは君の赫子をより絡め取っていってるってこと」
「!ちっ」
確かに言われた通り、私の赫子は最初に縛られたときよりもより多くのチェーンが絡まっているように見えるし、余計に動かし辛くなっている。
「の、せ!」
「ぐぅ、あ!」
残っていた一本で相手を弾こうとするが駄目だった。ダメージは与えられたようだがその場に立ったままだ。倒れてクインケを手放してくれるとよかったのに。
「ゲホ!・・・うわー聞いたわ」
「・・・っ」
「女性には優しく、ってよくいうけど・・・生憎喰種のメスにそんな人道持ち合わせちゃいないんでねぇ!!」
「!!」
新たな刃が投げられる。まだ隠し持ってたのかこいつ!!避けようにもケイタ君が動ける状態じゃない。私は覚悟してケイタ君をきつく抱きしめ身を固くした。
――――――しかし、身体を貫かれる感覚はいつまでたっても来なかった。
「っ・・・?」
恐る恐る目を開けるとそこには――――――
「チッ、これだから嫌なんだよ。半端ヤローは!!」
「!あ」
黒いマスクを付けたアヤト君が立っていた――――――。
戦闘描写苦手ですみません・・・。カサイさんのプロフィールはもう出す機会ないかもしれないと思って書きました。
戦闘描写苦手とか言って次も戦闘になると思います。日常が恋しいよ・・・