東京喰種 Another Rainy Blue(アナザー・レイニーブルー) 作:紗代
あの捜査官たちを喰らってからどのくらい経ったのだろう。体感時間は当てにできない。しかしここに時計はなく、そもそも部屋の主のいないうえこの部屋で唯一生きている私が拘束されている今、音を立てるようなものはいない。
レイルはあの後携帯が鳴って渋々それに出るとそのまま部屋を出て行ってまだ帰ってきていない。
逃げるなら今なのだろうか。
いや――――――それとも待つべきか。
マヒトへの態度からして相当執念深い奴なのだろうし、もし私が逃げ出せたとしても奴はどこまでもありとあらゆる手を使って私を
ならそうなる前に原因となる障害は摘んでしまおう。――――――ね マヒト。
パキン、と自然と指を鳴らす。――――――さあ、
思う存分 遊んであげるから。
そうして私が考えをまとめてそこまでしないうちに奴は戻ってきた。奴は身一つでほとんど毎回持って来ていた「お土産」はなかった。奴は私に向かってゆっくりと歩いてくる。
「悪いね、呼び出しが掛かってさ」
「・・・・・・」
「あの君に最後に食べさせた二人組の事を嗅ぎ付けた白鳩の連中がこっちに向かってきてるって報告があってね・・・急遽ここから退去することになった。もっと君を味わい尽くして愛で尽くしてから食べたかったんだけど・・・残念でならないよ」
「・・・・・・ひとつ、聞いていい?」
「なんだい?」
「ここに転がっている捜査官以外の遺体。全部喰種でしょう?みんな美しいけど人間にだって同じような美しさを持った人はいくらでもいる。なのになぜ喰種だけなの?」
「ああ、それはね壊れにくいっていうのもあるけど――――――やっぱり共喰いかな。」
けろりとしたなんてことないとでも言いたげな表情で言ってのける。
「共喰いをすることによって人間の肉よりはるかに多いRc細胞を取り込むことが出来るから、力が欲しいとかっていう奴の間で一時期流行してたんだ。でもすぐにそんな話も消えた。何故かって言うと―――その効果が誰にでも現れるわけじゃないからさ。いや、効果が全くないわけじゃあない。共喰いしてRc細胞が増えて活性化すればその分だけ赫子も強力になる。でも大抵はそこまでだ、次のステップに行けるのはほんの一握りもいない。赫者に成れるのはほぼいないんだ」
「かく、じゃ・・・?」
「そう、鎧のような全身を覆い尽くす赫子を纏っているその姿と強さから、「覚りし者」と掛けて『赫者』。でもそこまでなるのに共喰いを繰り返すのは至難の業でね・・・喰種は食えるけどすこぶるまずいから、なるかどうかも分からないようなものにそこまで費やしたくないってみんなやめていった。でも俺はちがう、長年続けてきた俺だからこそ分かる。もう少し、あともう少しだ!・・・だから君が現れた時、柄にもなく天啓だと思ったくらいだった」
「・・・・・・」
また、あの時のような捕食者の目になってレイルは私を見た。
「だから――――――俺は絶対に君を逃がさない」
「そう」
私はぎらついた言葉に短く応えると下を向いた。
「――――――そんなに
「!!」
拘束してある鎖を引きちぎって燐赫で刺し貫いた。
「なら食ってみなよ―――食えるならね」
そのまま投げ棄てるようにレイルを放り投げ、壁に激突する音とコンクリートの砕けた爆風を見届ける。
「テ、メェ・・・ふざけんな、ふざけんなぁ!!こ、ころっ、殺してやる!!」
パキンと指を鳴らしながら尾てい骨辺りから全身を覆うようにして展開される赫子、恐竜のようなそれは顔の口元を残して全てを覆っていく。ああ、この指を鳴らす仕草はこいつのものだったのか。
「尾赫の赫者か」
なら、甲赫と違って脆いだろうか。試しに羽赫を展開し結晶を飛ばす。
「Gaaaaaaaa!!」
「!ちっ」
しかし私の結晶は刺さることなくその外皮に弾かれ、長い尾に腹を深く切られた。
「・・・この程度じゃ通らない、か」
―――ならこういうのはどうだ?
私は甲赫を腕に纏わせるとレイルに向かっていき後ろに回ると――――――即座に背中の装甲を剥いで剥き出しになった肉を食った。
「Gi!Gyaaaaaaa!?Gaッ!!」
レイルが悲鳴を上げる中私は攻撃を避けつつ着地し、自分の口に付いた血を拭き取る。
「反吐が出そうなくらい不味い。まったく、正気を疑うよ――――――でもまあ」
私はすべての赫子を展開し構えた。
「あながち間違っちゃいないのかもね」
マヒトを喰らったことでマヒトの赫子を識った私だったが、あの捜査官の肉だけじゃきっと傷を治すのと燐赫を展開するくらいしかできなかっただろう。でも癪ではあるがこの男から聞いた「共喰い」を実行したところ赫子全種を展開できるようになったことからその迷信が確信に変わった。
「さあ、おいで」
「!!Gaアアアアアアア!!」
突進してくるそいつの腕を両腕で引きちぎった。悲鳴を上げているがそれがなんだというのだ。私はそのまま甲赫で切り燐赫で刺していく。そしてある程度ダメージを与えると羽赫で真上に跳躍し、結晶を飛ばして着地した。
煙たい中央に向かって歩を進めていくと――――――そこには鎧を全て剥ぎ取られ傷だらけになったレイルが倒れ伏していた。
「・・・・・・」
だからと言って休ませてやる気も楽にしてやる気もない。羽赫の結晶で背中を刺した。
「!あ゛、あぎぃいいい!?」
「まだ気絶しちゃだめ・・・ねえ、1000-7は?」
「・・・・・・」
私は両耳に入れられていた蛇とムカデをそれぞれ引きずり出し、レイルの背中に座る。
「言えないの?・・・悪い子ね」
ぽつりと呟き今度は腕を刺す。
「い゛ぃいいいあ゛」
「ね・・・1000-7は?」
「993・・・986・・・979・・・」
耳元で囁くように呼び掛ける。するとレイルは観念したのか数字を呟き始めた。
「そう、上手じゃない・・・いい子」
そういえば白鳩がこっちに向かってるんだったか。なら私もいつまでもここにいるわけにはいかないだろう。
「でもそうね、こんなことじゃ割に合わないし、何より私はあなたの命の責任なんて取りたくないから――――――あなたの赫包、もらうことにするよ」
「!っっ」
暴れ出したレイルを赫子で押さえつけ背中に跨り――――――
「私を喰おうとしたんだ。なら―――私に喰われても仕方ないよね?」
背中に食らいつき、赫包を捕食した。
赫包を捕食しある程度力が戻ったのを確認するとレイルから退き、扉に手をかけた。
「さようなら、あなたがどうなろうと知ったことじゃないけど・・・一生遭わないを祈ってるよ」
そして私が扉をくぐると重い扉は再び閉じた。
「・・・めがみ」
残された者の呟きは誰に届くでもなく空気に融けた。
走って、やっと外に出るとそこは雨が降り続け冷え込んでいた。
建物から抜けたはいいがやっぱりきつい。耳と鼻で喰種も人間もなるべく避けてきたのでなんとか戦闘にならずに済んでいるが、雨のせいか思ったより消耗が激しい。
朦朧とする意識の中で、アヤト君を見る。ごめんね連れ戻しに来て、私がやったことはただの余計なお世話だった。でもせめて幻想でもいいから私を振り払わないで――――――
伸ばした手は何かを掴んだ気がしたけど、それを確認する前に私の意識は途切れたのだった。
「・・・・・・無茶してんじゃねーよ、半端女」
レイルはミヅキの崇拝者にクラス(ジョブ?)チェンジした!
最後に掴んだのは本物のアヤト君の服の裾です。
ちょっと駆け足になったかもしれません。