東京喰種 Another Rainy Blue(アナザー・レイニーブルー) 作:紗代
朝6時半起床。私とケイタ君しかいないので食事はまだ必要ない。ケイタ君にはあんていくでもらってきた肉をあげてるし私に関してはおなかがすいていない。
むしろまだあの苦さと臭さと味覚が死滅しそうな拒否反応を思い出してなんとも言えなくなるくらいには新鮮且つおなかの膨れ具合が比例している。
自分で言っててなんだか意味の解らない文章になった気がするが、そこはそれとして流す。おいしいと思うものを最近口にしていないため、精神的にマヒしているのだ。
それから学校に行って、放課後はあんていくのバイトに精を出す。
それで。
それから。
ケイタ君が寝静まったのを確認してから着替えて家を出る。
なるべく高い建物に飛び乗って辺りを探る。地上よりこっちの方が広い範囲を探ることができるのだ。
……ぁ……うそ僕ザいーちゃ……おまィィ皿
……14区に、先輩キョウ──いぇアハぁ……
2区と3区のグー……それ特等に……食事中にするハまいどー
今の情報からすると2区と3区が狙い目だろうか。といっても特等とも聞こえたので油断はできないわけなのだけれど。いざとなったら赫包だけ摘出して食べるのは後回しにするべきかもしれない。
情報に従って2区と3区を回ってみた……のはいいのだが
「──まさか特等一人にここまでやられたのか?」
2区のあるビルの4階。そこには私以外の生命は存在していない。すべてが赤く染まった部屋。そこにある遺体はすべて喰種のものだ。一応遺体をそれぞれ見て回る。でも……
「赫包が取られていない」
捜査官がやったにしては妙だ。捜査官は殺したら赫包を摘出して新しいクインケの材料にするのが普通のはずなのに。それが単独で出来ない場合は専用の部隊がやってくるらしいのだが、ここに来るまでそういう動きは感知していない。
ここの区はCCGの本局がある1区に隣接しているので割りとすぐに来るものだと思うんだけど……とりあえず、食べてもいいのだろうか?判断に苦しむが見たところ変な匂いもしていない。
「──背に腹は変えられない、か」
諦めたように納得するために呟くと私は遺体に齧りついた。
───────
全て食べ終えて携帯の時間を確認するもののまだ時間は11時20分。微妙な時間帯だ。通りに出たらまだ人がいるだろう。今はマスクを付けているのでなるべくなら人前には出たくないし……虱潰しにどこかの食い場をあたって見るべきだろうか。人のテリトリーを荒らすのは嫌なんだけどなあ……
とにかくあんなに死体のあった部屋だ。私は食べることは出来ても特殊清掃の経験はない。なので部屋中にこびりついた血は洗い流せない。早々に引き上げるべきだろう。
そのまま階段を降りていくとまた血の匂いがする。おかしい、私が来た時は下にだれもいなかったはずだ。
────罠、だったのだろうか。
「──ああよかった。やっぱり戻ってきた」
聞こえてきたのは艶かしい女性の声だった。マスクで覆われていない方の目で黒いフードの中からその姿を確認する。彼女は私と同じくらいの背格好で白い品のあるワンピースを着ていた。それは長い黒髪と整った顔立ちの彼女にはとても似合うものではあった。しかし───
「さっきまでウッザイやつらの相手してたからサイアクだったのだけれど……いい匂いと懐かしい匂いがやってきたものだから待ってたの」
その獲物を期待するような眼光と舌舐めずりしたことで艶を増した妖艶な唇が、その清楚さからかけ離れさせていた。
「グール……」
「そう。でもそういうあなたは不思議な匂いね……とっても──美味しそう!」
そういうが早いか赫眼になると彼女の赫子が私に迫る。
「悪いけど―――そう簡単にやられるわけにもいかないんだ」
私も彼女の赫子を尾赫で薙ぎ払う。
もうこのスキニー履けないな……今度から専用の服でも作っておくべきかもしれない。
「その赫子……やっぱり見覚えがあると思ったらマヒトの」
「……」
「ふーん、死んだって噂、胡散臭いとは思ってたけどあながち間違いでもないのかしら?」
「マヒトの知り合い?」
「んー、まあ腐れ縁ねえ。まあもうどうでもいいしあいつの事なんか昔から知ったことじゃあないけど……なあに?あなたマヒトの恋人か何か?」
「いや――マヒトは私の友人で恩人さ」
「アハハ、何それ変なの。あの私より横暴なあいつが他人に肩入れするなんて!」
剣戟のような音と火花を散らしながら打ち合い続け話し続ける。
「そんなマヒトの匂いがあなたからしているだなんて!」
「っ」
マヒトの赫子並みのパワーだ。いやマヒトの赫子をまだ使いこなせているわけじゃないからなんとも言えないところではあるけど今は相性のおかげで何とかなっているようなものだ。
「(とっとと赫包食べて帰るんだった)」
容赦ない攻撃を捌きながらどうしたらこの場から離脱できるのか考える。
なるべく相手の命を優先しつつ、私も傷つかないで済む方法――――
ああそうか。ひとつだけあるかもしれない。ただここまで強い相手だと成功する確率もうんと低いけど。
でもこの状況で他の方法は思いつかなかった。だとしたら私はこの方法を試すしかない。
彼女の赫子は燐赫———燐赫は再生力と一撃の重さが長所ではあるが酷く脆い。
彼女の赫子の本数は四本―――ならそれらすべてを打ち砕いて―――
「な」
「(今だ)」
一瞬の隙を突いて――後ろから彼女の赫包を捕食することだった。
「ぎゃあぁあああああ!あ、あ゛あ゛!い゛いだいいぃいぃぃ!!」
彼女の先ほどまでの余裕は消え失せ、余りの痛みに絶叫し悶えている。
私としては赫子を一時的にでも引っ込めてもらえればそれでよかったので試したのだが、彼女の身悶え様から察するに赫包は私たち喰種にとっての弱点らしい。覚えておいて損はないだろう。
そう思いながら彼女から抉り取った赫包を食べ終えた。やっぱり酷く苦くて思わず吐き気が襲ってくるような味だった。
「くそ、ふざけんな!なんなのよあんた!共喰いとか頭いかれてるんじゃないの!?」
そういうものの、彼女は意識こそあるもののダメージで再生が思うようにいかないらしく油汗をかきながら息も絶え絶えに私を憎々し気に睨み付けてきた。
「いかれていて結構。それでも私は力がほしいの」
―――ああこんなやり取りをしていたら家に戻れなくなってしまう。赤の他人である彼女に私が言えることは何もないし、変に施せば彼女のプライドを傷つけかねない。
それだけ言うと私はその場を後にした。