東京喰種 Another Rainy Blue(アナザー・レイニーブルー) 作:紗代
あれから約一週間。私はだんだんと仕事を覚えてこの環境に慣れつつあった。トーカちゃんの仕事とプライベートの口調の切り替えというか差には若干驚いたけど昔ケンカの時に英語で殴りかかっていく自分を想像したのでそこまで驚くことでもないのかもしれない。古間さんも入見さんも、あまり喋ったことはないけど四方さんもここの人々にはお世話になりっぱなしである。
「いらっしゃいませ」
「コーヒーブレンド二つ」
「コーヒーのブレンドが二つですね。かしこまりました」
「君新人さん?かわいいねー」
「カヤちゃんトーカちゃんに続いて看板娘が増えたな!」
「いえ、私はまだまだですから」
適当に会話を切り上げその場を去る。お客さんには申し訳ないが仕事中なので長話はしてられない。そして今日も慌ただしく時間が過ぎていった。
「お疲れ様ミヅキちゃん」
「!店長、お疲れ様です」
「疲れてるところで悪いけど下に行ってくれるかい?ヨモ君が君を待ってる。」
「下でヨモさんが?わかりました」
下、とは地下のこと。「あんていく」を含めて東京全体には迷路のような広大な地下が広がっているらしい。ただ一寸先は闇とはよく言ったもので、地下には得体の知れない輩やRc細胞壁など生半可な者では生きていくことすら出来ないほど劣悪な環境らしい。しかしそのおかげでCCGや世間に追われ地上で生活出来なくなった喰種が身を隠すには絶好の場所なのだと店長が言っていた。
私がこれから行くのは比較的安全な「あんていく」が使っているところである。
「・・・来たか」
「はい、それで今日はどういうことで・・・?」
ヨモさんは人間とのケンカしかしたことがない私から見ても相当の実力者なのだろう。入見さんや古間さんいわくトーカちゃんの戦いについての師匠であり、今でもたびたび稽古をつけているんだとか。
「・・・おまえも「あんていく」の一員になったからにはこれから「喰い場」の見回りや「名所」からの食糧調達も担当することになるだろう。そうなると必然的に他の奴らや白鳩との衝突もありうる。」
「えっとじゃあヨモさんが私を呼んだのは・・・」
「そうだ、今日からおまえの稽古もつける。」
「!・・・本当に」
「ああ」
そしてヨモさんは構えることもなく私を見据えた。
「まずは殺す気でかかって来い」
なるほど、まずはどのくらい動けるのか見るつもりなのか。
「わかりました・・・行きます!」
ヨモさんに特攻を仕掛ける。それをかわされそのまま二撃目三撃目と続けて打ち込んでいく。
「・・・・・・」
「っ!」
しかしすべてかわされてしまい、腕を掴まれ反射的にヨモさんの身体を蹴って跳び、距離を取った。やっぱり、というかその予想以上に強い。
「・・・この動き、おまえは経験があるのか?」
「いえ、こっちに帰ってくる前はアメリカにいて結構絡まれてたのでキリがなくて応戦してましたからそれでだと思います。」
「・・・なるほどな、赫子は出せるか?」
「赫子?」
「・・・俺たち喰種の持つ捕食器官のことだ。その分だとまだか・・・」
「はい・・・」
「・・・今日はここまでだ。これからはトーカとも一緒に稽古をすることになる、いいな」
「はい、よろしくお願いします!」
次からはトーカちゃんと一緒か、なら足手まといにならないように私も一層鍛えないと・・・赫子、も分からないし。
赫子――――――あの後店長から赫子についての説明を受けた。喰種だけにあるRc細胞を貯めておく臓器・赫包から出る捕食器官。主に赫包は背中側にあり、その位置によって四種類に分類される。上から順に羽赫、甲赫、燐赫、尾赫。それぞれの相性や性質も説明してもらったところ、マヒトが燐赫だったので私もおそらく燐赫なのではないか、ということらしい。
こうして説明を聞いていると自分は全く喰種について知らなかったことを突きつけられているような気分になる。
――――――思えば、私はマヒトのことを何も知らないんだ。
仮にも友人であったというのに私たちはお互いに「今」しか語らず過去や先に関しては全く話さなかった。それは距離感の取り方が上手い彼と臆病で踏み込まない私の上手く付き合っていたようでちぐはぐな関係を現すような、一言だった。
*****
次の日、トーカちゃんのシフトは休みで私も早めに上がることになっているのでせわしなく働きやっとこさで休憩していると入見さんがなにやら可愛いらしい―――ウサギ柄のクリアファイルを持っていた。
「どうしたんですか入見さん」
「ああ、ミヅキちゃん。ちょうどいいところに。実はトーカちゃんが昨日ロッカーの前に落としてったみたいで中身をちょっと見てみたら「あんていく」のシフト表と学校のプリントが入ってたの。だから本当は早めに渡したほうがいいんだけど、私は今日終わりまで入ってるから行くに行けなくて・・・悪いんだけどトーカちゃんに届けてくれないかしら?」
「いいですよ」
「本当?ありがとうね」
渡された地図の通りに道を進むと一軒家が見えてきた。
ここ、でいいんだよね?と聞く人がいないので少し半信半疑になりつつもインターホンを押そうとする。
「俺ん家に何か用か」
「!!」
突然の声に後ろを振り向くと、やや癖のある短い黒髪の美少年がそこにいた。なんかこの子誰かに似てるような気がする。というか今「俺ん家」って言った?
「・・・私、この間から「あんていく」のバイトやってるんだけど、トーカちゃんがここに住んでるって聞いて忘れ物届けに来たの。トーカちゃんはいる?」
「・・・「あんていく」だぁ?」
私が「あんていく」の名前をあげた瞬間から不機嫌そうに、むしろ敵意を感じるくらい睨んでくる少年。初対面、だよね?
「はっ、アイツの予定なんざ知るかよ」
「・・・そっか、わかった。じゃあこれ渡しておいてくれる?中身は大切なものらしいから」
「なんで俺が・・・そもそもそんなん俺に関係ない。」
「でもトーカちゃんには関係あるんだからせめて会わせてもらえる?」
「「あんていく」の奴を上げる気はねえ、だいたいなんだその匂い。人間か喰種かわかんねー半端な匂いしやがってこの半端女」
なんでこんなに敵意剥き出しみたいな調子なんだろう?おかげで全く話が進まず平行線のままなんだけど・・・というかやっぱり私の匂いって人間と喰種両方するんだ。
と、お互いに譲らず押し問答を続けていると家のドアが開いた。
「うっさいアヤト!一体誰と言い争って・・・って、あんた・・・」
「あはは・・・」
「・・・チッ」
とりあえずまた言い争って近所迷惑になるのはあれなので家にあげてもらうことになった。