東京喰種 Another Rainy Blue(アナザー・レイニーブルー) 作:紗代
ちなみにこの時点でトーカちゃんは主人公に一定以上の好意がある設定。
カネキくんみたいに最悪な出会い方してないからね。
6月2日。いつも通りのあんていく。
「ブレンドを一つ」
「ブレンドが一つですね。はい、かしこまりました。」
「フゥン・・・」
「?」
注文を取った客がなぜかこっちを見てくる。こっちには私しかいないので、景色目当てでもない限り見る必要はないと思うんだけど。
実を言うとこの客によるこの視線は初めてじゃない。結構頻繁に感じる。なんかこの視線、頭から爪先まで見られているように感じて嫌なんだよ。たとえ客本人が長身の美形で品の有りそうな人でもその行いでチャラになりそうだ。
注文を取ってコーヒーを淹れてもらっている間他の注文や作業をしていてもずっとその視線を感じていた。
なんでこの人私の方見てるんだろう・・・
「お待たせしましたコーヒーのブレンドになります。」
「ああ、メルシィ」
コーヒーを置いたのに視線が向いたのは一瞬だけで私の方を見てくる。
「あの、私がなにか?」
「すまないね、ここに君のような美しい女性の店員がいただろうかと気になってしまって・・・気を悪くさせてしまったかな」
「いえ、気になっただけですから。ではごゆっくり」
「そうさせてもらうよ」
話した限りでは穏やかないい人だった。ひょっとして私の勘違いだろうか?感覚が鋭くなって過敏症なのかもしれない。
―――けど私を見てくるあの目はまるで。
「・・・舌舐めずりされてるみたいだ」
最初のマヒトを連想する獲物を物色する強者の目だった。
あの後、トーカに聞いてみたところあの人の名前は月山習と言いあの月山財閥の御曹司だった。あんな大企業のトップの一族が喰種だとか、世間って凄い。そしてそれと同時に彼を「20区の厄介者」なのだと言っていた。彼は気分で獲物の品定めをして捕食する「美食家」として世間を騒がせており、当然CCGにも目を付けられているうえ、月山は色々な業界に太いパイプを持っているので関わるとろくなことにならない。そう言われた。そしてトーカが何よりも心配していたのは私が彼に目を付けられているかもしれないことだった。
「大丈夫だよ。喰種は美味しくないって聞くし、匂いが変わってるから反応しただけできっとすぐに目移りするよ」
トーカを安心させるために、いや私もこうであってほしいと声に出す。
それが一つ目の間違いだった。
次の日。トーカは休みで入見さんは休憩、古間さんは買い出しに行っており、店に出ているのは私だけだった。月山さんは・・・また来ている。
「んー、何度来てもやはりここは落ち着くね」
「ありがとうございます。」
注文されたコーヒーを置いた。
「・・・君からは不思議な匂いがするね」
「よく、言われます。」
「甘く澄みきった香りとスパイシーな香りがちょうどよく混ざりあって独特のハーモニーを奏でている。実にいい香りだ」
「あはは・・・私は自分の匂いとかわからないので。そっか、そういう匂いなんですね」
トーカから言われたことと自分の勘でどうしても寄せ付けない言い方になってしまう。
「つれないね・・・もしかして霧嶋さんからなにか言われたのかな?」
「あ、いえ、その・・・昔縁のあった顔見知りとは、聞いてます。」
「なるほどね、まあ僕はこんなだからよく誤解されやすくて友人も少ないから無理もないよ。」
ちょっと切なげに言うこの人は今のところ視線や違和感がないものの、一番最初の視線を感じていた私は警戒し続ける。
「そうですか、でも少なからずいるんでしょう?なら今度はその人と来てくださいね。コーヒー一杯くらいならサービスしますから」
「・・・君は優しいね」
「いえそんなことないですよ・・・それではごゆっくり」
「待ちたまえ」
「・・・なんですか?」
テーブルを離れようとしたら呼び止められた。
「そういえば君は所縁君と一緒にいたとき高槻泉の本を読んでいたね。」
「はい」
「彼女の本の話が出来る相手は限られていてね、もし君さえよければ僕の話し相手になってくれないかな?」
彼が手に持っているのは「インダストリアル」。高槻泉の作品の一つだ。そういえばマヒトは小説よりも漫画派の人だったから高槻泉に関してはほとんど語らずに終わってしまったのを思い出した。私も高槻作品を語れる相手は身近にはいなかったのだ。なら、本の意見交換をするだけなんだしそのくらい付き合ったっていいのかもしれない。
「ええ、私なんかでよければ」
これが二つ目の間違い。
話を切り上げてその場を去る私の後ろ姿を見てほくそ笑む魔の顔を、私は見逃してしまったのだった。