IF~獣の特別~   作:コズミック変質者

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続いた・・・だと!?


IF〜特別な日々〜

私と彼女の出会いは、そう珍しいものではない。ただ住んでいた場所が近かっただけだ。

私の両親は有名な音楽家と音楽家の娘であり、そこそこ有名な地位を得ていたため、一般よりも裕福な生活を送れていた。

 

ある日のことだ。私がまだ齢一桁の頃、近所に街一番の屋敷が建てられた。その屋敷の主は軍の少将の立場を貰っている、腕の立つ軍人であり、私の父の音楽を気に入っている人物だった。

それだけの理由で越してきたのか?というとそうでもないらしい。それについては特段、私が知ることは無い。

 

彼らが越してきてから一日経つ。私はいつも通り勉学に励みながら過ごしていると、家に来訪者が現れた。その来訪者というのは、越してきた家の長女である。

 

彼女の名はクリスタ・イーネア・イスターツ。歳は私と同じとのこと。淡い金髪をした可憐な少女。町を歩けば誰もが振り返ってしまうほどの絶世の美少女。

あまりそういったものに関心がない私でさえ、美しいと感じてしまった。

 

「ねぇ、今から遊ばない?」

 

唐突に聞かれてしまったので、思わず返事をしてしまった。彼女は嬉しそうにクスクスと笑い、私の手を引いていく。

やんちゃな娘だ、と思ってしまう。この時代の貴族の娘といえば、花よ蝶よと愛でられ、一から礼儀作法をたたき込まれるのが常のはず。

そのことを聞くと彼女は、

 

「もちろん、家ではちゃんとしているよ。社交界の時もね。でもお父様とお兄様は友人と遊ぶ時くらいは許してくれたから」

 

今時には珍しい家だな、と納得した。確かにそういった家は希にある。古来より優秀な軍人を排出してきた家は特に。ここ数年になって、女性軍人の価値は上がってきている。今では最早家の道具だけではないのだ。

 

それから彼女とは日が暮れるまで遊び、また遊ぶと約束までしてしまった。そのことを両親に話すと、顔を青ざめながら粗相のないようにな、と念入りに忠告してきた。

 

その次の日、彼女はまた家に来た。今度は共に勉学に励もうと。私はそれを承諾し、彼女を家に招いた。突然来た彼女に、侍女達は困惑して焦り出すと、彼女は気を使わないでいいと言った。その時の彼女は困ったように笑みを浮かべていた。

 

勉学を始めると、私は驚愕させられた。私は勉学においては、同年代の者達よりも少しは優秀だと自覚していた。それも日々の努力の末。だが彼女は私よりも遥かに先へ進んでいた。それこそ、同年代がやっている物よりも、8年も先へ進んでいる内容を。これを境に、私はただの凡人だと思わされた。

彼女は、学院から偶に帰省してくる兄に教えて貰っているからと言っているが、確実にそれだけではないだろう。

それから私は彼女に教えてもらう事になった。彼女の教え方は丁寧かつ分かりやすかった。それこそ、捻くれた応用問題をすぐに分かるように丁寧に説明してくれた。彼女には誰かを教導する才能があるのではないのだろうか?

 

それから三ヶ月ほど、私と彼女の関係は続いていた。

 

ある日彼女は私とともにシェイクスピアを見に行かないかと誘ってきた。丁度いいことに私の予定は空いており、それと同時に父の予定も空いていた。

父も着いていくと言うと、彼女は外で待っているからと言って出ていった。私と父は早急に支度をし、外へ出るとそこに待っていたのは、険しい顔で腕を組み目を瞑って車の運転席にいる強面の男性。彼女の父、キング・イーネア・イスターツ少将だった。

 

父はイスターツ少将を見ると一瞬で顔を蒼白にし、頭を低くして媚を売るように定例の挨拶をするも、イスターツ少将が「今日は家族の、近所の者との付き合いで来たのだ。そう硬くなる必要は無い」と言った。

無論、そう言われて態度を急転させることなど出来る筈もないが、父の態度は少しは柔らかくなった。

 

着いた劇場はザクセン州立歌劇場(ゼンパー・オーパー)。歴史ある有名な劇場であり、そこには人が溢れている。イスターツ少将と父に付き添い、彼女のエスコートをしながら劇場内へ入っていく。エスコートしている間、終始彼女はクスクスと笑っている。なぜ笑っているのか聞いても、はぐらかされてしまう。

 

そして指定された席、明らかにVIP席と思われる席へと座る。座る順番は右から父、イスターツ少将、彼女、そして私。演目名は『テンペスト』。シェイクスピアが創り上げた作品の一つ。様々な貿易によりドイツへ流入された作品だ。

 

劇が始まる。

内容はとても深いものだった。

主人公プロスペレーが弟であるアントニーオへの復讐劇。手下の精霊を率いて、アントニーオの目論見を全て撃退し、己の思惑を実現していくもの。そして最後の最後、次なる復讐をやめ、プロスペレーは精霊との契約を切り、アントニーオと和解。最後はナポリへ王を送り届ける。

 

なかなかにいい話だったとも。シェイクスピアよりもオペラを嗜む私だが、純粋に楽しめた。

劇が終わると、父と彼女が花をつみに行くと言って離れていった。残ったのはイスターツ少将と私のみ。会話一つない空間が広がるが、イスターツ少将がそれを破る。

 

「君はクリスタのことをどう思うかね?」

 

「どう・・・とは?」

 

「クリスタは優秀だ。優秀過ぎるほどに。一を見て十を知るでは済まず、たった一つの種が周りの養分を全て吸い尽くしたようにすべてを吸収していく。知識も、技術も」

 

「・・・・・・ 」

 

「アレは異才であり鬼才だ。いつ咎が外れるか分からん。そんなクリスタを、君はどう思うかね?」

 

答えに困る。私は確かに彼女を天才だと思っている。イスターツ少将が述べた例は正しくその通り。まだ付き合いが浅いとはいえ、彼女の才能には呆れるくらい驚かされている。

 

「私は・・・彼女を確かに天才だと思っています。それこそ他の天才と呼ばれる者達が凡夫だと思えてくるほどに。いつか、周りは彼女との差に屈するでしょう。圧倒されてしまうでしょう。きっと、孤独に苛まれてしまうでしょう。ですが、私は彼女にいつか追いついてみせます。それがどんなに険しくとも。

彼女は、私にとっての目標ですので」

 

この時、恐らくは無意識のうちに言葉が出てしまったのだろう。イスターツ少将の鬼気迫る顔に圧倒されて。だが、言い終わったあとイスターツ少将は少し考え込むように顎に手を当て、そうかと言って口を閉じた。

イスターツ少将が何を考えていたのか、私には分からなかった。

 

その後、戻ってきたクリスタを出迎えるイスターツ少将の顔が・・・とても軍人には見えなかった。




オリキャラ、覚醒前とはいえハイドリヒ卿を様々な方面で圧倒。

キング少将に関しては某錬金術師の大総統がモデルです。

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