IF~獣の特別~   作:コズミック変質者

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結末だけ容易く想像出来ても今必要な物語が書き終わらない。


IF〜乙女の夜会〜

男は女を求め続けた。

満たせぬ欲を満たすため。己の全霊を尽くすため。

動機はひとつ。全ての生物が持つ感情。

たった一言で終わる言葉を、男はいつまでも自覚しない。

 

 

 

女は男を愛し続けた。

憐れんだからではない。ただの純粋な曇りなき愛情。

だが悲しいかな、女の愛は届いても、男の愛は届かない。

気付かぬように目を逸らし、心を閉じ、自分はこうでいいのだと、酷く思い込んでいるのだから。

 

ならばこそ、閉じた心を私が開こう。間違った願いを持ったまま、彼の愛を芽吹かせよう。

たとえ地獄に誘われようとも、愛が曇ることは無い。蒼穹を思わせるがごとく、どこまでも続いていく想いに、間違いなどないのだから。

 

 

 

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私と彼女は学院を次席と首席で卒院することができた。やはり学院にいる間も、彼女に届かなかったのは非常に悔しい。

一時期、学院生同士で私と彼女のどちらが首席となるかの賭けが行われていたようだが、大穴狙いで私に賭けた者達は初めから負けが決まっていたのだ。

 

彼女は天才で、異才で、鬼才である。だがそれに対して私はどうだ?彼女とは比べることすら烏滸がましいであろう凡人、隣に並ぶことが不思議と思われる存在だ。

努力を積み重ね、研鑽を繰り返した結果がこれなのだ。嗚呼・・・やはり、いつも目指すべき高見の壮大さを思い知らされるよ。

 

だからといって、諦めることはない。届かぬならばもう一度、何度でもまた挑めばいい。

やっていることは断崖から飛び降りて空を飛ぼうとするようなものだ。最早不可能の域に達しているやもしれぬ。だからどうした?

不可能?そんなものはねじ伏せろ。彼女に届きたいのだ。彼女を追い越したいのだ。彼女の前に立ち、胸を張りたいのだ。ならばその程度の不可能、超えなくてどうするというのだ?

 

彼女ができることをやれないのに、どうして超えようなどと思えるのか?

 

彼女を知るものは無茶だと言う。諦めろという。事実、私の心は気を緩めれば枯れ木のように折れるだろう。

 

私が諦めないのは、諦めたくない理由があるからだ。ああ、たしかに私は彼女を超えたい。だがこれは私自身の願いだ。本命は違う。私は彼女の願いを叶えたいのだ。

 

いつも優しく振る舞い続けた彼女がとある日、弱音を漏らしたのを私はしかと聞いたのだ。

誰かに超えて欲しいと。そう願っていたのだ。

 

だからこそ、私が彼女を超えねばならない。私自身の願いとは違う。彼女自身の願いを叶えるため。金に靡かず、美醜に執着せず、欲を求めなかった彼女への最大の感謝を込めた、私ができる唯一の恩返し。

 

永劫の如き時がかかろうとも、必ず私は彼女を超えてみせるのだ。

 

 

———とある獣の回想———

 

 

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机の上に正しく整頓された数多の資料を流しみと思わせるほどの速度で読み、理解し印を押す。毎日毎日、繰り返されていくつまらぬ作業。

私からすれば地獄だが、戦線に立っている者達からすれば私の行っている行為は是が非でもやりたいことなのだろうな。

 

時は過ぎた。学院を卒業してから十数年。戦争は肥大化し、世界へ広がる。日夜必ず地球という惑星の中で争いが耐えることはついぞ無くなった。

国同士の争い。国への反旗。争いで大金を稼ぐ企業。

人の欲望が入り乱れ、混沌(カオス)となった世界。

 

誰かが傷つき、誰かが得をするという理論は既に不動のものへと変貌した。戦争に勝てば私腹は肥える。戦争に負ければ体勢は一気に覆る。

富豪層の人間にとって、戦争とはもはやゲームとなったのだ。使える駒は自国民(下民)。指揮を執るのは自分ではないため、失敗しても他者への押しつけが成立する、くだらないゲーム。

 

今こうして傍観している私も同じなのだろうと瞑目する。

 

学院を卒業してから、私と彼女の道は盛大に別れてしまった。私は義勇軍に参加し、その後ドイツ海軍に入隊しながらも、将校学校を目指した。

彼女は本格的に戦争が開始したため、イスターツの名を継ぐことを決めた。

自然と道は別れてしまった。もとよりこうなる運命だったのか、もしくは単なる偶然か。

 

時折食事に出かけたりするが、殆どは文通のみとなっている。

思い返してみれば、彼女は私にとっての女避けになっていた。彼女がいなくなってから、私へ近寄ってくる女は増えた。特段、拒む理由がない私はそのすべてを受け入れた。

愛が欲しいならば与えよう。快楽に飢えているなら満たしてやろう。

その代わり、私は全力で愛そうとした。

 

だが壊れた。抱きしめるどころか柔肌を撫でるだけで、儚く脆く、まるで幻想だったかのように消えてしまった。

 

これが私の異常。

彼女と離れてから、私はまるで自らの力が制御できていなかった。全力を出せば相手は壊れ、張り合う者も皆同じ道を辿る。そして私へ襲いかかる圧倒的な既知。

アレは食べたことがある、これは見たことがある、この女は抱いたことがある。

初めてのはずなのに、私を蝕む嫌な感覚。何年経っても変わることなく私の中で増大する既知。それはやがて、彼女以外のすべてを覆い尽くした。

 

唯一未知と呼べる彼女と会えない私は、世界全てに飽いていった。

 

そして、劇的な変化を得た。

総統閣下の死を予言した、影法師のような男と出会ったことで。

 

 

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憂鬱だ。

馴染みの酒場で、知り合いの女性軍人三人と駄弁りながら言葉を漏らしてしまう。

 

「ふん、いつもバカ娘と一緒にバカをやっている貴様がそんな風になるとはな。珍しいから何があったか聞いてやろう」

 

「私ベアトリスみたいにバカじゃないもん。ノリがいいだけだもん。脳みそ空っぽの子と一緒にしないでよ」

 

「ふっ、それもそうだな」

 

「2人とも酷くないですか!?」

 

そう傲慢に言ってくるのはエレちゃん。真面目も真面目、大真面目の頑固軍人。私と同じ貴族の家の出で、軍内では鉄血の女帝と畏れられているらしい。

それで私とエレちゃんにバカって言われているのは金髪ポニテのベアトリス。同じく貴族の家の出で、政よりではなく軍人の家系。銃器や戦車が蔓延るこの時代で、未だに剣を使って生き残れているヤバい子。

私も自分のことはヤバいと思ってるけど、流石に戦場を剣と拳銃で生き残れる自信はない。

 

「まぁまぁ。それで、クリスタちゃんが悩むなんて、一体何があったの?」

 

泣きボクロが特徴の、ボンキュッボンの妖艶なリザさん。エレちゃんと軍学校時代は同期だったらしく、エレちゃんが首席でリザさんは次席らしい。ちなみに、郡内でのエレちゃんとベアトリスの所属だけは分かっているのだが、リザさんだけは分からず、聞いてもはぐらかされてしまう。

 

「最近幼馴染に会えてなくて・・・文通もしてるんですけどだんだん回数が減っちゃって・・・お酒飲んだらちょっと感傷に浸っちゃって」

 

「ふん、色恋などくだらん」

 

「また〜先輩はそんなこと言っちゃって。ホントは気になる人の1人や2人いるんじゃないんですか?ほら、最近は——」

 

「余計なことを言うなバカ娘」

 

「痛い痛い痛い痛いです先輩!指が顔にめり込んでますよ!顔がミシミシいってますよ!ごめんなさい!お願いだからこの手はなしてください!」

 

いつ見てもエレちゃんのアイアンクローは痛そうだ。本人が自覚しているかどうかは分からないけど、これは一種のエレちゃんの愛情表現。ツンデレを極めた、正に鉄の処女。自分の気持ちに素直になればいいのに。

 

「まぁ、エレオノーレに気になる人ができたなんて。私、結構嬉しいわよ。それでベアトリス、そのお相手は誰なの?」

 

「余計なことを言うなよバカ娘。もし言えばそのくだらんことばかりを考える頭に、私が直々に鉛玉を与えてやろう」

 

本気の脅しにベアトリスは萎縮してしまった。まぁエレちゃん怒ると怖いもんね。

面白可笑しく心の中で笑いながら、グラスに残った酒を口にする。最近では戦争が激化してしまったため、簡単なものでもそれなりの値段がしてしまう。まだ家が裕福な私たちは暫くは大丈夫だが、一般市民たちはそろそろ限界が来るだろう。

 

「それで、クリスタちゃんはその幼馴染のことが好きなの?」

 

「うーん・・・どうなんですかね。小さい頃からずっと一緒だったから、愛情なのか親愛なのか。ここまでくると区別が付けられなくなっちゃって。

まぁ、ずっと一緒にいたから今後もそうだって思っていた時期だったから、余計に来ちゃって」

 

「ならば忘れてしまえばいいだろう。なに、貴様は顔はいい。家柄も文句なしだ。オマケに血筋は国の御墨付きだ。それこそ、相手には苦労しないだろう」

 

「他人事だと思って好き放題言わないでよぉ。これでも精一杯なんだから。そっちだって、実家から言われてるんじゃないの?」

 

「う・・・」

 

「私には関係のないことだ」

 

ベアトリスは心当たりがあるのか胸を抑える。エレちゃんは相変わらず関係ないらしい。聞いた話じゃエレちゃん実家でも似たような態度らしい。

私はエレちゃんの将来が心配だよ・・・。

 

「ふふ、みんな大変なのね」

 

一人口元を抑えて微笑んでいるリザさん。この人は本当に謎だ。貴族なのか平民なのか。もしかして知らないのは私だけなのだろうか?

 

「それで、クリスタちゃんのお相手は誰なのかしら?」

 

リザさんはライニの方に興味津々らしい。まだ名前も言ってないから分からないだろうけど、思えばライニって軍のトップだから名前言っちゃえば一発でバレちゃうんだよね。

 

「教えな〜い」

 

自分だけのものとして、胸にしまっておこう。それはきっと、悪いことではない。独り占めしたいんだ。ライニのことを。愛しいから、そうしたいって思うんだ。

でも、もしライニに好きな人ができたら、その時は諦めて祝ってあげないと。ライニには幸せになって欲しいし、私はどこかの悪役令嬢みたいな立場は似合わないから。

そう。物語の登場人物だと、主人公に好きな人を譲った親友の立場でもいいのだ。長く、大好きな人が幸せでいるのを見ていられれば、それでいいんだ。

 

「もう、何よそれ」

 

リザさんの笑顔は今日一番、優しい笑顔だった。




次回はベルリンと決めています。
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