それは、セリウスIIが完成して少したったころ。タイムスケジュール的には、まだイディクス襲来まで余裕があった時期だった。
「お姉ちゃんたち、頑張ってるね」
【ああ。シェルディアは着々と腕を上げているよ】
この日、俺はミストさんと一緒ではなかった。家でレムと一緒に留守番だ。とは言え屋根の上から二人の訓練の様子は見えるのだが。
クリスタル・ハートの動作の関係上、どうしてもレムはレヴリアスとセリウスIIに近づけない。ミストさん達が訓練している間は、どうしても独りぼっちになってしまう。さすがにずっとそれもどうなんだということで、俺からおいてってくれるようにミストさんに頼んだ。ミストさん達も気にしていたようで、すんなりとうなづいてくれた。
「なんで私はこうなんだろうなあ」
【……神の石を止めてしまう事か?】
「うん」
二機の訓練を眺めていると、レムが突然呟いた。まあ、気にするなという方が無理だよな。自分が迫害される理由だし、ここのところマシになって来たとは言え、今また近しい二人と距離ができる原因になっているわけで。
【さすがにその原因はわからないしなあ】
まあ推測はできるのだけれど。レムの体の中のル=コボルの欠片は、ル=コボルあるいはガズムが直接憑依して回収するほど力の強いものだ。それがクリスタル・ハートの誤作動を引き起こしていたんじゃないかと考えられる。
…それじゃあ同じ連中に憑依される事になるエルリックは、なんでクリスタル・ハートを起動させられたのかという話なのだけれど。育ちの違いとか年齢の違いとか、推測できそうな要素はいろいろあるけれどなあ。
「もし、ミストさんやショーヤが言ってるイディクス?ってやつらが来たときも、私は留守番してるしかないのかな」
【……レムに限らず、戦わない人はシェルターに避難してもらう事になる】
うん、彼女が言いたい事はそう言う事じゃない。大切な人二人が戦っているときに、自分は何もできないというのがもどかしいんだろう。
「わかってる。わがままだって。無理なものは無理だもんね」
【わがままくらい幾らでも聞くさ。他に何もしてやれないからな】
そうだ。体があるならともかく、今の俺はただのAI。レムと買い物することすらできないしなあ。
「そんなことないよ」
【ん?】
って近い近い。急にレムがカメラをのぞき込んできた。その顔がどアップで視界に移りこむ。
「ショーヤが来てから、昼間に家に居るのが寂しくなくなったもん」
ああ、シェルディアが学校行ってる間、レムは家で一人だったからなあ。しかも回りには自分を疎む人間ばかり。直接的な危害が無いにしろ、気分のいいもんじゃなかったろう。
「でも、ショーヤが来てからなんていうか、毎日が楽しかった!」
【そ、そうか?】
「勉強したり、お話したり、ドラマ見たり!」
【ドラマは入るのな】
いやまあめっちゃはまってたしなあ、姉妹そろって。
「それに最近じゃ街の人とも普通に話せるようになったし!」
【そっちに関してはミストさんの手柄だけどな】
「でも、私の寂しいを埋めてくれたのはショーヤだよ」
うん、まってレムちゃん。そう至近距離でそんな事言われると、さすがに照れる。今だけはAIであることに感謝するわ。感情が顔に出ないし。
「だから、改めてお礼を言わせて。ありがとう、ショーヤ」
【それはこっちもだよ】
「え?」
【君とシェルディアが俺を拾ってくれなかったら、今頃俺も朽ち果てていた。だからこちらこそありがとう】
「そっか、えへへ」
そう笑うレムの顔は可愛かった。うん、さっきAIな事に感謝するって言ったけど前言撤回。頭を撫でてやったりする事もできないのがやっぱじれったい。いや、俺の年齢考えると、そんな事したらロリコンって言われそうな気もするけど。
「あ、訓練終わったみたい」
【本当だ】
いつの間にか、レヴリアスとセリウスIIの動きは止まっていた。もう訓練は終わりらしい。
「ごはんの準備しないと。行こう!ショーヤ!」
【ああ。ところで、なんで俺はショーヤなんだ?ミストさんはお兄ちゃんなのに】
いい機会だと、最近の疑問をぶつけてみる。いつの頃からかレムはミストさんのことをお兄ちゃんと呼んでいたのに、俺はずっとショーヤのままだ。いや、AIだからって言われたらそれまでなんだけど。
「んー、なんかお兄ちゃんって感じじゃなかったって言うか」
【ふうん?】
「あーもう!なんでもない!」
そういってレムはすたすたと歩き始めた。
【なんなんだ】
うむ、女心なのか?はよくわからん。よく解らないけれど。
(やっぱ、やだな)
なんでかわからないが、俺はこの時、彼女をイディクスの奴らの好きになんかさせるかって思ったんだ。
ショーヤ君、レムを守る事を改めて決意。妹分には弱いんです。実際どうにかできるのかは別にして。