さて、留置所の中でミストさんはというと。
「すごいなあ!俺も見てみたかったですよ!」
「そうだろうそうだろう!」
「見どころがあるな、若いの!」
エルドラ爺様たちと意気投合してんでやんの。いや、いいんだけどさ。
「それじゃあお前は今日から弟子2号だ!」
「やった!あれ、一号は?」
「そっちの黒いの」
「誰が弟子だ」
弟子になっちゃったし。というかヴァン、黒いの呼ばわりされてるし。
「それじゃあ若いの!明日の為にその1だ!」
「はい!」
【それボクシングじゃないか?】
などという俺のつぶやきもスルーされ、ミストさんは爺sに言われるがままにトレーニングを始めるのであった。
……いつもとやってる事変わらんな。
明け方、ドォンという音と共にみんなが目を覚ます。
「な、なんだ!?」
「みんな、速くでるんだ!」
保安官のおっちゃんが皆に外に出るように促す。出てみるとそこにいたのはシベ鉄とでっかいヨロイ。科学者ブッチが作ったバッドローズだったか、あれは。というかK世界だとあいつ、カギ爪に攫われてるんじゃなかったのか?なんでいるんだよ。しかもシベ鉄と手組んでるっぽいし。そういやあいつ街の奴らに復讐したがってたんだっけ?ほら、恨み言が聞こえてきた。それを聞いて、ミストさんが複雑な顔をする。ベザードの事があったし、虐げられる側の苦しみも解るだろうしな。だが、彼はすぐ首を横に振った。
「怒りはわかるけどだからってこんな事していいはずがない!あの人を止めないと!」
【ああ、そうだな】
大空魔竜に通信を入れ状況を伝えると、すぐで街を守る許可が出た。というかやっこさん、ヤーパンの天井の方にもちょっかいを出してるらしい。となると、援軍は見込めないか。
「この場は俺達だけでどうにかするしかないか……!」
「そうか、がんばれ」
「ってヴァンさんは行かないんですか!?」
動く気配のないヴァンにミストさんが問いかける。
「……理由が無い」
「そんな!」
【ほっとけ、ミスト!人それぞれだ!】
「くっ!」
気持ちはわかるけど、そもそもヴァンって積極的に人助けするタイプでもないしなあ。それに復讐に思うところもあるだろうしな……
レヴリアスは幸い、昨日のB-1グランプリの後コロシアムに置きっぱなしだった。
「すぐに打ち上げに行ったのが功を奏すとは」
【メカニック連中には怒られそうだがな】
まあ今回は目をつぶってもらおう。出撃すると、そこには既に一機、シベ鉄と戦う機体が居た。
「君は優勝者の?」
「うん、私はプリシラ!街をめちゃくちゃにされる訳にはいかないもの!」
舞うように戦うブラウニー。さすがに強いな。敵の攻撃が全く当たってない。
「華麗だ……」
【見とれてる場合か。俺達も行くぞ】
「ああ!」
駆けだすレヴリアス。
【シベ鉄は彼女に任せて、デカ物行くぞ!】
「わかった!」
ブッチのヨロイにターゲットを定める。だが、その行く手を同じ型のヨロイが阻んだ。
【何!?】
「もう一体!?」
ちょっと待てこれは予想外だ。レヴリアスが二機目のヨロイと戦ってる間に、ブッチの乗ったほうが街へと迫る。
「く、みんなはまだか!」
【あっちはあっちで苦戦中みたいだな】
もうしばらくこっちにはこれなさそうだ。ブラウニーも敵の数が多くてあっちには回れそうもない。
「くそ、このままじゃ街が!」
「大丈夫だ!俺達に任せろ!」
「この声は!?」
【レーダーに反応。小型が4機来るぞ】
真打登場だな。四機のヨロイが合体し、一つの人型を形作る。
「古代合体!エルドラIV!!!」
「が、合体した!」
ミストさん、感動するのはわかるが目の前に集中な。
「こいつはエルドラIVが相手をする!」
「お爺さん達!?あの話のヨロイってまだ動いたんですか!?」
「おう!その雄姿、しかと目に焼き付けておけ!ボンバディーロ!」
エルドラIVの胸から放たれたミサイルがプッチのバッドローズに命中し、その体を激しく揺さぶる。
「古臭いヨロイだ!」
「古くて結構!行くぞ!」
「く、こいつ結構強いぞ!」
「ぐあああ!」
「!?エルドラIVが!?」
レヴリアスがバッドローズに苦戦してる間に、エルドラIVも追い詰められていた。やっぱりきついか!
「誰もわかってくれない!認めてなんてくれない!!なのに!こんな町を!どうして!!どうして守ろうとする!どうして!?」」
「若いな、若造」
「俺たちはそんなものが欲しいんじゃない」
「そう。みんなの思い出さえ守れればそれだけで」
「それだけで」
「それだけで」
「それだけでいいんだ!」
「お爺さん達……」
だが、気合むなしくエルドラIVの片腕がもぎ取られる。
「くっ!助けに行かないと!」
【バカ、こっちも戦闘中だろうが!】
ああほら言わんこっちゃない。こっちにもバッドローズが迫る。だが、それは横からの一撃に弾かれた。ブラウニーか。あっちは終わったみたいだな。今の一撃がとどめになったのか、こちらのバッドローズは動きを止めた。
「大丈夫?こっちは終わったから手伝うね」
「ああ、ありがとう。だけどこっちよりもエルドラIVを!」
そういってエルドラIVの方を見やると、今にも止めが刺されようとしていた。
「やめろ!」
その時だった。飛来する、一体のヨロイ。
「あ、あれは!?」
それがエルドラIVの背に合体し、瞬間その機体に鮮やかな色彩が蘇る。
「が、合体するのか!?」
「綺麗……」
エルドラIV、いや、エルドラVが完成する。
「へー、補給ユニットまで古臭い。効率の悪いヨロイだ!進歩がない!」
「若造、進歩とは」
「ヨロイと人の心の」
「合体だ!!エルドラV!アルティメエエエエエット!」
全エネルギーを集中させた拳が、ブッチのバッドローズを打ち貫いていく。
「アアアアアディオス!ア・ミーゴ!」
そうして腕が引き抜かれた瞬間、バッドローズは爆散した。
「やった!すごい、すごいですよ!」
【ああ、そうだな】
確かにあれはすごいわ。マジンガーとかとも違う、熱さがある機体だよなエルドラV。
「でも、飛んできた機体はどこから……お爺さんたちは4人だったし」
【ああ、それならあっち】
レヴリアスのカメラを動かし、ミストさんに縁の下の力任せの姿を見せてやる。
「なんだ、ヴァンさん。助ける理由がないとか言っといて」
【ま、彼も彼で爺さん方に思うところがあったんだろう】
心意気に打たれた、と口に出したりはしないだろうけれど。その後、大空魔竜と合流した俺達は、再びターミナル目指して進み始めた。
「あ、お邪魔してます」
「なんで!?」
「いや、ターミナルまで行くって言うから」
【タクシーかなんかじゃないんだから】
「ご、ごめんなさい」
進行方向が一緒だと知って、しれっと都市ユニットに乗ってたヴァン達一行を連れて。
ダメだ。俺の文才じゃ魅力を1/10も伝えられない……!