さて、ミストさんが防衛隊に入って丁度一年。暴動も最近は起こっておらず、アトリームは平和を取り戻したように見える。だが、表立って爆発していないだけであって、犯罪件数の増加など、確実にイディクスの影響が出てきていると思っていいだろう。生身の体があれば、空気がピリピリしてるなど感じるのかもしれないが、それが無い自分はデータを漁って推論立てるしかないのではあるけれど。
今自分は防衛隊のオフィスのPCにつながれて、データベースの更新中だ。無線接続もいいが、やはり大量のデータのやり取りは有線が一番である。各地の事件やらなんやらのデータを集め、ついでにネットに流れてるSSなどもチラチラ見つつ、だらだら中。いちいち覚える必要がなく、データベースに突っ込んでおけばいつでも引き出せるって点では、電子の妖精状態も悪くはないな。
ちなみにミストさんだが、自分がこんなだらだらしている事からお察しかもしれないが、今日は休暇中だ。一時間前くらいにアンジェリカに引きずられて出かけて行ったのを見たのが最後の姿である。いやね?ずっと自分がくっついてばかりだと、アンジェリカもいろいろやりづらいと思ったわけですよ。なんでミストさんの方に自分のデータ更新を申し出て、アンジェリカの方には息抜きと言う名のデートに連れ出してはどうかと提案したわけです。
ほんとはねー、ミストさんとアンジェリカのデートをデバガメしたい気持ちはあるんですよ、うん。でもさすがに
どうかと思って自重中。プライバシー大事。いや、やろうと思えば街中の防犯カメラとかハックして追跡とかできるけど、そこまでやるともうストーカーとかだよね。
「珍しいな、君がミストと一緒ではないとは」
と声をかけてきたのはエルリック。意外と彼、俺に話しかけてくるんだよね。ミストさんがアンジェリカに変な事してないかとか聞いてくるのが主だけど。なんでかは知らないが、俺は彼に信用されてるらしい。電子機器なのに。付き合い長いと言えば長いけど、ミストさんほど親密でもないんだけどなあ。
【エルリックさん、ミストならアンジェリカとデートですよ】
隠す必要もないのでぶっちゃけておく。変に勘繰られるよりはいいだろう。後のことは知らんが。
「ああ、知っているよ。その件については後でミストを締め上げるとして、それとは別に君に聞きたい事があってね」
【聞きたい事?】
はて、なんだろうか。
「君は、今のアトリームをどう思う?」
【……私はAIなので、データからの客観的な意見しか出せませんが、それで良ければ】
「日頃のミストと君を見てると、そんな事は無いと思うがね」
【ですか?】
いやまあ結構普通に話してるけど、この星の他のAIも結構流暢に話してると思うんだよね、見てる限りでは。そこまで自分と差があるように見えないのだけれど。
「なんというか、君には心があるように感じるんだ。変かもしれんがね」
……クリスタル・ハートの適格者だからだろうか。ちょっとばかし驚いた。
【きっと、気のせいです】
「そうかい?まあ、話を戻そう。ここ半年ほどのアトリームの犯罪、そして暴動の発生率。はっきり言って異常だ」
【確かに。過去のデータを見ても、これほど急激に治安が悪化したことはありません】
「そうだ。しかし、その原因がわからない。何かの噂が流れた、といったレベルのものですらだ。それなのに、突然、ある時期を境にこの星そのものがおかしくなってきてるとしか思えない」
アトリームの治安の悪化、それは間違いなくイディクスの、ル=コボルの影響だ。奴は自分の欠片を吸収する下準備として、狙った星の生物の中にある自身の欠片を刺激する。そしてその影響を受けた人物は、悪意を引き出されてしまうのだろう。その結果がこの急激な治安の悪化だ。情報を調べたのもあるのかもしれないが、彼も影響を受けているアトリーム人の一人として、直感的にそう感じているのかもしれない。
「ショーヤ、私はこれは『何が強大な脅威の前触れ』ではないかと思うんだ。なんの根拠もないんだが、何か恐ろしいものがこの星に迫っている。そう私は感じている」
【それは、情報が無いのでなんとも。治安の悪化から、そう結びつける要因が何かあるのですか?】
やはり。彼はル=コボルの事を感じ取っている。だが、それに関して下手な事を言って、壊されるわけにもいかない。当たり障りのないことを言ってごまかす。
「いや、私のカンに過ぎないのだがね。そしてこれもカンに過ぎないのだが、もしかして君は『緊急警報、S22地区で暴動が発生。待機中の隊員は出動準備を』っと、仕事だ。それじゃあ、時間があるときに続きを話そう」
そういって、エルリックは走って行った。
【……】
最後に彼は、
「君はこれから何が起こるか知っているんじゃないか?」
と言おうとしてたように思った。本当にカンでそこにたどり着いたというのか?流れるはずのない冷や汗が流れたような気がした。
「ショーヤ!出番だ!」
「ミスト、急いで!」
休暇中だったのに緊急呼び出しを受けたのか、ミストさん達が帰って来た。俺は思考を切りかえ、ミストさんの戦闘サポートの準備を始める。
【……ふう】
「ん?どうした?」
【いや……エルリックさんとちょっとな】
俺は、彼に全部話すべきだったのだろうか。少なくとも、彼は俺の事を信用してくれていたように思う。何故かはわからないけれど。ならば、こちらも彼を信じてすべてを打ち明けるべきだったのだろうか。