ロズワールとの初謁見を終えた桐生の感想は……『変人』この一言に尽きた。
詳しい話は食事でもとりながらと食堂に案内され、席について屋敷の主の登場を待つ最中、桐生はそんな風に先程の出会いを思い返していた。
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「あはぁ、二人とも目が覚めたんだぁねぇ。よかったよかったぁ」
二人のメイドに恭しく迎えられて現れてたのは、桐生と変わらない長身の、それでいて線は細くどこか繊細で儚げな印象を受ける男性であった。
ロズワールは親し気な笑みを浮かべ、鼻が引っ付きそうなくらいに顔を近づけると黄色と青のオッドアイの瞳が値踏みするように二人の双眸を覗き込む。
青白い肌は近づくとより透けて見える様で。先ほど感じた印象と相まってどこか耽美な風情さえ感じさせる。
勿論二人にはそういった趣味は無いので、桐生は少し顔を引きスバルに至っては嫌悪感を隠そうともせずに顔を逸らす。
そしてそんなスバルの態度に寧ろ好感を抱いたのか、彼はスバルの顔から離れると満足そうにうんうんと頷いた。
「なぁ叔父貴、こういうのって意外と切れ者ってパターンが王道だけど、どう思うよ?」
「あはぁ、嬉しい評価だぁねぇ。もっとまじまじと見て評価してくれてもいいんだぁよぉ?」
独特の間延びした口調でそう言うと、ロズワールはその場でくるりと回り奇麗にポージングを決める。
軽やかなその足取りは、そんな道化の様な振る舞いが日常的なのだろうと二人に容易く想像させた。
エミリアが変人だと称する意味が、桐生にはようやく実感できた。
見たことのないタイプというわけではない。
元の世界での桐生の交友関係は広く、その中でもとりわけ深く長い付き合いでもある人物なんかはロズワールとよく似ているとさえ思う。
道化のような振る舞いと妙な口調は決して諂う処世術の類ではなく、むしろ己への絶対的な自信から零れ出る傾奇に近い。
だが、そんな既知の友人と照らし合わせてなお、ロズワールという男は『変』だ。
それは背格好や立ち居振る舞いからくるものではなく、言葉にはしづらい印象と言うべきか。
とにもかくにも、桐生が歩み積み重ねてきた人生経験では測りきれないほどの『深み』をロズワールは桐生へ抱かせた。
桐生がそんな大袈裟かもしれない印象を受ける一方、スバルは単純明快にロズワールを気持ち悪い奴と結論を出していた。
そんな二人の心中を読み取ってか、或いは与しやすさに軍配が挙がったか。
桐生へのあいさつはそこそこに、主の柔和な笑みと歓待の態度はスバルへと向けられる。
「んーん、他人から理解されない気持ちよさ、異端とは心地いいねぇー。んふ」
気持ち悪い笑みをこぼして恍惚に浸る大男。
慣れるには時間がかかりそうだと、そんな主を見慣れているであろうエミリアが顔を引きつらせているのを見て、桐生はそう思った。
「その、なんだ。お前が言っていた意味がよく分かったぜ」
「やっぱりカズマもそう思う? スバルも相当だけど、やっぱりロズワールには敵わないよね」
「ちょっと!? 俺とあいつが比べられる位置にあるのは心外なんだけどエミリアたん!?」
いつの間にか定着した妙な呼び名で愛する者の名を叫ぶスバル。その表情は心底心外だと訴えてはいるが、助け舟を出す者はこの場にはいなかった。
対照的に自分と比べられる人物が現れて上機嫌なのか、ロズワールは嬉しそうに体をくねらせてスバルへ親愛を向ける。
そんな様子にさらに辟易するスバル。
いい加減埒が明かないとエミリアがロズワールに話の続きを促すと、これまた彼は嬉しそうに、タイミングよくラムから手渡された手帳とペンを受け取ると
「タンムズの月、十五日。――エミリア様が自分から私に話しかけてくれたよ。ロズワール、嬉ぴー。この調子で仲良くなっちゃうぞぉ、おー。……と」
言葉通りの文章を猛烈に書き込むと満足げに手帳を閉じ、これまた手慣れた様に差し出されたラムの手に手帳を置いた。
「いやぁ今日はいい日だぁねぇ。ただちょーっと残念なのはぁ……二人ともふつーの人ってところかぁなぁ?」
再び桐生とスバルへ目を向けるロズワール。
そんな彼に何故か対抗心を抱いたのはスバルだ。
「おいおいおい、俺が普通ってどういうこった! 撤回を求める!」
何か譲れないモノでもあったのだろうか、断固として抗議するスバル。
「俺と叔父貴に前言の撤回を要求する!」
「いや、俺は別に普通でいいんだが」
「皆まで言わんでくれ叔父貴! さぁ撤回を要求するぅ!」
聞く耳は無いようだ。
「あはぁ、ごめんごめん。普通ってのは種族的な意味だぁよぉ。ほら、私ってば『亜人趣味』で名が通ってるからねぇ」
そう言って両脇に立つ双子のメイドを抱き寄せ、ラムの顎を人差し指で艶やかになぞる。
その様子は妙に手馴れ、ラムの方も抵抗もせずむしろ頬を赤く染めて身を任せているものだから、スバルにとっては気が気でない。
「なあ、亜人ってのはなんだ?」
「人間に近い見た目だけど人間じゃない種族って奴かな? その分類だとエミリアたんも含まれるんだけど……」
お決まりとなった桐生へのスバルの異世界講座をさっくり済ませ、スバルは湧き出た不安に心を震わせる。
もしやこのメイド達は既にこの変態の毒牙にかかり、或いは既に愛しの彼女も――
なんて心配そうに思わずエミリアに視線を向けるスバル。
そんな彼の思惑に気づいたのか、エミリアは慌てて手を振ると
「勘違いしないっ! 私は変態に惹かれる趣味はないから!」
と即座に否定。スバルはほっと胸を撫でおろした。
「んんー、スバルくんは中々面白い子だねぇ。さぁてぇ、それではもう一人はというとぉ?」
桐生へと目を向けるロズワール。
気のせいだろうか、スバルへ向けられるそれとは違い、その眼光には隠し切れない警戒を感じさせる。
いや、警戒は当然だ。突然現れて身元不明の男性二人。警戒しない方が不思議なほどだ。
だが、そんな常識と照らし合わせてなお感じる妙な感覚。
それは或いは警戒ではなく……嫌悪。
そう思い至った瞬間、偶然かはたまた見計らったのか。
ロズワールの顔はやおら崩れ、スバルへ向けられる柔和な笑みへ戻った。
「カズマくんだねぇ、ラムから話は聞いてるよぉ。特に君には助けてもらったようで、特別にお礼をしなくちゃぁねぇ」
姿勢を正しよろしくとばかりに手を差し出すロズワールに、会釈と握手を返す桐生。
「桐生一馬だ。……よろしく」
傍から見ると礼儀正しい大人同士の初対面。
だがしかし、ロズワールのその笑みがどこか貼り付けたようなものに感じるのは、桐生の気のせいであろうか……。
その答えはきっと、本人にしかわからない。
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回想を終え改めて食堂を桐生は見回す。
食堂に現在座っているのは三人。
スバルと桐生、そして見覚えのない巻き毛の少女が一人。
座っている位置からして屋敷でも重要な客人であろうか。
少女は慣れた様子で緊張もなく席に着き、こちらに興味を示す風もなくグラスに注がれた食前酒を傾けている。
「お、何々それ?」
そんな少女に持ち前の好奇心と無礼さで、桐生の隣の席から立ちあがったスバルが興味を示す。
どうやら二人は既に面識があるようで、少女ははぁとため息をついてスバルをあしらう。
「なぁに、飲みたいのかしら?」
「え、でも間接キスになっちゃうし、友達に噂されると恥ずかしいから……」
「からかった筈がなんなのかしら、この屈辱感は……」
「スバル、その子とはもう知り合いか? 紹介してくれると助かる」
「ああ、こいつはベアトリス。この屋敷の、えーと、なんの主だっけ?」
「禁書庫なのよ、鳥頭」
「てめー今俺の頭の事サザエさんみてーだって言ったな!?」
「言ってないのよ!? というかサザエさんって誰なのよ!」
声だけ迫真に詰め寄るスバルに身を引いて避けるベアトリス。
二人の関係はともかく、どうやらベアトリスという少女は想像通り食客の様なものらしい。役目がある以上厳密には違うだろうが、その振る舞いは雇われた使用人とは一線を画すため、やはりそちらの方が近いだろう。
「桐生一馬だ、縁あって屋敷に招待してもらった」
「……ふん、慣れ合うつもりはないから挨拶なんていらないのよ」
「てめぇ! 叔父貴に向かってなんて言い草だぁ!」
「ニヤニヤしながら言ったって迫力無いのよ! っていうか叔父貴ってなんなのよ!」
「叔父貴は叔父貴! ソウルブラーザ!」
「……前言撤回、こいつをベティーから引き離すのよ」
わきわきと巻き毛を掴もうとするスバルを手で制しながらベアトリスは桐生へ助けを求める。
「スバル、その辺にしとけ」
「アイ、ダディ!」
恐らく間違っているであろう掛け声でスパッとベアトリスから離れるスバル。
ほっとしたのか乱れた巻き毛を整えて一息つくと、席へ戻るようにとスバルをしっしっと手で追い払う。
「こんにゃろ、俺を虫扱いとは……叔父貴の命がなけりゃ即刻粛清してるところだぜ」
「はいはい、また吸われたいのかしら」
「ノゥ! あれは勘弁!」
相当嫌な思い出でもあるのか、差し出された手のひらから逃げるようにスバルは桐生の隣へと駆け戻る。
そうこうしていると大きな開扉音が部屋に響き、次いで二人のメイドが姿を現した。
「失礼いたしますわ、お客様。食事の配膳をいたします」
「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳を済ませるわ」
そう言って淀みない動作で配膳台から食器と料理がテーブルの上へ並べられていく。
「おおぉ! いいねいいね! 異世界だからゲテモノとか並べられたらどうしようかと思ったが中々いいじゃん!」
瞬く間に彩られた食卓にスバルは目を輝かせて色めき立つ。
並べられたのはオムレツやサラダ、ベーコンといった(名称や製造工程は違うかもしれないが、見た目は概ね変わらない)オーソドックスな物だ。
他にも見覚えのない料理が数点並ぶが、決して桐生やスバルの食の常識から大きく離れない様なものばかりであった。
「スバル、行儀が悪いぜ」
立ち上がって興奮するスバルを窘めるが、桐生も内心は心が躍る。
なにせこの世界に来てからここに来るまで碌な物を口にしていない。
ロム爺のところで頂いた酒と粗末なつまみくらいだろうか。
それから数時間は経ち、更には命を懸けた激しい戦闘までこなしているのだ。
そんな彼が目の前に並べられた、視覚から楽しませてくれる様な上等な料理とそこから沸き立つ芳醇なバターや油の香りに鼻腔をくすぐられ、緊張と不安で忘れていた空腹が首をもたげて期待感を煽られるのは道理である。
顔に出さないのは年の功、まだまだ子供であることを考えればスバルの興奮も微笑ましいものでもあるのだろう。
そう思う桐生だが、やはりそれとこれとは話は別。
子供であっても分別のつく年齢である以上、あまり行儀の悪いことはさせられない。
孤児院で小さな子供の面倒を見続けてきた、桐生の癖の一つであった。
「そうは言っても待ちきれねえよ!ほら早く! メーシメーシ!」
そんな桐生の親心を知ってか知らずか、スバルはカチカチと配膳されたフォークとスプーンを打ち鳴らして催促を始める。
「……躾がなってないわね。もって優雅に典雅に待てないのかしら」
非難するような視線を桐生へ送るベアトリス。
無論謂れのないものなのだが、一応現状保護者の立場にある桐生としては反論できない。
「スバル、ガキじゃねえんだ。もう少し我慢しろ」
「えぇー、叔父貴って意外とそういうの厳しいのな」
口を尖らせてスバルは手を下ろす。
元からこうなのか、異世界という非常感が背中を押して暴走しているのかは分からないが、スバルはどうにもお調子者が過ぎるというかせわしない。
「あはぁ、いいんじゃなーいかぁい? 子供は元気な方がいいって言うしねぇ?」
そうこうしていると、この屋敷の主であるロズワールが装いを新たにして現れる。
その姿を見た桐生とスバルの感想は一言『悪趣味』であった。
良くも悪くも目を引くような色合いとデザインの服装。端正な顔にはピエロの様なメイクが施されている。
装いまで道化を演出したような出で立ちは、まさに変人といったところだろうか。
そんなものだから、それに続いて姿を現したエミリアの姿は、特にスバルにとっては一層美しく見えたことだろう。
「ガキだからってなんでも許してちゃあ大人になってから困るもんだぜ」
「んん~、厳しい言葉。それは経験談かなぁ?」
「まあな」
一般的な常識や礼儀を知らずに苦労した経験は桐生には何度もあった。
そういった経験を誇らしげな武勇伝として語る人間も多く見てきたが、少なくともスバルにはそういう人間にはなってほしくは無いのが彼の心情だ。
「なるほどなるほどぉ、しかと心に刻んでおかなきゃねぇ。にしても――」
桐生への返答はそこそこに、今度は上座に近い席で静かにグラスを傾ける少女に目を向ける。
「おややぁ、ベアトリスがいるなんて珍しい。久々に私と食卓を囲む気になってくれたのかなん?」
「頭がお花畑なのはそいつだけで十分なのよ。ベティーは……」
「やぁベティー」
「にーちゃ!」
言い終える前に、パックの声が遮る。
ベアトリスはそれを不快に思う事もなく、親愛に満ちた声色を上げて立ち上がると愛嬌たっぷりの笑顔でパックの元へ走り抱き着いた。
「あはは、くすぐったいよベティー。いい子にしてたかい?」
「勿論! にーちゃに会えるのを心待ちにしてたのよ! 今日は何処にも行く予定は無いのかしら?」
「うん、大丈夫だよ。今日は久々に二人でゆっくりしようか」
「わーいなのよ!」
少女の変貌ぶりに目を丸くする桐生とスバル。
さきほどまでのクールな装いはどこへやら。すっかりと見た目相応の子供らしい様子でパックを抱きかかえくるくると回っている。
「なんだありゃ、猫の前で猫を被るとか狙いすぎじゃねぇ?」
「あはは、ベアトリスはパックにべったりだから」
パックを取られたエミリアはいつもの事だといった風でそう言うと、ベアトリスの向かいの席へ腰を掛けた。
「あ、エミリアたんそこに座んの? じゃあ俺も!」
「スバル、座る場所ってのは決まってるんだ。勝手に動くもんじゃねえ」
「えぇー、いいじゃんいいじゃん! 形式にとらわれてると、大事な物が見えねえぜ叔父貴!」
「あのなスバル……」
言おうとして口を噤む。
座る位置というのは社会では、更に言えば桐生が身を置いた極道の世界では非常に重要な物だ。
スバルのような態度をとってみようものなら、下手をすればその場で鉄拳制裁。むしろそれで済めば温いくらいかもしれない。
そしてベアトリスやエミリアの位置を見るに、異世界とはいえこの場でもそういった決まりごとは不思議と共通しているようだ。
ならば守らせるのが常識だろうと桐生は考えるが……。
「いーんじゃなぁい? スバルくんはエミリア様の隣の方がおーいしくご飯を食べれるようだしねぇ」
「な、ロズっちもそう言ってる事だしさ!」
「やれやれ……」
好きにしろばかりに首を振る桐生。
考えてみればこの場は極道の世界ではないし、まして屋敷の主が良いと言うのならば桐生からは何も言えないし言うべきでもない。
「ところでロズっちというのは私の事かな?」
「そうロズっち! いいじゃん色々と整いそうで!」
サムズアップを決めていそいそと移動を始めるスバル。
これには流石に桐生のみならずエミリアさえ憮然とした表情を浮かべるが、当のロズワールは何を気にする風でもなく
「いーぃじゃない、お二人とも。礼節は大事だけど、身内しかいない場で気にしすぎるのも食事を楽しめない。ああ、彼の言う通りだ」
それが屋敷の主の決定として決着がついた以上、誰にも文句を差し挟む余地は無い。
桐生とエミリアは小さくため息をつくと、気を取り直して配膳された食事を前に姿勢を正す。
やがてベアトリスも席に着き直し、しばし静かな間が流れると厳かな口調でロズワールが口を開いた。
「では、食事にしよう。――木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」
真剣な様子で手を組み何事かを呟くロズワール。
食事への祈りは世界共通なのだろうか、見よう見まねで手を組む桐生とスバル。
ちらりとスバルが周囲を見ると、皆熱心に祈りを捧げているのに気づいた。
意外と信仰に厚いんだな、もしエミリアたんと結婚したら入信しなきゃいけないのかな、でも家は無宗教だしなーなんてとりとめも無いことを考える。
ちなみに視界の端に映ったベアトリスの所作は至極ぞんざいなものであったため、この世界の誰もが信仰に厚いわけではないのが見て取れた。
「それじゃ二人とも、召し上がれ。こう見えてレムの料理はちょっとしたものだからね」
やがて儀式も終えたのか楽な姿勢になると、ロズワールは二人へ食事を勧める。
待ってましたとばかりに逸る心を抑えて食器を手に取る桐生の前に並ぶのは、ちょっとしたものなどと謙遜が過ぎる程見事な料理の数々だ。
あまり得意ではないフォークとナイフを使い、大昔に仕込まれたテーブルマナーの知識を掘り起こして恐る恐る料理を口に運ぶ。
「……美味い」
思わず出る一言。
メニューこそ元の世界でも一般的な洋食とほぼ同一だが、その味は格別だ。
一流のホテルと比べても遜色ないと確信するほどに素材も調理も一流なのが桐生にもわかる。
「普通以上にうめえ!」
スバルも桐生と同様に、こちらは一般家庭の様に気取らず、オムレツを乗せたトーストを素手で掴んで頬張ると素直な感想を口にする。
飲み込んでから喋るよう桐生は言おうと思ったが、スバルの賞賛に指で作った狐(恐らくVサインのようなニュアンスだろうか)で嬉し気に応える青髪のメイドを見るとそれも野暮だと思った。
同時に、我ながら随分と口うるさくなったもんだと自嘲する。
そしてそんなスバルの無神経さがむしろ新鮮で心地よいのか、ロズワールも気を良くしているようでメイドを交えた四人の会話が弾む。
そんな様子を眺め、桐生はふっと笑うとナイフとフォークを置いてトーストを掴むと慣れた様にかじり頬張った。
「ふふ、カズマもそっちの方が楽なんだ?」
「まあな。色々と教えられてきたが、こういう根っこだけは変わらねえみたいだ」
スバルはロズワールたちと、パックはベアトリスとの会話に夢中になり手持ち無沙汰になったのか、気づくとエミリアが桐生の隣へやってきていた。
「ふふ、でもその方がカズマらしくていいと思う」
「おいおい、それじゃあさっきまではどうだったんだ?」
「んー……」
顎に人差し指を当て、小さく上を向いて可愛らしく思案すると、ふふっと笑う。
「なんていうか、怒らないでほしいんだけど……、おっきな手で不器用にナイフとフォークを使ってて……熊さんが食器を使って食事してるみたいで……ふふっ」
言いながら再び笑いを溢すエミリア。
どうやら自分では上手くやっていたつもりが、周囲には随分と滑稽に映っていたようだ。
「……やめてくれ、恥ずかしくなってきた」
「ふふふ、いや、あのね、変じゃないんだよ? ただ、顔に似合わず仕草が可愛らしくて、く、ふふっ!」
さり気に失礼なことまで言いながら笑いをこらえきれないエミリア。
だがむしろ桐生には顔が怖いよりも可愛らしいなんて言われる方が余程珍しいし気恥ずかしい。
「……勘弁してくれ」
余りの気恥ずかしさにそれくらいしか言葉が出ず、顔を背けて笑いをこらえるエミリアの横で、桐生はぶっきらぼうにトーストの横に添えられたリンガを齧る。
リンゴに似たそれは味もまた、桐生の心中のように甘酸っぱかった。