「それで、お二人はこの国の事情についてどの辺りまで把握してるのかなぁ?」
歓談も落ち着き、各々が元の席で食後の紅茶を楽しみ、或いは首を傾げては落ち着いた時間に身を浸していた頃。
ロズワールは桃色の髪のメイド、ラムから受け取ったナプキンで優雅に口を拭きながらおもむろにそう口を開いた。
「正直何一つ」
紅茶を口に含んで舌の上で転がしては、渋い顔をして首を傾げるスバルはあっけらかんとそう答えた。
それで大丈夫なのかと桐生は少し心配になるが、ロズワールはその答えを予想していたようにうんうんと笑顔を崩さずに頷く。
「まぁラムから君たちについて多少聞いていたからそうだろうとは思ったけどねぇ。にしても不思議だ、よくもまあそんな状態で入国審査を通ったものだぁねぇ?」
「まあある意味密入国みたいなもんだしな……」
「おいおい、間違っちゃいねえが……」
言い方ってもんがあるだろうと桐生は口を挟む。
「カズマの言う通りよ。もしも私が管理局に通報なんかしたりしたら、二人ともぎったんぎったんにされて牢屋に入れられちゃうんだから」
「ぎったんぎったんって今日日聞かねえな」
お決まりの文句で茶化すが、エミリアはいつも以上に真剣だったらしく、むぅっと顔をしかめる。
どうやら本気で心配してくれていたようで、スバルは少しバツが悪そうに頭を掻いて内心反省する。
「あんたの質問にはスバルが答えたとおりだ。それで、そんなことを聞いてきたからには、色々と教えてくれるって事か?」
黙ってしまったスバルの代わりに今度は桐生が口を開く。それもスバルの様に単刀直入に。
色々と探りながら会話を進めようかとも考えていたが、どうもロズワールが相手だと言い包められる予感しか無い。
ならばいっそ、彼の様に遠慮なく核心に触れながら話す方がマシだと判断しての事だ。
「んん、切り込んできたねぇ。そっちの方がらしいんじゃないかぁい?」
「まあな。こいつがこんなもんだから、柄にもねぇ事ばかりしなきゃいけねえと思ってんだがな」
ポンと隣に座るスバルの肩を叩くと、口を尖らせて目線だけで静かに抗議してくる。
桐生はそれを無視して話を続けた。
「で、どうなんだ? 予想通りって事は、今更通報されるなんて事はねえんだろう?」
「あはぁ、それはどうかな? ロズワール・L・メイザースと言えば王国きっての変人だ。犯罪者を歓待して気分良くしたところを突き出して愉悦に浸る、なんて事もあるかもしれないよぉ?」
「もう、ロズワール!」
趣味悪く笑うロズワールをエミリアが窘める。
「ははは、まあ概ね君の言う通りさぁカズマくん。今更君らを密入国者として扱うつもりはないよ。例えそれが私の義務であっても、ねぇ?」
言い終えたロズワールがにたりと不敵に笑う。
この意味が分かるだろう? という挑発さえ感じさせる表情だ。
「……その分働いてもらおうってわけか」
「今この国の情勢は非常に厄介な事になっている。そんな中現れた身元不明の密入国者。もし見つかれば――」
こうだ、とばかりに首に手刀を当ててぐえっと舌を出す。
おどけた仕草であるそれはしかし、和やかだったその場に独特の緊張感をもたらした。
「………」
スバルはじっとりと背中が濡れるのを自覚する。同時にエミリアも、その発言がどこまで本気なのか量りあぐね口を挟めずにロズワールの表情から目が離せない。
両脇に控えるメイドに変わった様子はない。だがその奇妙な空気の中微動だにせず侍るその姿は、より一層異質な雰囲気を演出する。
そんな中静寂を切り裂く様に口を開いたのは――。
「ぷっ、あはははは!」
ロズワールだった。
「ろ、ロズワール?」
エミリアは突然の爆笑に困惑する。
彼女の向かいで、ベアトリスは
「下らない茶番なのよ」
と一言吐き捨てた。
「いやぁごめんごめん、ほらぁこういう真剣なお話になるとつい茶化したくなっちゃうのが私の性癖でねぇ」
「んだよロズっち! 本気でビビりかけちまったじゃねえか!」
「というか本気でビビってたよねー。ね、リア?」
「あ、おいパック! プライドがあるんだぜ男の子にはよぉ!」
趣味の悪い悪戯と判明して堰を切った様に賑やかになる食堂。
だがしかし、そんな喧騒の中桐生ただ一人だけが緊張を崩せずにいた。
「ま、そーいうわけだからぁ」
立ち上がり、スタスタと桐生の元へロズワールが歩み寄る。
何事かと注意を向けるスバルを尻目に、彼は二人にしか聞こえない様な声で耳元でそっと呟いた。
「お呼びじゃないよ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「つまり、王族の関係者が軒並み死んじまった今何かしらの方法で王様を選出しなきゃいけないって事か」
「そのとぉり、中々賢いねぇ君」
スバルを中心とした状況確認はトントン拍子で進んでいく。
ロズワールの話を纏めるとこうだ。
現在、このルグニカ王国には国を纏める王が不在である。
本来ならば直系、或いは傍流の血縁者が跡を継ぐのが慣わしだが、不運な事に流行病によってその悉くが根絶やしにされてしまったのだという。
現在は賢人会と呼ばれる組織で王国を恙なく運営しているものの、王不在の王国などあってはならないという事で新たなる王の選出を計画している。
というのが、先ほどロズワールが述べていた『厄介な事』のあらましである。
それを聞いていた桐生はある一つの予想へ辿り着いていた。
それは、何故ロズワールがエミリアに対し敬称を用いているのか。
初めて聞いた辺りから気にはなっていた事だが、これらの事情を聴いてようやく合点がいく理由が思いついた。
それはきっと、自分たちが今これだけの厚遇を受けている理由、そしてこれからの身の振り方について大きく関る事柄であることは間違いない。
……だが、桐生はそれを口には出さない。
それをこの屋敷の主は望んでいないだろうからだ。
「えっと、エミリアたんってばつまり」
「今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね」
桐生に一足遅れて辿り着いた答えをエミリアは肯定する。
そのやり取りを見るロズワールの表情は心なしか満足げ。そしてそれを見る桐生の心中は穏やかではない。
理由は分からないが、彼は桐生の主導による事の進展をよしとせず、スバルによるそれを望んでいる様に見える。
それが何を意味するのかまでは彼にも考えが及ばないが……
「んで? わざわざそんな重要な話をしたって事は、叔父貴の言う通り何かしらの意図があるんじゃねえか?」
「その通り、やっぱり優秀だねぇ君は。その通り、さっきの女王様候補のお話と君の―― ああいや、君たちの処遇に関しては大いに関係がある。エミリア様」
「うん、わかってるわ」
そう言ってエミリアが懐から取り出したのは竜を模った徽章。
スバルと彼女を結びつけた縁の品でもあるそれは、持ち主の手の上で飾られた宝石が淡く輝いている。
「この国は『親竜王国ルグニカ』と呼ばれていてねぇ、竜は様々なシンボルに使われている。だがその徽章はとりわけ大事だ。なぁにせ……」
「王選参加者の資格。それを持つ者を選び、与えられる王候補の証なの」
「なっ……!」
エミリアの口から放たれた衝撃の事実に、口を噤んでいた桐生も思わず驚愕の声が漏れる。
スバルも同じようで、目を剥いて口を開いたまま絶句している。
「じゃあ、なんだ? そんな大事なもんを無くしちまってたって事か?」
桐生の問いにエミリアは気まずそうに目を逸らす。
それがある意味命と同じくらい彼女にとって大切な物だろうことは、取り返すために命を張った二人も想像はついていた。
だがしかし、彼女にとってどころか一国の命運さえ左右しかねない一品だとは思いもよらなかった。
「その、無くしたんじゃなくて……手癖の悪い子にとられただけ、だから」
叱られた子供の様に、バツの悪そうな顔で言い訳をするエミリア。
そんな彼女に「一緒だーー!」というスバルの渾身の突込みが入ったのも無理からぬことだろう。
「成程な、エミリアたんが孤独のロンリーウルフに徽章を探していた理由にようやく合点がいったぜ。そんな大事なもん無くしちまってたらテヘペロなんかじゃすまねえし、そんなのが知られたら王候補としての資質まで疑われちまう。……ん? もしかして俺らってば滅茶苦茶ファインプレーだったんじゃね?」
「ふぁいんぷれぇ?」
「いい仕事したって意味だよエミリアたん!」
「うんうん、いい仕事って意味ではまさしくその通りだねぇ」
ロズワールの肯定と共に自分たちの功績の大きさを再確認したスバルの気分は一気に有頂天になる。
彼はその場から立ち上がり、エミリアの元へ近づくと彼女の顎を指先でくいっとひいて
「ふっふっふ、これはもう何を要求されても文句は言えませんなぁエミリアたん?」
「……うん、スバルとカズマには命を救ってもらうよりもずっと大きな恩を貰った。だから……私に出来る事なら、なんだってする」
軽薄に迫るスバルとは対照的に覚悟さえ感じさせる真剣さで答えるエミリア。
その温度差を感じ取ったスバルは反射的に(しまった)と心の中で呟いた。
彼は空気を読む事は苦手だが、『空気が読めていない時の空気』に対しては非常に敏感なのだ。
「あぁ、いやぁ……その」
どうしたものかと目を泳がせ、その視線の終着点は桐生へ行き着く。
その視線の意味は「何とかして叔父貴!」の意だ。
それに対して桐生は「自分のケツは自分で拭け」とため息交じりに目を伏せて答える。
「あ、あはは、女の子が何でもなんて言っちゃあいけないぜ? まして思春期の男の子にそんな事言っちゃあムフフやでへへな事をされちゃうかもよ?」
「……いいよ、スバルがそれを望むのなら」
目を伏せ、拳を握りしめて答えるエミリア。その様子はもはや悲壮感すら感じさせる。
軽薄な空気に持ち込もうと軽口を続行したスバルの思惑は完全にドツボにはまってしまったのである。
「う~ん、お邪魔なら退席しようかぁ?」
「いらねぇよ! ってか初めての場所が食卓とがどんだけだよ! この銀食器を何に使わせようってんだ変態悪徳貴族!」
「いや、私もそこまでは言ってないんだけどねぇ……」
「うるせぇよ! 大体お前はなんなんだ! エミリアたんにこんな顔をさせるなんて元はと言えばお前の職務怠慢が原因と言えなくもないんだぜ! 事と次第によっちゃ労働基準局への通報も辞さない!」
最終手段として責任転嫁でお茶を濁そうとするスバル。
その場の誰もが一言突っ込みたくなったであろう事は想像に難くないが、このままでは事態が進まないと思ったのか、水を差す者は誰一人いなかった。
「まぁエミリア様のお顔を曇らせた犯人が誰かはひとまず置いといて……、スバルくんの言う事にも一理あるねぇ」
「だ、だろ! 大体俺が初めてエミリアたんと出会った時は王都で一人だったんだぞ! 仮にも王候補なんてVIPを単独行動させるとか防犯意識に欠けるとは思わないかね!?」
「あれ? 私とスバルが初めて会ったのって盗品蔵だったよね?」
「似た様なもん! はい次!」
とりあえず進展した状況を勢いで押し込もうと捲し立てる。
苦し紛れから飛び出た発言だが、その内容は確かに的を射ていた。
「いや全くその通り。……一応、ラムが護衛として傍についていたはずなんだけどねぇ?」
苦笑交じりに襟元を弄りながら脇に侍るラムに目を向ける。
彼女は桃色の髪の分け目をひっくり返し、レムに扮した体で平然とたたずんでいた。
「いや、髪の分け目を変えても色で丸わかりだからな。なに『しめしめ、誤魔化せたぞ』みたいな顔してんだお前」
一連の流れは冗談交じりではあったものの、非難と怒りだけは真剣だった。
なにせスバルや桐生が現れなければ、真実エミリアは殺されていたのだ。
それを誰よりも身をもって知るスバルにとっては、ラムの職務怠慢は軽々しく看過する事は出来ない。
そんな気持ちでなんとか謝罪の一言でも引き出そうと二の句を告げようとするスバルだったが、その前に反応したのは他ならぬエミリアだ。
「あの、悪いのはラムじゃなくて……私なの。その、好奇心に負けちゃってっていうか、フラフラとラムから離れて」
スバルは心の中で即座に前言撤回。防犯意識に最も欠けていたのはエミリアだったようだ。
「ま、エミリア様の軽率さはさておき、ラムが役目を果たせなかったのは事実だ。そしてその尻拭いを君がしてくれたのもまた事実」
「おいおい勘違いしちゃいけねえ。尻拭いしたのは俺と叔父貴だ」
「……失礼。つまり君たち二人にはエミリア様ならず我々ロズワール家の失態さえも救ってもらったわけだ」
「そういう事になるな。って事はつまりだ、俺と叔父貴にはエミリアたんだけでなくお前らにも恩を返してもらう権利があるわけだ」
「認めよう。全く持ってその通りだ。ではその上で問いかけよう」
ロズワールは真剣な面持ちで立ち上がり、その長身でスバルを見下ろす。
負けじと見上げるスバルもまた臆する事無く彼と向き合う。
強張った空気が場を支配していた。
はらはらと手を組んで成り行きを見守るエミリア。
謝意と敵意がない交ぜになった目でスバルを睨む双子。
我関せずといった様子でパックと戯れるベアトリス。
そんな中、当事者の一人でもある桐生もまた、口を挟まずにスバルの動向を見守っている。
「君は私に何を望むのかぁな? 君の言う通り君たちには権利が、そして私には恩を返す義務がある。金銀財宝、酒池肉林。いかなる要求にも答えようじゃないか」
「男に二言はねぇな?」
「凄い言葉だ。いいだろう、男に二言は無い、全くその通り」
言葉の撤回さえ許さぬ言質を取り、いよいよ緊迫する二人を取り巻く空気。
果たして一体何を要求するのかと一同が注視する中、スバルは――
「よし、じゃあまず俺をこの屋敷で働かせてくれ」
あっさりと、そう言い切った。
「す、スバル……?」
不愉快そうなベアトリスと、唖然とする残る女性陣、中でも驚いたのがエミリアだった。
彼女は口をパクパクさせて困惑する。
「ん、なんだいエミリアたん?」
「な、なんだじゃなくて!」
変わらぬ調子で振り向くスバルに、エミリアは思わず机を叩いて立ち上がってしまう。
だが彼女の感情の爆発は収まらない。勢いもそのままに彼女はスバルの元へと詰め寄ると、彼の胸先へ人差し指を突き付けて捲し立てる。
「今もそう! パックの時もそう! ううん、私の名前を聞いた時だってそう! スバルには、カズマだってそう! 欲が無さすぎるの! 二人とも私の感謝の気持ちが全然分かってない! そんなんじゃ私、いつまでたっても恩を返せないのに……」
「エミリアたん……」
最後には弱々しく俯いてしまうエミリアにスバルは自省する。
彼女の感謝、そして負い目を自分はくみ取ってあげられなかったのだと。
僅かな間気まずい空気が流れる中、ロズワールの咳払いが響く。
「ごほん、エミリア様のお言葉ももっともだ、私だって驚いている。……ちなみに、カズマくんの望みは?」
「金銀財宝ってのも魅力的ではあるが、今のところは俺もスバルと同じ望みだ」
「……っ!」
「だが、勘違いしないでくれエミリア。少なくとも俺は、打算抜きでこんな事を言ってるわけじゃねえ」
「……どういう、意味?」
「この際だからはっきり言うが、俺もスバルも今は色々と厄介な身だ。探られたくねえ腹を探られるのを避けるためには、金よりも後ろ盾が欲しいのが現状だ」
「なぁるほど、一理ある。そして運がいい。君達は知らないだろうが、宮廷魔術師の後ろ盾は身元の保証としてはこれ以上ないモノだ。安心すると良いエミリア様。彼の要求は私達の恩と充分に釣り合っている」
「なら――」
「だが、君らの要求を飲むのには一つだけ条件がある」
唐突に突き付けられた言葉に桐生の言葉が遮られる。
だが、その事に誰よりも驚いたのはエミリアだ。
彼女は目を見開き、ロズワールの言う条件など想像もしていなかったといった様子だ。
「ちょっとロズワール!?」
思わず声を荒げてしまうエミリアを横目にロズワールは言葉を続けた。
「まずスバルくんの願いは承った。当家の使用人として快く迎えようじゃぁないか。だが――カズマくんの願いを聞き入れる事は今は出来ないねぇ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おいおい話が違うじゃねえかロズっち!」
「ロズワール、カズマはスバルと同じくらい私の命を助けてくれた恩人なの。なのに一体どういうつもり?」
突然の拒絶の言葉に我先にと食って掛かったのはスバル。次いで真意を確かめようとエミリアが問いかける。
対して冷静なのは桐生本人だ。
彼は何となくではあるが、こうなる事、或いはそれに近しい状況になる事を半ば予想していた。
さて、そんな二人の糾弾を受けたロズワールは「勘違いしないんで欲しいんだぁけど」と前置きして
「願いが聞けないというのはあくまでも『今は』の話さ。いやいや、金銀財宝程度なら今すぐにでもプレゼントしてあげられるんだぁけど」
そう言うと彼は両脇の二人のメイドを両腕で抱き寄せた。
「見ての通り、当家はこの二人の働きで切り盛りしている。そしてそれはエミリア様も知っての通り生半な負担じゃぁない」
「つまり、これ以上客が増えると二人じゃ回らなくなるって言いたいのか?」
スバルの問いに深い頷きをもって返す。
そんなロズワールに疑問の声を上げたのは意外にも先程まで基本的に沈黙を保っていた二人のメイドの内の一人、レムであった。
「ロズワール様、レムは――」
「レム」
メイドとしての矜持か、或いは見くびらないでほしいという自負か。問題は無いと言いかけたレムであったが、その言葉はラムの一言によって遮られる。
「姉様……」
「……」
それきりラムは再び先程と同じ様に口を閉じる。
そこに何かしらの思惑を感じ取ったのか、レムもまた意見を取りやめ沈黙する。
「もぉちろん二人なら何の問題も無いことは分かっているよ? けれど負担が大きくなるのは事実だ。まして新人が一人増えるとなるとねぇ?」
「あ……」
気づいたエミリアは声を上げてスバルを見やる。
その視線に首を傾げるが、ワンテンポ遅れて気づいたスバルは
「もしかして、俺のせい……?」
「そこまでは言わないけどねぇ?」
白々しく否定するロズワールだったが、言いたい事はまさにそれだろう。
「ま、そぉいうわけだからぁ、今すぐカズマくんを受け入れるのはこの子たちの負担になる。だから、それはスバルくんがせめて半人前になるまで保留って事でどうかなぁ?」
「待ってロズワール、それじゃあそれまでの間カズマはどうするの?」
「心配ご無用、アーラム村へ手紙を送っておくからしばらくはそこの宿で滞在してもらうさ。いいかなカズマくん?」
「……構わねぇ、スバルがさっさと仕事を覚えてくれりゃあいい話だからな」
「お、おうよ! 任せてくれ叔父貴! 黄色いハンカチ掲げて待ってるぜ!」
ポンと肩を叩く桐生に空元気と微妙に古いネタで応える。
エミリアも申し訳なさそうにしているが、桐生としては全く気にはしていない。
彼にとって気になるのは自分の処遇よりもむしろ、ロズワールの真意であった。
桐生は先程のロズワールの言葉を嘘だと考えている。
勿論負担が大きくなるのは事実だろう。だがそれはあくまでも理由付けの為に引っ張ってきた適当な理由だ。
彼が桐生の逗留を断った理由と真意はきっと、別のところにあるはずだ。
だがきっと、そんな考察さえも彼は良しとしないだろう。
彼の発言と態度には、まるでスバルを取り巻く物語から桐生を極力排除したがっているような、そんな様子さえうかがえた。
(ま、考えすぎって線もあるが……)
断言するには材料が少ない。
単に桐生の考えすぎという可能性も否めないし、変人特有の気紛れという可能性も大いにある。
改めて桐生は雑念を排除した瞳でロズワールを見据える。
「どうしたんだい?」と答える彼の表情には初対面で感じた警戒も嫌悪も感じさせない。客人へ対する至って普通の穏やかな表情だ。
そこから何かしらの思惑を読み取ることは出来ない。だが、たった一つ……。
深い深い、深淵の様な瞳だけは、道化の装いの奥にある彼の本性の一端を隠しきれていないように桐生は思えた。
お気に入りや感想、評価、誤字報告大変励みになっております。本当にありがとうございます。