Re:ゼロから始める極道生活   作:勘兵衛

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異世界は極道と共に

「色々と聞きたい事はあるが……」

 

「ああ」

 

 人混みと喧騒で賑わう大通りを二人で並んで歩く。

 黒髪に見慣れない装束。そして揃って目つきの悪いその風貌に、すれ違う人々は親子か何かと見紛うだろうか。

 だが二人はほぼ初対面だ。

 互いの名前以外はその人となりも、出身すら知らない。

 だが不思議とお互いには奇妙な連帯感が生まれていた。

 それはおそらく、これから問いかける質問とその答えに理由が隠されているだろう。

 

「叔父貴ってどこから来たんだ?」

 

「叔父貴ってなんだ、オジキって……」

 

 そんな核心をつく質問よりも先に、唐突に呼ばれたその呼び名に出鼻を挫かれる。

 

「いいじゃん叔父貴! なんかそれっぽいし!

 なんかこう、ヤクザの組長って感じがするからさ!」

 

 的外れではないスバルの抱く印象に感心しつつも苦笑いを浮かべる桐生。

 どうやら初対面の印象通り、彼は随分とお調子者らしい。

 

「桐生組若頭筆頭! ナツキスバルでござんす! なんてどう?」

 

「それだと叔父貴じゃなくて親父なんだがな」

 

「へ、なんか違うの? ってか叔父貴ってやっぱⅤシネとかそういうの好きなの?」

 

 どうやら大分浅い知識で語っているらしい。

 まあ、そんな業界の事は知らないに越したことはないし、関わっても何も良い事は無い。

 わざわざ教えてやるのも野暮だろうと思い、桐生は「まあ、そんなもんだ」と肯定する。

 

「んで、さっきの質問だけど……」

 

 自分から話を逸らしながらも答えを早く求めているのか路線を修正するスバル。

 今度は真剣な顔をしており、茶化すつもりはないようだ。

 

「日本だ」

 

「やっぱり!」

 

 合点を得たとばかりに手を叩くスバル。

 その様子ならば、問い返さずとも答えは同じの様だ。

 

「ついさっきまで沖縄にいたはずなんだがな。気が付いたらここにいた」

 

「沖縄!? マジで!? 俺も似た様な境遇だけど、俺がいたのは埼玉の端っこの方だぜ」

 

 どうやら二人の境遇は同じだが、それ以前にいた場所は大分違うようだ。

 距離にして千数百キロ。同じ災難に見舞われるにしては距離が遠すぎる。

 

「スバルは心当たりはあるか?」

 

「全然。さっきも言ったように気が付いたらここにいたんだ。何の前触れもなく、ちょっと視界が滲んだかなーって今にしたら思うくらい」

 

「同じくだ。……どうやら考えても答えは出そうにもないな」

 

 突然の移動にお互い解明する手立ても思い当たる節もないらしい。

 ならば考えるだけ時間の無駄だ。

 そうなれば今度は別の疑問に移るのが建設的だと、そう判断し今度は桐生から質問を投げかける。

 

「ここは一体何処なんだ? ルグニカってのは分かったが、そんな名前は聞いたことがねえ。日本じゃねえのは確かだが、建物の様子じゃアジアでもなさそうだ」

 

「何言ってんだ? 異世界に決まってんじゃん」

 

「いせ……かい?」

 

 あっけらかんと答えるスバルに、桐生は若干の戸惑いを見せる。

 

「ああそうか、叔父貴そういうのあんま詳しくなさそうだもんなー……」

 

困惑する桐生に、合点がいったように一人でスバルは納得している。

どうやらスバルにとっては、割と常識的に近い事実らしい

 

「叔父貴も見たろ? 獣みたいな人間、まあ基本的にはああいうのは亜人って言うんだけど

 それに竜が引く車や魔法。どれも俺達がいた世界じゃありえないものばっかだ」

 

 前二つは見た事があるが、魔法というのはまだ見たことが無い。

 だがスバルの言葉から察するに、彼は実際にそれを目にしたのだろう。

 

「となれば、ここは異世界

 俺達はいわゆる異世界転移ってのに巻き込まれちまったんだよ」

 

「異世界、転移……」

 

 スバルにとっては馴染み深い言葉の様だが、サブカルに明るくない桐生にとっては飲み込むのに時間のかかる事実と単語だった。

 数少ないSFや漫画の知識を総動員して、これまでに苦し紛れに立てていた推論が『タイムスリップ』であった。

 よくわからないが、何かの拍子に自分はどこか違う国の違う時代にでも飛ばされたのだろうと。

 現実には一笑に付すありえない推測だが、事実目の前に広がる光景はそうとしか説明がつかないと思っていた。

 

 だが、異世界。

 

 今まで生きてきた日本、いや地球とは全く別の『世界』だと言うのだ。

 それが事実かどうかはまだ分からないが、成程。

 タイムスリップなんかよりも余程しっくりくるように思える。

 ましてまだ目にしていないが、魔法みたいなものが実在するとなれば尚更だ。

 

「随分と、冷静だな」

 

 そうして何とか情報をかみ砕き、押し込むように事実を受け入れると、今度はスバルに疑問が浮かぶ。

 見たところ年齢は青年と呼ぶにもまだ若い。体つきは思いのほかしっかりしているが、あどけなさの残るその顔は

せいぜい高校生がいいところだろう。

 そうなれば、突然こんな事に巻き込まれればパニックの一つも起きそうなものだが。

 

「まあ、色々と妄想はしてたしな。イメトレはバッチシよ!」

 

 そう言ってサムズアップするスバル。

 よくわからないが、こうなる事を常日頃から想定していたという事だろうか。

 だとすればこの落ち着きようも何となく理解できるが、しかしそんな事態を想定しているという事実の方が今度は解せない。

 それとも今の若者にとってはそれが常識なのだろうか?

 幼い頃から面倒を見ていた想い人の忘れ形見、遥という少女もまた内心で異世界に転移することを常日頃から想定していたのだろうかと疑問が沸き上がる。

 

「まあ、若い連中の考えてる事は流石に分からねえが……」

 

 両親は良いのか? と尋ねそうになり、そこで言葉を止める。

 わざわざ辛い事を思い出させる必要もないだろうと桐生は判断した。

 今はこうして明るく振舞っているが、両親の事を思い出してホームシックになればスバルとて辛いだろう。

 もっとも桐生は知らないが、今のスバルにとってはそれは杞憂であったのだが。

 

「叔父貴の方こそ良いのか? 残してきた家族とか心配にならねえの?」

 

 そんな桐生の気遣いなど知った風もなく、スバルは桐生が聞きづらかった事を何気なく尋ねてくる。

 悪気が無いのは分かるが、色々と軋轢を生みやすい性格なんだろうなと桐生のスバル像がまた一つ更新された。

 

「気になる事がない、というのは嘘になるな

 だがまあ、俺がいない方が色々と都合がいい事の方が多いんだよ」

 

 どこか遠い目で、桐生は紛れもない事実を口にする。

 そんな桐生の様子を流石に慮ったのか、スバルは茶化すようなことはしなかった。

 同時に共感も得る。

 スバルもまた、事実はどうあれ自分がいない方が都合がいいと考えていた節があったのだ。

 

(つまり、鼻つまみ者どうしって奴なのか?)

 

 期せずして露見した二人の共通点にスバルは思いを巡らす。

 対して桐生は、既に別の疑問に思考を切り替えていた。

 

「まあ、現状については異世界に来た、って事が分かっただけで大分気が楽になったぜ。ありがとよスバル」

 

「叔父貴に褒められると照れちまうぜ」

 

「だが、実はもう一つどうにも理解できねえことがある。その、なんだ……」

 

 言っても良いかどうか、非常に判断がつき辛く歯切れの悪い物言いになってしまう。

 スバルの心情がどうとかではなく、単純に質問自体があまりにも訳の分からないものだったからだ。

 

「スバル、お前……死ななかったか?」

 

 色々考えた末、結局率直に桐生はそう尋ねた。

 何を馬鹿なことをと笑われるのは承知だ。

 だって死ぬも何もこうしてスバルは生きているのだ。

 先程から呼吸をし、歩き、話、時には笑い調子のよい軽口を叩く。

 これが幽霊だというのならば、桐生の幽霊観は大きく革命を起こすだろう。

 

「あー。やっぱりか……」

 

 だがスバルは笑う事もなく、むしろ納得がいったような様子で頷いた。

 

「やっぱりだと?」

 

「いや、路地裏で二度目に会った時に俺の事を知ってた時点でもしかしたらとは思ってたんだ。

 トンチンカンとのやり取りも覚えてたみたいだし、やっぱ一緒に召喚されただけあって叔父貴は特別なんだろうな」

 

 そう言って一人で理解を深めるスバル。

 対して桐生はスバルが得心する度に混乱が深まるばかりだった。

 

「……頭が悪くてすまねえ、出来れば分かるように説明してほしい」

 

「叔父貴が悪いわけじゃねえよ、こればっかりは実際に経験して……それでも理解するには三回も死んだわけだけどな」

 

「三回?」

 

「そ。俺は……『死に戻り』をしてるんだ」

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

『死に戻り』

 

 スバル曰く、彼は何かしらの要因によって死ぬ度にこの異世界へ来たタイミングにタイムスリップしているというのだ。

 知識や記憶、持ち物さえもそのままに。

 

「俺がここにきて死んだのは都合三回。それも全部あの女……エルザって奴の仕業なんだ」

 

 あの腸に異様な愛情を見せていた殺人鬼。

 桐生をして一抹の恐怖を感じさせるあの女に、スバルは三度も殺されていると語る。

 

「叔父貴と出会ったのは三度目の周回、つまりエルザに殺された二回目の直後だな。

 叔父貴の話から察するに、多分叔父貴が転移してきたのはその、俺にとって三回目のループのタイミングだな

 ってことはあれか? もしかして叔父貴って詰んでる俺へのいわゆるお助けキャラとかそういうやつ?」

 

 そうやって頷きながら状況を把握していくスバル。

 桐生はというと、先ほどから難しい顔をして必死に理解しようとするが、やはり突拍子もない事実にまだ思考が追いつかない。

 

「死んだら、人間はおしまいだ。やり直しなんか出来るはずもねえ」

 

 故にこの期に及んで最早反論足りえない常識論を口にするしかなかった。

 

「俺だってそう思ってたさ。けど……」

 

「いや、すまねえ。わかってはいるつもりだ。状況を見ればお前の言う事が一番辻褄が合うってのもな

 大体異世界がどうのなんて理屈がまかり通ってる時点で常識なんて口にしたってしょうがねえ。

 ……だがまあ、三度も死んでるだの聞かされると流石にな」

 

 誰かの死を看取った経験は何度もあり、その度に慣れる事無く辛い思いをしてきたが、流石に自分が死んだ経験は当然だがない。

 だが少年はそれを経験している、三度も。それも一度は桐生の腕の中でだ。

 それはどんなに辛いものなのだろう。

 死にそうな目にあった経験は何度もある。

 その度に苦しい思いをしてきた。それは痛みだけではない。死を迎えかねないという状況そのものが、肉体以上に心を蝕むのだ。

 それをこの年若い少年は三度も経験してきたのだという。

 桐生の知り合いの様にそれ自体を楽しむという人種もいないわけではない。

 死と隣り合わせの境遇に喜びを覚える狂人もまた確かに実在する。

 想像だが、きっとあのエルザという女も方向は違えどそういったタイプの人種だろう。

 

 だがこの少年はどうだ?

 

 見るからに平々凡々な、命をかけたしのぎ合いとは無縁に育ったであろう普通の少年だ。

 それを三度。下手をすれば心を病みかねない経験を三度も積み、それでもこうして明るく振舞っている。

 

「おわ!?」

 

 突如頭に置かれた厳つい手のひらにスバルが驚愕する。

 無意識に、突如湧き上がった隣を歩く少年に対して湧き上がった賞賛と父性に突き動かされ頭をなでていた。

 

「……辛かったな」

 

「う……」

 

「やるじゃねえか、大した男だぜお前は」

 

「……」

 

 抵抗することもなく、ほんの少し顔を赤くし……

 顧みるつもりは無かった自分の努力や無念が報われたような気がして、スバルの目にはほんのり涙が浮かんでいた。

 

「だ、ぁー! やめやめ! このまんまじゃ偽サテラじゃなくて叔父貴ルートに入っちまう!」

 

 やがて耐え切れなくなったのか、そんな言葉を叫んでスバルは桐生の手を振り払った。

 

「悪い、ガキ扱いしちまったな」

 

「いや、それはいいよ、実際ガキだし……。ただ頭を撫でられるのは、ほらちょっと、やっぱ恥ずい

 ってかこれっておかしくね!? こういうのって俺の役目っていうか、ラインハルトの時も思ったけど俺がヒロイン!?

 ナデポする側じゃなくてされる側とか異世界セオリー無視しすぎでしょうよ!」

 

 体をくねらせ、腰に手をまわして悶絶するスバル。

 どうやら異世界に対する彼の理想とは、現状全く異なる展開に進んでいるようだ。

 

「すまん、よく分からねえが……」

 

「いや、いい!叔父貴は知らなくていい世界なのです!」

 

「そ、そうか、ならいいが……」

 

「いいんだ! それより話を戻そうぜ!」

 

 そう言ってスバルは軌道を修正する。

 気づけば、桐生の心中からは戸惑いやスバルに出会う前に渦巻いていた不安が大分軽くなっていることに気づく。

 このまま真っすぐ、それでいて分別がつくようになれば人の中心になれる才能があるなと桐生は思った。

 

「ああ、そうだな。それじゃあ一つ疑問なんだが、なんだってお前はそうエルザに殺されてるんだ?」

 

 まず真っ先に浮かんだ疑問を口にする。

 一度ならず二度までも、いや三度にわたってスバルはエルザに殺されているという。

 記憶も経験も引き継ぐのならば、出会いそのものが危険なエルザとは鉢会わないよう彼女の行動範囲から離れるのが先決なのではないだろうか。

 実際現在も、前回あのエルザと出会い殺された貧民街へと歩みを進めているのだ。

 

「その疑問はもっともだし、俺だってあいつと会いたくはねえよ。あんな歩く死亡フラグ、どんだけ美人でも願い下げだ

 殺される理由は正直よく分からねえ。多分口封じとかそんなとこだとは思うけど……

 まあ前回に至っては完全に気まぐれっぽかったし、多分会う事自体が失敗なんだろう。

 けど、俺の目的を果たすにはどうしてもあいつが立ちはだかるんだよ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で語るスバル。

 どうやら事情は分からないが、彼にとってエルザとの出会いはどうしても避け難い出来事らしい。

 

「その目的ってのは、さっき言ってた人探しか?」

 

 ラインハルトの申し出に咄嗟に答えた内容を桐生は思い出す。

 誤魔化すための出まかせとも思ったが、それにしては銀髪だの白いローブだの具体的が過ぎる。

 これが信憑性を増すための咄嗟の後付けならば、桐生はスバルの評価をまた改める程に機転の利く人物という事になる。

 

 だが流石にそうではなかったようで、人探しは事実であったようだ。

 

「ああそうだ、ステラ……まあこれは偽名らしいんだけどさ。その子は大切なものを盗まれちまってるんだ。

 それはどうも強制イベントらしくて、何度繰り返しても同じ様に盗まれて困ってる。

 俺はそれを返してやりてえんだ」

 

「人助けか、見上げた根性だが……自分の命まで張るってのは少し行き過ぎてねえか?

 いくらやり直せるとしても、粗末にするのは褒められねえぞ」

 

「分かってるさ。そもそも次があるなんて保証もないからそれは俺だって、ちょっと怖い。

 けどさ……助けられちまったんだよ」

 

「なんだって?」

 

「助けられたのさ。この世界に飛ばされてすぐ、まだ一度も死んでない時の話だけどさ。

 あのトンチンカンの三人組に襲われたとき、その子は助けてくれたんだ。

 自分が大切なものを盗まれて困ってるってのに、一時を争う様な状況なのに足を止めて

 自分になんのメリットだってないのに無理矢理理由をつけて、俺を助けてくれたんだ」

 

「………」

 

「そりゃ俺だって自分が馬鹿だと思うさ

 知ってるか? 俺が持ってるこの携帯ってこっちじゃ滅茶苦茶高く売れるらしいぜ。聖金貨二十枚。

 それがどれくらいかはまだよく分かんねえけど、それを聞いたがめつい奴が目の色変えるくらいだしきっと相当だ。

 それを元手にすりゃ、この世界でウハウハハーレム生活だって夢じゃねえと俺は思うんだよな。

 だってほら、現代知識で常識を覆して異世界でちやほやされるのって定番じゃん?

 いやまあ、実際のところは現代の知識を再現出来るほど俺ってば賢いわけではねえんだけど……

 でも、もう少し安全なやり方ってのは実際に目の前にある」

 

「………」

 

「けどそれはあの子だって同じはずなんだ

 自分一人ならもっと効率よく探せるのに、俺みたいなのに付き合って無駄に時間を潰したり

 見捨てた方が賢明なのに放っておけなくて人助けしたり。

 そんな彼女に助けられちまったら、ほら。見なかったふりなんてしたら男が廃るって思わないか?」

 

 その表情はまるで恋する乙女の様に。

 スバルは助けてくれた少女の事を思い返し、それが自分にとってどれだけ大切で救われたのか。

 その少女がどれだけ愛おしいのか。

 桐生にはその語り口だけでスバルのその思い全てが余すことなく伝わっていた。

 

「覚えちゃいないんだろう? 死んじまったのなら、もうその子とは初対面なはずだ」

 

「それでも、だよ。例え彼女の中に俺を助けた事実が残ってなくても、俺の脳内メモリーにはしっかりと残ってる

 なら……ほら、理由としては充分っていうか」

 

 流石に少し恥ずかしくなってきたのか、最後は少し茶化して話す。

 それが妙に微笑ましくて、つい桐生はまたスバルの頭に手を置いてしまう。

 

「だから、撫でるのはやめてくれよ叔父貴……」

 

「すまねえ、だがお前の思いはよくわかった。惚れたんだな、その子に」

 

「ほ、ばっ!? 俺がそんなチョロイ男と思ったら大間違い! ……でもないです、まあそう、惚れたよ惚れちまったんだよ!

 悪いかよー! そんな理由で何度も死ぬなんてよー!」

 

「ふっ、悪くなんてねえさ。むしろ惚れた女の為にてめえの命を張るなんざ大したもんだぜ。立派だぞ、スバル」

 

「う、だからそうやって俺ルート開拓しようとするの止めてもらえません? そんな風に褒められたって嬉しくないんだからね!」

 

「だがまあ、実際に死んでるのは流石に擁護のしようがないが」

 

「あれー!? そこで上げて落とすの!?」

 

「ははは、まあいいさ。そういう事なら俺も協力しよう

 どうせ……やる事もないわけだしな」

 

「まあ、異世界に来て目的もないのは確かに辛いだろうしな。

 あれ、俺があの子の為に動くのが異世界で前を向く原動力になってる様に俺の面倒を見るのが叔父貴の原動力に?

 やべえやべえ、いよいよ洒落にならなくなってきた予感……」

 

 やる事も無い。

 スバルの軽口とは別に、桐生にとっての言葉は元の世界でも……非常に大きな意味を持つものであったが、それをスバルは知る由もない。

 

「まあでも叔父貴がいてくれるなら百人力だぜ!

 あのトンチンカンをボコボコにした実力があれば、エルザもなんとかなる! ……なりますよね?」

 

 最後は不安気にスバルはそう尋ねる。

 対して桐生は口元に手を当て、エルザの姿を思い返す。

 

 直接戦ってはいない。

 見たのはその狂気の滲む瞳と、スバルの腹を裂いた一太刀のみだ。

 

 判断材料は少ない。獲物は分厚く刃渡りの長い、こちらではどんな名前かはわからないが元の世界で言うククリナイフに近いもの。

 あのナイフの冴えを見るに、恐らくはかなり熟達した手練れだと桐生は見る。

 他に思い浮かぶのは、その場から立ち去ったときに見せた身体能力の高さ。そして殺人へ対する躊躇の無さ。

 それを鑑みて、己のコンディションと実力を照らし合わせる。

 

「……厳しいな、そう簡単にやられるつもりはねえが」

 

「えぇ……」

 

 落胆した表情で肩を落とすスバル。

 

「サシでやりあえば勝ちの目もあるだろう。だがお前を守りながらとなれば話は別だ

 それに俺はまだ見てねえが、魔法……なんてものを使われればそのサシでの条件もまた怪しくなる」

 

 百戦錬磨の強者とはいえ、魔法というものは桐生も経験がない。

 桐生にとってそれは、この世界での初めての殺し合いを想定するには不安すぎる要素の一つであった。

 

 だがそんな桐生の様子とは裏腹に、スバルは落とした肩を大きく持ち上げ、晴々とした表情を取り戻していた。

 

「サシなら勝てるってマジで? 流石叔父貴! いいぞいいぞ、ようやく光明が見えてきた!」

 

 拳を握りしめ、両手でガッツポーズを決めて満面の笑顔を浮かべるスバル。

 完全に都合のいい部分だけを取り上げて大喜びしている。

 不安要素の方が多いことを理解しているのだろうかと、桐生はスバルの不用心さに少し心配になってきていた。

 

「魔法ってのを使われればどうなるか分からねえって言ったろう。大体お前を守りながらも厳しいって言ってるじゃねか」

 

「大丈夫、俺の経験じゃあいつが使うのはナイフばかりだし、魔法を使う様子は無かった。

 俺を守るって点についてはお構いなく、自分の身は自分で守るくらいの事は何とかするぜ!」

 

 そう言ってサムズアップするスバル。

 この自信はどこから出るのだろうと桐生は不安になる。

 魔法を使わなかったのはその必要が無かったからではないのかとか、三度も殺されてる事実がありながら、自分の身は自分で守ると言い放つ自信はどこから出るのだろうか、更に言えばそもそも自分は勝てると断言したわけではないなど。

 果たして大物か或いはただの大馬鹿か。

 考えたくはないが、何となく今のスバルは後者ではないかと桐生は漠然と感じていた。

 

 だが考えても仕方がない、スバルの根拠のない自信はともかくこればかりは動いてみなければ埒が明かない。

 そもそも桐生自身リスクや手札を考え尽くして動くタイプではない。

 たまたま自分以上に無鉄砲なスバルがいるせいで、らしくもなく慎重になっているだけなのだ。

 

(いや待て、もしや俺の周りの奴らも同じ気持ちだったのか……?)

 

 奇しくも今更になってそんな考えに思い至り、ほんの少し申し訳なく思う桐生。

 

 そんなやり取りを続けている内に、二人は死せる運命の待ち受ける――貧民街へとたどり着いたのであった。

 

 




作者様回答ではスバルの家は埼玉の端っこみたいな田舎って意味だったけど、とりあえず埼玉の端っこって事にしました。
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