Re:ゼロから始める極道生活   作:勘兵衛

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道化の屋敷
ロズワール邸


「私が、彼を?」

 

 ロズワールの屋敷へ向かう道中、竜車の中でスバルと徽章に関する事の顛末を桐生から聞いたエミリアは、きょとんとした表情で首を傾げた。

 エミリアに助けてもらった恩を返すため、という理由に心当たりを探る彼女だったがいくら頭を捻っても思い当たる節は無い。

 腕を組んで可愛らしく唸り、いい加減そのままコテンと横に転がりそうなほどに体を傾けたあたりで桐生はエミリアに声をかける。

 

「まあ、自分でも知らねえ内に人に恨みを買うってのはままあるもんだ。なら、恩にだってそういう事もあるって事だ」

 

「そういう、事なのかなあ」

 

「そういうもんだ」

 

 そう言って桐生は、不憫な物だとスバルの境遇に思いを馳せる。

 エミリアと出会い助けられ、その恩を返すために彼女の大切な物を取り返した。本来ならば一つのロマンスとして成立するであろうその過程からは、エミリアにだけすっぽりと出会いの部分が失われているのだ。

 

 積み重ねた出会いも交わした言葉も感情も全て、自分以外の全てが、世界そのものにすら忘れられてしまう。

 死に戻りとはある意味、死よりも残酷なのではないかと桐生は思う。

 

 そんな辛い経験を重ね、ようやく目的を遂げ今は桐生の体に寄り掛かって安らかに眠るスバルを見て桐生は目を細めて薄く笑う。

 そして今度は窓から竜車の外へと目を向けると、既に白み始めた景色は先程まで走っていた森を抜け、周囲にはまばらに民家が見え始めていた。

 

「もうアーラム村まで来たのね、ロズワールの屋敷まではもう少しよカズマ」

 

「随分と早いんだな、竜車ってのは。四時間は走るって聞いたからてっきりもっとゆっくり進むもんだと思ってたぜ」

 

 流れる景色の速さに舌を巻いて桐生は感心する。

 正確な時速までは分からないが、これならば自動車と比べても遜色ないのではないだろうか。

 

「え、カズマは竜車に乗ったことが無いの?」

 

 そんな桐生の感想にエミリアは驚いた。

 それもそのはず、この世界における一般的な移動手段は竜車だ。

 今エミリア達が乗っている客車付きの豪華なものはともかく、幌で覆われた一般的な竜車にすら乗ったことが無いという人間はまず存在しない。

 

「え? ああいや、それはだな……」

 

 失言に気づき言いよどむ桐生。こう言った時に上手く誤魔化すのは桐生の苦手な部類だ。

 少し前まではその辺りをスバルが上手くやっていたのだが、そのスバルはむにゃむにゃと目の前の少女の名前を呟いて呑気に眠っている。

 

「ええとだな、俺達の地元では別の動物を使ってて……」

 

「そうなんだ? そういえばカララギの方じゃライガーが主流だって聞いた事があるわ。もしかして二人もそっちの方から?」

 

「あー、まあその辺りだ」

 

 ライガーもカララギも全く聞き覚えも無いし想像もつかないが、とりあえず桐生は相槌を打って誤魔化す。

 少々苦しいが異世界から来たなどと説明するよりはマシであろうとの判断であった。

 

「エミリア様、お屋敷が見えてまいりました」

 

 そうやって苦し紛れに質問をかわしていると、御者台の方から声がかけられた。

 そこにはメイド服を着た桃色の少女が手綱を握って座っており、彼女がぴしりとその手綱を叩くと、地竜はその速度を緩めて門の前で止まる。

 

 その門を隔てた先には手入れの行き届いた広大な庭園が広がり、その中央にはまさに貴族の屋敷といった大きな洋館が鎮座しており、ロズワールという人物はどうやら想像していた以上の大物なのかもしれないと、竜車を降りてその光景を見た桐生はそう考えを改める。

 

「お荷物をお持ちしますわ、エミリア様」

 

「ありがとうラム、でも大丈夫。それよりもスバルを運んであげて」

 

 御者台から降りてエミリアに傅くラムと呼ばれた桃色の髪の少女はそう言われると、桐生の元へと近づき手を差し伸べた。

 

「おにも……失礼、スバル様をお持ちするわ、お客様」

 

「それは構わねえが……」

 

 差し伸べられた腕はどう見ても細い。

 力を籠めればぽきりと折れてしまいそうな華奢なその腕で六十キロはありそうなスバルを運べるのかと桐生は心配そうにラムを見た。

 

「大丈夫よカズマ、ラムはすごーく力持ちなんだから」

 

「とのことですので、お気遣いなく」

 

「いや、だがあんた大分疲れているように見えるぜ」

 

 王都からここまでラムは四時間休憩も入れずに御者台に座って手綱を握っていた。

 あまり表情には出していないが、隠しきれない疲労がその顔にほんの僅か浮かんでいる事に桐生は気づき、心配する。

 だがラムはその心配は見当違いだ、といった風に

 

「お気遣いいただきありがとうございます。ですがお構いなく」

 

 そう言ってラムは返事を待たずに桐生からスバルを受け取ると、軽々と彼の体を担ぎ上げて屋敷の方へと歩いて行った。

 

「ではスバル様は客室の方へとお連れしておきます。後の事はレムの方へなんなりと」

 

 そう言ってスバルの重さを問題にもならないようにぺこりとお辞儀をすると、入れ替わるように門の内側から別のメイドが現れた。

 

「お帰りなさいませエミリア様、ええと、こちらの方は」

 

「カズマよ、王都でお世話になった命の恩人。丁重におもてなししてくれると嬉しいわ」

 

「そうでしたか。私ロズワール様にお仕えしておりますレムと申します。カズマ様、この度はエミリア様をお助けいただき主に代わってお礼申し上げます」

 

 恭しく礼をするレムの姿は所作も佇まいも完璧で、なによりその容姿はラムとうり二つであった。

 違いと言えば髪の色、ラムは赤くレムは青く、その短い髪で前者は左目を、後者は右目を隠しているといったところくらいか。

 

「桐生一馬だ。……しかしそっくりだな、双子か?」

 

「はい、レムは姉さまの妹です」

 

 どこか嬉しそうにそう言いながら、背筋をピンと伸ばし一糸乱れぬ装いでレムはエミリア達を屋敷の敷地へと招く。

 その後ろについていく桐生は門をくぐり中に広がる庭園を見て再び感嘆する。

 門の隙間から見えていた様子でもそれは見事な物であったが、内側から見るとそれはまた別ものであった。

 芝生や生垣は丹念に切り揃えられ、花壇から顔をのぞかせる美しい花々が目を安らがせる。

 噴水から流れる水はその庭園の美しさを一際輝かせ、その庭園を構築する全てが完璧なまでに調和していた。

 ロズワールという人物は大分変わり者とのことであったが、美的感覚においては随分と趣味が良いように桐生は思えた。

 

「見事なもんだ、よっぽど腕のいい庭師がいるんだな」

 

「ありがとうございます、ですが当家では庭師は雇っておりません」

 

「え?」

 

「このお屋敷に勤めているのはね、レムとラムだけなのよ」

 

 エミリアのその言葉に桐生は再び驚く。これだけ広大な庭を手入れするだけでも大変だろうに、今自分が向かっているのは数十は客室が用意されていそうな広大なお屋敷だ。

 彼女の言葉が本当なら、それらを全てこのレムとラムという二人のメイドが切り盛りしている事になる。

 

「大変だな、そいつは」

 

 桐生も一時とはいえ孤児院の面倒を見ていたため、一つの家の管理という苦労はよく分かっていた。

 あれは大変だったと思い返すとつい笑みがこぼれそうになってしまう。

 どれだけ奇麗に掃除をしても汚れはすぐに出てくるし、ちょっと目を離せば雑草なんかはすぐに伸び放題だ。

 決して大きいとは言えないあの孤児院でさえ、桐生にとっては一苦労だったのだ。きっと一人では間違いなく手が回らず四苦八苦していただろう。

 

「はい。ですがこうしてお客様に喜んで頂けたのならば苦労の甲斐もあります」

 

 と、何事もないかのようにレムはそう言うが、やはりこれだけの屋敷で二人だけなど常識的ではない。

 これだけの屋敷に領地まで持っていながら金欠とも考えづらく、何故他の家政婦を雇わないんだ? と桐生は尋ねようとして、寸前でその言葉を飲み込んだ。

 普通では考えられないが、そうしているという事はそれだけの理由や事情があるのだろう。

 出会ったばかりの自分が、不満を口にもしていない相手にそれを口出しするのは不躾だろうと判断しての事であった。

 

「……ありがとうございます、それでは改めまして、ようこそロズワール様のお屋敷へお客様。そしてお帰りなさいませエミリア様」

 

 桐生の配慮に気づいたのか小さく礼を返し、屋敷の入口まで辿り着くと、構えられた大きな扉を開き改めてレムはエミリアと桐生を招き入れる。

 

 その内部に桐生が再び感心したのは、言うまでもないことであった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「ふぅ……」

 

 泳げそうなほどに広い湯船に体を浸し、桐生は大きく息を吐いた。

 ひとしきり屋敷の中を案内され、客室をあてがわれた後にエミリアに勧められたのは体の汚れを落とす事であった。

 あまり気にしてはいなかったが、体は泥や血で汚れ、同様に汚れた愛用のグレーのスーツは至る所が切り刻まれてそれは無残な姿になっていたのだ。

 

 そんなエミリアの気遣いに感謝し、桐生は身が溶けるような思いで湯船に肩まで浸かる。

 

 思えばこの異世界という場所に来てようやく一息付けた気がする。

 こちらに来てもう半日以上は経過し、その間はひたすら困惑し気が張り詰めていた。

 だがこうして気を緩めて安らげるとなると、今度は疑問や不安が首をもたげる。

 

 何故この世界に来たのか、どうやって戻るのか。……正直なところ、この二つに関しては桐生は余り重要視していない。

 元々、元の世界では様々な事情から書類上は死んでいる事になっているし、それ故に突然姿をくらませたところでそれを理由に心配する人物は殆どいないだろう。

 来た理由に関しても、この世界に関して何の知識も持たない自分が今考えたところでどうしようもない、と結論付けての事だった。

 これらに関して悩むとすれば、精々スバルの為に元の世界に帰る方法を探す必要があるだろうか、程度の事だ。もっとも、幸いかどうかは不明だがスバル自身は余り望郷の念を感じさせない。

 時間が経てば分からないが、少なくとも火急の案件ではないだろう。

 

 であればまず真っ先に考えなければならないのが、これからの生活に関してだ。

 なにせ桐生もスバルもこの世界では現状天涯孤独の素寒貧。働き口を得ようにもその伝手もあるはずもなく、なにより問題なのは文字が読めない事であった。

 王都の中を歩いていた時に散見された、看板や張り紙に書き込まれた奇妙な模様はおそらくこの世界で使用されている文字だろう。

 どうやら言語は不自由なく通じるが識字に関しては保証の対象外らしい。

 街中に張り紙や看板で情報が掲示されているとなると、恐らく民衆の識字率もそう低いものではないのだろう。

 そうなると、やはり文字も読めない常識もありませんではますますこの世界で生きる術が失われてしまう。

 

 スバルの言っていた異世界転移というのも随分といい加減な物だと桐生は心の中でため息をつく。

 

 そんな不運続きの桐生達であったが、同時にそれを補って余りある幸運にも恵まれたと桐生は確信している。

 それがエミリアとの出会い、そしてロズワールという人物との伝手だ。

 エミリアの話や屋敷を見る限り、ロズワールはやはり相当裕福な人物なのだろう。

 であれば、そういった人物と知り合えることは今の桐生達の状況を考えると非常に心強い。

 

(……あまり好きな考え方じゃあねえが、エミリアには恩も売れたからな)

 

 打算的な考えや人助けは桐生は好まない。否定はしないが自分では決して目的としないだろう。

 だがこの状況ではそうも言っていられない。受け取れるもの、返してもらえるものは返してもらわなければ明日も分からぬ状況なのが本音だ。

 ましてや自分だけではない、スバルもいる。

 彼のためにも、今だけは自分の矜持には拘らず、ロズワールかエミリアに対して何かしら取引を持ち掛けるべきだろう。桐生はそう決心していた。

 

「―― カズマ様」

 

 そんな風に思索にふけっていると、不意に入口の扉の向こうから声がかけられた。

 シルエットでは分からないが声色からして恐らくはレムだろうか。

 

「お召し物を置いておきます、先ほどまで着られていた衣装は現在修復中ですので、こちらで別のものを用意させていただきましたのでご容赦ください」

 

「構わねえ、何から何まですまねえな」

 

「いえ、それと……スバル様がお目覚めになりました」

 

「本当か!?」

 

 バシャりと大きな水音を立てて思わず立ち上がる。

 

「はい、庭の方でエミリア様とご歓談されています。言伝などございましたらお伝え致しますが」

 

「いや大丈夫だ、俺ももう出る」

 

「そうですか、では用件が済みましたのでレムはこれで失礼します。じきに主もお戻りになられるので、その時になればまたお呼びいたします」

 

 そう言って少女のシルエットは屋敷の向こうへと消えていく。

 それを見届けた桐生は最後に一度湯で顔を洗うと、スバルへ会いに浴室を後にした。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「で、最後に両手を掲げて、ヴィクトリー!」

 

「び、びくとりー」

 

 着替えを終えた桐生が庭へ着くと、そこでは元気そうにぴんぴんしたスバルがエミリアと共に奇妙なポーズを決めている真っ最中であった。

 

「何をしてるんだスバル?」

 

「あ、叔父貴!」

 

 桐生が声をかけると、それに気づいたスバルは嬉しそうに桐生の元へと駆けつける。

 

「いやぁ~、丁度今異文化交流をしていたところで、ラジオ体操を教えてたんだ」

 

 今日から俺はラジオ体操の伝承者となるのだ!と張り切りつつ大きく屈伸運動をする。

 相変わらずのテンションの高さと落ち着かなさに、僅かに残っていた桐生の心配は霧散した。

 

「元気そうで何よりだが、病み上がりなんだ、あまり無茶はするなよ」

 

「心配センキュー! けれどご無用! エミリアたんのおかげで腹の傷もこれこの通り!」

 

 サムズアップしながら片手でジャージをめくると、そこには傷一つ残っていなかった。

 大分深い傷だったはずなのだが、この短時間で跡一つ残らず治療できるとは、やはり魔法とは大したものだと桐生は思う。

 

「カズマも大分奇麗になったわね」

 

「お、そういえばさっぱりしてるな。風呂にでも入ってきたのか?」

 

「ああ、服も体も大分汚れていたから、お前が目覚める前にな」

 

「道理で服が変わってるわけだ。あー、でもいいよなー、叔父貴みたいに体格いいと何着ても似合うんだから」

 

 桐生に用意されていたのは元の世界で言う燕尾服に近いものだった。

 丁度館の主が桐生と同じくらいの身長のため、以前戯れに用意したというそれを引っ張り出してきたらしい。

 そのため丈は問題なく入ったのだが、肩幅や腕周りに関しては桐生にとっては少々窮屈だ。

どうやらロズワールは割と線の細い人物らしい。

 

「でもスバルだって結構鍛えてるわよね?」

 

 不意にエミリアがそう呟くと、スバルはうっと声を漏らして顔を真っ赤にする。

 それは決してスバルの体をまじまじと見るエミリアの視線からくるものではなく、 もっと何か別の記憶を思い出して赤面している様子であった。

 

「そうだな、それは俺もそう思っていた。何か部活でもやっていたのか?」

 

「いや、帰宅部……ていうか学校にも、ほらいわゆる……引きこもりってやつで」

 

 エミリアにはあまり気にならないが、桐生に対しては少々バツの悪そうにカミングアウトするスバル。

 話を聞くにどうやら学校にもいかず、ひたすら筋トレとしょうもないスキルの習得に日々を費やしていたようだ。

 

「ぶかつ? ひきこもり?」

 

 そんなスバルと桐生の会話が理解できず、聞きなれない単語に首をかしげるエミリア。

 桐生はまたやってしまったと内心思ったが、スバルはそんな様子はおくびにも出さず

 

「俺の故郷の文化みたいなもんでさ、こっちじゃ聞きなれないかな? まあ地図にも乗ってない片田舎だししゃーねーか」

 

 なんて、用意していたように即座に切り返す。

 

「そうなんだ、でもスバルって結構良い家柄の出だと思ってたんだけど」

 

「え、そう? なんでまた?」

 

「だってほら、手も奇麗だし、肌だって。筋肉も仕事でついたものとは少し違う感じだから」

 

 そう言いながらエミリアはスバルの手を取りふにふにと弄ぶ。

 スバルが真っ赤になって硬直してるからやめてやれ、と桐生は言おうかと思ったが、嬉しそうに口元を緩ませ鼻の下を伸ばしたスバルを見てその気が失せる。

 

「それに比べてカズマはスバルとは真逆よね。手とか筋肉もそうだけど、顔つきなんかも堅気って感じじゃないし」

 

「堅気ってきょうび聞かねえな……」

 

 少し古い言い回しに突っ込みを入れるスバルと、思いの外的を射た推理に苦笑する桐生。

 そんな二人をよそにエミリアはうーんと考え込むように口元に手を当て

 

「ねえ、二人ってどういう関係なの?」

 

 そう質問した。

 

「お、それ聞いちゃう? それ聞いちゃうエミリアたん?」

 

「なんかスバル、すごーくうざい……」

 

 肩を摺り寄せニヤニヤしながら問いかけるスバルに若干の鬱陶しさを覚えるエミリアだがそんなものはどこ吹く風。

 スバルは両手を大きく広げ、芝居がかった口調で演説を始めた。

 

「どういう関係と申されましても、説明するにゃあしがらみだらけ。東の国に生を受け、共に海千山千死地窮地を乗り超えて、結んだ絆は鎖の如く! そう俺と叔父貴は兄弟と言っても過言ではありますまい!」

 

「え、全然似てないけど」

 

「そりゃそうよ! 兄弟は兄弟でも義兄弟! 血ではなく魂で繋がったソウルブラザーなのだよエミリアたん!」

 

 な! とばかりに桐生に向けてサムズアップするスバル。

 少し距離を詰めすぎだろうと突っ込みたくなる気持ちもあるが、ここで否定するほど野暮でもないので桐生は曖昧に肯定する。

 

「まあ、杯は交わしてねえが……そんなもんかな」

 

 だがその返答にエミリアは納得していないのか、渋い顔で二人を見やる。

 

「ねえ、カズマはここに来る途中カララギの方の出身って言ってたわよね? でもスバルは東の国って言ってた。これってどういう事?」

 

「え、何それ初耳!?」

 

 エミリアの疑問に驚いて桐生を見るスバル。

 桐生はしまったといった表情で首の後ろを掻いて言い訳を探すが、上手い言葉が思いつかない。

 同時に、その質問で明らかに挙動不審になった二人にますます疑問を深めるエミリアは、じっとりとした目つきで次の言葉を待つ。

 

 スバルの脳裏には観念して異世界から来ましたとカミングアウトする事がよぎるが、こういう場合間違いなく頭のおかしい奴扱いされるのが相場だ。

 自分だってもし海に漂着した人間を助けて、そいつが異世界から来たなんて主張したら放送禁止用語なレッテルを貼り付けるだろう。

 まして問いかけるエミリアの表情は真剣だ。ふざけた答えと思われては氷の彫像にされかねないような感じですらある。

 

「くそ、設定のすり合わせを怠ったのが敗因か……、ならばいっそパターンBで……」

 

「ぶつぶつ言ってるなんて、すごーく感じ悪い。答えるつもりないの?」

 

「いやいや、ある! ありますとも! 実は俺記憶喪失で自分の事が何にも分からねえんだ! そんな時叔父貴に拾われ、故郷の星の名スバルを与えられ……」

 

「さっき東の国で生まれとか言ってたじゃない」

 

「あっふ墓穴ぅ!?」

 

「スバルはまともに答えるつもりは無しと……カズマも?」

 

「そういうわけじゃねえんだが、色々と複雑でな。ただスバルも嘘ばかりってわけじゃねえんだ。こいつなりに真摯に答えようとしてるのは分かってやってほしい」

 

「ふーん、まあ事情があるって言うなら詮索はしないでおくわ」

 

 真剣に問い詰めていた割にはあっさりと二人を見逃すエミリア。

 窮地を逃れたかとほっと胸を撫でおろすスバルを横目に、彼女は「さて」と一言残し、懐から緑色の結晶を取り出した。

 

「じゃあ次のお話。二人にお礼をしたいって言う人がいるの」

 

「礼?」

 

 桐生が辺りを見回すが、周囲に人影は無い。

 だがスバルはそれに心当たりがあるのか、エミリアが取り出した結晶を興味深げに覗き込む。

 

「あ、それって」

 

「そう、精霊が身を宿す精霊石。……パック」

 

 呼びかけに応じるように、結晶は淡く輝き始め、次第に光は輪郭を形作る。

 頭部、胴、四肢。そして体毛が光によって生み出されると、数秒後にはエミリアの掌に小型の二足歩行猫が現れていた。

 

「やあ二人とも、ご存じとは思うけど一応自己紹介させてもらうよ。僕の名前はパック、エミリアと契約を結んだ精霊だ」

 

 そのモフモフとした愛くるしさにスバルは目を輝かせ、桐生はこの世界でもう何度目になるかは分からない驚きで、その精霊の出現を迎えたのであった。

 

 

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