小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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 長くなりました。

 謎回収回です。


寒い夜

 二度目の自己紹介をした神の使い、もとい妖狐。妖狐は続けて言った。

 

「あと一つ付け加えておくと、俺は壁の内側では三ノ輪銀に関する場所にしか行けない。三ノ輪銀をコピー対象にしたからだろう。だからお前の来る可能性があったここに来るのを待っていたんだ」

 

「なんとなくそう思ってたよ。私にとっても園子ちゃんは特別な存在だったからね。それで、何で嘘を吐いてたの?」

 

「ただの性格だよ。俺が嘘を吐いたり騙したりすることが好きなだけ」

 

「私と全然違うんだね」

 

「お前と別れた時点で小木曽望乃という存在と妖狐という存在がこの世に生まれたことになる。性格も何もかもがお前のものだったから、空っぽだった俺に神樹様が性格を与えたんだよ」

 

「それがこれ、なんだ」

 

「結構気に入っているんだけどなあ」

 

「そういえばさ、前に夏凜ちゃんと来た時は現れなかったよね?」

 

「三好夏凜には知られたくなかったからだ。俺の目的はお前と一つに戻ること。それが困難になる勇者部、特に三好夏凜には知られないようにしていたんだ。まあ、結局はお前が教えてしまったんだけどな」

 

「そうなった原因はあなたの姿が夏凜ちゃんに知られたからなんだけど」

 

 望乃がそう言うと、妖狐はヘタクソな口笛で誤魔化していた。

 

「それからさ~」

 

 望乃が不満げに妖狐に言おうとしたが、妖狐によって遮られた。

 

「お前の言いたいことは分かってる。正体が明らかになったんだから、三ノ輪銀の姿をやめろと言いたいんだろ?」

 

「うん。前に『この姿以外に変えられない』って言ってたよね? 『変える』のは無理でも、『戻す』のはできるんじゃないかなって」

 

「そうだ。元の姿に戻ることはできる。主人がいたお前といない俺の違いだな。じゃあ、元の姿に戻ろう。でも声が勘弁してくれよ。他に声がないんだ」

 

 そう言って妖狐は元の姿へ戻ろうとする。

 

「あ……かわいい」

 

 その姿を見て望乃がボソッと呟いた。妖狐の姿は他の精霊のような姿ではなく、銀の姿に狐耳と尻尾が生えた姿になっていた。

 

「あれ? 間違えたな……って触ろうとするな!」

 

 ゆっくり近づく望乃を離すため、妖狐がもう一度元の姿へと戻ろうとする。

 今度は成功なようで、妖狐は他の精霊と同じような大きさの狐の姿になっていた。それを見て、望乃が目に見えて落胆する。妖狐の元の姿には大して興味はないようだった。

 そこで望乃が真剣な表情になる。

 

「じゃあ、本題に戻ろっか。友奈ちゃんが今どういう状態なのか詳しく。あなたの知ってること、包み隠さず全部教えて」

 

「……完全に把握したいのか。おそらく、お前には辛いものになると思うぞ」

 

「友奈ちゃんに比べたら大したことないよ!」

 

 それを聞いた妖狐は少し笑みを浮かべた。そして『勇者御記』に書かれていた日記以外の部分を望乃に伝えた。望乃は途中で口を挟みたくなっても堪えて、妖狐の話を最後まで黙って聞いていた。

 妖狐が話し終えると、望乃は小刻みに震えていた。

 

「……どういうこと?」

 

「お前は結城友奈の現状を知っていたんだろ? それなのにどういうことも何もないだろ」

 

「私が知っていたのは友奈ちゃんが美森ちゃんのお役目を引き継いで、そのことを言うことができないくらいだよ。だからいつか美森ちゃんの代わりに壁の外へ行かないといけないって思ってたんだよ。それ以外のことは知らないよ。何より私が聞きたいことは……」

 

 望乃は一度言葉を切った。望乃は拳を強く握りしめて、大声で言った。

 

「みんなの回復した体の機能が、神樹様が作ったものだってところだよ! 神樹様は私のお願いを聞いて、精霊を犠牲に返してくれたんじゃなかったの?」

 

「そのことか……。まあまず、そんなこと誰も言っていない。お前がそう勘違いしただけだ」

 

「神樹様は私のお願いを聞き入れてくれたんじゃないの?」

 

「何で神樹様が勇者でもないお前のお願いを聞かないといけないんだ……と言いたいところだけど、神樹様は一時的に勇者の一人だと考えたみたいだ。だからその時のお前のお願いを聞き入れることにした。でもお前が言った言葉のせいで今回のような形にしたんだ」

 

「私の?」

 

 望乃はその時自分が言った言葉を思い出そうとするが、最近いろいろとありすぎたため細かいところまでは思い出せなかった。

 その言葉が出てこない望乃を見かねて妖狐は正解を言った。

 

「お前はこう言ったんだ。『私たち精霊のことはどのようにしても構わないから、神樹様のために戦い続けた勇者たちに――幸福を!』と。そしてこの前半部分、これが余計だった。神樹様にとって精霊という存在は使い勝手が良すぎたんだ。精霊を自分のものにするために勇者たちの体を作り、尚且つ勇者の一人として頑張った小木曽望乃を人間にして、自我を持つ精霊小木曽望乃を厄介払いしたんだ。しかし小木曽望乃から妖狐を切り取ったというところまでは良かったんだが、そこで問題が起こった」

 

「……問題って」

 

「妖狐という精霊は小木曽望乃がいて初めて成り立つもので、俺だけでは精霊としてすら機能できないんだ。少しばかりバリアが張れる程度だ。だから神樹様は俺を小木曽望乃と一つになり元の精霊に戻すことにした。その時に俺の記憶にある三ノ輪銀の姿を与えてくださり、多少動き回ったり、話したりすることができるようになった。そして一度人間にしたというのに、戻すことになったお前のために『神の力』を授けてくださったんだ」

 

「……ねえ」

 

 話を聞いて事実を受け入れたのか、はたまた無理矢理平静を保っているのか、望乃が静かに聞いた。

 

「神樹様は精霊を何のために自分のものにしたの?」

 

「お前、少し精霊に戻った感じがあるだろ? それと同じだよ」

 

「……?」

 

 望乃には妖狐が何を言いたいのかさっぱりわからなかった。

 

「……お前が精霊に戻った感じがしたのは『体重が変化しない』の一つ。壁の外で一回だけ起こったことは何だ? それが答えだ」

 

「? 私が精霊に戻ろうとしたのが原因じゃないの?」

 

「違う。答えは……満開だ」

 

「っ!」

 

「もう一つ問題だ。なぜ小木曽望乃が生まれてから二年もあったのに勇者システムは何一つ改善されなかったんだ? そしてなぜこの前突然改善されたんだ?」

 

「……大赦の人たちが頑張ったんでしょ?」

 

「違うな。改善したくてもできなかったんだ。最後にもう一つ、なぜ代償が必要だったんだ?」

 

「……神の力を振るった代償……だったよね」

 

「正解。それなのに、代償がなくなるなんておかしいと思わなかったか? 代償はちゃんとあったんだ。ただ勇者自身が払う必要がなくなっただけ。まあ、大赦はこのことを知らないだろうけど。……もう分かってるだろ? その代償は、精霊の生命力だ。勇者部の代償はお前が受けているようだ」

 

「私、まだ精霊じゃないよ」

 

「俺とお前は繋がっている。俺が受ければお前の受けることになるんだろう。今の小木曽望乃から何度か生命力を取られたらお前は精霊に戻る。しかしその方法で戻れば『神の力』はもちろん、元々のお前以下の力しか使えない。そして最終的にはお前の存在は消える。前にお前は長くないと言った理由がこれだ。結城友奈の件で満開が使われることは目に見えていたからな」

 

「……そっか。私はどうあがいてもみんなと一緒に居続けることはできないだね。みんなと一緒にいたいって迷ってた私が、バカみたいだ」

 

 望乃は目尻にうっすらと涙を浮かべていた。

 

「まあ、これくらいだな。どうせ一つに戻れば全てお前の頭に入る。……覚悟は決めたか?」

 

「そんなの、ここに来る前から決まってるよ。ちゃんと確かめたかっただけだから」

 

「一応言っておくが、精霊に戻っても結城友奈を救えるかもしれないというだけで、救えない可能性もあるぞ」

 

「それでも、何もしないよりかはましだよ。たとえ可能性が低くても、ゼロじゃないなら私は諦めたりしない!」

 

「……分かった。なら、こちらに向かって腕を伸ばしてくれ。体のどこかに触れれば可能なんだが、この方がそれっぽいだろ?」

 

 妖狐が姿を銀に変えて本物の銀のように笑って見せた。

 望乃は夏凜との約束を思い浮かべて小さく「ごめんね」と呟いた後、銀の姿をした妖狐に向かって腕を伸ばした。

 

「お前は精霊の分際で人間になろうとした身の程知らずだと言われ、結城友奈とは逆に神に嫌われている。そんなお前では、おそらく『神の力』を使えるのは一度だけだ。それから神の力を振るう以上、代償が存在する。その代償は――」

 

 妖狐は「それでもいいか?」と聞いてくる。代償の内容を聞いた望乃は嬉しそうに笑った。

 

「むしろ、それが代償で良かったよ~」

 

 その笑顔に妖狐は少し困惑したが、同じように笑って望乃に向かって腕を伸ばした。二人の手が合わさる直前、望乃が少し手を引っ込めた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ねえ……最後に一つだけ聞いてもいい?」

 

「何だ?」

 

「その『神の力』っていうのは、人を生き返らせることって出来るの?」

 

「結城友奈が死亡した場合の話か? 残念ながらそれはできない。『神の力』は神樹様の力だ。神樹様にできないことをするのは不可能だ」

 

「…………そっか。ざ~んねん!」

 

「もういいか?」

 

「うん」

 

 再び互いに腕を伸ばす。そして二人の手が合わさった瞬間、二人の体が光った。その時、望乃が独り言のようにボソッと言った。

 

「私、銀ちゃんみたいになれるかな?」

 

 光が収まると、その場に立っているのは望乃一人になっていた。

 

 

 

 望乃を探していた夏凜は、走り疲れて歩いて捜索していた。日が落ちてきていたが、諦めることはなかった。園子から『もしかしたらお墓かも』という連絡を受け、以前望乃と来た道をうろ覚えで進んでいた。

 すると、こちらに向かって歩いてきている人影が見えた。近づくと、その人物が望乃であることがわかった。

 

「望乃! あんた……何よ、その髪。何で、髪が戻ってんのよ!」

 

「あれ? 夏凜ちゃん? あ~、友奈ちゃんの家に行くって言ったの、嘘だってバレちゃったか~。ごめんね、嘘ついちゃって」

 

「そんなことよりも、その髪は?」

 

 夏凜が望乃に詰め寄って問いただす。

 望乃の髪は精霊時の髪色、つまり園子と同じ髪の色になっていた。長さや髪型は精霊時と同じ。違うのは夏凜からもらったヘアピンを付けているということくらいだった。

 

「……私、精霊に戻ったんだ。だから髪も――」

 

「ふざけんな! 約束したでしょ? 何があっても精霊に戻らないって約束したでしょ? あんたはそうやって、いつもいつも!」

 

 望乃に飛びかかりそうな勢いで言う夏凜を誰かが止めた。

 

「落ち着きなさい、夏凜!」

 

 夏凜を止めたのは風と、友奈を除いた勇者部メンバーだった。勇者部は望乃の髪を見て、驚きを見せた。

 

「コギー、精霊に戻ったの?」

 

「うん」

 

「それってゆーゆのため?」

 

 その言葉を聞いて、望乃は勇者部全員の顔をうかがう。

 

「そっか~。みんなも友奈ちゃんのこと、知ったんだね。その通りだよ。友奈ちゃんを助けるために私は精霊に戻ったんだ。……いつか、美森ちゃん言ったよね?」

 

「え?」

 

「みんなが傷付くのを黙って見てるなんてできないって。私も同じ。傷付いたり苦しんだりするみんななんて見たくない。だから私がなんとかする」

 

「それは……」

 

「でも、そうしたら望乃さん、消えちゃうんですよね?」

 

「そうだね。でも仕方のないことだよ。どうせ誰かが犠牲になるなら私以外にいないでしょ?」

 

「私は誰も犠牲になんてしたくないのよ!」

 

「風ちゃん……」

 

「……望乃」

 

 そこで夏凜が声をあげた。

 

「夏凜ちゃん、約束破ってごめんね」

 

「相談くらいしなさいよ」

 

「言ったら絶対に止めるでしょ?」

 

「当たり前でしょ!」

 

「夏凜ちゃんも友奈ちゃんが心配でしょ? 私は大切なお友達の力になりたかったんだよ」

 

「私だってそうよ! 私だって……友奈の力になりたい。でもそれと同じくらいにあんたを、死なせたくない! 大切な友達を死なせたくないのよ!」

 

「……そんなに悲しむ必要はないよ。人間になりたいなんて思った私がバカだったんだよ。最初から私にみんなと一緒にいる資格なんてなかったんだよ。だって私は……勇者じゃないんだから」

 

「っ!」

 

 望乃がそう言った瞬間、パァンと乾いた音が響き渡った。それは、夏凜が望乃にビンタした音だった。

 

「二度とそんなこと言うな」

 

 望乃は理解が追いつかないのか、叩かれた頬を抑えて硬直していた。そして望乃はその状態のまま言った。

 

「でも、事実だよ」

 

 その言葉が夏凜の沸点を超えてしまい、夏凜が再びビンタを振りかぶる。本気で叩こうとしていた夏凜を、勇者部四人で止めた。しかし頭に血がのぼった夏凜はあらぬことを望乃に言ってしまった。

 

「あんたなんか、嫌いよ! もう、帰ってくんな!」

 

 望乃はその言葉をそのまま受け取ってしまい、少し寂しそうな表情を浮かべた。

 

「……夏凜ちゃんがそう言うのも仕方ないよ。でも、私は大好きだよ」

 

 望乃は俯いて表情の見えない夏凜を一目見てから走り出す。

 

「ちょっと、望乃!」

 

「コギー!」

 

 風と園子が呼びかけると、走って距離のあいた状態で立ち止まる。

 

「コギー、一つ教えて! コギーはどれだけの時間が残されてるの?」

 

「……『神の力』を使うまでだと思う」

 

 それだけ言うと、望乃は再び走り出し、あっという間に見えなくなった。

 

 

 

 その後、勇者部の面々にいろいろと言われたりしたようだったが、夏凜の耳には一切入ってこなかった。

 自宅へ戻ってきた夏凜は、おそらく望乃が出かける前に用意した二人分のご飯の片方だけ食べ、風呂に入って、布団にもぐった。

 随分と久しぶりの望乃がいない我が家は少し広く感じた。望乃がいないご飯は寂しく感じた。一人で使えるいつもより広いベッドは、いつもより寒く感じた。

 

「私、何であんなこと言っちゃったんだろ……。友奈たちに出会って、少しは素直になれたと思ったのに……」

 

 思い出すのは望乃に言ってしまった言葉。その後悔が夏凜の頭を支配していた。

 目をつぶるとその時の光景が思い浮かぶ。早く何とかしたい。精霊に戻った望乃と一緒にいられる時間はもう長くない。何とかしないと……そう考えている内に、夏凜は眠ってしまっていた。

 

 

 

 一方、望乃はその夏凜の家の近くに来ていた。夏凜と考えていることは同じだった。でも望乃はその場から離れた。

 

「夏凜ちゃんに嫌われるのは予想外だったけど、これはこれで良かったのかな」

 

 ハア、と望乃が白い息を吐く。

 

「精霊に戻ったおかげで、一日中外にいても問題ないけどちょっと寒いな」

 

 望乃は立ち止まって夜空を見上げた。

 

「私がもっと早く精霊に戻っていれば、友奈ちゃんはあんなに苦しまずに済んだかもしれない。私が自分のことを優先したばっかりに、友奈ちゃんもみんなも苦しむことになった。全部、私が悪いんだ。だから私が……友奈ちゃんも、美森ちゃんも、風ちゃんも、樹ちゃんも、園子ちゃんも、夏凜ちゃんも、みんなが笑って暮らせる世界を作ってみせる!」

 

 望乃はそう、夜空に向かって宣言し、誓ったのだった。

 




 今回の望乃と夏凜はやりたかったことの一つです。
 東郷さんがあまり喋らなかったのは友奈のことを考えているからと思ってください。

 もしも矛盾があっても気にしない方向で……。
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