勇者候補の一人として選ばれた私、三好夏凜は勇者になるために日々鍛錬を積んでいた。友達なんて必要ない。仲間なんて必要ない。ただただ一人で鍛錬を重ねていた。
私は他の誰よりも努力していたと思うし、誰にも負けない自信があった。
そんな時だった。小木曽望乃が目の前に現れたのは……。
突然見つかった勇者候補が私の鍛錬に合流する。大赦にはそう聞かされた。どういうやつなのか見当もつかなかった。
実際に現れたそいつを見て、拍子抜けした。そいつは勇者としての自覚なんて欠片もなさそうな、のほほんとしたやつだったからだ。さらに、「友達になろう」なんてふざけたことを言う始末。そのくせ、私よりも強いだなんてたまったものじゃなかった。だから私は、いつか必ずそいつ――小木曽望乃に勝つことを誓った。
その頃の私は小木曽望乃のことが、大がつくほど嫌いだった。
「ねえ、ねえ~」
小木曽望乃は毎日のようにある鍛錬の度に話しかけてきていた。
私がどれだけけんか腰に言っても、そいつは怒りもせずに笑顔で話しかけてきていた。見ててイラつくから早く勝とう、と思っても私が小木曽望乃に勝つことはできなかった。
「またね~」
「……うん」
小木曽望乃と接している内に、少しずつ言葉を返すようになってしまっていた。彼女のことが嫌いなのに……。
答えは明白だった。
小木曽望乃が良い人間だったからだ。勇者候補に選ばれるのも頷けるほど、良い人間だった。誰よりも優しく、誰よりも強く、そして相手が誰であっても見捨てることはしない。少なくとも私より勇者らしい人物だった。
だからこそ、一緒にいたくなかった。自分の存在価値がなくなってしまいそうで……。
小木曽望乃と出会って、一カ月以上の時が過ぎた。
ずっと溜めてたものがあふれ、聞いてしまった。
「何であんた、そんなに私に執着するのよ」
「? 友達になりたいからだけど」
「友達がほしいんだったら他にも人はいるでしょ! なのに何で私なのよ」
「夏凜ちゃんと会って、夏凜ちゃんと話して、私はこの子と仲良くなりたいなって思ったからだよ~」
小木曽望乃は汚れを一切知らないであろう純粋でまっすぐな瞳でそう言って笑った。あまりにもまっすぐ過ぎて少し戸惑った。
「……何よそれ。全然理由になってないじゃないの」
「私は夏凜ちゃんっていう人を見てそう思ったんだよ~。だから他の人じゃ務まらない。立派な理由だと思うけどな~」
他の人じゃ務まらない。その言葉を私はどこかで欲していたのかもしれなかった。でもそれを認めるのが嫌だった。
「他の奴と接してないからそう思うだけでしょ」
だから私はその場から、小木曽望乃から逃げようとした。しかし小木曽望乃に抱き付かれて逃げられなくなってしまう。
「逃げないでよ」
その言葉に少しドキッとした。しかし私は虚勢を張って誤魔化した。
「……誰が逃げてるって?」
「夏凜ちゃんがだよ。だっていっつも私と目を合わせてくれないじゃん。私を避けようとしてるじゃん」
「それは、あんたが嫌いだから――」
「だったら何で普通に話してくれてるの?」
「……っ!」
その通りだった。私は小木曽望乃を避けようとしていた。嫌いだったはずなのに、少しずつ好きになってきているのを認めたくなかったのだ。
「夏凜ちゃん、私は夏凜ちゃんのことちゃんと見てるから。夏凜ちゃんが本当に私を嫌うその時まで一緒にいるから。だから、夏凜ちゃんの隣にいさせて!」
「うるさいわね! あんたに私の何がわかるのよ!」
全て分かってるかのように言う彼女に、いら立ってしまった。私の何が分かるのか、いつものほほんとしてるくせに、と。私はつい強く返してしまった。
それでも彼女は怯まなかった。
「わからないよ。私には、夏凜ちゃんのことをわかるなんて間違っても言えない。だけど、一つだけわかるよ」
その後の言葉が私の心を強く刺激した。
「夏凜ちゃん。一人は……寂しいよ。だからお友達になりたいな」
小木曽望乃が言ったその言葉は今まで以上に実感のこもった言葉だった。
まるで、過去にそのようなことがあったかのように。
そして同時に私はこう思った。
――小木曽望乃を一人にさせたくない。
この日、私と望乃は友達になった。そして私は、この先どんなことがあろうとも、望乃を一人にはさせないことを誓ったのだ。
望乃は自分のことをあまり話さない。しかし話している内に少しずつ分かってきた。
よく食べることや仲の良い相手には抱き付くことなどがそうである。
望乃が自分自身のことを「勇者から一番遠い」と言っていたことは少し頭に来た。あんたが無理なら私はどうなるのか、と。
望乃は私にとって理想の勇者だった。それは友奈たちと出会って友達になってからでも、望乃の正体が精霊だと知った後でも、変わることはなかった。
辛い事実を知りながら、それでも笑顔であり続け、自分を犠牲にして友を救おうとしたのだから、当然だった。
そんな望乃でも、当然悩みはする。そんな時、私はいつも勝負を仕掛けていた。それ以外の方法が思いつかないからである。
もちろん手は抜かない。望乃が悩んでるような時、そうでない時、何度望乃と勝負をしたかは覚えていない。一つ覚えているのは、その全てが私の負けだったこと。でも昔ほど悔しくはなかった。
なぜなら、勝負の後は望乃が笑顔を向けてくれたから。向けられた私も笑顔になれたから。
これが私だけが知る、望乃を笑顔にできる方法だった。
私はただ、望乃の笑顔が見たいだけだった。
そのために私は望乃と戦う。何度でも。
「はあああああ!」
ガキンと刃と刃がぶつかり合う。
現在、夏凜は精霊に戻った望乃と戦っていた。二人は相手ができるだけ傷付かないように刃を返して戦っていた。
夏凜が望乃との距離を詰めて右手に持つ刀を望乃に向けて振りかぶる。望乃は一歩下がって夏凜の攻撃を防ぐ。そこに夏凜がもう片方の刀で無防備になっているわき腹辺りを狙う。望乃は夏凜の刀を防いだまま柄の位置を変え、柄の部分でもう一つの攻撃を防いだ。そして二つ同時に押し出して、夏凜を突き飛ばした。
望乃が使う武器は、刃は刀ではあるがほとんど槍と変わりはない。つまり、中距離型の武器だ。そのため、夏凜は近距離型の武器である自分が有利になるように、距離を詰めて細かい動きの攻撃を中心に攻撃していた。それにもかかわらず、望乃は細かい動きの攻撃にもついてきて、夏凜の攻撃はすべて防がれていた。
今まで何度と行ってきた勝負と同じだった。そのことが夏凜はとてつもなく嫌だった。
望乃が竜巻を作り、それで夏凜に攻撃しようとする。
「その武器でもそれ作れるの?」
そう言いながら夏凜は横に躱す。躱した先に望乃がそれを予期していたかのように武器を投げた。夏凜はなんとかそれも躱し、武器を取りに近付く望乃に攻撃するが紙一重で避けられてしまい、武器を手に取った望乃は夏凜の方向に武器を振るった。夏凜はその攻撃を右の刀で受け止め、とっさに左の刀を望乃に向かって投げた。予想外の出来事に、望乃は反射的に避けるが、頬をかすめたようだった。避けたことで力が弱まった望乃の武器を夏凜が弾いて、そのまま攻撃する。弾かれた望乃も、負けじと攻撃する。その攻撃は互いのわき腹あたりに当たり、二人は距離を離した。
「夏凜ちゃんが刀を投げてくるのは予想外だったよ」
「何度あんたに負けてきたと思ってんのよ。次にどう攻撃してくるかくらい分かるわよ。あんたこそ、よくあの状況でカウンターなんてできたわね」
「無意識にやっただけだよ」
二人は攻撃を受けた辺りを手で押さえながら話す。
「ていうか何であんた、バリア張らないのよ」
夏凜が少し不服そうに言う。
「美森ちゃんの時と違って、これは私と夏凜ちゃんの『勝負』なんだから、フェアじゃないといけないでしょ? 私も夏凜ちゃんにバリアが張られないように戦ってるし、精霊のバリア抜きの方が早く終わるだろうしね」
「あんた、手加減してるの?」
「手加減してるわけじゃないよ。精霊のバリアが出ないように攻撃してるだけ」
「……それでも勝てるってこと? 舐めてんじゃないわよ。確かに私はあんたに勝ったことなんてない。全戦全敗よ。でも、私は、今回ばかりは負けるわけにはいかないのよ!」
「私だって負けられない。 夏凜ちゃんには悪いけど、もう終わらせるよ」
「やれるものならやってみなさい!」
夏凜は左手に刀を出しながら全力で前進する。そして両腕を頭の上でクロスさせて望乃を切り付けようとする。しかしその瞬間、望乃が武器を大きく振るって夏凜の刀を折った。
「っ!」
そして望乃は瞬時に夏凜の横側に移動して、夏凜の首元に精霊のバリアが張られない程度の力で峰打ちした。
「……ごめんね、夏凜ちゃん」
夏凜は望乃の攻撃でその場に倒れた。
「夏凜ちゃんは何回も負けてきたから、私がどう攻撃するかわかるって言ったけど、夏凜ちゃんが負けてきた分だけ私が勝ってきたんだから、私だってどうすれば夏凜ちゃんに勝てるかわかってるんだよ」
望乃は倒れた状態の夏凜に向けて少し微笑んだ。
「バイバイ、夏凜ちゃん」
戦闘シーンちょっと少なかったかな、なんてことを思ってしまいますが、一応裏で勇者部が話を聞いているところなので、こんなものかなと思います。
次回、東郷さんたちと合流します。