小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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 本編の六話に入ります。一応、三話構成の予定です。


自分にできること

 勇者部が最後のお役目として告げられたことは、天の神の攻撃を防いで神婚を成立させること。勇者部は勇者の姿に変身して、天の神の攻撃に備える準備をする。

 

「待ちなさい」

 

 その時大赦の人が声を上げた。

 

「何よ、行けって言ったり、待てって言ったり……」

 

「あなた方は行ってかまいません。しかし小木曽望乃、あなたは別。あなたはここで待機しなさい」

 

「……何でかな?」

 

「お役目とは、勇者にのみ与えられた使命。精霊のあなたではふさわしくない。以前のあなたは勇者の代理として許されていただけ。それは、あなたが一番よく分かっていることでしょう?」

 

「もう私には敬語使わないんだね」

 

「ただの精霊のあなたになぜ? それもあなたが勇者の代理だったからというだけで、あなた自身に使っていたというわけではない」

 

「まあ、あなたの言い分はわかったよ。今回のお役目は大事みたいだから、たかが精霊に割り込んでほしくないんでしょ?」

 

「あんた、まだ――」

 

 夏凜が望乃の言葉に反応するが、園子に止められた。

 

「コギーは私たちに必要だって言っても?」

 

「必要かではなく、彼女にはその資格がないのです。精霊の身でありながら、余計な感情を得、さらにその感情に左右されるなど言語道断。精霊としての役目も全うできない者にできることなど存在しません」

 

「でも私は行くんだけどね」

 

 そう言って望乃は笑みを浮かべた。

 

「私は自我を持った精霊だよ。自分の考えを持ったっておかしくないよ。私は精霊だけど、みんなと出会って過ごした時間は、そこで得た感情は無駄じゃなかったって思う。そのおかげで私は私でいられる。だから、私はそれをくれたみんなの未来を人任せにしたくない。だから私は行くよ」

 

「あなたが行って何が……」

 

「何ができるのかなんて私にもわからない。でもできないって言われたこともやる、不可能だって言われてことも可能する、それが勇者でしょ?」

 

「あなたは勇者どころか人ですらない。無事神婚が成立してもあなたが生きているとは限らない。数年程度しか生きていないあなたが戦う理由などないでしょう?」

 

「……確かに、私は勇者でも人間でもないかもしれないけど、だけど、勇者部だから。理由なんてそれだけ十分だよ」

 

 望乃はそう告げてから勇者部と同じ場所へ向かった。そして世界が樹海に変化した。

 風の号令で敵の攻撃を躱す。

 

「あいつ無茶苦茶!」

 

 風と樹、さらに望乃は一緒にいた。

 

「風! あんたたちは早く友奈のところへ! あいつの相手は私がやっとくから!」

 

「相手ってあんた!」

 

「大丈夫! 私にはまだ満開がある!」

 

「夏凜ちゃん、本当に大丈夫?」

 

「望乃、あんたも早く行きなさい。あんた、私が言ったこと忘れてないわよね?」

 

「もちろんだよ」

 

「ならいいわ。行ってきなさい」

 

「うん、行ってきます」

 

 夏凜はそこまで言うと、三人から離れる。

 

 ――友奈に謝らなきゃ。一緒に帰るんだ!

 

 そうして夏凜は二本の刀を持って構える。そして望乃と戦った時のような、強い覚悟を心に秘めて大声で言った。

 

「当代無双、三好夏凜! 一世一代の大暴れを、とくと見よー!」

 

 そう言いながら夏凜は満開した。その夏凜に無数の矢のようなもの襲い掛かる。

 

「これじゃ……」

 

「お姉ちゃん。あのね私……」

 

 それを見ていた樹が声を掛ける。その意図に気付いた風が笑みを浮かべた。

 

「樹、ここお願いできる?」

 

「うん、お姉ちゃんは友奈さんのところへ」

 

「ええ。友奈を連れ戻してくるわ。絶対に無事でいるのよ」

 

「うん」

 

「樹ちゃん、本当だったら私もここで戦うべきなのかもしれない。でも……」

 

「大丈夫です。だから望乃さんも行ってあげてください」

 

 樹がそう言うと風、望乃と樹で別れて走る。

 風と望乃が走る場所に、満開した姿で飛ぶ東郷と合流した。

 

「風先輩、望乃ちゃん、乗ってください!」

 

「じゃあ、友奈のところへ行くわよ! 望乃も……っ!」

 

 東郷と風が望乃の方向へ視線を向けると、それほど長い距離を走ったわけでもないのに、手を膝に置いて止まっていた。そしてさらに息を荒くしてしまっていた。

 心配する二人だが、望乃はすぐに大丈夫だと伝え、風と一緒に飛び乗った。

 飛び乗った望乃は、友奈のところへ行くために前を見据える二人の後ろに移動し、自身の心臓辺りを押さえた。

 

 ――夏凜ちゃんと美森ちゃん、それと樹ちゃんの三人だけなのに、ここまでなんて。この感じだと一回の満開で、私と妖狐の二人分代償を受けてるのかな。この分だともう……。ごめん、夏凜ちゃん。夏凜ちゃんの夢、叶えられそうにない……ごめん。

 

 

 

 一方、その頃夏凜は天の神の矢のような攻撃を防ごうとするが、頬にかすり傷を負った。

 

「バリアを……。こいつのせいで! ふざけるなー!」

 

 夏凜の頭に浮かんだのは風が車に轢かれたというあの時のこと。

 無数の矢が降り注ぎ、夏凜がダメージを受け、とどめと言わんばかりの攻撃をしてくるが、それを園子が防いだ。

 

「一人で前に出すぎちゃダメだよ、にぼっしー」

 

 別方向からの攻撃が来るが、それは樹が防いだ。

 

「みんなで守りましょう。友奈さんが帰ってくるこの場所を」

 

「樹、後ろ!」

 

 樹の更に後方から攻撃が来る。樹はそれに反応できずに攻撃を受けた。はずだったのだが、樹は無傷だった。そして樹の前にはバリアが張られていた。

 

「……木霊?」

 

「何で、精霊が……。それにあの攻撃はバリアを貫くんじゃ……」

 

「……もしかしたら、コギーの仕業かもしれない」

 

「え?」

 

「忘れがちだけど、コギーは元々精霊の統率もしていたんだよ。だからこういう場合、コギーの仕業の可能性が高いよ。そしてそれがたった今、発動されたとかだと思う」

 

 その後、樹はもちろん、夏凜や園子にも精霊が現れてバリアを張っていた。ただ違うのは、精霊が出現するのが、ダメージを受けそうになった時という点だった。

 そしてそれが、精霊を出している犯人が望乃だと言っているようなものに、三人は感じていた。

 

 

 

 望乃、東郷、風の三人は、友奈のいるであろうところへ向かっていた。その時、突然空に亀裂が入り、そこから無数の攻撃が降ってきた。東郷は艦を犠牲にしてその亀裂を爆破させた。

 着地した先で、さらに攻撃が三人を襲った。東郷は一撃当たりかけたが、精霊の出現によって攻撃を受けずに済んだ。

 

「精霊? それに、神樹様に妨害されてる」

 

「たとえ神樹様でもね、今回だけは譲れない!」

 

「……望乃ちゃん、あなた私たちに隠してることあるでしょ?」

 

「へ?」

 

 東郷は神樹の妨害を躱しながら、疲れたというような表情をしていた望乃に話しかけた。

 

「望乃、あんたさっきからおかしいわよ。何もしてなくても息を切らしてるなんて絶対おかしい!」

 

「先ほど、攻撃を受けそうになった私の前に精霊が現れました」

 

「精霊って、満開を使ったら精霊の加護がなくなるんじゃなかったの?」

 

「そうです。だから精霊を出現させられるとしたら、精霊の統率である望乃ちゃんしかいません。私の読み通りだとしたら……望乃ちゃん、今すぐそれをやめて!」

 

「どういうことよ」

 

「今回の精霊は少しでも攻撃を受けそうになった時に出現しています。精霊の持つ絶対的な使命とは異なります。ということは、精霊は望乃ちゃんが強制的に出現させているということです」

 

「そんなことができたの?」

 

「できませんよ。できるならもっと早くやっています。それを行うにはよっぽどのことをする必要があった。望乃ちゃん、命を燃やして精霊を出現させているでしょ?」

 

「え? 望乃! それ、本当なの?」

 

 風は望乃に尋ねるが、望乃は非常に息を荒くしていて喋れる状態ではなかった。

 神樹の攻撃がなくなったところで、ようやく望乃が口を開いた。

 

「大体、美森ちゃんの……言った、通りだよ。私は……私自身の、生命力を、削って精霊を……強制召喚して……バリアの力も、強くさせた、んだ」

 

 望乃は手を膝に置いて息を整わせながら言った。

 

「息が荒いのは生命力を削っているから……」

 

「早くそんなことやめなさいよ! 今すぐ!」

 

「残念だけど、それは、できない。だって……私にはもう、時間があまりないから」

 

 望乃の言っている意味を理解できない二人に、望乃は満開の代償のことについて伝えた。

 

「大赦はまた……」

 

 風が怒りに震えていた。

 

「大赦は、知らなかった可能性が、高いよ。まあ、知ってたとしても、言わなかっただろうけどね。大赦にとって、精霊は使い捨ての道具……みたいなもの。精霊がどうなっても気にしないんだよ」

 

「あんた、夏凜と話して犠牲になるのやめたんじゃないの? もっと生きようと思わないの?」

 

「できることなら生きたいよ。でももう、それが叶わないところまで来ちゃってるんだよ」

 

「私たちが満開したせいで……」

 

「……これを知ったらそうやって後悔しちゃうでしょ。知ってたら使わなかったでしょ。だから私、言うつもりなかったんだけどな~。でも美森ちゃんたちのせいじゃないよ。私がバカだっただけ。みんなの満開の代償を受けてもまだ大丈夫だろうって思ってた。だから言わずに黙ってた。大丈夫だとわかっててもみんなは知ってたら使わなかっただろうから。でも、わかってたつもりだったのに、わかってなかったんだ。私、神様に嫌われてるって。その結果、私の生命力はこの戦いを生き残れないだろうな~っていうくらいまでなくなった。それで思ったんだ。どうせ生き残れないなら、みんなを攻撃から守ろうって」

 

 その時、空から光が差し、それが辺りに広がる。

 それを見て、望乃がその方向に指を差す。

 

「それよりも、今は友奈ちゃんだよ」

 

 風は苦渋な表情で、ゲージの残り四つを使って大剣を巨大化させ、道を作った。

 

「美森ちゃん、文句は友奈ちゃんを助けた後で聞くよ」

 

 東郷は頷いて風の剣の上を渡る。望乃も同じようにして渡ろうとする。

 

「望乃、あんたも行く気?」

 

「うん、私もできることをやりたいから!」

 

 そう言ってから望乃は東郷の後を追った。

 

「十分やってるじゃない……」

 

 後に残された風が二人の向かった方向を見ながら呟いたのだった。

 

 東郷や風には覚悟が決まっているかのように言ったが、望乃はまだ完全に覚悟が決まってはいなかった。決まっているのならすぐにでも『神の力』を使用するはず。だがそうさせないのはやはり夏凜が望乃に言った言葉である。

 戦いが始まってから、望乃の頭の中には夏凜の言葉が何度も流れていた。ここで『神の力』を使ってしまえば、夏凜の涙も、自分の涙も、夏凜が言ってくれた思いも、全部無駄だったことになってしまう。そして何より、またも夏凜や勇者部を裏切ることになってしまう。

 しかし望乃の身体にほとんど時間が残されていないのも事実。

 正解なんて分からない。だから望乃はまずは友奈を助けることが先決だと考えていた。

 そんな思いを秘めたまま、望乃は今までよりも重く感じる身体を無理矢理動かして友奈の元へ向かった。

 自分の限界をひしひしと感じながら。

 

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