小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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友奈と望乃

 東郷と望乃の二人が走っている内にやってきた場所は何やら暗いところだった。

 

「なんてとこ……望乃ちゃん、精霊の力でここから出られるのかしら?」

 

 相変わらず息が荒い望乃が冷静に答えた。

 

「わからない。でも無理矢理にでも出させてあげるから大丈夫だよ。それより美森ちゃん、下見て……」

 

望乃が下の方に向かって指を差した。その先には白い蛇に縛られている友奈がいた。

 

「友奈ちゃん!」

 

「東郷さん……望乃ちゃんも……どうして」

 

「帰ろう、友奈ちゃん! 迎えに来たのよ!」

 

 東郷が友奈の元へ行こうとするが、糸のようなもので足を掴まれる。

 

「そうまでして渡したくないのね……。友奈ちゃん! 今助けるから!」

 

 それを見ていた望乃が助けに入ろうとするが、急に足の力が抜けて膝から崩れ落ちてしまい、そのまま動けなくなってしまっていた。

 必死に友奈を助けようとする東郷を見て、友奈が言った。

 

「でも……私がやらないと、世界が消えちゃう……。これは、誰かがやらないと……なら私が……」

 

「誰もやる必要なんかない! 大切な人を、もうこれ以上……奪われたくないの!」

 

「私が我慢をすれば……それでいいから……」

 

 東郷が必死に友奈に手を伸ばして叫んだ。

 

「友奈! 本当のことを言ってよ。怖いなら怖いって……私には言ってよ。友達だって言うなら、助けてって言ってよ!」

 

 東郷にそう言われた友奈は自分の本心を口にした。

 

「嫌、だよ……怖いよ、でも言っちゃダメで……でもそんなの……死ぬの嫌だよ……。みんなと別れるのは、嫌だよ! 私たち、一生懸命だったのに……それなのに何で……嫌だよ。 ずっと……ずっとみんなと一緒にいたいよ……」

 

「友奈ちゃん、手を伸ばして!」

 

「東郷さん。助けて!」

 

 そう言って双方涙を流しながら手を伸ばすが、二人の間に壁のようなものができて、二人の手は届かなくなった。

 

 

 

 友奈と東郷の会話を上で黙って聞いていた望乃は拳を強く握りしめていた。

 一刻も早く『神の力』を使うべきだということは頭では分かっていた。望乃に残された時間はあとわずかで、このままいけば自分は何もできずに消えることになる。それまでに友奈を救いたいという気持ちも強かった。しかし、先ほどの東郷の言葉が、夏凜が自分に言った言葉が望乃を悩ませていた。

 

『私の夢は……友奈と東郷と園子と、望乃と一緒に卒業することよ。……だから友奈は死なせないし、あんたも死なせない』

 

『望乃が犠牲になって、笑って暮らせるわけないでしょ!』

 

『誰が何と言おうと望乃がいない勇者部は偽りなのよ!』

 

『私はあんたと友達になったあの日、決めたのよ。絶対にあんたを一人にしないって! たとえ何があっても、私は小木曽望乃を一人にさせてやらないんだから』

 

『私は、何があっても望乃のこと大好きだから! それだけは忘れないでいなさいよね!』

 

「私は……もう、みんなを、夏凜ちゃんを裏切りたく……っ!」

 

 望乃は突然吐き気のようなものがして、口に手を当てて吐いた。吐き出されたそれは血だった。

 

「……やっぱり、ダメだ。もう、私の身体が……」

 

 望乃は下を覗く。友奈と東郷の間に壁ができている。これをどうにかしなければならないのだが、今の望乃はろくに動けない状態だ。

 望乃は心臓の辺りをギュッと押さえて言った。

 

「誰か……誰か友奈ちゃんを、助けて……」

 

 望乃がそう言った瞬間、一瞬だけ望乃の身体が光った。すると、東郷の頭上から銀らしき影が降りてきた。そしてそのすぐ後に歴代の勇者らしき影が降りてきた。そしてそれの力の甲斐もあって、友奈の救出に成功したのだった。

 その光景を見ていた望乃は、唖然としていた。そして気付いた。あれだけ苦しかったというのに、今は何ともない。望乃は立ち上がって自分の身体の状態を確かめた。そうして理解した。自分は『神の力』を一時的に使って歴代の勇者の魂を呼び寄せたのだと。少しでもそれを使った以上、自分が消える以外の道はないだろう。それを理解した望乃は、自分の役割を受け入れて覚悟を決めた。

 望乃は目を閉じて祈りのポーズをした。

 

「私は精霊の頂点に立つ者。神樹様。私は人間になろうとしました。大切な人たちと、対等な存在になりたかった。その結果私は、精霊にあるまじきことをやってしまいました。しかし後悔はしていません。彼女たちと過ごした時間は無駄ではなかった。そう思うから。私は笑って、怒って、泣いて、楽しんで、友を想えるようになれました。その感謝として、友の力になりたい。神樹様、私に神に等しき力を授けてください」

 

 望乃は今までのことを頭に浮かべる。そして夏凜があの時言った言葉を頭に浮かべた。

 

『今も昔も、私にとっての一番の勇者は……望乃、あんたなのよ』

 

 ――正直、それを言う日が来るとは思わなかった。ずっとそれを否定し続けてきた。だけど、私よりも小木曽望乃をよく知る人が言ってくれたから、私は胸を張ってそれを言える。

 

「この……讃州中学勇者部、勇者、小木曽望乃に!」

 

 望乃がそう言った瞬間、勇者部六人刻印の花の花びらが現れ、望乃を包み込んだ。その花びらが消え、そこから現れたのは、紫色の神々しい姿に変わった望乃であった。

 その頃友奈も、目の前に現れた牛鬼によって、光の蕾に包み込まれ、そこから神々しい姿に変わり、オッドアイになった友奈が出てきた。

 その友奈を見た望乃はかすかに笑った。

 

「皮肉な話だよね~。神に好かれている友奈ちゃんと、神に嫌われている私の最後の姿が同じだなんてさ~」

 

「私は……私たちは人として戦う! 生きたいんだ!」

 

 姿を変えた友奈が言った。そして友奈が視線を向けた先にいた望乃の姿を見て驚いた顔を見せる。

 

「望乃ちゃん、それ……」

 

「……友奈ちゃん! 行こう、みんなが笑って暮らせる世界のために!」

 

「……うん!」

 

 友奈と望乃が天の神の方へ向かい、友奈はパンチで、望乃は武器を出して攻撃する。

 その時勇者部は初めて望乃の姿が変わっていることに気付いた。

 それがどういうことなのかすぐに理解した園子はあえて何も言わなかった。同じく理解した夏凜は思い切り叫んだ。

 

「ふざけんなー!」

 

 それが聞こえたのか、望乃は一瞬だけ夏凜の方を見た。

 すると、夏凜の目の前に決まった言葉だけ喋れる夏凜の精霊、義輝が現れた。そしていつもとは違う言葉を発したのである。

 

「……カリンチャン、ゴメン。ミンナノコトワスレナイヨ。ダイスキ」

 

 それだけを言うと精霊は消えてしまった。それが望乃からのメッセージだと言うことは明白だった。

 

「私だって、絶対忘れない。忘れてなんてあげない! だから、これで最期みたいなこと言うなー! いけー! 友奈! 望乃!」

 

 夏凜の声に続いて勇者部が二人に声援を送る。

 

「友奈さんの幸せのために!」

 

「なせば大抵!」

 

「なんとかなる!」

 

「勇者部ーー!」

 

「ファイト―!」

 

 全員でそう言った後、友奈がさらに力を上げる。望乃はそんな友奈をちらっと見ると、手に持っていた武器から手を離し、攻撃方法をパンチに変えた。そして望乃はもう片方の手で友奈のもう片方の手を握った。

 

「……最後に敵を倒すのは、勇者(私たち)だよ!」

 

 友奈と望乃は手を繋いだまま拳を思い切り振りかぶった。

 

「勇者は根性! いくよ! 望乃ちゃん!」

 

「うん! 友奈ちゃん!」

 

「勇者パーンチ!」

 

 友奈と望乃は声を揃えて全力で殴った。それにより、天の神との戦いは終結した。

 力を出し切った友奈は、牛鬼に一言礼を言って牛鬼が消えるのを見届けた。その後、なぜか自分の体が空中で浮いていることに気付いた。下には見えない床のようなものがあるようだった。そしてその隣にまだ神々しい姿のままの望乃が着地した。

 

「やっほ~、友奈ちゃん。友奈ちゃんにちょっと頼みがあるんだ~」

 

「望乃ちゃん? 私、分からないことばっかりだよ! 望乃ちゃんのその姿とか」

 

「ん~。それを全部説明してる時間はないんだよね~。そうだな~。確かなのは私はもうみんなのところに帰れないんだってことかな~」

 

「え?」

 

「寿命っていうのかな。今はこの状態だから普通にいられてるけど、もう私の命はほとんど尽きちゃったみたいだからね~」

 

「そんな……」

 

「だから、はい」

 

 望乃は友奈に強引に何かを握らせた。

 

「これって……」

 

「夏凜ちゃんが私にくれたヘアピン。私にはもう必要ないからさ~、友奈ちゃんにあげるよ。夏凜ちゃんも、私と一緒に消えるよりかはその方が喜ぶと思う」

 

「ダメだよ! これは望乃ちゃんが持ってないと――」

 

「ごめん友奈ちゃん。一方的だけど、私もう行くね。……またね」

 

「望乃ちゃん! 待って!」

 

 友奈の制止を聞かずに望乃は指を鳴らしてどこかに消えてしまった。

 




 次回は明日か明後日に出します。
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