小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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 最終回です。


勇者部はいつまでも

 望乃の三度目の転校を終え、風の卒業まであと数日に迫っていた。

 相変わらず朝に弱い望乃は、夏凜に叩き起こされて眠そうにしながらも朝食をすぐにたいらげた。

 

「望乃、調子はどう?」

 

「ん~。眠たい」

 

「そういうことじゃないわよ」

 

 夏凜はそう言って望乃の額に自分の額をくっつけた。数秒くっつけてから夏凜は離れた。

 

「まあ、異常はなさそうね」

 

「毎朝大変だね~」

 

「あんた、毎朝やってるんだからちゃんと答えないなさいよ!」

 

「夏凜ちゃん、私が大丈夫って言っても、信用できないって同じことするでしょ~」

 

「否定はできないけど……どれもこれも、あんたが嘘ばっかり吐いてたのが悪いんでしょ!」

 

「も~、最近はついてないよ~」

 

 夏凜は毎朝望乃の体調を確認していた。

 一度精霊に戻った望乃がどういった経緯で再び人の姿になれたのかということは望乃から聞いた。しかし以前とは違い神樹様が関与していないことや、前例があることもあって、当分の間体に異常がないか確認することになっていた。体重も変化するようになり、以前の望乃と変わりがなかったが、念のために夏凜が毎朝確認していた。

 

「夏凜ちゃん、私実は夏凜ちゃんに言った以外にもう一つ夢があるんだ~」

 

 望乃が突然そんなことを言い出した。

 

「何よそれ、どんなことよ」

 

 望乃はどことなく真剣な表情に見えたので、夏凜はそれを聞いた。

 

「ずっと思ってた。うどんを食べながら登校してみたいって」

 

「…………は?」

 

「だからうどんを……」

 

「聞こえてるわよ! あんた、真剣な顔して、どんなことかと思ったらそんなこと?」

 

「そんなことじゃないよ~。ずっと夢だったんだから~」

 

「無理よ、諦めなさい」

 

「勇者部五箇条、間違った六箇条! なるべく諦めない!」

 

「そんなことに六箇条を使うな!」

 

 心配して損したと呆れる夏凜は望乃を置いていこうとする。

 

「あ、待って夏凜ちゃん」

 

 望乃はそう言いながら夏凜を追いかけて抱き付く。抱き付かれた夏凜は少しだけ嬉しそうだった。

 

 

 

 放課後。夏凜にすぐ来るように言われ、勇者部二年生五人は集まっていた。この日、風と樹が遅れることを事前に聞いており、二年生だけで集まれる時間があったのだ。

 

「さて、全員集まったわね」

 

「夏凜ちゃんがこういうことするのって珍しいね!」

 

「でも、前にもこんなことあったよね~。ということは、今回もコギーに関することということだね~」

 

「望乃ちゃん、夏凜ちゃんに何かしたの?」

 

「ん~。何かしたかな~。あ、夏凜ちゃんのにぼしをいっぱい食べちゃったことかな~」

 

「つまり、望乃ちゃんがにぼしを食べ過ぎた結果、夏凜ちゃんの分のにぼしがなくなり、にぼし不足に陥ったため、私たちを集めたというわけね」

 

「それだよ! 東郷さん、名推理だよ!」

 

「だったら一刻も早くにぼしを探してこなくっちゃ!」

 

「じゃあ、私が行くよ! 私のせいで夏凜ちゃんがこんなことになっちゃったんだから、私が行かないと!」

 

「コギー、一人で抱え込む必要なんてないんだよ。私も、手伝うよ」

 

「望乃ちゃん、私も手伝うよ! 一緒に……にぼしを見つけよう!」

 

「みんなで力を合わせて、夏凜ちゃんをにぼし欠乏症から救いましょう」

 

「みんな……ありがとう!」

 

「勝手に話を進めるなー!」

 

 四人のやり取りに夏凜が盛大にツッコみを入れた。

 

「ていうか長いのよ! 大体、にぼしがないだけでそんなことになるわけないでしょ! 第一、今日もにぼし持ってきてるわよ!」

 

 夏凜が鞄からにぼしの袋を見せると、四人はホッとしていた。

 

「どこに安心してんのよ!」

 

 夏凜は大きくため息を吐いて話を戻した。

 

「あんたたちに集まってもらったのは望乃だけじゃなく、この場の全員に関係することよ」

 

「それは?」

 

「もうすぐ風の卒業。つまり、次の部長が誰になるかって話よ」

 

「樹ちゃんは?」

 

「樹はまだ一年よ。まだ荷が重いわ」

 

「でも決めるのは風先輩よ。私たちが話しても意味がないんじゃない?」

 

「話したらいけないってことでもないでしょ。正直、誰がなると思う? まあ、私が一番向いてると思うけど!」

 

「私いっつんだと思うな~」

 

「私も樹ちゃんだと思う~」

 

「この中で!」

 

 夏凜があまりにもしつこいので四人は話すことにした。

 

「まあ、まず望乃と園子はないわね。園子は入ってからそんなに経ってないし、望乃はそういうタイプじゃない」

 

 夏凜が自信満々にそう言う。

 

「私は友奈ちゃんだと思うわ」

 

「私は東郷さんが良いと思う!」

 

「私は、わっしーかな~」

 

「私は友奈ちゃんだと思うな~」

 

「……私は? ていうか、望乃! あんたは私だと思いなさいよ!」

 

 名前の挙がらなかった夏凜が望乃に理由を聞く。

 

「え~っとね、美森ちゃんと夏凜ちゃんは部長を支える立場の方が良いと思うんだよね~。夏凜ちゃんがさっき言った私と園子ちゃんが無理な理由も納得できたから、じゃあ友奈ちゃんかなって」

 

「思ったよりちゃんと考えてたわね」

 

 そこで遅れてきた風と樹がやってきて、その話は終わりということになった。

 

「そういえば望乃、調子はどう?」

 

 風に聞かれた望乃はお菓子の袋を開けながら言った。

 

「異常なしだよ~」

 

「私が毎日確認してるから間違いないわ」

 

「クラスの方はどう?」

 

「全然大丈夫だよ~」

 

「この時期の転校なので、初めは珍しい目で見られていましたけど、すぐに溶け込めたみたいです」

 

「望乃さん、最初に転校してきた時もそうでしたもんね」

 

「コギー、授業中に寝ることはなくなったよね~」

 

「園ちゃんがボーっとしてるのはよく見ます!」

 

 勇者部の報告を受けて風はウンと頷いた。

 

「問題がないようで安心したわ。いやー、それにしても、同じ学校に三回も転校するなんて変な話よねー!」

 

「ホントだよね~」

 

「あんたのことよ、望乃」

 

「でも、みんなの記憶が消えただけで、性格が変わったわけじゃないから問題なんて起こるわけないよ~。いろいろお菓子くれるしね~」

 

「ああ、望乃が今食べてるの、もらったやつなのね」

 

「なんか頼んでないのにくれるよ~。クラスの人とか、他のクラスの人とか、先生とか」

 

「先生も!?」

 

「何でそんなに望乃さんにくれるんでしょう?」

 

「なんかね~、私が小動物みたいで、おいしそうに食べるからあげたくなるんだって~」

 

 勇者部はなんとなくその気持ちが分かったような気がした。

 

「そのおかげで望乃の鞄の中には基本お菓子の袋が入ってるわ」

 

 夏凜は鞄からにぼしの袋を取り出した。お菓子を食べ終えた望乃がそれを見て、夏凜を呼んで口を開ける。

 

「仕方ないわね」

 

 夏凜は望乃の口ににぼしを放り込んだ。

 

「……にぼしを常備してる夏凜も同じようなものじゃない?」

 

「何ですって?」

 

「あっ、ぼた餅いかがですか?」

 

 東郷が思い出したと言わんばかりに言い出した。

 

「東郷さんのぼた餅だ!」

 

「わっしーのぼた餅、久しぶりだ~!」

 

「ぼた餅食べたい!」

 

「相変わらずよく食べるわね……」

 

 望乃に呆れる夏凜以外の六人がぼた餅を手にする。

 

「夏凜ちゃん、一緒にぼた餅食べましょう」

 

 ぼた餅を夏凜に差し出す東郷に、夏凜は勇者部全員の顔を見渡した後、受け取った。

 

「仕方ないから、食べてあげるわよ! 感謝しなさい!」

 

 そう言ってそっぽを向く夏凜を見て、勇者部は笑いながらみんなで一緒にぼた餅を食べた。

 その後いくつもぼた餅を食べて、食べ疲れた望乃は樹に膝枕をしてもらっていた。

 

「樹ちゃんの膝枕、すごくいいよ~」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん、なんか……すごくいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

樹は少し照れた様子だった。東郷や園子がその様子を撮ったことで、膝枕は強制終了することになった。

 

 

 

 そして数日後。風の卒業式の日がやってきた。式が終わった後、勇者部は部室に集合していた。

 

「風先輩、卒業おめでとうございます!」

 

 勇者部がそう言うと、風は嬉しそうにしていた。

 

「風! 早く新部長発表しなさいよ!」

 

 夏凜が待ちきれないと言わんばかりに風を急かす。

 

「少しくらい待ちなさいよ。仕方ないわね。新部長は……樹よ!」

 

 風はそう言って樹に『新勇者部部長』のタスキを樹に掛けた。

 

「えーーーー!」

 

 夏凜は予想外のことに驚いていた。

 

「樹ちゃん、おめでとう!」

 

「おめでとう」

 

 友奈と東郷は賛辞の言葉を送っていた。

 

「いっつんが部長か~」

 

「樹ちゃん、良かったね~」

 

 園子と望乃は二人で喜んでいた。

 

「樹に部長をしてもらって他のみんなに支えてもらうって形が一番良いと思ったのよ」

 

「望乃が言ってたことと同じようなものね……」

 

「うん、だってそれを参考にしたからねー」

 

「……ってことは、前聞いてたの?」

 

「まあ、そういうことになるわね」

 

「あんたねぇ……」

 

「まあまあ、私の卒業と樹の新部長就任祝いにうどん食べましょう!」

 

「何でそこでうどんなのよ!」

 

「私が食べたいからよ!」

 

 ギャーギャーと言い合う二人をよそに、園子が樹に聞いた。

 

「いっつん新部長! ご決断を!」

 

「え、えっと……うどん、食べましょう!」

 

「じゃあ、決まりだね!」

 

「風先輩、夏凜ちゃん、うどんを食べに行きましょう!」

 

 その一言で言い合っていた二人は収まった。

 

「うどんだ~。うどんの踊り食いだ~」

 

「うどんの踊り食いって何よ!」

 

 先に全員で集合写真を撮ってから、部室を出る準備をしていると、園子が空を見ている望乃に気が付いた。

 

「どうしたの? コギー」

 

「ん~? 銀ちゃんのこと考えてた」

 

「ミノさんのこと?」

 

「何の話?」

 

 二人の会話が聞こえたのか、東郷が会話に入ってきた。

 望乃はもう隠し事はしたくないと思っていた。だから二人に伝えておこうと思ったのだ。

 

「私ね、銀ちゃんに会ったよ。ちょっとだけだけどね」

 

「銀と?」

 

「ミノさんと会えたんだ」

 

「うん、その時にね、銀ちゃんに言われたんだ。美森ちゃんと園子ちゃんのこと、よろしくって」

 

 それを聞いて、東郷は口元に手を当て、園子は微笑んだ。

 

「じゃあ、もうコギー無理はできないね。そんなことしたらミノさんに怒られちゃうよ」

 

「うん」

 

「コギーは私やわっしーやみんなと笑って暮らせば良いと思うよ。きっと、ミノさんもそれを望んでると思うからね~」

 

「……うん、そうだね!」

 

「東郷さん! 園ちゃん! 望乃ちゃん! 行くよー!」

 

 友奈が二人に大きく手を振っていた。園子は望乃の手を握って引っ張って行った。

 

「ほら、行こう。コギーが笑って暮らせる私たちの世界に!」

 

「うん!」

 

 勇者部は七人揃って歩いていた。

 

「ほら、樹! 早く行くわよ! うどんは待ってはくれないわ!」

 

「お姉ちゃん、うどんは逃げないから」

 

「夏凜ちゃん!」

 

「ゆ、友奈!?」

 

 友奈が夏凜に抱き付き、さらにその友奈に望乃が抱きついた。

 

「何なのよ、これはー!」

 

「友奈ちゃん、こっちに来て」

 

「どうしたの? 東郷さん」

 

 声を掛けられて望乃と友奈が離れ、友奈が東郷の元へ向かう。

 

「あんた、何であの状況で友奈に抱き付くのよ」

 

「園子ちゃんが言ったから~」

 

 夏凜は園子の方に視線を向ける。

 

「創作が捗るよ~」

 

 園子がグッと指を突き立てると、望乃もグッと指を突き立て返した。

 

「でも、夏凜ちゃんが一番落ち着くよ~」

 

 そう言って望乃は夏凜に抱き付く。

 

「そ、そう?」

 

「照れてるにぼっしー、いいね~」

 

「ってまた!?」

 

「もう、あんたらいつもよく飽きないわねー」

 

「みなさん、行きますよ」

 

 勇者部は樹の声に返事をして仲良く歩く。

 かつて精霊として生まれ勇者に憧れ続けた一人の少女は、自分を信じてくれる仲間に支えられて、大切な人たちと対等な存在になることができた。人知れず消える運命しかなく、誰かの代わりに過ぎなかった少女は、友に囲まれて今日も笑う。

 

「みんな、いつまでも仲良くしようね!」

 

 望乃の突然の言葉に、勇者部は一瞬きょとんとした後、笑った。

 友奈が笑い、東郷が笑い、風が笑い、樹が笑い、園子が笑い、夏凜が笑い、一緒になって望乃も笑う。

 そして友奈が望乃の手を取った。

 

「望乃ちゃん、勇者部は永久に不滅だよ!」

 

「うん、みんな、大好き!」

 

 そう言って望乃は友奈と夏凜に抱き付いた。

 望乃は勇者部に入って本当に良かった、と思った。

 七人揃った勇者部は、いつまでも笑顔だった。

 




 これで小木曽望乃の物語は終わりです。

 放送前にこのシリーズでやりたいなと思っていたこと(望乃VS夏凜など)を本編にほとんど強引にねじ込んだ、作者の自己満足のようなものになってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。

 今までこの作品を読んでくださった方、ありがとうございました。


 最後におまけのようなものを一つ。
 望乃の誕生日は十月十一日です。

 以上です。ありがとうございました。
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