ほのぼのにしようと思っていたんですが、シリアス寄りになってしまいました。
「さて、集まったわね」
ある日の昼休み、勇者部は一名を除いて部室に集まっていた。
「で、何の用よ。突然集めて」
突然の招集に不満な様子の勇者部。
「いいから聞きなさい! これは勇者部にとっても大事な話よ」
招集した夏凜が集まった四人前に移動する。その真剣な表情に、何か起こったのかと不安な空気になる。
「それってコギーのこと?」
その空気の中、園子がのほほんとした態度で夏凜に聞く。
「よく分かったわね。さすが伝説の勇者なだけはあるわ」
夏凜が不敵な笑みを浮かべてにぼしをかじる。
「だって、コギーだけ呼ばれてないからね」
夏凜によって呼び出されたのは友奈、園子、風、樹の四人。望乃は呼ばれていなかった。
「まあ、丸わかりよね。夏凜が呼び出した時点で分かってたわ」
「でも望乃ちゃんいつも私たちと食べてるのに大丈夫かな?」
「大丈夫よ。先に今日は勇者部皆一緒に食べられないって言っておいたから」
「それって望乃さん以外で集まるって言ってるようなものなんじゃ……」
「分かってても盗み聞きはしないから大丈夫だよ~」
とにかく、と夏凜が後ろの黒板を力強く叩く。黒板には夏凜の手形がくっきりと残っていた。
「今日の議題は『望乃について』よ!」
「望乃ちゃんについて?」
「今更何を話すのよ」
「忘れたの? 昨日の事件を」
「事件って大げさすぎでしょ」
夏凜が言っている事件とは、昨日かめやによって起こった『望乃、うどん一杯事件』のことである。そのことを不思議に思った夏凜は、勇者部に心当たりがないか聞くことにしたのである。
「そんなの私たちに聞く前に、望乃自身に聞けばいいじゃない」
風が呆れたように言う。
「私もそう思って望乃に聞いたのよ」
「聞いたんかい!」
「そしたら調子が悪かったって」
「そうでしょうね」
「でもおかしいと思わない?」
「確かに、最近の望乃さん、どこかおかしい気がします」
樹が夏凜の意見に賛同する。
「具体的には分からないんですけど、最近の望乃さんには違和感があるというか、何かもの足りない感じがするんです」
「あっ、そっか!」
友奈が急に立ち上がった。
「望乃ちゃん、夏凜ちゃんに抱きついてないんだよ!」
その言葉にその場の全員が納得した。それを聞いても未だ平静を保っていた夏凜が口を開く。
「そうよ。だから望乃に聞いたのよ」
「それも聞いたんかい!」
「そしたらこう返ってきたわ」
夏凜は昨晩の望乃とのやりとりを話した。
「望乃、ちょっといい?」
「ん~?」
「あんた最近、その……私に……抱きついて、ないじゃない?」
「何~? 夏凜ちゃん、抱きついてほしいの? ここに来たばかりで、しばらく抱きついてなかった時は何も言ってなかったのに~」
「べ、別にそんなんじゃないわよ。私は、望乃がまた勝手に何か抱えてるんじゃないかって思っただけよ!」
「そっか~。理由はね~……ちょっとそういう気分になれないからかな」
「……という感じだったわ」
夏凜は一人二役で勇者部に伝えていた。望乃の物まねをする夏凜の姿に風は、必死に笑いを堪えていた。
「なるほどね~。謎は解けたよ」
すると、黙って聞いていた園子が声を上げた。
「何か分かったの? 園子」
園子は鞄からハナメガネを取り出して自身に付けた。
「謎は解けたよ」
「何でそれ付けて言い直したのよ」
「まずコギーはね、精霊の時嘘をつくことがけっこうあったんだ」
「それは確か、大赦から真実を口止めされてたからよね?」
風が園子の言葉に付け加える。
「うん。だからコギーにとって嘘をつくこと自体は簡単なんだ~。でも、罪悪感を覚えちゃうと、本当のことを言うんだよ~」
「どういうことよ」
夏凜が園子に質問する。
「にぼっしーがコギーに聞いたことで、前の方が嘘、後の方が本当だってことだよ~」
「じゃあ、昨日の行動はなんなのよ!」
「それはわからないな~。にぼっしーの言う通り、コギーが何かを知って一人で何とかしようとしてるのかもしれない。コギーは精霊の時も、多分今も自分は犠牲になってもいい存在だと思っているからね」
それを聞いた夏凜が望乃の元へ行こうと部室を飛び出そうとするが、園子が制止させる。
「にぼっしー、コギーはね、情報が正確だと分からないと人に伝えないの。だから、一人で抱えてると決まったわけじゃないよ」
「でも、私たちが知らない何かを知っているのは確かでしょ!」
「それは私が聞くよ」
真剣な顔でそう言う園子に、夏凜はしぶしぶ承諾した。
「それにしても園ちゃんすごいね! 望乃ちゃんマスターだね!」
聞いたことのある言葉に夏凜が驚きを見せる。
「コギーの元主人だからね」
ふふん、と園子が鼻を高くする。
「あの」
四人から離れて机に移動していた樹が突然声を上げた。
樹の目の前にはタロットカードが並べられていた。
「どうしたのよ、樹」
「望乃さんのこと占ってみたら、『月』の正位置が出たんです。これは不安や迷いを現します」
「不安や迷い……」
「そして、このカードは裏切りの意味も持ちます」
「ちょ、何よそれ。他の二つはともかく、望乃に限って裏切るなんてことあるわけないでしょ! 何かの間違いじゃないの?」
「それが……何回やっても同じ結果で……」
「落ち着きなさいよ、夏凜。樹に責任なんてないでしょ」
その時、昼休み終わりのチャイムが鳴った。勇者部急いで部室を後にする。
「望乃に聞くって言うけど、具体的にどうすんのよ!」
もやもやが残ったままの夏凜が、急いで教室に向かいながら園子に聞く。
「放課後に呼び出す! 一度やってみたかったんだ~」
楽しそうにそう話す園子を見て、夏凜は少し心配になった。
そして放課後。
「コギー、ちょっといいかな?」
園子は望乃を呼び出し、人気のない場所へ移った。園子が心配だった夏凜と、夏凜に連れてこられた友奈は見つからないように二人を見守っていた。
「コギー、悩みがあるの?」
「悩んでないよ~」
「最近のコギー、変だよ。みんな心配してる」
「……そっか」
「言えないか~。これは命令だよ~」
園子に笑顔でそう言われ、望乃は困惑する。
「命令はずるいよ~」
「ふっふっふ~。コギーの悩みを聞くためなら何でもするよ」
園子がグッと親指を突き立てる。
望乃は悩んだ末に申し訳なさそうな顔で言った。
「私、悩んでること二つあるんだ。でもごめんね。一つはまだ言えない」
「いつか言ってくれるんだね」
「うん。もう一つの方はね、前に見た夢なの。今の生活が全て夢だったっていう夢。だから実はそうなんじゃないかって思っちゃって」
「……コギーは、今の生活楽しくない?」
園子がそう聞くと、望乃は首を大きく横に振った。
「ううん。楽しいよ。すごく楽しい。だからこそ、もうすぐ終わっちゃうんじゃないかって怖いんだ」
望乃のその言葉を聞いた瞬間、園子はうれしそうに笑った。
「コギー、気づいてる? 今怖いって言ったんだよ。前に怖いってどういうことか聞いてきたのに、コギーは今それを感じてるんだよ」
園子はゆっくりと望乃に近付いて優しく抱きしめた。そして、子供をあやすように望乃の頭を撫でた。
「大丈夫。コギーはちゃんと生きてる。だから心配しなくてもいいんだよ~」
園子は望乃から手を離すと、望乃の後方に声を掛けた。
「でしょ~? 二人とも」
いつの間にか気づいていた園子に声を掛けられて、夏凜と友奈が出てくる。
「夏凜ちゃん。友奈ちゃん」
望乃が聞いてたのと言いたげな視線を二人に向ける。
友奈が謝ろうとした時、園子が二人の元へと行く。
「じゃあ、私たちはお邪魔だろうから部室に戻るね~。ふーみん先輩といっつんには私が言っておくね~。行こう、ゆーゆ」
「あっ、望乃ちゃん、夏凜ちゃん、また明日ー!」
そう言いながら園子と友奈はそそくさと行ってしまった。
「えっと、夏凜ちゃん」
「……望乃、行くわよ」
「え? どこに?」
「いいから付いて来なさい」
夏凜が向かった先は自宅だった。
家に帰って荷物を置き、木刀を二つ持って制服のまま勇者の時に使っていた鍛錬場にやってきた。そして夏凜木刀を投げて渡して構えた。
木刀を受け取った望乃は未だに夏凜の意図が分からずにいた。
「夏凜ちゃん、これって」
「模擬戦よ」
「でも、今制服だよ~。それに寒いよ~」
「ぐだぐだ言わない! 望乃、あんた勇者部五箇条言ってみなさい」
「え~。これでも私けっこう記憶力良いんだよ~」
「知ってるわよそんなこと。いいから寒いんだからさっさと始めるわよ!」
「は~い。勇者部五箇条ひと~つ、挨拶はきちんと~」
望乃が夏凜に向かって走り、木刀をぶつけ合う。
「勇者部五箇条ひと~つ、なるべく諦めな~い」
二人は本気とはほど遠い力で戦っていた。その二人の姿は遊んでいるようだった。
「勇者部五箇条ひと~つ、よく寝て、よく食べる~」
「これは望乃によく当てはまってるわね」
「そうかな~? 勇者部五箇条ひと~つ、悩んだら相談!」
「これよく覚えときなさいよ!」
「え~?」
望乃が一度大きく距離を開けて、全力で駆け出す。
「これで最後だよ。勇者部五箇条ひと~つ、なせば大抵なんとかな~……へぶっ!」
望乃は最後の最後で盛大に転んだ。
「ちょっ、望乃、大丈夫?」
夏凜が急いで駆け寄る。
「えへへ、制服汚れちゃった~」
望乃は思ったより怪我がないようだった。
望乃が立とうとすると、足を捻ったらしくうまく立つことができなかった。
「ごめん」
「夏凜ちゃんのせいじゃないよ~私が勝手に転んだだけなんだから~。それより夏凜ちゃん、何で勇者部五箇条を言わせたの?」
「何でっていつまで経っても守らないからよ。特に、悩んだら相談! のところ」
「え~? それは私以外にもいるよ~。風ちゃんとかみ……っ」
「み?」
「み、みんな、けっこう悩んでも相談しないよ~」
なぜか望乃は慌てたような様子だった。
「じゃあ、せめて望乃は守りなさいよ。どんな悩みでも、私が聞いてあげるわよ。別に今すぐじゃなくてもいいからちゃんと言いなさいよ」
夏凜は望乃の手を引っ張って立ち上がらせる。
「……うん、わかった」
望乃には分かっていた。夏凜がなぜ突然模擬戦を挑んできたのか。
望乃と夏凜が過ごした時間のほとんどが鍛錬だった。だからこそ二人が相手に思いを伝えるときには戦闘の真似事のようなことをしていたのだ。
しかし夏凜がこのようなことをしたのはそれだけが理由ではなかった。
夏凜はこれが望乃を笑顔にできる方法だと思っていたのだ。
「じゃ、帰るわよ」
「でも、私用事が……」
「何してんのか知らないけど、そんな足で行けるわけないでしょ!」
望乃は夏凜に支えてもらってようやく歩ける状態だった。
それでも迷っている様子の望乃を見かねた夏凜は、その場にしゃがみ込む。
「どうしたの?」
「おぶってあげるからさっさと乗りなさいよ! 恥ずかしいじゃない!」
きょとんとしていた望乃だったが、顔を赤くした夏凜を見て、笑顔で乗った。
「思ったより重いわね」
夏凜が望乃をおぶって歩き始める。
「え~? 私より夏凜ちゃんの方が重いよ~」
「声が大きい!」
望乃が夏凜の背中にぴたっとくっつく。
「夏凜ちゃんの背中、あったかい」
「さっき運動したからじゃない?」
「夏凜ちゃん」
「何?」
「ず~っとこんな日々が続けばいいのにね~」
「続くわよ、きっとね」
「そっか~」
それからも、二人はたわいない会話をし続けた。
その間も、望乃は本来いたはずの勇者部の部員のことを考えていた。
タロットカードの意味はあまり細かく見ないでください。よく知らないので少しおかしいかもしれません。
それにしても、望乃が相手だと園子がお姉さんみたいになってしまう……。
次回から本編に入ります。