平和な勇者部。
タウン誌で勇者部のことを紹介してもらえることになり、友奈はそのキャッチコピーを考えていた。
「お姉ちゃん、幼稚園からお礼のメールがたくさん来てる! すごいすごーい!」
「お~、すご~い」
望乃は樹の操作するパソコンを覗き見ていた。
そこに、園子が部室に入ってきた。
「ごめんごめん~。もう始まってる~? 掃除の途中で寝てしまったんよ~」
「園子、そんな時に寝ることができるのはあなたくらいよね。望乃でもそんなことはなかったし」
「わあ、褒められた~!」
「良かったね! 夏凜ちゃんはあまり人を褒めないんだよ」
友奈と園子が二人で喜び合う。
「褒めてないわよ」
「にぼっしー!」
「関係ないでしょ!」
「にぼっし~」
「あんたもマネしない!」
友奈や園子、望乃に振り回されっぱなしの夏凜だった。
「さて、全員揃ったわね? 十二月期の部会、始めるわよ」
「はーい」
風が五人の前に立って言う。しかし返事があったにも関わらず、風は話を始めない。その理由は一目瞭然であった。
「だから望乃、お菓子を食べるのをやめなさい」
望乃はバリボリとお菓子を頬張っていた。望乃はこのままでも十分話を聞けたが、だからと言ってそれを良しとするわけにもいかなかった。
注意された望乃は、口に入れていたお菓子を一気に飲み込んだ。
「ふぁ~い」
望乃はそう言って夏凜にお菓子の袋を預けた。
風は大きくため息を吐いてから話に入った。
そんな調子で勇者部は毎日のように元気だった。
休日。
園子が犬吠埼家で家庭教師をしていた時、友奈と夏凜はソフトボール部の助っ人として呼ばれ、その帰りにうどん屋に寄っていた。
「夏凜ちゃん、日曜日なのに来てくれてありがとね!」
「別に、今日はたまたま暇だったし……たまたまよ」
「望乃ちゃんは今日、忙しかったの?」
友奈は夏凜と一緒に望乃も呼んでいた。望乃は運動神経が良い上に、料理もできるからお弁当目的で呼んだのである。
「さあ? 結局園子に話した悩みと別の方はまだ話せないって言うし、今日も朝から出て行ったわ。どこで何してんのか知らないけどね」
「そっかー。望乃ちゃん、何を悩んでるんだろう」
「知らない。でも望乃がいつか話すって言ってんだから、いつか話すんでしょ」
それから二人はその日のことなどを話した。その帰り道、友奈は車イスの少女をなぜか見てしまっていた。
翌日、勇者部で樹が調理実習でケーキを作って持ってきた。
「早く食べよ~!」
望乃は崩れた見た目になっているケーキの形は気にせず、そのままかぶりつきそうによだれを垂らしていた。
ケーキを切り分け、全員に分ける。覚悟を決めて食べたそれは見た目に反しておいしかった。
「樹ちゃん、おいしかったよ~」
望乃も満足げだった。
「ありがとうございます!」
「って、望乃もう食べ終わってるじゃない!」
そうしてケーキを食べ終わった勇者部は一斉に残ったケーキ一切れに手を伸ばす。残り一切れを譲り合う。
「あ、じゃあ夏凜ちゃんどうぞ!」
「え? いやいや、樹が食べるべきよねー」
「わ、私は授業でも食べたから……園子さんどうぞどうぞ」
「部長こそ、どうぞどうぞ」
「二つも食べたら女子力的に心配よね。食べ終わるの早かった望乃はどう?」
「え? 食べていいの~?」
「少しは遠慮しなさいよ!」
遠慮せずケーキを食べようとする望乃を、夏凜がツッコみながら止めたのだった。
「そもそも、何で七つに切ったのよ、風」
「知らないわよ、いつものクセよ」
「クセ?」
風の言葉に友奈が反応した。
「え? あ、いや、なんとなくかなあ」
ケーキは園子が六等分に分けた。それに勇者部が驚いたり褒めたりしている時、友奈がボソッと呟いた。
「……ぼた餅」
友奈がその言葉を口にした瞬間、望乃が心底驚いたような表情で友奈を見た。
結局、友奈のその言葉を、勇者部はそれほど気にしていなかった。
その帰り、友奈は空き家になっている友奈の隣の家を見つめていた。
「友奈ちゃん」
そこへやってきたのは望乃だった。望乃は笑顔で友奈の元へとやってきた。
「望乃ちゃん? 何でここに?」
望乃は家を見つめて、少し寂しそうな顔で言った。
「友奈ちゃんが、来てると思って」
「望乃ちゃん、何か知ってるの?」
「……そうだね。少なくともこの家には誰もいないよ。そして私たちは、友奈ちゃんの感じてるそれを、ちゃんと思い出さないといけないんだと思う」
「何? どういうこと?」
「友奈ちゃん、とりあえず今日はもう帰ろ?」
望乃は笑顔で友奈の手を取った。その手はわずかに震えていた。だから友奈は望乃の言う通り自分の家に帰った。
友奈を家へ送り届けた望乃は、友奈の隣の家に戻ってきていた。
「友奈ちゃん、思い出しかけてるのかな。だったら、私の……。友奈ちゃんに、勇者部のみんなに会わせてあげたいのに、全然見つからないな~。美森ちゃん」
その時、望乃の携帯が音を鳴らした。夏凜からの電話だった。通話にすると、夏凜の怒号が飛んできた。
『ちょっと、望乃! 急にどっか消えてんじゃないわよ! どこにいんのよ!』
「ごめんね~、私も今から帰るよ~」
『そう。まったく、心配させないでよね』
そう言って通話は切れた。
望乃は行方がわからない東郷美森を探しながら帰ることにした。
日曜日。
この日は幼稚園で劇をやることになっていた。しかしその時間が迫ってきているというのに、望乃と園子は姿を現さなかった。
「乃木と望乃がまだ来てないって? もう時間なのに」
「メッセージ既読にならないし、まだ寝てんのかしら?」
「望乃は?」
「私が起きた頃にはもういなかったのよ。連絡しても反応ないし」
「園子さんも望乃さんもあんなに張り切ってたのに……」
「木、だけどね。望乃も、『名前に「木」の文字が入ってる私と園子ちゃんは「木」の役をやる宿命なんだよ』とか言ってたのにね」
「言っておくけど、その物まね全然似てないわよ」
「うっさいわね!」
その時夏凜の携帯から音が鳴る。夏凜が急いで確認をする。
「望乃からだわ。『遅くなってごめんね。急だけど私今日行けなくなっちゃった。ギリギリでごめんね』だって」
「どうしたのかしら」
結局、夏凜が望乃に送った返信の返事も、園子から返事も来ることはなく、どこかボーっとした様子の友奈の一言もあって、今いる四人だけで劇を行うことになった。
一方その頃、望乃は銀の墓までやってきていた。花を片手に持って行くと、そこには先に人がいた。それは銀の墓に行きたがっていた園子だった。
望乃がいつもの調子で近付くが、途中で足を止めてしまう。なぜなら園子が涙を流していたからだ。
「園子ちゃん?」
望乃は戸惑いながら声をかけた。
「……コギー。私、ミノさんと同じくらい大切な友達がいた気がするんだ」
「……うん、いたんだよ。前は鷲尾須美、今は東郷美森っていうお友達が……」
園子はほとんど思い出していた。だから望乃も明かすことにした。
「前に言ってた言えない悩みってこのこと?」
「うん」
「そっか。勇者部のみんなに伝えないとね。コギーも一緒に行く?」
「私は、後から行くよ」
「わかった」
園子は荷物を持ってその場を後にした。
落ち着いているように話していたけど、園子の動揺もすごかったのだろう。望乃の目にはそう映った。
園子を見届けた望乃は、園子が供えた花や焼きそばに重ならないように銀の墓に花を置いた。
「ねえ、銀ちゃん。美森ちゃん、どこにいるのかな。ここまで探して見つからないってことはやっぱり、今の私で探せる範囲外のところなのかな。みんなのためになぜか覚えてた私一人で美森ちゃんを探そうっていうのが無茶だったのかな? やっぱり、私がみんなの力になるなんて無理なのかな?」
そこまで語り掛けると、望乃は立ち上がって空を見上げた。
「……私じゃ、何もできないのかな」
そう言った望乃は、銀の墓に笑顔を向ける。
「グチみたいになっちゃってごめんね。でもなんだか、銀ちゃんに聞いてほしくって。私が銀ちゃんに憧れてるからかな」
望乃がその場を後にしようと歩き始める。
「さてと、ちょっと遅くなっちゃったけど、私も幼稚園に向かおうかな~」
望乃がそう独り言を言った、その時だった。
「何もできないことはないぞ。お前にしかできないことなんて、いっぱいあるからな!」
望乃の背後からよく知った声が聞こえてきた。しかしそれは初めて耳にした声だった。
望乃は信じられないといったような顔で振り返った。
「銀……ちゃん?」
振り返った望乃の目に映ったのは、望乃が知る姿と全く同じ姿をした三ノ輪銀だった。
銀の姿をしたその人物は銀の墓にもたれかかりながらニッと笑った。
初めは驚いていたが、望乃はその人物をキッと睨んだ。
「……じゃないよね? あなたは一体誰なの?」
睨まれたその人物は、三ノ輪銀とは思えないような顔でにたりと笑った。