小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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信じられないこと

 望乃の前に現れた、三ノ輪銀の姿をした謎の人物。望乃はその人物のことがよく分からないでいた。ただ、今日幼稚園に向かうのは無理だろうということだけは分かった。

 望乃は夏凜にメッセージで行けないことを伝えると、再び質問した。

 

「ねえ、もう一度聞くよ。あなたは一体誰なの? 何で銀ちゃんの姿をしているの?」

 

「俺は三ノ輪銀だって。どこが違うって言うんだよ」

 

 望乃がまっすぐに指を差す。

 

「銀ちゃんは俺なんて言わないよ」

 

「そうだっけ? よく知らないのにマネなんてするもんじゃないな」

 

 その人物はまるでいたずらがバレたかのように笑った。

 

「仕方ない、少しでも驚き顔が見れただけでもいいか。俺は……その、神の使いっていう感じだ。お前のことも全て知っているぞ」

 

「神の使いって、神樹様の使いってこと?」

 

「まあ、そんなところ。それよりも、俺は小木曽望乃、お前に用があるんだ」

 

 神の使いは、はぐらかすように話題を変える。

 相手の正体が分かっても、望乃はまだ不機嫌そうだった。

 

「その前に、その姿と声やめてくれないかな。大切なお友達の姿を勝手に使われたくないんだけど。それにあなた、男の子じゃないの?」

 

 神の使いは面倒くさそうに頭をポリポリと掻く。

 

「それは無理だ。この姿以外に変えられないし、声も他にない。だから変えたくてもできないんだよ。あと、俺は一応性別的には女ということになっている」

 

「む~」

 

 それを聞いてもなお、望乃が不機嫌な様子は変わらなかった。

 

「それにしても小木曽望乃、随分感情が豊かになったな。喜んで、怒って、哀しんで、楽しんで、まるで人間そのもののようだ」

 

「私、元精霊だけど、今は人間だよ」

 

 それを聞いた神の使いは、少しばかり考えた後、ポンと手を合わせた。

 

「あー、そうか。お前は知らないんだったな」

 

「え? 知らないって?」

 

「決まってるだろ? 小木曽望乃は不完全な人間である、ということだよ。正式に言ったら、お前は『人間に限りなく近い別の存在』だよ」

 

 望乃は一瞬何を言っているのか理解できなかった。衝撃的過ぎて、足が少し震えていた。

 

「何、言ってるの? 私はれっきとした人間だよ! だって、精霊の時とは違って成長もしてるし、感情も食べる量も変化してるんだよ」

 

 神の使いはフウと大きく息を吐いた。

 

「確かにそうだな。でも、お前には決定的に違うところがある。小木曽望乃、聞いてもいいか? 何でお前は東郷美森を覚えていたんだ?」

 

 望乃はさらに衝撃を受けた。それは望乃本人が知りたいことでもあったからだ。

 望乃もその理由を考えるが、いくら考えても答えは出ない。望乃が黙っていると、待ちくたびれた神の使いが答えを言った。

 

「それは、お前からそれを切り離すことが不可能だったからだ」

 

「……どういうこと?」

 

「精霊にとって経験や記憶っていうのは、人間にとっての脳や心臓のようなもんなんだ。一度切り離したら死んでしまう。だから切り離せないようにできている。お前が人間になる時は精霊の部分を切り離して、今回も忘れることがなかったんだ。そしてそれが、小木曽望乃が人間になりきれない理由なんだ」

 

「本当なの?」

 

「残念だけど真実だ。元々人間として生まれることのできなかった存在が人間になるなんて、不可能だったんだ」

 

「……そっか。私が美森ちゃんを覚えてたのか、少し納得がいったよ。私はみんなと同じになったわけじゃなかったんだね」

 

 望乃はどこかすっきりしたような表情になっていた。

 望乃が見ると、神の使いは体が少し透けていた。

 

「もう時間かよ」

 

 そう言って望乃の方をまっすぐに見た。

 

「もう時間がないから手短めに話すぞ! 小木曽望乃、仲間のために何かしたいって思うなら、精霊に戻れ。俺が戻してやる。そうしたら東郷美森を、いやもっと大きなものも救えるかもしれない」

 

「もっと大きなもの?」

 

「不完全な人間であるお前は、長くは生きられない。それなら精霊に戻って何かを救った方がマシってもんだろ?」

 

「……私は」

 

 その時望乃の携帯が音を鳴らした。風から『緊急会議を行うから部室に集合』とメッセージが送られてきていた。それを見た瞬間、望乃は東郷関連なのだろうと理解できた。

 そして望乃は神の使いに笑顔を見せた。

 

「私は、みんなといられる今で幸せだから。これ以上を望んじゃったら罰が当たっちゃうよ。美森ちゃんはきっと友奈ちゃんやみんなが助けてくれる。初めからみんなに任せておけば良かったんだよ。私は誰かを救うような存在じゃない。だって私は勇者じゃないんだから」

 

 そう言って望乃はその場を後にしようとする。

 神の使いは呆れたような声で言った。

 

「次は良い返事を期待してるぞ」

 

 望乃が振り返ると、もうそこには神の使いの姿はなかった。望乃は風からのメッセージに『わかった』と返して、部室へ向かった。

 

 

 

 勇者部の部室では、劇の途中で東郷について思い出した友奈と、銀の墓で思い出した園子が他の三人にそのことを伝えていた。

 東郷のことを伝えられた三人は絶望の顔へと変貌していく。

 その時勇者部は、東郷の思い出の一つを思い出していた。

 

 

 

 ある日、樹がパソコンを睨んでいた。それを見つけた風は樹に声をかけた。

 

「どうしたの樹。すごい顔して」

 

「……国防仮面」

 

樹は独り言のようにそう言った。

 

「今巷を賑やかしている謎のヒーロー」

 

「そんなのがいるんだ」

 

 樹がその動画を再生した。

 

『国を守れと人が呼ぶ。愛を守れと叫んでる。憂国の戦士、国防仮面見参!』

 

「これって美森ちゃんだよね?」

 

「やっぱりそうよね……っていつからいたの? 望乃!」

 

 風と樹の後ろには画面を覗き込んでいた望乃がいた。突然現れた望乃に、二人は驚きを見せる。

 

「え~。普通にドアから入ったよ~」

 

「それよりも、やっぱり望乃さんもそう思いますか?」

 

「うん。このお胸は絶対美森ちゃんだよ~」

 

「胸って……」

 

「私はね~、誰かと会った時いつも最初にお胸を見てるからね、間違いないよ~」

 

「あんたは男子か!」

 

「一応女の子だよ?」

 

「いや、知ってるけど。ていうか一応って何?」

 

「人のお胸を自然と見ちゃったりするんだよ~。ほら、私お胸ちっちゃいからさ~。ふんす!」

 

「何で威張ってんの?」

 

「それ、少しわかる気がします」

 

「樹も!?」

 

 急に妹が遠くに行ってしまったような気がする風はどうしたらいいのかわからずに、ただひたすら二人を眺めていた。

 

 数日後。風が活動をしていた国防仮面こと東郷美森を部室まで連れてきた。同時に勇者部全員に召集がかけられた。

 東郷は国防仮面を信じる友奈に正体を明かし、国防仮面をやっていた理由を話した。

 それは壁を壊してしまったことへの罪滅ぼしだった。

 

「それで国防仮面……」

 

「わっしー、ずいぶん極端になったね~」

 

「気持ちはわかるけど、突っ走りすぎよ」

 

「すみません」

 

「かっこいいね、国防仮面! 私もなりたいな!」

 

 友奈がキラキラした目でそう言う。

 

「実は実は~、私もこう見えて国防仮面二号なんよ~」

 

「じゃあ私、三号になる!」

 

「これ以上増やさないでよ!」

 

 意気投合する友奈と園子に、風が呆れる。

 

「まったく、夏凜あたりがマネしてにぼし仮面とか現れたらどうするのよ」

 

「マネしないわよ!」

 

「じゃあ、私がにぼし仮面やる~。にぼし体操も作らないとね~」

 

 望乃もここぞとばかりにやる気を見せる。

 

「あんたがやってどうすんのよ!」

 

「東郷さん」

 

 罪の意識を感じていた東郷に、友奈が声をかける。

 

「みんなのために頑張りたい気持ちは、私たちも同じだよ!」

 

「そうだよわっしー。何かあったら私たちに頼っていいんだぜ~」

 

「友奈ちゃん、そのっち」

 

「そうだよ~。一人で抱えちゃダメだよ~」

 

「そのセリフ、望乃にだけは言われたくないわよ」

 

「え~」

 

「みんな、ありがとう」

 

 東郷は涙を浮かべてそう笑ったのだった。

 

 

 

 東郷のことを完全に思い出した勇者部は、東郷を忘れていたという事実に混乱していた。その時園子がボソッと言った。

 

「コギーなら何か知ってるかも」

 

「どういうこと?」

 

「コギーの言えなかった悩みってこのことだったの。だからもしかしたら……」

 

「ちょっと待って! ということは、望乃は東郷のことを覚えていたってこと?」

 

「それは間違いないよ」

 

「じゃあ、何で望乃は黙ってたのよ! 言ってくれれば良かったじゃない!」

 

 風と園子の会話を聞いていた夏凜が怒りを露わにする。

 その時、ガラッという音を立てて、タイミング悪く望乃が部室に入ってきた。

 望乃は状況が分からないといったような様子だった。

 

「……やっぱり、美森ちゃんの話?」

 

「望乃ちゃん、東郷さんのこと覚えてたの?」

 

「うん」

 

 望乃がそう答えると、夏凜が一気に詰め寄る。

 

「だったら、何で、言わなかったのよ!」

 

 望乃は夏凜に臆することなく、まるでそう聞かれるのが分かっていたかのように冷静に答えた。

 

「それは私もよくわからなかったからだよ」

 

 勇者部の頭にハテナが浮かぶ。

 

「あのね、私が覚えていたのは、精霊としての私が消えるまでだったの。それ以降はみんなと同じように消えてたんだ。美森ちゃんのことは覚えてたけど、誰も覚えていないし、美森ちゃんがいた痕跡もどこにもなかった。私は、私の記憶が正しいのかわかんなくなっちゃったんだ。こんなわからないことばかりのことを言うわけにもいかないからさ~」

 

 それを聞いた夏凜は、望乃に悪意があったわけではないことに少し安心したようだった。

 

「私のこの記憶が間違ってないってわかったのは最近。友奈ちゃんは覚えてるよね? 美森ちゃんの家の前で話したあの時。でもみんなのために美森ちゃん見つけてあげたいって思っちゃったんだ~。黙っててごめんね」

 

 望乃は深く頭を下げた。呆れるようにため息を吐いた夏凜が望乃をみんなのところまで引っ張って行った。

 

「まったくあんたはいっつもそうよね」

 

 そう言う夏凜は怒る気も失せていたようだった。

 

「でも、何で精霊の時だけの記憶が残ってたんだろう」

 

 当然の疑問を浮かべる園子に、望乃は神の使いから聞いた精霊から経験や記憶を切り離せないことを伝えた。

 勇者部は東郷のことで頭がいっぱいだった。望乃はそれが分かっていたからこそ、神の使いから聞いた他のことを口にすることができなかった。




 神の使いはオリキャラです。あと念のため、精霊のに関することは全て独自解釈・独自設定が入っています。

 国防仮面のところは書きたかっただけです。
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