小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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友を助けるため

 東郷のことを思い出せた勇者部は、望乃が今まで探して見つからなかったことから手掛かりがないと考えていた。しかし、望乃がもしかしたら何かわかるかもしれない、と言って勇者部は東郷の捜索を始めたのだった。

 数日後その報告を部室で行っていたが、やはり情報は何一つ見つからなかった。

 望乃の言う通り東郷を覚えている者は誰もおらず、教室の机も樹に向けて書かれた応援メッセージにも、まるで初めからいなかったようになくなっていた。

 

「質の悪い、いじめみたいじゃない」

 

 大赦なら何か知っているかもと話すが、風がまたとぼけているのかと不信感を強める。

 そこに大赦に行っていた園子がドアを開けながら言う。

 

「本当に知らないみたいだよ。大赦は」

 

 園子は大赦本部で東郷のことを聞いていたようだった。そして大赦すらも東郷のことを覚えていなかった。

 そこで勇者部の報告をただ黙って聞いていた望乃が口を開いた。

 

「これは私の推測なんだけどね、美森ちゃんは……今の私たちじゃ行けないところにいるんじゃないかな?」

 

「行けないところって……」

 

「私は今まで私の記憶にある美森ちゃんと縁のある場所に行って探したんだけど、どこにもいなかった。それに、一人の人間を完全にいなかったことにできて、大赦も絡んでいないとしたらもう、他にないと思う」

 

「私もコギーと同じ意見だよ。だからこれしかないと思う」

 

 そう言って園子がケースを机に置いた。それを開けると、中には勇者端末が四つ入っていた。

 

「これって……」

 

「勇者システム!?」

 

 かつて自分たちを苦しめたものの登場に、園子を除いた勇者部は驚きを隠すことができなかった。予想していたのか、望乃だけは他の四人に比べて驚きは少なかった。

 

「ぷんぷん怒って出してって言ったら、大赦の人は出してくれたよ~。これで見つけに行こう!」

 

「見つけるって……」

 

「今も変身できるのよね?」

 

 夏凜が冷静に園子に聞いた。

 

「そうだよ、にぼっしー」

 

「園子ちゃん、一つ足りないよね。これって」

 

「うん。わっしーの端末だけないんだ。でも、私の端末のレーダーに、わっしーの反応はない」

 

「……やっぱり、美森ちゃんは壁の外にいるんだね」

 

「その通り」

 

 望乃の発言に園子が頷く。

 

「東郷はぶっ飛んでるからありえるわね」

 

「だから、勇者になって行ってみようと思うんだ」

 

 園子が指を鳴らすと、頭の上に園子の精霊、烏天狗が現れる。それに勇者部は再び驚く。一人驚いていなかった望乃は、旧友に会ったかのように烏天狗に話しかけていた。

 

「勇者になったらまた力の代償があるんですか?」

 

「今回はバージョンが新しくなって、散華することもないんだって」

 

 園子はもう一度指を鳴らして精霊を消す。言葉を話さないため一方的に烏天狗に話しかけていた望乃が、「あ~」と声を漏らしていた。

 

「それよりも、何で精霊がいんのよ。全ての精霊は望乃と消滅したんじゃなかったの?」

 

 夏凜が園子に問い詰める。

 

「それは私から言うね~」

 

 望乃が小さく手を挙げて、園子の代わりに夏凜の質問に答えた。

 

「まず最初に夏凜ちゃん、私のやったこと覚えてる?」

 

「何よ、あんたがみんなに全部言ってたじゃない。望乃が私たちの代償を取り戻すために、望乃も含めた全ての精霊を犠牲にしたんでしょ?」

 

「ん~。まあ、間違ってないんだけどね~。正確には、一度散華したら一体精霊が増えるっていうのを逆にしただけ。つまり、みんなの一つの代償につき、一体の精霊が身代わりになったんだ。だから、代償が関係なかった最初の精霊は消滅してないんだよ~」

 

「初めて聞いたんだけど」

 

「こんなことになるなんて思ってなかったからね~。わざわざ言うことでもないかな~って」

 

 望乃はそこまで言って「あ、そうだ」とさらに付け加えた。

 

「ちなみにね、初めの精霊はガードの方に特化してるから、身体能力向上はほとんどないよ」

 

「ガード? バリアじゃないの?」

 

 望乃の話に反応したのは園子だった。聞かれた望乃は首を傾げた。

 

「私的にはガードって感じなんだけどな~」

 

「私的にはバリアって感じだよ~」

 

 同じ顔の二人の意見が珍しく食い違う。ジャンケンの結果園子が勝利を収め、バリア呼びになったのだった。

 

「精霊がいる意味は分かったけど、その新しいバージョンって出来過ぎじゃない?」

 

「そうよ。どれだけ新しいシステムになったって言われても、結局また……」

 

 夏凜と風が新しいシステムに不安を抱く。それは友奈も樹も一緒だった。

 望乃は神の使いに東郷は勇者部が助けてくれると言った。それは嘘ではなかったのだが、勇者部の面々はそれ以前に中学生の女の子。また同じことが起こるかもしれない、そう不安に思っても仕方がなかったのだ。しかも、望乃が人間になったため、今度は戻れない可能性が高いのである。

 望乃はやっぱり自分が行くべきなんじゃないかと思ってしまう。たとえ今の自分じゃ絶対に不可能だと分かっていても……。

 その間、東郷を助けるために端末を手に取ろうとした友奈を風が止めていた。

 

「望乃、あんたも妙なこと考えないでよ」

 

 突然話しかけられた望乃は驚いた。まるで考えていたことが読まれたようだった。

 

「あ、うん」

 

「確かに、私たちはひどい目に遭ったけど、勇者が体を供物にして戦っていなければ世界は滅んでいた。仕方なかったんだよ。大赦はやり方がまずかっただけで、誰も悪くない。大赦は勇者システムについて、もう一切隠し事はしないって言ってくれた。私はそれを直接聞いて、信じようと思ったんだ。だから、前とは違う。今度は納得してやるから、私は行くよ」

 

 園子の言葉を聞いた友奈は覚悟を決めた。

 

「私も信じる! 大赦の人は良くわからないけど、園ちゃんはそう言ってるんだから、信じるよ!」

 

 友奈はそう言って端末を手に取った。

 

「あーもう! 部長を置いていくんじゃないわよ」

 

 続いて風も端末を手に取った。

 

「ま、勇者部員が行方不明っていうんなら、同じ勇者部員が探さないとね!」

 

「私も行きます!」

 

 夏凜と樹も端末を手に取ってやる気を見せた。

 それを見ていた望乃は安心したように笑った。

 

「そっか~。みんな頑張って美森ちゃんを助けてあげてね~。私も応援してるよ~」

 

「いや、応援じゃなくてあんたも……」

 

 そう言う風の言葉が途中で止まる。

 端末は友奈、夏凜、風、樹と渡り、残っていなかった。

 それに気付いた園子が説明する。

 

「残念だけど、今までコギーは私の端末で変身してたから、コギーの端末はないんだ」

 

「まあ、多分それ以前の話だと思うけどね~」

 

 望乃が付け加える。しかしそれは園子でもどういうことか分かっていなかった。

 

「ん~。説明するより見せた方が早いと思う。園子ちゃん、ちょっとだけ借りていい?」

 

 望乃は園子から端末を借りて、勇者システムで変身しようとする。しかしその瞬間、端末から『ブー』と大きな音が鳴った。

 望乃は端末の画面を一目見て「やっぱり」と呟いた。そして全員に画面を見せた。画面にはこう書かれていた。

 

『勇者適正値が一定値以下のため変身できません』

 

 勇者部は言葉が出ないようだった。

 

「友奈ちゃんには言ったよね? 私は園子ちゃんの適性もコピーしてたから変身できたって。でも精霊じゃなくなっちゃったからそれもなくなっちゃったんだ~」

 

「望乃の適正が低いっておかしいでしょ」

 

 夏凜が信じられないかのように呟く。

 

「おかしくないよ。私は勇者って感じじゃないもん。だから、私の分まで美森ちゃんのこと、よろしくね」

 

「望乃ちゃんのためにも、絶対東郷さんを助けるから、安心して待ってて!」

 

 友奈が拳を握りしめて答えた。その顔はやる気に満ち溢れていた。

 

「うん」

 

 望乃はそう頷いて園子に端末を返した。

 そして望乃を除いた勇者部が勇者システムを使って変身する。

 その間に園子が新システムについて説明する。

 

「新しい勇者システムは、満開ゲージが最初から全部たまっている状態だよ。精霊がバリアで守ってくれるけど、バリアを使うことに満開ゲージを消費していく。ゲージが回復しない。満開は、ゲージがいっぱいならできるけど、使えばゲージは一気にゼロになる。ゲージがゼロになると、精霊がバリアを張れなくなる。この時攻撃を受ければ、命にかかわることになる。これが、散華のなくなった勇者システムだよ」

 

 園子の説明を受けた勇者部は覚悟ができていた。

 ただ一人参加できない望乃だけは、『命にかかわる』という言葉を重く受け止めていた。

 それぞれの精霊との再会を果たした後、勇者部は東郷美森を救出するため壁の外へと向かうことにした。

 

「じゃあ、行ってくるね! 必ず東郷さんを連れて帰って来るから!」

 

「コギーは笑顔で出迎えてあげてね」

 

「あんたが心配するようなことはないから、安心して待ってなさい」

 

 一人留守番になる望乃に、そう言葉をかけて五人は壁の外に向かって行った。

 望乃はそれを見届けると、ちょこんと椅子に座った。

 

「絶対に無事で帰ってきてね」

 

 勇者でもない、精霊でもない、ただの人間でしかない今の望乃には、勇者部の帰りをただ待つしかできなかった。しかし望乃は心の内で何かできないのか、と思ってしまっていた。

 そう思ってしまったことが原因だった。

 

『なら、連れて行ってやるよ』

 

 どこかから声が聞こえた気がした。そう思った瞬間、望乃は見覚えのある場所に移動していた。

 

「え? 何で……」

 

 望乃は勇者部が向かっていた壁の外にいつの間にか移動していた。




 樹のセリフが……ごめん、樹ちゃん。

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