小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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 今回は少し長めです。


みんなで帰るため

 友奈、園子、風、樹、夏凜の五人は東郷を助けるために壁の外の近くまで来ていた。

 

「ここからはズゴゴゴゴって感じだから気を付けてね」

 

 園子が注意を呼びかける。すると、夏凜が園子の前に移動する。

 

「私が先頭を行くから園子は後ろでサポートをお願い」

 

「にぼっしー、あまり前に出ないでね」

 

 夏凜を先頭に壁の外へ出ると、そこには思わぬ人物が待っていた。

 それに即座に反応したのは夏凜だった。

 

「何であんたがいんのよ!」

 

「あ、みんな待ってたよ~」

 

 それは先ほど勇者になれないことが原因で、部室に待機することになった望乃であった。

 望乃は体育座りをしたまま五人に向かって手を振っていた。

 勇者部はすぐさま望乃の元に行った。

 

「で、どういうことなの? 望乃」

 

「そう言われてもな~、よくわかんないんだよ」

 

 風に質問をされた望乃が頭をポリポリと掻く。

 

「ねえ、あなたは本物のコギーなの?」

 

 園子が真剣な顔で聞いた。

 

「それどういうことよ」

 

「だって、ありえないよ。私たちよりも先に来てるなんて。コギーは前は精霊だったかもしれないけど、今はただの人間なんだよ」

 

 園子の疑問は確かだった。だから誰も口をはさむことはできなかった。

 

「ん~。だったら、夏凜ちゃんのほくろの位置を教えるよ」

 

「ちょ、何でそんなの知ってんのよ!」

 

「ほら~、前に一緒にお風呂に入ったでしょ~」

 

「あ、あれは仕方なく……」

 

「これでどう?」

 

「え?」

 

 勇者部は望乃の言葉の意味がよくわからなかった。

 

「多分、姿はマネられても性格まではそうはいかないと思うんだよね。私も完全には無理だったしね」

 

「私は信じるよ!」

 

 そう言ったのは友奈だった。友奈の言葉もあり、勇者部は目の前にいる望乃が偽物でないと信用した。

 

「で、何でここにいるのよ」

 

 風が再び望乃に問いかける。

 

「私もよくわかんないだよ。さっきまで部室にいたのに、気付いたらここにいたんだ。それよりも、美森ちゃんは?」

 

 そう言われ、園子が確認する。

 

「レーダーに反応があったよ!」

 

 それを聞いて友奈も確認する。

 

「あっ、東郷さんだ! 東郷さん、やっぱり壁の外にいたんだ!」

 

「でも、意外と近いけど……」

 

「もしかしてあれじゃないかな」

 

 望乃がそう指を差した先には真っ黒い球体が浮かんでいた。

 それを見た勇者部は驚きを見せる。

 

「東郷さんだ。東郷さんがブラックホールになってる」

 

「久しぶりに会ったらブラックホールになってたやつは初めてだわ」

 

「お姉ちゃん……」

 

「今度からはブラックホールちゃんって呼んだ方がいいのかな~」

 

「呼ばなくて良いわよ」

 

 望乃の言葉に呆れながら夏凜もスマホを確認する。

 

「周囲にバーテックスもいるじゃない」

 

 バーテックスが勇者部に気付き襲い掛かってくる。それにそれぞれ対処に当たる。

 

「頑張れ~、頑張れ~、勇者部ファイトだ、オ~!」

 

 戦う勇者部に望乃が能天気に応援する。

 ため息を吐きながら夏凜がツッコミを入れようと望乃の方を向いた。しかし夏凜は大きく目を見開いて望乃に向かって叫んだ。

 

「望乃、逃げて! 早く!」

 

 夏凜の珍しい焦り声に、勇者部が一斉に望乃の方へ視線を向ける。

 望乃の後ろからバーテックスが迫っていた。戦えない望乃では対処の仕様がない。望乃も不意を突かれて逃げられそうになかった。

 勇者部が助けに向かうが、バーテックスが望乃にたどり着く方が早かった。望乃も身構えて、バーテックスの攻撃を受けた。……はずだったのだが、望乃が攻撃を受けたような様子はなかった。

 その隙に樹が望乃の周りにいるバーテックスを殲滅する。

 

「大丈夫ですか? 望乃さん!」

 

 樹が心配して望乃に声をかける。当の望乃は自身の両手を見つめていた。

 

「大丈夫?」

 

 他の四人も心配して駆け寄ってくる。望乃がコクリと頷くと、勇者部は安堵した表情を見せた。

 

「とりあえず望乃、危ないから帰りなさい」

 

 風が望乃に少し強めに言う。望乃はフルフルと首を振った。

 

「私もできるならそうしたいんだけど、できないの」

 

 そう言って望乃は壁の外から出ようとするが、弾かれてしまう。

 

「どういうこと?」

 

「わからない。それに今わかったんだけど、私にガード……じゃなかったバリアみたいなのが張られてるみたい。さっきバーテックスに襲われそうになった時、そんな感じがあったの」

 

「バリアって、あんた人間じゃないの?」

 

「人間だよ。だから使えないはずなのに。使えたとしても精霊のバリアは意識的に使うものだから、無意識に使うなんてあるわけないからね。私じゃない誰かの仕業だと思う」

 

「誰かって……」

 

「その誰かがコギーをここに連れて来たって考えるべきだろうね」

 

「そうだね。でも、それが誰だとしても、私を守ってるんだから危害を加える気はないんだと思うよ。みんなは気にせず美森ちゃんを」

 

「そう言われても行く方法がないのよ」

 

「あそこまでなら船で行けそうだよ」

 

 そう言って園子が『満開』をする。そしてそこには大きな船が現れた。

 

「あんた! いきなり満開使って! 精霊の加護がなくなっちゃうわよ!」

 

「昔はバリアなかったし、問題ないよ~」

 

「それについては私も保証するよ。さあ、みんな園子ちゃんの船に」

 

 勇者部が次々と船に乗り込む。最後に残った夏凜が望乃に向かって自身の武器を放り投げる。それを受け取った望乃に一言言った。

 

「いくら守られてても武器がある方がいいでしょ。貸してあげるわ。気を付けなさいよ」

 

「夏凜ちゃんも、みんなも、どうか無事で」

 

 望乃がそう言うと、夏凜は少し笑ってから船に乗り込んだ。

 船が発進するのを見送った望乃は、見上げたまま口を開いた。

 

「もう出てきてもいいんじゃない? あなたの仕業なんじゃないの? 神の使いの人」

 

「バレてたか」

 

 どこからともなく相変わらず銀の姿をしている神の使いが現れた。

 

「だって、他にいないでしょ?」

 

 望乃が神の使いの方を向くと、神の使いはいたずら小僧のように笑った。

 望乃は勇者部が東郷を助けている間に神の使いと話そうと考えていた。

 望乃が心配で様子を確認した夏凜にその様子を見られたとは知らずに。

 

「その通りだ。俺は壁の外ならどこへでも行ける。それ以外は数分が限界だけどな。そして俺はお前を俺の居場所に連れて来させることができるんだよ。小木曽望乃限定だけどな」

 

「……バリアは?」

 

「俺は、神の使いだ。精霊の力くらい使えてもおかしくないだろ。ちなみに、その、バリアが張られた状態だと壁の中と外を行き来できないんだ」

 

 神の使いは望乃の疑問だったことを答えてくれた。望乃もバーテックスを夏凜に借りた武器でなんとか対処しながら聞いていた。

そして望乃は今回のことで最も疑問だったことを聞いた。

 

「何で私をここに連れてきたの?」

 

 神の使いは迫ってくるバーテックスを適当に対処しながら答えた。

 

「それは、お前がそれを願ったからだ。少しだけ思っただろ? 力になりたいって。俺をその場を与えようと思っただけだよ」

 

「そんなこと言っても、何もできないことに変わりはないよ」

 

「だったら、精霊に戻ればいいだろ。戻るにはお前が完全にその意志を見せないとできない。だからここに連れてくれば戻るかもって思ってたんだけどなー」

 

 神の使いは期待が外れたと言ったような様子だった。望乃は園子の船が向かって行った方向を見る。

 

「私はみんなのこと信じてるから。それに今私が精霊に戻ってもできることはなんてないと思うしね」

 

「それは違う。お前が精霊に戻れば一時的に『神の力』を得ることができる。それも、満開とは比べ物にならないほどの。それだけの力があればお前の小さな望みくらいなら簡単に叶えられる。そしてそれを得られるのは、唯一自我を持つ精霊、小木曽望乃だけだ」

 

「……そっか。でもそんなものがなくても、美森ちゃんはみんなが救ってくれると思うんだよ」

 

 望乃がそう言うと、神の使いは突然黙った。神の使いは何やら考えているようだった。

 しばらくしてからゆっくり口を開いた。

 

「今、結城友奈が東郷美森の元へ到着した」

 

 その報告を聞いた望乃の表情が明るくなった。

 

「やっぱり友奈ちゃんは勇者だね」

 

「勇者と言っても結城友奈は人間だから、できることには限度がある。東郷美森を何事もなく救うことは難しいと思うぞ」

 

「どういうこと? 美森ちゃんに何があったか知ってるの?」

 

 望乃から質問を受けた神の使いは、東郷に何が起こったのかを話した。

 以前東郷が結界の一部を破壊したことで、外の火の手が活性化してしまっていた。このまま放っておけば外の炎が世界を飲み込んでしまう。それを危惧した大赦は火の勢いを弱めるため、神の声が聞ける巫女を外の炎に捧げる生贄の儀式を行う必要があった。

 そして東郷は勇者の資格を持ちながらも巫女の力も持つという、唯一無二の存在だった。

 東郷は自分で開けた罪を償うため、記憶を消すよう神樹様にお願いして生贄となったのだった。

 東郷の真実を聞いた望乃はいつものように笑みを見せた。

 

「相変わらずだな~。美森ちゃん」

 

「……移動するぞ」

 

 神の使いは突然移動し、そのすぐ後に望乃も移動させられた。

 移動した場所は何もない空間。目の前には燃やされている東郷と固定されている東郷、二つに分かれてひものようなものでもので繋がっている友奈が見えた。

 そして、友奈が固定されている東郷を引き抜いたところだった。

 目の前で起こっている出来事に、理解が追いつかない望乃はわけもわからずただ見ていた。すると突然地面が揺れ、辺りが壊れ始めた。友奈も東郷も目を覚ましていない。とりあえず二人を助けようとする望乃を神の使いが止めた。

 

「東郷美森を引き抜いたことで炎が再び活性化し始めたんだと思う。おそらくこのままでは、壁の外にいる人間が死ぬ可能性が高い」

 

「……死ぬ?」

 

 望乃の顔が真っ青に変貌する。そして、銀の姿をしている神の使いを見る。

 

「……何とかする方法はないの?」

 

「一時的に止めることならできる可能性がある。だけど……」

 

「じゃあそれに賭けよう。どうすればいい?」

 

「いやそれには小木曽望乃を精霊に戻す必要が……」

 

「じゃあ、早く戻して」

 

 今まで余裕ぶっていた神の使いが驚いたような表情になった。そして一言言った。

 

「……いいのか?」

 

「だってそれしかみんなを救う方法がないんでしょ? だったら私はやるよ。私はもう二度と、大切なお友達を、死なせない!」

 

「わかった」

 

 神の使いはそう言って望乃の肩に手を置いた。そして望乃は思った。みんなと一緒に帰りたい、と。

その後は何が起こったのか望乃には分からなかった。

 

「どうなったの? みんなは助かったの? 私は戻ったの?」

 

「お前は精霊に戻ってはいない。小木曽望乃、お前一緒にいたいと思っただろ」

 

「え、一緒に帰りたいって……」

 

「言っただろ? 精霊に戻るには完全にその意志を見せなければならないって。そんなことを思ってしまったら精霊に戻ることなんてできない」

 

「……じゃあ、失敗したの?」

 

「いや、一瞬だけだが成功した。炎は一時的に止められ、お前も人間のまま。お前にとって最高の結末だな」

 

「よかった!」

 

 望乃は友奈と東郷のところへ駆け寄った。友奈の胸のあたりによくわからない烙印らしきものがあった。

 神の使いは違和感を覚えていた。

 力が使えたのはほんの一瞬。その程度で炎が止められるとは思えなかったのだ。まるで初めから止まると決まっていたようだった。神の使いは友奈の胸のあたりを見ると、確信を得たかのように笑った。

 

「小木曽望乃、お前たちを壁の外から出しておくよう、神樹様に伝えておく。それから今回は戻らなかったけど、『次』に期待するぞ。……最後にもう一つ言っておく」

 

 神の使いはにたりと笑って言った。

 

「人でない俺たちに、ハッピーエンドは用意されていない」

 

「え?」

 

 望乃が振り返った時にはもう既に神の使いはそこにはいなかった。そしてその瞬間、勇者部は壁の外から出ていた。

 

 

 

 東郷は病院に運ばれ、数日眠ったままだった。

 みんなで毎日のようにお見舞いに行っていた。

 望乃はトイレに行き、壁の外の出来事を思い出していた。しかしそれは、東郷の病室に戻った途端、全て吹き飛んだ。

 東郷が目を覚ましていたのだ。

 自然と望乃の目から涙があふれそうになった。

 

「美森ちゃん!」

 

 望乃は東郷に向かって抱き付いた。その時に目から一つ時涙が零れ落ちた。

 

「ちょっと、東郷は病人なのよ」

 

「大丈夫です」

 

 東郷は望乃の頭を優しく撫でた。

 

「望乃ちゃん、みんなから聞いたよ。一番辛い思いをさせてしまってごめんなさい」

 

「ううん、私こそ、何もできなくてごめんね」

 

 しばらくして、望乃は離れて涙を拭った。

 結局、火の勢いは安定し、生贄は必要なくなった。そして東郷も何とか生きて帰って来ることができた。

 

「一件落着、ね」

 

「はい」

 

「よーし、これで本当に全員揃ってクリスマス、そして大みそかにお正月だー!」

 

「遊ぶことばっかじゃない」

 

「一ついい?」

 

 望乃がそう言って勇者部の視線が集中する。

 

「……私、クリスマス? ってどんなことするのかわからないんだよね~」

 

「コギー、クリスマスはね――」

 

 園子が望乃にクリスマスの説明をした。それを聞いて望乃は楽しみにしていた。そして勇者部はみんな楽しそうに笑っていた。

 結局望乃は、今の雰囲気を壊したくなく、壁の外での出来事を話すことはできなかった。

 

 

 

 その日の夜。望乃は体重計で自分の体重を測っていた。ここ数日毎日確認をしていた。そして体重は精霊時のものと同じで、毎日測っても変化がなかった。

 

「精霊に戻ってきているのかな」

 

 そう独り言を呟いたのだった。

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