小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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偽りの平穏

 東郷の救出に成功した勇者部は、クリスマスを楽しみにして日を送っていた。

 望乃も鼻歌を交えながら何かを作っていた。

 

「さっきから何作ってんのよ」

 

「えへへ~。内緒だよ~」

 

 望乃は人生初のクリスマスに、ご機嫌だった。

 

「もういくつ寝るとクリスマス~♪」

 

「それクリスマスの歌じゃないわよ」

 

 楽しそうに歌う望乃に呆れる夏凜。

 

「楽しみだね~、クリスマス!」

 

「何が一番楽しみなの?」

 

「七面鳥を丸ごと食べたいなって!」

 

 望乃が目をキラキラと光らせて、よだれを垂らす。

 

「……さすがにないんじゃない? ていうか、太ったりしないの? よく食べてるけどさ」

 

「ん~。大丈夫だと思うよ」

 

「その楽観的思考、何とかした方がいいと思うわ」

 

 望乃の様子に呆れている夏凜も人のことが言えないくらいに楽しみにしていた。夏凜は何かを待つようにじっと望乃を見つめていた。

 

 

 

 ある日の勇者部では、クリスマスツリーの飾りつけをしていた。

 

「ねえ、友奈。飾りつけ曲がってない?」

 

「いや、大丈夫大丈夫!」

 

「望乃さん、次はこれを付けてください」

 

 クリスマスツリーの飾りつけなんてもちろんしたことのない望乃は、樹の指示に従って飾りつけをしていた。

 

「樹ちゃん、これは~?」

 

 望乃が手に取ったのはモールだった。

 

「それつけるのはまだです」

 

 望乃はじっとモールを見ると、何かをひらめいた。

 

「樹ちゃん。これつける時は言ってね」

 

 そう言って望乃は先の方をもって投げ縄のようにブンブンと回す。

 

「回すものじゃないですよ!」

 

「違うの?」

 

その近くで受験を控えた風が園子に勉強を教わっていた。風は教科書とにらめっこしていた。その風はぐるぐるメガネがかけていた。

 

「何あのメガネ」

 

 脚立を降りた夏凜が言った。

 

「視力が落ちたんだそうです」

 

「大変ね受験生。部室でまで勉強?」

 

「先週はいろいろ大変で、勉強どころじゃなかったからねー。取り返さないと」

 

 それを聞いて東郷が「陳謝」と言いながら風に向かって土下座する。

 

「あーもう。そういうつもりで言ったんじゃないの! 気にしないで!」

 

「受験よりブラックホールの方が急務だもんね」

 

「そうだね~。私もブラックホールちゃんって呼ぶべきか迷ったもん」

 

「どこに迷う要素があるのよ」

 

 東郷は再び「陳謝」と言いながら腹を切ろうとする。勇者部は慌てて東郷を止めた。

 そこで風の採点をしていた園子が言った。

 

「よ~し、ふーみん先輩全問正解だ~」

 

「よし、さすが私!」

 

「アタックチャ~ンス。正解すると、女子力が二倍になります」

 

「やります!」

 

「どんな試験勉強よ」

 

「これだけできれば大丈夫ですよ。さすがっす~」

 

「うん。乃木が見てくれたおかげよ。来週は来週で、樹のショーがあるからねー」

 

「お姉ちゃん! 私のショーじゃなくて、町のクリスマスイベント! 学生コーラス!」

 

「いっつんいっつん! いっつんのグッズ展開していい?」

 

 園子が張り切り気味に樹に聞く。

 

「やめてくださいー!」

 

「実はもう作ってたり~!」

 

 望乃が鞄から大きく『樹』と書かれたうちわを取り出す。

 

「コギー、そのうちわいいね~」

 

「えへへ~。昨日頑張って作ったんだ~」

 

「何を作ってるのかと思ったら……」

 

「いいと思わない?」

 

 望乃がそう言いながら夏凜に抱き付く。

 

「……まあ」

 

「恥ずかしいからやめてくださいー!」

 

 樹が望乃からうちわを恥ずかしそうに没収していた。

 

「み、みんな、あのね」

 

 すると突然友奈が何かを言おうとした。

 

「え、えっと、ここで問題です。キリギリスが、アリの借金をこっそり肩代わりしたとしたら、その後どんな問題が起こるでしょう」

 

 友奈のその言葉に、勇者部が頭にハテナを浮かべる中、望乃は一人その問題について考えていた。

 

「えっとね、みんな、実は……」

 

 再び友奈が何かを言おうとするが、言葉を止めてしまう。

 望乃は友奈が一瞬見せた動揺を見逃さなかった。望乃から見れば友奈が何かを隠していることは明白だった。なぜならそれは、言いたくても言えない精霊時の自分と似ていたからだった。

 

「……もしかして」

 

 望乃は壁の外で見た友奈の胸にある印と神の使いから聞いた東郷のお役目のこと、そして友奈が今出した問題から友奈の言いたかったことが、友奈が東郷のお役目を引き継いだことだと理解した。しかし、友奈が言えない理由が分からなく、それを口にしても大丈夫なのかが分からなかった。それを口にしたことが原因で、何かが起こってしまう可能性もあったからである。

 

 

 

 その日の夜、家へ帰って来ると夏凜が真っ先にエアコンをつけようとリモコンを手に取る。しかしエアコンはうんともすんともいわなかった。

 

「嘘、こんな寒い時に壊れたの?」

 

 夏凜は何度も繰り返すが、エアコンが動くことはなかった。

 

「あらら~。じゃあ今日はあったかいもの作るね」

 

「望乃、あんた寒くないの?」

 

「平気だよ~」

 

「……」

 

 夏凜は無言で晩御飯の準備をしようとする手を握る。

 

「震えてんじゃない。我慢してんじゃないわよ」

 

「でも、こうすればあったかいよね~」

 

 望乃がギュッと抱き付いた。

 

「まあ、少しは」

 

「夏凜ちゃん、最近嫌がらなくなったよね~」

 

「別に、言っても無駄だからってだけよ」

 

「まあ、そうだね~。むむ! 夏凜ちゃんにぼしの匂いがする~」

 

「しないわよ!」

 

 しばらくそうして少しだけ温まった後、望乃が調理を再開し、夏凜がエアコンに再チャレンジする。

 望乃は野菜を切りながら友奈のことについて考えていた。その時、ザクッと何か別のものを切ったよう感じがした。

 よく見てみると、包丁で左手の指を切ってしまったようだった。

 

「夏凜ちゃん、指切っちゃった~」

 

 それを聞いた夏凜が慌てて望乃の元へやってくる。そして夏凜が大慌てで治療した。その日の晩御飯は夏凜がコンビニで弁当とおでんを買ってきて食べたのだった。

 

「じゃあ、お風呂入るわよ」

 

 晩御飯を済ませた後、夏凜が唐突にそう言った。

 

「一緒に入るの? いつも一人で入れ~って言ってるのに」

 

「仕方ないでしょ! あんた、手怪我してるんだし」

 

「これくらい大丈夫だよ~」

 

 望乃が包帯の巻かれた左手を見ながら言う。

 

「あんたの大丈夫は信用できないのよ! いいからさっさと脱ぎなさい!」

 

「も~、夏凜ちゃん過保護だな~」

 

「うるさい!」

 

 服を脱いで一緒に浴室に入る。夏凜はタオルで体を隠していた。

 

「夏凜ちゃん、恥ずかしいなら一緒に入ろ~なんて言わなかったら良かったのに」

 

「べ、別に平気よ!」

 

 そう言って夏凜は体に巻いていたタオルを投げ捨てる。

 

「先に言っとくけど、もうほくろは探さないでよね」

 

「は~い。あ、ほくろはっけ~ん」

 

「探すなって言ってんでしょ!」

 

 夏凜は望乃を前に座らせ、手の使えない望乃の代わりに頭を洗っていた。

 

「こうして見ると、髪短いわよね。伸ばしたりしないの?」

 

「ん~。これくらいがちょうど良くなっちゃって~」

 

 望乃は目をしっかり閉じて話していた。望乃は頭を洗う時は目を閉じるのである。これは夏凜が最近知ったことである。

 

「前も一緒に入ったよね~」

 

「そうね。確か私たちが東郷のことを思い出した時だったわね。あの時はあんたが珍しく『怖い』なんて言うから仕方なく入ったのよね」

 

「夏凜ちゃん、肌を見られないように頑張ってたよね~」

 

「望乃が相手でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ」

 

 夏凜がシャワーで頭を洗い流す。流し終わった後、望乃はプルプルプルと首を大きく振って水気を飛ばしていた。

 望乃の頭と体を洗い終わり、湯船に浸かって夏凜が洗い終わるのを待つ。夏凜が洗い終わると、一足先に浴室を出た。

 体を拭いて服を着ると、体重計に直進した。体重を確認したが、やはり体重に変化はなった。

 

「何してんのよ」

 

 そこに浴室から出た夏凜に話しかけられた。望乃は焦りの一つも見せずに笑った。

 

「何でもないよ~」

 

 そして望乃はトテトテと居間の方へと向かって行った。

 

「……」

 

 夏凜はその様をじっと睨んでいた。

 その後、のほほんとしていた望乃に、しびれを切らした夏凜が聞いた。

 

「望乃、さっき何で体重計ってたのよ。今まで気にしたことなんて一度もなかったじゃない」

 

「夏凜ちゃん、私もまったく気にしないわけじゃないんだよ~」

 

「……じゃあ、質問を変えるわ。壁の外で話した奴は誰なのよ」

 

 のほほんとしていた望乃の表情が驚愕へと変わった。

 

「何で、それを……」

 

「たまたま見ただけよ。あんたが話してくれるの待ってたんだけど、一向に話さないし」

 

「ごめん」

 

「私は謝罪が聞きたいわけじゃない」

 

「……わかったよ。話すよ」

 

 望乃は自分が完全な人間でないことや精霊に戻れと言われたこと、神の使いに聞いたことを夏凜に正直に話した。友奈のことは言っても大丈夫なのかわからなかったため言わなかった。夏凜はそれを黙って聞いていた。

 望乃が話し終えると、夏凜は大きくため息を吐いた。

 

「そんなことになってたなんてね。相談しなさいよ……」

 

「ごめんね、雰囲気を壊したくなかったんだよ」

 

「それで、あんた一人で抱えてたら意味ないでしょ!」

 

「……」

 

 黙り込む望乃を見て、夏凜が言葉を続けた。

 

「あんたはすぐに信用しすぎなのよ。少しは疑うことを覚えなさい」

 

「夏凜ちゃんは、私が言われたこと嘘だって思うの?」

 

「それはわからないけど、何から何まで信じすぎだってこと。言われたこと全部信じて、全部抱えてたら身が持たないわよ」

 

「……夏凜ちゃんはどう思う?」

 

 望乃は体育座りで夏凜と目も合わせず聞いた。夏凜は考えることもなく答えた。

 

「私が思うに、その神の使いってのには裏があるわね。そもそも神の使いってのが疑わしいわ」

 

「そうかな?」

 

「そうよ。それに、あんたが精霊に戻る必要なんてどこにもないわ」

 

「でも……」

 

 望乃は夏凜がもう戦う必要なんてない、なんてこと言うと思っていた。しかし夏凜の口から出た言葉はまったく別のものだった。

 

「あんたが完全な人間だろうがなかろうが、もうとっくに勇者部の一員よ。あんた消えていい理由なんてどこにもないわ。だから約束しなさい! 何があっても、精霊に戻ろうなんて考えないこと! わかった?」

 

 夏凜は望乃に向かって指をびしっと突きつけた。夏凜の言葉にキョトンとしていた望乃は、満面の笑みを浮かべた。

 

「うん、わかった!」

 

 その後二人は、相変わらず一人用のベッドに二人で入る。布団に入るとすぐに望乃は眠ってしまった。

 

「相変わらず寝つきはいいんだから」

 

「う~ん。夏凜ちゃんがにぼしに~」

 

「どんな夢見てんのよ」

 

 夏凜はムニャムニャと眠る望乃の頬を優しく撫でた。

 

「本当は私があんたと離れたくないだけよ」

 

 夏凜はそう呟いた後、望乃に背を向けて眠った。

 




 望乃と夏凜の絡みを書きた過ぎて書いたら、本編の話より長くなってしまいました。

 反省はしているが、後悔はしていない。
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