小木曽望乃は勇者である?~勇者の章~   作:桃の山

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力になりたい気持ち

 年が明け、勇者部一行は初詣に来ていた。

 

「はー! やっと退院できたわー! シャバの空気がおいしいー!」

 

 風が嬉しそうにそう言っているのを聞いていた友奈を望乃が少し気にするように見ていた。結局望乃は行動を起こすことはできていなかった。理由としては、まだ勇者部が望乃を一人にさせなかったから。夏凜との約束があるから。友奈もそれを望まないだろうから、といろいろあったが、一番の理由としてはやはり怖かったのである。夢のような今の時間が終わってしまうことが……。無理して笑う友奈を見て、望乃は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

 

「ねえ、甘酒飲みたいな♪」

 

「お、いいねえ! 一杯、引っ掛けていきますか!」

 

 勇者部が甘酒の場所へ行く中、一人立ち止まったままの望乃に、夏凜が声を掛ける。

 

「望乃、何してんのよ。甘酒飲むらしいわよ」

 

「あ、ごめん。……甘酒って甘いの?」

 

 望乃が夏凜に追いついて聞く。

 

「あんたそんなこと考えてたの? 少なくとも、あんたが思ってるようなものじゃないわよ」

 

「え~、そうなの?」

 

「まあ、飲んでみれば分かるわよ」

 

「あっ、たこ焼きだ~!」

 

 望乃はたこ焼きの屋台に行ってしまった。夏凜はそんな望乃を見て、呆れるばかりだった。

 望乃がたこ焼きを買うと、勇者部は既に紙コップに入った甘酒を手に持っていた。望乃が合流すると、夏凜が紙コップを一つ手渡してくる。

 

「ほら、あんたの分」

 

「ありがと~。あ、でも私二歳だよ? いや、人間になってからだと、生後三か月だね」

 

「いやでも体は違うんでしょ?」

 

「コギーの体は元々私の小学六年生の時のものだよね~。問題ない!」

 

「問題ないか~」

 

 望乃が納得して勇者部全員で甘酒を飲む。

 

「ぷはあー!」

 

「お~、二人とも良い飲みっぷり~」

 

「なんか、ノンアルコールなのに場酔いしてない?」

 

 風と樹は酔ったように顔を赤くしていた。

 

「あはは! 酔ってないー!」

 

「樹ちゃん、楽しそ~」

 

 望乃は先ほど屋台で買ったたこ焼きを頬張っていた。

 

「良い記録だわ」

 

 東郷はビデオカメラを回していた。

 そして最後は勇者部全員で記念写真を撮った。

 

 

 

 新学期が始まり、部室では東郷がビデオカメラを回していた。

 

「最近熱心にカメラを回してるわねえ」

 

「もうすぐ先輩が卒業してしまうので、揃っての活動記録は貴重だと思います」

 

「ていうけどさー、私卒業しても入り浸ると思うわよー」

 

「入り浸るんだ……」

 

「そうなる予想はついてたけどね……」

 

「とか言って、嬉しそうね夏凜」

 

 風にそう言われて夏凜が顔を赤くする。

 

「ちょっ、何その反応!?」

 

「夏凜ちゃん、風ちゃんが卒業するの寂しそうにしてたもんね~」

 

「別に寂しくなんかないわよ!」

 

「でも顔は正直だよね~」

 

「ふーみん先輩とにぼっしーで創造捗っちゃったから、帰って二人の本を書こ~」

 

「あっ、書けたら見せてね~」

 

「分かってるよ~」

 

「ちょっ、待ちなさーい!」

 

 風と夏凜が同時に園子を止めるべくそう言うが、園子はそのまま帰ってしまった。

 園子が出て行き、しんとした空気の中風が少し気まずそうに言った。

 

「あっ、そういえば卒業旅行とかどこ行こうかしら」

 

「え? 風ちゃんと夏凜ちゃんの新婚旅行?」

 

 望乃が目を輝かせて鼻息を荒くする。

 

「だから卒業旅行だって!」

 

「年末はどこへも行けませんでしたからね」

 

「そうなのよー。大赦のお金でみんなで温泉旅行とか行く?」

 

「あ、温泉は前に行ったから違うところとかどうでしょう」

 

「……私も友奈ちゃんに賛成~。もっとおいしいものがあるところとか~」

 

「あんた、食べてばかりじゃない」

 

「えへへ~」

 

「褒めてない!」

 

 望乃も友奈も、いつも通り勇者部と接していた。

 

 

 

 勇者部に迷子の猫を探してほしいという依頼がきたため、全員で猫を探していた。しかし猫はなかなか見つからなかった。

 

「ちょっと樹。猫語で呼び出してみて」

 

 風が樹に突然無茶ぶりを仕掛ける。樹はその無茶ぶりに応えて猫語で周りに呼びかけてみた。

 すると園子と東郷がそれに反応して、樹を撮りまくっていた。

 

「もっと、もっと獣になって!」

 

「いいよ~。いっつんいいよ~」

 

「これを撮らないでください!」

 

「じゃ~、一枚脱いでみよっか~」

 

「何でですか!」

 

「一度言ってみたかったんだ~」

 

 望乃は嬉しそうに夏凜に抱き付いた。

 

「私に抱き付くの?」

 

「美森ちゃんと園子ちゃんが撮ってるところだから邪魔したら悪いでしょ~」

 

「そこは遠慮するんだ……」

 

 夏凜は納得がいかないと言ったような表情をしていた。その後猫は友奈が発見し、友奈は猫に逃げられてしまうものの風が捕まえ、依頼は終了した。

 

 

 

 勇者部はカラオケに来ていた。園子と東郷の息ぴったりのデュエットが終わり、夏凜は精霊とお菓子の取り合いをしている望乃のことは放っておいて、友奈に声を掛ける。

 

「じゃあ、こっちもいこうか。友奈!」

 

 しかし当の友奈は、顔を赤くして体がふらふらと揺れていた。

 

「あ、うん。これから宿題やるよー?」

 

「え?」

 

「あはは、寝ぼけてるんだね。にぼっしー、私と熱唱しようよ!」

 

「あ、うん」

 

 友奈の様子に気付いた望乃は精霊とのお菓子の取り合いをやめ、友奈の方に視線を向けた。友奈の様子は目に見えておかしかった。それを見て、望乃は非常に胸を痛めた。

 そして誰にも聞こえないように言った。

 

「やっぱり……ダメ、だよね」

 

 

 

 ある日の放課後。夏凜はにぼしをくわえて友奈に近付いてにぼしを一つ差し出した。

 

「話、いいかしら?」

 

 差し出されたにぼしを友奈も夏凜と同じようにくわえた。

 

「なに? 夏凜ちゃん?」

 

「少し歩ける?」

 

 そうして二人は港にやってきていた。

 

「友奈、あのね……」

 

「その前に、いいかな。夏凜ちゃんは寒くないのー?」

 

「悪い。全然気が回らなかった。場所、変えようか?」

 

「ううん、大丈夫。こうすれば、あったかーい!」

 

 友奈がその場に座って夏凜に体をくっつける。

 

「そういえばさ、この前部屋のエアコンが壊れた時、望乃も似たようなことやってたのよ。まあ、望乃の場合、抱き付くんだけど……」

 

「私、望乃ちゃんと似てるのかなー?」

 

「ちょっと、くらい……」

 

「ちょっと似てるんだ! なんか嬉しいなー!」

 

 夏凜は遠くの景色を見て、顔を赤くしていた。そして勇気を振り絞って口を開いた。

 

「友奈、年末辺りからおかしいわよ。絶対何かあったでしょ? 私が力になる。話を聞かせてくれない?」

 

「何ともないよー」

 

 友奈は笑顔を崩さずにそう言う。

 

「……どんな悩みだろうと、私は受け止めるから!」

 

「夏凜ちゃん……」

 

「力になるわ。私は友奈のために何だってしてあげたい。大切な友達の役に立ちたいの。望乃以外にそう思える友達を持てたことが私は嬉しいの。何があったの? 友奈」

 

 しかし友奈は夏凜を不幸にさせたくない、という理由で真実を口にはしなかった。

 

「本当に……何でもないんだ」

 

「そう……」

 

 夏凜は友奈の肩を掴んで涙声で言った。

 

「悩んだら……悩んだら相談じゃなかったの? 望乃も友奈も……そんなに私、頼りないの? 私、友達の力になりたかった」

 

 そう言うと夏凜は走り出してしまった。友奈もすぐに追いかけるが、すぐに走れなくなってしまった。

 

「ごめんね……」

 

 友奈は涙目でその場に倒れこむ。そこに、友奈に差し伸べる手が現れた。友奈が見上げると、それはいつの間にかやってきた望乃だった。

 

「大丈夫? 立てるかな? 私じゃ、友奈ちゃんおんぶできないからさ~」

 

 友奈は望乃の肩を借りて何とか立つことができた。その状態のまま、非常にゆっくりのスピードで歩き始める。

 

「友奈ちゃん家に向かうよ。それと、ごめんね」

 

「え?」

 

 望乃の突然の謝罪の意味が友奈には分からなかったので聞き返した。

 

「いや~、友奈ちゃんと夏凜ちゃんが話してるの、見てたんだよ~。だからごめんね」

 

「あ……うん」

 

 友奈の気持ちははまだ沈んだままだった。

 

「……話は聞いた? 私と夏凜ちゃんの」

 

「ん~? あまりよく聞こえなかったな。でも、何を話してたのかは分かってるよ。最近の友奈ちゃんの様子がおかしいことについて聞かれてたんだよね?」

 

「……うん」

 

「夏凜ちゃんが家でその話をしてたからね。そうだと思ったんだよ」

 

「あっ、でも何でもないから大丈夫だよ!」

 

 友奈は望乃も夏凜と同じことを聞こうとしているのだと思い、聞かれる前に否定する。

 

「私、今友奈ちゃんに起こっていること大体わかってると思う。勝手に知った私が言うのは大丈夫なのかな?」

 

 友奈は望乃の予想外の言葉に驚きを見せる。そして友奈は望乃の質問に答えるためゆっくりと頷いた。

 

「そっか~。良かった。友奈ちゃんは美森ちゃんからお役目を引き継いだんだよね? そして風ちゃんの事故もそれが関係してる」

 

「……」

 

 友奈は答えない。しかし望乃はそれを肯定と捉えて話を続ける。

 

「友奈ちゃんの体にあった烙印みたいなのがその印みたいなものなのかな。多分友奈ちゃんが言おうとすると、友奈ちゃんにしかわからない何かが見えるんだね。最初に友奈ちゃんが何かを言おうとした時、そんな感じだったからさ~」

 

「……」

 

 友奈はやはり何も答えない。友奈は辛そうな顔をしていた。

 

「辛い……よね。私もね、少し似たような時があったから少しだけ、わかるよ」

 

「似たような時?」

 

「うん。今起こっていることについて全部わかってて、誰かに言いたくても言えなくて……自分でどうにかしたくてもできなくて、ただみんなが傷ついたりみんなと一緒に入れなくなる日が来るのを見ていることしかできない……。私が精霊の時もそんな感じだったんだよ」

 

 そう言って望乃は笑う。

 

「でもやっぱり友奈ちゃんの方が辛いと思う。私はみんなを守れなかった罪悪感で合わせる顔がなくて閉じこもっちゃった時もあったしね」

 

 友奈は一度望乃が部屋に閉じこもって学校に来なくなった時のことを思い出した。

 

「望乃ちゃん……」

 

 すると、二人の間に沈黙が訪れた。望乃は何かを考えているようだった。

 そうこうしている内に、二人は友奈の家に到着した。望乃が友奈に貸していた肩を外して、ギュッと友奈に抱き付いた。

 

「友奈ちゃん。ごめんね」

 

「……何で望乃ちゃんが謝るの?」

 

「……私にとって勇者は友奈ちゃんだった。いつだって友奈ちゃんなら何とかしてくれるって思って、友奈ちゃんに任せっぱなしだった。美森ちゃんが暴走した時も、美森ちゃんを助けに行った時も……。それに比べて私は、みんなの力になりたいって言うだけで、何も守れてなかった。だから……ごめん」

 

 理由を聞いても、友奈には望乃の謝罪の意味が分からなかった。望乃が今までどれだけ頑張っていたのかを知っていたから、友奈には分からなかった。

 望乃は友奈を抱きしめていた腕を離して友奈に背を向けた。そしてスーッと大きく息を吸った。

 

「勇者部五箇条、ひと~つ。なせば大抵なんとかなる!」

 

 望乃が突然そう言って友奈の方に向き直した。

 

「だったら、私が何とかしてみせるよ」

 

「え? どういうこと?」

 

「今まで友奈ちゃんにはいっぱい助けてもらった。私が今ここにいられるのは友奈ちゃんや勇者部のみんなのおかげ。だから今度は……私が友奈ちゃんを救うよ」

 

 そして望乃は満面の笑みで言った。

 

「友奈ちゃん、だ~い好きだよ!」

 

 望乃は友奈の言葉も待たずに走り去ってしまった。

 

「望乃ちゃん!」

 

 友奈が呼びかけても望乃は止まることなく、友奈はその場に残されてしまった。

 友奈は以前夏凜が望乃に聞いた話を教えた時、いろんなことが重なりすぎて耳に入ってきていなかった。そのせいで望乃が何を考えているのかが分からなかった。

 

 そして友奈の前から去った望乃は自宅への道を走りながら、一つの覚悟を決めていた。

 

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