quest!   作:resot

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冬休みで若干時間ができたので、少しだけ更新スピード上げられるかもです…。


第9話 兄さん!

手に持ったカップを口元に持っていくと、癖になる香りが漂ってくる。鼻を満たすそのコーヒーの香りは、私の一番好きな匂いでもある。

 

コーヒー。なんと素晴らしい飲み物だろう。

だが、本当は酒が飲みたい。

 

ハンターはアルコールが基本的に禁止。それは、いついかなる時も依頼に備えていなければならないからだ。

二年間は酒を飲んだりもしていたが、流石に本格的にハンターに復帰してからは飲んでない。

 

命のやり取りをする上では、大事なことだから。

 

というわけで、私の一番好きな飲み物は今現在、コーヒーということになる。

 

それもブラックが大好き。

この喉を通る苦味がたまらない。

 

昔あるモンスターの肝を食べた時、あまりの苦味に戻しそうになりながらも、苦味に目覚めてしまった。

リュウからはドMなのかと尋ねられたこともあるが、私はそれから苦いのが大好きになった。

 

うん。この頭が冴える感じ最高。

カンナの口にも押し込んでやりたいな…

 

今も普通のコーヒーを、ブラックのままガッと飲んでいる。

コーヒーにはうるさいことで、リュウからいつも文句を言われていた。

 

そして、手には雑誌。まるで休日の受付嬢みたいな行動をしているが、実際ハンターに休みはない。

だからこそ、こうやって昼間から、冷気の漂う部屋、もといギルドにいるわけで・・・

 

 

「なーに見てんの、サツキちゃん?」

 

 

唐突に声をかけられた。

 

リュウよりも薄い青の髪の毛に2枚目の鏡みたいなイケメン。耳につけたピアスが、いかにも、という男の人。

 

そこにいたのは、カップを持ったベガさんであった。

 

 

「あ、お疲れ様です。」

 

「なあにー?暇なの?俺も隣でコーヒー飲んでいい?」

 

「まあ、いいですけど。」

 

にこりと笑って、隣に座ってくる。

 

「わ!サツキちゃんブラックなの?大人だねぇ!」

 

「そ、そうですか?」

 

 

威厳も何もない。すごく楽しそうにいつも話しかけてくる。

なんだけども、この人が村一番の実力を持つハンターなのだ。

 

 

「あー!月刊、『狩りに生きる』かー!懐かしいなぁ、それ。」

 

 

今度は、私の読む雑誌に注目してきた。

 

 

「ギルドにはずっと置いてありますけど・・・。」

 

「読まないんだよなぁ、あんまり本は。」

 

 

ぐびっとコーヒーを喉に入れながら言う。狩りに生きる。カンナは毎号買っているらしい。ここには、最近のハンターのこととか、モンスターのこととか、ギルドでツバメの巣が見つかったとか、多種多様な狩りの情報が載っている。

 

実際、ハンターの使ってる武器なんかは、規定で書いちゃいけない決まりだし、ハンター個人とかの情報はあんまり載ってない。でも、カンナは割と一字一句ハンターのことは特に記憶してる。

ほんと、あの女の子は根っからの狩りバカね・・・。

 

私の・・・双星という二つ名も、この雑誌で勝手に付けられたものだし。

 

 

「それ、何のページ?」

 

「あ、これは都市伝説のページですよ。」

 

「なにー?サツキちゃん、そんなのに興味あるの?気になる男のおとしかたとか、そんなページじゃないの?」

 

「違いますよ、そんなの。っていうか、狩りに生きるにそんなん書いてないですって。」

 

「あんなイケメンの幼馴染がいるのに?」

 

「リュウのことですか?あいつ、ああ見えてすごくぶっきらぼうだし、絶対嫌ですよ。確かにたまに頼りになるし、気遣いも結構できるし、才能もすごいありますけど。ベガさんだって、いい人いるじゃないですか。」

 

「…え?自覚なし?」

 

「?何か?」

 

「ん?嫌、なんでもない!え?ミル?そんなのじゃないよ、絶対。あいつこそぶっきらぼうだし。この前なんか、仕事の遅いギルドの職員叱り飛ばしてさ・・・。」

 

「リュウだって、この前休憩してたら怒ってきたんですよ?狩りの後だったし、怒られるようなこと、何もしてないのに。」

 

「お互い苦労してますなぁ。」

 

 

幼馴染というのは面倒なものだ。いいところも悪いところも、その一つ一つが目につく。

 

 

「まあ、ぶっきらぼうなのは好きの裏返しっていうし!」

 

「そんな、勘弁してくださいよ!」

 

 

 

「「誰が、ぶっきらぼうだって?」」

 

 

…。

 

えーっと?

 

振り向くと、書類を抱えたリュウとミルさんだった。

 

 

「へえ、サツキ。狩りの後じゃないのにコーヒーなんて、偉い身分じゃないか。」

 

「ベガ?あんた、こんなとこで油売ってていいと本気で思ってんの?」

 

「お、お二人とも、どうされたんですかい?」

 

「別にー?ただ書類を片すのを手伝ってたら、よからぬ陰口が聞こえてね?」

 

「い、嫌リュウ?違うよ、これ!?そんな悪い意味じゃないって!ぶっきらぼうってほら、可愛いし!うん、可愛いじゃん!」

 

「サツキちゃん…それなんの言い訳にもなってないし…。」

 

 

はあ、とため息をついたリュウは、

 

 

「まあ、今はいいけど。久しぶりに晴れてるし、そういう気にもなるよな。でも、お二人とも、気は緩めちゃダメですよ。」

 

そう言った。

 

「それで?サツキが雑誌を読むなんて、珍しいこともあるものだな。」

 

「いえ・・・まあ、ちょっと暇だったのでね・・・。」

 

 

嘘だ。これを手に取ったのは、その表紙が気になったから。このページが気になったからだ。

 

 

「んー?ああ、最近ニュースで取り上げられてるやつか。」

 

ベガさんが指差したのは、一番大きな記事。とある研究所で、モンスターを凶暴化させる薬が開発された、いやしてしまったというものだ。実際に投薬して、世界を手中にしようとしている・・・などと。

 

…まあ、そんなことに私は興味がないけど。

 

 

「こんな技術あったら、ほんと最悪も最悪だけどなぁ。」

 

「そりゃそうだ。こんなもん、あってたまるか。」

 

 

そんな話をしていると、更に村長さんがやってくる。

いつのまにか、見知った人が集まっていた。

 

 

「あらあら、皆さん、お疲れ様です。」

 

「お疲れ様です、どうされたんです?」

 

「いえ、私はセリアさんのお見舞いに行っていたので・・・。」

 

「ああ、この前の秘伝書で…。」

 

 

双剣の第二解放、鬼神強化は秘伝書の中でも相当な攻撃力を誇る技。故に、体への負担がでかすぎる。

 

実際、戦いが終わったセリアさんは、身体中から血を流していた。

 

すぐさま薬の大量投薬かつ絶対安静。

 

回復薬という薬は、体にあまりいいものではないのだ。

その分休息しないと、体が壊れてしまう。

 

 

「紅葉の皆さん、しばらくは3人かもしれませんが、頑張ってくださいね。」

 

「いざって時は私が出るよー!」

 

 

更に村長の後ろからやってきたのは、セリアさんの双子のセレオさん。

 

…ほんとそっくり。

 

 

「サツキちゃん、ミルさん、セリアが迷惑かけました。」

 

「いえ、そんな・・・。」

 

「カンナちゃんにもお礼言いたいんだけど・・・。」

 

「そう言えば、カンナちゃんは?」

 

「さあ・・・」

 

「まさか男・・・ゲフッ」

 

 

ミルさんの拳骨がベガさんに突き刺さる。

 

その時だった。

 

バタンと大きな音をたてて、カンナが入ってきた。そのままハアハアと息を荒げて、私たちの方へ走ってくる。

そのままリュウに向かって、

 

「リュウさん、クエストを・・・依頼を、私の依頼を受けてください!」

 

と言った。

 

「ど、どうしたんです?」

 

「村長さん!兄さんが、兄さんが危ないんです!」

 

村長さんは、驚いていた。

 

「ハナビさんが、ですか?」

 

 

大慌ての村長さん。

汗をダラダラかくカンナ。

 

何やらわからない。わかったのは、カンナに兄がいるらしい、ということと、クエストに行かなくてはならなくなりそうだ、ということだけだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私には、兄がいる。

 

母や父は私が幼い頃に亡くなったとその兄から聞いた。

 

だから、私の親といえば、年の離れた兄ただ一人だった。

とても優しい兄だった。

 

私がハンターズスクールに通い始めた頃、兄は遠く離れた凍土の気候観測所に勤め始めた。以来、私は一人暮らしを続けている。

 

たまーに会っているものの、最近は忙しいらしく、会えていない。そんな兄から手紙が届いたのが、ちょうど半日ほど前のことだった。

 

いつも通り朝ごはんを手早く作って食べていると、一匹のアイルーが駆け込んできたのだ。

 

ひどく衰弱していた。

 

「ど、どうしたの?とにかく、これを!」

 

暖かなスープを飲ませながら、事情を聞いた。

 

それで、兄が危ないと知ったのだ。

 

そんなわけで、私たち紅葉は凍土のベースキャンプにいた。

 

「つまり、悪天候で物資の供給が途絶えており、危険、と。そういうことだな?」

 

「はい・・・。」

 

「ハナビさんにはお世話になっている。あの人は強い人だ。大丈夫、きちんと助けよう。」

 

ミルさんに言われても、その嫌な予感は止まらない。

 

手紙が届いたのはさっきだが、あのアイルーさんがいつ向こうを発ったのかはわからない。

 

じっちゃんの話では、ひどく衰弱しているからしばらくは話せそうにない、ということだった。

 

当然だ。荷車で半日かかる道を走ってきたのだから。

 

だからこそ、いつ出された手紙なのかはわからない。

 

いつから兄は苦しんでいるのだろう。

 

ユクモのような田舎の地方では、転送システムとか、高精度の無線などほとんど使えない。

 

まして、ハンター関連以外では皆無。

 

更に、凍土という場所は、極端に電波の制限を受けてしまう。

 

それに悪天候が重なると、簡単にこんな風になってしまう。それに、最近はただでさえ不安な要素が多いのだから、余計落ち着けなかった。

 

そして案の定、おきてほしくない事態がおきていた。

 

「とにかく、一刻も早く出発だ。今は夜も近いが、手遅れになる前に向かわなければならない。3人で危険だが、いいな?」

 

はい、という声も少ない。

セリアさんがいない状況で遠征する羽目になるとは思わなかった。

 

ぎゅっと目を瞑る。

 

お願い。無事でいてーーー。

 

「大丈夫よ。」

 

サツキが声をかけてきた。

 

「…なんで?」

 

「根拠はないよ、でもね。」

 

一呼吸置いたサツキの口調は、少しだけ、いつもの強さを失っていた。

 

「私もいないのよ、親が。」

 

「え?」

 

「私を育ててくれたのは、姉さんなの。でもね、姉はどんなことがあっても、私の前からいなくなることはなかった。例え本当の親じゃなくても、誰かを育てる、守る立場になった瞬間、人は強くなるものなの。

だから、心配なんていらない。真摯に、ひたむきに。いつも通り助けようって思ってればいいの。絶対、あなたを残して死んだりしないわ。」

 

「うん・・・ありがとね。」

 

…そうだ。

 

兄は例え遠く離れても、私の前からいなくなったことはない。小さい頃から助けてくれた兄を、今度は私が助ければいい。きっと待っててくれる。

 

ーーーサツキは、私よりずっと大人なんだな。

 

ベースキャンプの入り口に立つ。

待ってて、兄さん。

 

絶対助けるから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ベースキャンプを出てすぐ、私たちは吹雪に見舞われた。あたりは真っ暗で、ほんの15メートル先も見渡せない。

 

本来、こんな悪天候の中を進むのは危険すぎる。寒さを抑える、ホットドリンクという薬を飲んでいるが、それでも防ぎきれない寒さの中を、私たちは行進していた。

 

足元も滑る。

 

考えられる一番まずい事態は一つ。

 

雪道でモンスターなんかに出くわすのが一番やりづらい。

 

今回のカンナの武器はどうやらスラッシュアックスらしい。この武器は、剣と斧、二つの変形ができる新しく、特殊な武器だ。第一解放の力で、攻撃が上がったり、麻痺や毒などの状態以上を与えたりといった付加効果もある強力な武器。扱いはかなり難しい。

 

カンナが得意なのは、軽い武器。

 

だけどスラッシュアックスはそう軽いわけでも無いし、多分慌てて持ってきたんだろう。

 

無理もない。家族というのはそういうものだ。

 

だから、私が守る。

 

彼女は、絶対に生かす。

 

それは、私があの時、彼女の夢を聞いた時から誓ったことだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンナの境遇はどうやら私とよく似ていたらしい。

 

私も、血の繋がった家族は姉だけ。幼い頃から意地っ張りだった私が、素直になれた、数少ない人物でもある。

 

今だからわかる。守ることは、とても難しいこと。誰かを守れる人間は、強い人。

そして・・・私はそうなれなかった人間だということも。

 

ーーなんで、あなたなの?なぜ?お前のせいでーー

ーーありがとうーー

 

脳裏に嫌な記憶が蘇る。必死に気を持ち直す。

 

こんなところで気絶なんてしていられない。

 

こんなところでくたばるわけにはいかない。

 

「頑張ろう、あと半分くらいだ!」

 

ミルさんの声も遠くに聞こえる。強い風。

やはり、気候はどんどん悪くなっている。早く着かなければ・・・

 

しかし、そううまくいかなかった。

 

突然、動物の咆哮がした。

 

「何?!」

 

「落ち着け。この声は、多分・・・。」

 

突然、鈍い痛みが襲った。体が宙に浮くのがわかる。咄嗟に受け身をとって地面についた。

 

冷たい氷の感触。腰にもろにぶつかってきたその塊がモンスターとわかるまで、そんなに時間はかからなかった。

 

「ウルクススか!」

 

目を凝らすと、長い耳が見えた。ウサギだ。でも、3メートルはあろうかという巨大ウサギ。ウルクススと呼ばれたそいつは、こちらに向き直ると、すごいスピードでこっちにお腹で滑ってきた。そんな移動方法ありか。

 

穿龍棍のダイヤルを回して空気を思い切り出す。風の力で踏ん張れない地面の分を補う。体が横に流れるのと同時に、脇をそいつが掠めた。回復薬を飲んでダメージを即座に癒す。

 

閃光玉をお見舞いする。これで時間は稼げるだろう。

 

「…クッソ!」

 

恐れていた事態。最悪だ。

 

「サツキ!大丈夫?」

 

カンナが駆け寄ってくる。スラッシュアックスを取り出し、ウルクススに対峙するカンナ。

 

「この吹雪の中で戦うのは危険すぎる!撤退するしか無い!」

 

当然だ。

 

私たちは3人しかいないし、とても狩りなどやってられる気候では無い。

 

「カンナ!早く逃げるよ!」

 

「でも、早くしないと!兄さんが!」

 

「今はそれどころじゃない!」

 

咄嗟に投げた閃光玉は、うまく奴の目を潰してくれたらしい。もがく音がする。

 

そいつの姿だって、まともに見えないのだ。

 

あの速さで動くモンスターなんて、今は相性が悪すぎる。

 

ミルさんの声の方向に急ぐ。

だが、カンナの手をとって進もうとすると、強い力で引き止められた。

 

「カンナ!気持ちはわかるけど、今は戻ったほうがいい!」

 

「・・・嫌だ。私は、助けないといけないんだ。兄さんを!」

 

「カンナ!」

 

目を見ると、ハッとした。

 

「・・・カンナ?」

 

カンナの瞳は黒いはずだった。でも、今のカンナの瞳は赤く充血している。

 

 

「まさか・・・カンナ・・・」

 

 

ジンオウガの時。ボルボロスの時。

彼女には信じられない力があるのではと思った時。

 

その可能性を私は考慮していた。

だけど、信じなかった。

 

 

こんな田舎の、あんな小さな女の子に、その力があるわけない、と思ったから。

 

こんなガキみたいな子に、そんな力があるわけないって。

 

 

だけど、その疑いを晴らすのに、その赤い目は十分だった。

 

 

私は見たことがある。人間の目の色が変わる瞬間を。

 

 

 

 

 

メゼポルタという、一流ハンターの集まり。

 

そして、Fの名を持つハンターの中でも、一流のハンターのそのまた一流、限られた人間のみが開けられるその扉。

 

誰よりも狩りをすることが好き。そして、誰よりも死にたくないと思っている人間。誰よりも誰かを守ることに執着する人。そして、誰よりも狩りが上手い人。

 

そんな限られた、ごく一握りの天才は、意識の中のある扉を開け、その世界に入ることができる。

 

ゾーン。

 

それはつまり、彼女もまた、天才だということの証明だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、「極限の集中状態」と一般的には定義されている。その状態になった者にとっては、本人曰く、「モンスターと自分以外誰もいなくなる」らしい。そして、狩りにおける全ての能力が向上する。

 

運動、認知、そして判断力。地形をうまく使う力。

 

自分の実力を全て発揮することができる。

 

 

「だとしても・・・!!」

 

 

今まで見てきた、カンナの謎の力。

その謎が解けた気がした。

だからって、早すぎる。

 

たとえこの子がゾーンに入れるほどの天才だったとして、こんなに早くなんて。

 

ーーーこんな、ハンターになって一年も満たない子に、なんて。

 

次の瞬間、カンナの姿は消えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

兄さんを必ず助ける。

 

ーーーこいつを、必ず殺す。

 

その時、あの感覚が私をおそった。全てがスローモーションになり、サツキの声が遠ざかる。

 

目の前の吹雪が無くなっていく。いや、吹いているのはわかるけど、見通しがよくなる。

 

吹雪を超えて、ウルクススが見えた。

 

体が軽い。足元は悪いけど、あまり気にならない。

 

滑らない地点が、足を通して伝わる。

 

私は走り出した。武器を取り出す。

 

今、スラッシュアックスは、斧モードだ。右へ、左へと切りつける。そのまま、縦へ。連続攻撃の一連の流れだ。

 

足元の悪さも気にならない。ウルクススの振り向きが果てしなくスローモーションだ。

 

グルグル回りながら、果てしなく右へ左へ。

 

弱点は何となくわかる。

あのスピードで滑走するモンスター。

 

だが、的さえ絞らせなければいい。そうしたら、むしろ動き回られることもない。

だから、常に奴の周囲を動き続ける。

 

信じられないほど早く動いてる実感はあった。

 

飛び散って来る血しぶきさえかわせる。

 

世界が、どんどんと止まっていく。

 

ーーー今なら。

 

手元のダイヤルを回して剣モードに。

 

そして、そのまま意識を集中した。解放攻撃。

スラッシュアックスはほとんど使ったことないし、慌てて目に付いたやつを持ってきただけだ。

でも、今ならできる。そんな気がした。

 

モンスターの魂が集まる。そのまま、目の前の脇腹に思い切り突き刺した。そこが一番弱い場所だということも、見えた。まるで、針の穴のようだ。

 

属性解放突き。それは、スラッシュアックス独自の必殺技。瞬間、ウルクススに全てを解放した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

気候観測所は、想像通り、なかなかに過酷な状態にあったらしい。電気がどこかで断線して途絶え、暖房がつかなかったようだ。備蓄しておいたホットドリンクが切れるギリギリで私たちは到着したらしい。

 

「兄さんー!無事でよかったよぉぉ!」

 

・・・と、まあ、先ほどのカンナはどこへやら、私とミルさんは感動の再会シーンを見せられている。

 

「カンナ、大丈夫だから。本当に、すまなかったね。

 

…お二人とも、助けて頂いて本当にありがとうございます。私がカンナの兄、そしてこの気候観測所の所長、ハナビといいます。妹が日頃からお世話になってます。」

 

他の職員も、口々にありがとうございますと声をかけて来る。

それほどに不安だったのだろう。

 

当然だ、陸の孤島ほど辛いものはない。

 

「ハナビさん、お久しぶりです。なに、これくらい当然です。ここの気候観測所のおかげで、私たちがどれだけ助かっているか。」

 

「そう言ってくださると幸いです。」

 

にこりと笑うハナビさん。

確かに、笑った顔は少し似てる、かもしれない。

 

「うちも多少の悪天候くらいは備えてたんですが…まさかこんなに吹雪くとは。初めてですよ、こんなこと。」

 

「…ええ。何か、最近不穏なことが多いようです。霊峰のこともありますし。」

 

皆、何かおかしいこの状況に不安が隠せない。

ハンターに復帰してから、色々と激動すぎる。

 

異変といい、カンナといい。

 

電気の不具合はミルさんが見たらすぐにわかった。

 

何でも、観測所のすぐそこで切れているのがわかって、修復も余裕だったとか。

今では暖房もついて、私たち3人はコーヒーを頂いている、というわけだ。

 

「ここも、気候が悪くなりましたね。転送システムが置ければよいのですが・・・」

 

「いえいえ、現実的ではないでしょう。我々は、このまま頑張らせてもらいますよ。」

 

「・・・ほんとにカンナのお兄さんですか?」

 

…その大人な感じはほんとに血の繋がった兄弟なの?

 

「ムッ、それは何?サツキ。」

 

「いやー?カンナちゃんに比べて、随分落ち着いた雰囲気だなーと思ってね?」

 

「落ち着きのない妹ですが、サツキさん、これからもよろしくお願いしますね。」

 

にこりと笑われた。

 

「は、はぁ…。もちろん。大丈夫です、責任持って面倒見ますから。」

 

「同い年なんだけど!?」

 

「いや、二人とも。同い年には見えんぞ。正確には、二人ともその年には見えないぞ。」

 

「え?私そんなに幼稚ですか?」

 

ミルさんにバカにされた気がした。

 

「いや、違う。そうじゃなくてだな…。」

 

まあいっか、と呆れられた。

 

「それでは、そろそろお暇します。」

 

ミルさんの声で、私たちも立ち上がる。

玄関を出ると、さっきより多少吹雪は収まっていた。

 

「兄さん、ほんと無事でよかった。」

 

「ええ、カンナに助けてもらう日が来るなんて夢にも思ってなかったよ。」

 

「私・・・少しは強くなれたかな。」

 

「十分強いよ。俺の妹なだけある!」

 

 

ああ、この二人は信頼し合ってる。

 

そう、それが血が繋がってるってことなんだ。

そして、そのおかげでカンナは完全にゾーンを開花させた。

私は・・・どうあればよいのかな。

 

ゾーン。

 

一部の天才だけが、開ける力。

 

ーーーなぜカンナにその扉が開かれたのだろう。

 

帰り際、ハナビさんにこっそりと声をかけた。

 

「ハナビさん。」

 

「はい?」

 

これだけは、聞いておきたかった。

 

 

 

 

「カンナは、本当にただのユクモの娘ですか?」

 

 

 

 

「・・・そうですよ。それが何か?」

 

 

 

 

 

ハナビさんの顔が、少し歪んだ気がした。

 

それが本当の言葉なのか、嘘なのか、私にはわからなかった。

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