quest!   作:resot

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サツキちゃんが何を探していたのか、少しずつ明らかになってきました。
続きもごゆっくりお楽しみください!


第11話 不安!

ずっと、その時を私は待っていた。

もし、本当にこの地方に死んだ人間を生き返らせることができる手段があるのなら。

そんなことを考えてこの地方にやってきた。

 

やっと掴んだかもしれない希望の光。それは突然現れた。

 

その人は、まだそんなに遠くに行ってないかもしれない。

ひょっとするとこの辺りにも・・・

 

「サツキ!」

 

ハッとする。

 

顔をとっさに上げると、目の前にボルボロスの頭が現れた。

 

「・・・っ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルドの窓、そこからはるかかなたに見える霊峰という場所。

でも、天辺には未だ雲がかかり、頂上が見えない。時折、雷が光っている。

古くから信仰の対象だったあの山は、今では村のみんなに不安を与えるものでしかない。

 

それに加え・・・あの日から、サツキは変わってしまった。

 

死んだ人間を探していた男の話を聞き、狩りにしても、集中力が完全に足りていない。

どこか、見えない影を探しているような、周りに目を向けすぎているような、そんな感じだ。

 

おかげで、いくつかのクエストの達成にも支障が出ている。ユクモ付近に現れるモンスターの気性は荒くなる一方。

持ち込まれているクエストの数は増えているのに、遅々として進まない。

 

「うう・・・どうしよう・・・。」

 

明らかに私たち紅葉の雰囲気も悪い。

いつも明るいセリアさんも最近は笑顔が少なかった。

 

トボトボとギルドの中に戻って行く。

なんとかしたいけど、どうしたらいいかわからない。

私は、どうすればいい?

 

 

 

 

奥の机には、リュウさんがいた。

 

「お疲れです、リュウさん。」

 

「・・・お疲れ。」

 

 

何か写真を見ているようだった。その表情が険しい。

 

 

「・・・嘘、だろ。」

 

「どうかしたんですか?」

 

「カンナ、紅葉を呼んでほしい。あと、村に白光もいるはずだ。」

 

その声は何か緊張感を含んだような、そんな感じだった。

 

 

「もう無視できない。まずいことになった。」

 

 

 

 

 

 

この8人が揃うのはいつぶりだろうか。久々に揃ったメンバーでも、空気は重かった。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

口を開いたのは筋骨隆々のおじさん、ミナミさんだ。更に体格も大きくなって、とても一番年上には見えない。

 

「・・・この写真を見てください。」

 

リュウさんが示した写真は、真っ白だった。だが、ところどころ黒い部分もある。よく見えない。

 

「これは、メゼポルタの探査機が撮った霊峰の頂上の写真です。嵐が激しく、完全に近づくことはできなかったようですが、この1枚だけ撮れたようです。」

 

そう言うと、更に引き伸ばした写真を職員が持って来た。

 

ーーーそこにあったのは、信じられない写真だった。周りも騒然とした。

 

 

 

「もう一度言います。」

 

そして、リュウさんの口から決定的な言葉が発せられた。

 

 

 

 

「これは、頂上の写真なんです。」

 

 

 

そんなはずはなかった。これが、頂上のはずはない。

 

 

「これって・・・」

 

「そんな、ことが・・・」

 

「どう言うこと?これ、ほんとに頂上の写真なの?」

 

リュウさんは力なく首を振る。

 

「正真正銘、そうですよ。」

 

 

 

そこには、「平らな」地面が広まっている。でも、それは頂上にあるはずのない景色。

だって、頂上というのは本来尖ったものであるべきだから。

 

 

よく見れば気がついたかもしれない。でも、それはあり得ないことだった。

 

だからこそ、気がつかなかった。

 

 

 

頂上が雲に隠れて見えない?そんなんじゃない。簡単なことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頂上が消し飛んでいるのだ。綺麗さっぱり。跡形もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ギルドの皆さんが見た瓦礫って・・・」

 

「頂上が消し飛んだ時に出た瓦礫。」

 

そう言いながら入って来たのは村長さん。

 

「これは、ただ事ではありません。原因はおそらく・・・」

 

「昨年の巨大竜巻、ですかね。」

 

ベガさんが言った。

 

「間違いないでしょうね。」

 

「リュウ・・・どうするの?」

 

「・・・メゼポルタのギルドに既に救援は呼んである。」

 

「そんなの、待てるはずない!」

 

立ち上がったのはミナミさんだ。

 

「リュウどの!いい加減にしてくれ!もうこうなった以上、あそこで何が起きているかとにかく早く特定しなければ!我々でチームを組むしかないんだよ!」

 

「いえ、それはしません。」

 

「なぜだ?」

 

「こうなった以上、我々の戦力で扱える範囲ではない。必ず犠牲がでるでしょう。」

 

「これ以上放置して、手遅れになったらどうするんだ?そもそも、原因さえ掴めていないのだろう?」

 

 

 

 

「・・・原因なら、未確定ですが一つ思いつくことがあります。」

 

 

村長さんだった。

 

 

「リュウさんには話をしました。」

 

「地形を変えるほどの巨大竜巻、天候の悪化、そして、本来霊峰付近に生息するジンオウガを追い出すほどの力。これほどの力、モンスター抜きでは起き得ない事象です。

そして、霊峰に古くから住むと伝説的に伝えられる古龍の中に、その力を持ちうるモンスターがただ一匹。」

 

 

「そのモンスターの名は、嵐龍、アマツマガツチ。」

 

 

村長さんの声に、私は身震いした。

あれ程の力が、たった一匹のモンスターによっておこされた。

 

アマツマガツチ。

 

 

「なぜ、この時期にこんなに活動が活発に・・・」

 

「それは知らん。ただ、とにかく今この瞬間、のんびりしているわけにはいかないのではないか?」

 

「俺もミナミの言うことに賛成。リュウさん、あんた慎重過ぎない?」

 

「私もかしら。」

 

 

サーサさんにベガさんも賛成した。

 

 

「いえ、あれ程の古龍相手に、我々だけでは・・・」

 

「なぜだ!?手遅れになってからでは遅いのだ!」

 

それでも、リュウさんは何も言わなかった。

 

 

「・・・とにかく、我々で対策は考えます。少々、お待ちを。」

 

 

そのまま、奥へ引き返していく。

モンスターの引き起こした、一つの山の上半分を消しとばす巨大竜巻。

 

未曾有の災害を前に、私たちは完全に動揺していた。だが、不幸は続く。

 

クエストは待ってはくれない。紅葉の遠征を告げる音が鳴ったのは、そのすぐ後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホットドリンクを飲みきると、身体が芯から温まる感じがした。ここは凍土。

兄さんを助けた時と同じく、相変わらず、吹雪が吹いている。

 

「今回の相手はギギネブラらしい。」

 

ミルさんが言った。

 

「この近くの集落のすぐそこで見かけたそうだ。何か気性が荒かったらしくてな。」

 

誰も何も言わない。皆、アマツマガツチのことで頭がいっぱいだった。

 

「・・・リュウさん、何を焦ってたのかなー?」

 

セリアさんが口に出す。

 

「サツキ、あんた何か知ってるんじゃないの?」

 

 

私は率直な疑問をぶつけてみた。サツキは反応したものの、何も言わない。

 

 

「カンナ、セリア、狩りの鉄則を忘れたか?」

 

「・・・何をおいてもクエストに向かい、クエストに生き、クエスト遂行を目的として行動せよ、です。」

 

「今、目の前でおきているこの相手に、堂々と向かおうじゃないか。」

 

サツキが立ち上がった。

 

「解毒薬は持った。行きましょう。」

 

だが、目的のギギネブラはなかなか見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凍土に来て3日目の夜。今日もギギネブラは見つからない。

 

「おかしいな。村の近辺からかなり離れたところまで探したのに。」

 

そう、捜索範囲はかなり広げた。なのにさっぱり見つからない。

 

「これなら、逆に問題無いのでは?」

 

「サツキちゃんのいう通りかもねー?」

 

私もそう思う。もう村からもかなり離れたところに来ている。

何かの拍子で村に接近してしまっただけで、もう離れて言ったということは十分に考えられる。

 

「とにかく、ベースキャンプに戻ろう。それから考えても遅くない。」

 

 

10分ほど歩くと、洞窟に差し掛かる。ここは、行きに通った場所だ。

今は真っ暗なので、頭のライトを頼りに進む。

足元もツルツルする。転ばないように注意しないと、と行きにコケた私は注意深く進む。

 

「バサバサバサッ!」

 

 

突然音が鳴った。

ひっと声を上げてしまった。上を見上げると、何匹かのコウモリが飛んでいた。全く、緊張感のない動物。こっちがどんな思いでこの場にいるのか、考えもしないで・・・

 

「ねえねえ、あれ何だろ?」

 

セリアさんの声の先。そこは、3メートルほど高くなった場所で、奥に更に洞窟が伸びていた。

 

その先に目を移すと、何かがある。

見ると、なにやら白くて半透明な皮のようなものがその少し奥まったところにだるんと落ちている。

 

「何でしょう、見たことないですけどね。」

 

「私も見たことないな。」

 

「何か、シュウマイの皮みたいですけど。」

 

「・・・サツキ、ボケなんだよね?」

 

心底思ったことをぶつけておいた。

 

「しかし・・・色が気になる。あの色はまさにギギネブラの色。」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、だが、奴が脱皮するなんて話、見たことも聞いたこともないんだがな・・・」

 

「そうだねー、私も10年ハンターやってるけど、聞いたことないかもー!」

 

この二人がそう言う以上、それに間違いはない。

だけど、今はあり得ないことがおきている時期。

 

嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

ギャァアアアァァ!

 

不意に、耳をつんざく大音量の咆哮が響き渡る。

明らかに、普通とは違う動物の声だ。

 

「・・・きたか。」

 

「みんなー、武器出そうか!」

 

こんな咆哮聞いたことない。

今回の武器は、私とミルさんが太刀だ。ミルさんは太刀も意外とよく使う。

ギギネブラにはいいらしい。

セリアさんは双剣。秘伝書だけは使わせたくない。サツキは・・・言うまでもないか。

 

まだ咆哮が聞こえる。このレベルの咆哮は聞いたことがない。変に太刀を握る手に力が入る。集中、集中、集中・・・。異変のことに気を取られてはいけない。ここは戦場。

死を自覚しろ!

 

「姿が見えませんが!」

 

「多分、上だ!」

 

ライトを上に向けると、そこには、おかしな生物がいた。

大きさは多分8メートルくらい。

白い体に、黄色の斑点がいくつもある。4本足で天井にくっつくその顔には、目がない。

というか前はどっちだ。後ろ側にも、顔と同じような構造がある。

 

 

 

「何だ・・・あれ?」

 

「え!ギギネブラではないんですか?」

 

「似ているが、おかしい!ギギネブラは、全身真っ白だ!」

 

ミルさんは武器の構えを崩さず言う。

 

「奴に黄色の斑点なんてないんだよ!」

 

 

 

途端、上からそれは降ってきた。咄嗟に後ろに飛んで回避。おかしなモンスター。

 

まさか、ここにまで。

着地の瞬間、足に痛み。捻ったらしい。

 

ああもう!何を考えているのよ。今は、とにかく倒すことだけ考えろ!

短期決戦が有効だと思った私は、そいつが後ろを向いていることを確認した。

 

判断基準は、爪。爪の向きさえわかれば、どっちを向いてるかくらいはわかる。

太刀の解放攻撃。それは、練気攻撃だ。

 

切れば切るほどその一振りのキレを高め、刀身を黄色に染め上げる。

 

目を閉じて力をこめる。解放の感覚はすぐにやってきた。

 

ギギネブラに向かって走る。太刀が光っている。それがわかる。

 

まずは上から思い切り切りつけた。ガチんと、まるで石にでもぶつけたみたいな手ごたえ。

 

刀身が一瞬白くなる。

 

「こいつの尻尾は硬い!狙うなら頭か翼だぞ!」

 

だから、ミルさんは言うの遅いんですって!まあでも、練気は溜まった。この調子、と思った時に、尻尾が思い切りこっちに向かってくる。反射的に思い切りしゃがんで避けた。

 

ギリギリ。動きも早い。

 

「こんなにこいつ速くないはずなんだけどなあ!?」

 

セリアさんも動転してる。わかる。自分も焦ってる。落ち着け、落ち着け、落ち着け!

更にもう一発、尻尾が飛んできたと思った時には遅かった。体が吹っ飛ぶ。受身は何とか取れたけど、腕が痛い。

 

続いて、ギギネブラはセリアさんに向かって、紫の液体を吐いた。毒だ。

放物線を描き、紫色の液体がセリアさんに向かって飛んでいく。

 

 

セリアさんはかなり遠くにいたが、その射程の高さを感じ取り、大きく前へ。

着弾した毒が、どろっとまとわりついた。

途端、毒が霧になる。

 

そんなバカな。液体から気体へそんな早く変わるなんて。

 

 

「射程も長い、何だこいつ!」

 

 

セリアさんはギリギリで避けたが、毒を多少吸ったらしい。

よろっとよろめくのが見えた。

 

「セリアさん!」

 

サツキが抱きとめ、横へ避ける。その真横を、毒が侵食していく。

私も、今度は翼を切る。さっきまでと違う手ごたえ。

さっき痛めた腕と足が気になるが、回復薬を飲む程度ではないと判断した。セリアさんが何か言って、懐から解毒薬の瓶をサツキに取り出させているのが見えた。

さすが、準備がいい。ちょっと吸い込んだくらいなら、すぐに回復も済む。

 

「オリャァァア!」

 

ミルさんの太刀は既に黄色になっている。白から黄色へ。それが太刀の力の上昇を示す変化である。解放攻撃の中でも、随一の使いやすさ。やられたモンスターに感謝しなければ。

私も斬りかかろうとしたそのとき。

 

ギギネブラの色が変わって行く。

それはまるで図鑑で見たカメレオンみたいだった。白い部分が黒く、そして黄色だった斑点はみるみる赤に変わって行く。何かがおかしい。

 

「カンナ、気をつけて!」

 

サツキの声が後ろからする。わかってる。

その時だった。

 

 

 

 

 

ギギネブラの更に奥の方で動く光が見えた。ギギネブラの攻撃をかわしながらその光を視認する。段々光は強くなり、不意にその主が現れた。

 

「モグラ!」

 

それは、あの探検家のモグラだった。ミルさんも認識したらしい。

 

「何してる!」

 

「ひっ、これは・・・」

 

モグラは後ずさりする。

 

奴は冒険家だ。

バカなのか?ここは洞窟の本当に奥の方。

一人でこんなとこまで来るなんて、正気とは思えない。

 

「ミルさん、私は保護を優先します!」

 

とにかく一般人が巻き込まれることは避けなくてはならない。

だから、ミルさんにも進言した。

 

「サツキちゃん!」

 

 

セリアさんの声で、目を戻すとサツキがモグラに思い切り突っ込んで行くのが見える。

 

「サツキ!」

 

だけど、サツキは止まらない。

セリアさんはそれを追いかけている。

今、ギギネブラはミルさんに飛びかかって毒を吐いたところ。ギリギリで躱したミルさんは、攻撃を入れている。

 

 

しかし、ギギネブラはターゲットを変えたらしい。

 

向き直ったのは、二人とモグラの方だった。

サツキも、セリアさんも二人とも気がついていない。

 

「・・・まずい!」

 

万一このまままとめて毒を吸い、行動不能になれば、全員の命が危ない。私は全力で走った。捻った足が悲鳴をあげている。すぐそこにいた3人が遠く見える。

 

あの時を思い出した。

 

 

 

 

ーーーゾーン、ゾーンにさえ入れれば!

 

 

 

 

でも、あの感覚は訪れない。

ギギネブラの速さもさっきより速い。

 

 

 

 

ーーー間に合え!頼む、来るなら今でしょ!

 

 

 

 

ギギネブラがその毒を吐いたと同時に、私は3人に思い切りタックルした。地面に叩きつけられ、痛みが走る。しかし、顔を上げると紫の霧が向かってきていた。

 

「逃げて!」

 

立とうとしたが足に力が入らない。

 

「ちょっと、カンナ・・・って、あなたはモグラ!」

 

「今は速く離れないと!」

 

セリアさんが気絶したモグラを引きずる。

私も行かなきゃ!立とうとして・・・私の足は動かなかった。

振り向くと、そこには、既に迫っているモンスター。

飛びかかってきたのだ。

 

 

「カンナ!」

 

「カンナちゃん!」

 

サツキとセリアさんがこっちに来ているのがわかる。来るな!

 

「早く逃げて!」

 

 

 

その真っ黒な体は、私に一番最悪な一文字を思い出させ、それで私の意識は完全に途絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦場で、ふと目に止めたのは、赤い小柄な男だった。

それは、私にずっと探していた人間を思い出させた。

 

 

だから、走った。でもそれは全然違う人で、そして今・・・

 

 

最悪な状況になっている。

 

「セリアさん、カンナをお願いします!」

 

「サツキちゃん!」

 

「大丈夫です、足、折れてますよね?!」

 

カンナは重症だ。

あの大きさのモンスターに吹っ飛ばされ、氷の壁に叩きつけられた。

 

だが、回復薬を飲ます暇もない。攻撃の激しさに加え、私たち二人も、かなりのダメージを負っている。そして、セリアさんは多分足が逝っている。

 

 

 

この一瞬で、これだけの。

 

 

 

自分の判断に嫌気がさす。余りにも、噂に気を取られすぎた。

 

脳裏に死の文字がよぎる。また、私が?

 

 

 

いや、ダメだ。私は、カンナを守って、それでも生きなければ!

 

 

 

ギギギィ……

 

と歯ぎしりのような音を立て、こっちを向いているギギネブラ。

背が低いので、本当に下を見ないと目を見てしまう。

 

死にたくなければ、反応を速くしなければ。全身が痛む。

 

ギギネブラは毒を吐く構えと見られる態勢。

でも、そうとは限らない。

 

セリアさんは二人を守るので精一杯だろう。私が招いた事態。私がなんとかしなくちゃ・・・!

反応しろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!」

 

 

 

不意に、ギギネブラが血を吹く。こっちに毒を吐く体勢だったようだが、邪魔されたようだ。

 

大きく体をのけぞらせる。途端、目の前に背中が現れた。

 

「み、ミルさん・・・」

 

「全く、勝手な行動をする後輩だな。」

 

ミルさんは私の方を向かず、はっきりとした声で話す。

 

「状況は?」

 

「・・・カンナ、重症、私とセリアさんも、かなり。」

 

「うん、よろしい。思ったより冷静だな、流石だ。

サツキ、お前に何があったかは知らない。でも、今はここを乗り切ることを考えて欲しい。

回復薬を飲んでも、君たちはすぐには動けないだろう。ならば、ここは私に任せろ。」

 

「でも、こんな未確認な相手を一人で、なんて・・・」

 

「大丈夫。一応、秘密兵器はあるからな。ま、すごい久々だけどな。」

 

「そんなの!・・・」

 

「サツキ、賭けなのはわかってるさ。でも、わかってほしい。」

 

「サツキちゃん、下がって!」

 

「でも!」

 

「大丈夫!」

 

振り返ったセリアさんの顔は笑顔だった。

 

 

 

 

 

「私がエースと呼ばれるなら、紅葉のリーダーはたった一人!」

 

ミルさんに目をやると、その全身が赤く光り始めた。

 

「これは・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

ミルさんの刀が真っ赤に染まる。

そして、ミルさんも赤色のオーラを身に纏う。

 

 

 

 

 

「太刀の秘伝書解放・・・」

 

 

 

 

 

持ってたのか。

 

太刀の秘伝書は、練気状態。刀身は赤くなり、その一撃一撃は相手の硬度を無視し、確実に斬ることが可能になる。そして、持ち主本人の身体能力、集中力までも向上する。

 

 

体制を立て直したギギネブラは毒を吐くも、ミルさんには当たらない。

霧になる毒を一太刀の風圧で消しとばす。

ギギネブラは手負いのこっちを攻撃しようとするも、ミルさんは巧みに追撃し、手を緩めない。赤い刀身に赤い血しぶき。

それは、私の中のある記憶を蘇らせた。

 

 

「紅のミル、ですか・・・」

 

 

私は座り込んでしまった。腰が抜けてしまった。

 

メゼポルタで、いつか聞いた通り名を思い出した。

遠い田舎の地方にいるという、紅の名をもつ太刀使い。

 

 

 

これまで、ミルさんは基本、後ろから指揮をとり、ハンドサインで私たちを導き、ピンチの時にはランスのガードを使って私たちを助けてくれた。だから、わからなかった。

 

 

「本当は、ミルさんはこの村一番の太刀使いなんだよ!」

 

 

 

ギギネブラも弱っているのがわかる。

 

いける!

 

 

 

 

 

 

 

だが、途端にギギネブラは腹から毒ガスをまき散らした。ミルさんの体が毒に覆われる。

まずい!

 

 

「ミルさん!」

 

 

しかし、毒の霧の中からミルさんが飛び出した。

 

 

 

 

そのまま着地。と同時に、ギギネブラはそのまま倒れた。

ポカン、としてしまった。

 

ミルさんの赤い空気が消えていく。あっという間に、いつものミルさんに戻った。

 

「勝った・・・」

 

改めて、腰が抜けてしまった。

 

よ、よかった・・・死ななかった。

 

「ぷはぁ、無事だった。」

 

「息、止めてたんですか?」

 

「まあな。あの集中力の中なら、目を瞑ってても狩りはできるよ。」

 

 

それを聞いて、改めて負の感情が襲ってきた。

 

あの時、私が突っ込まなければ・・・

 

「ミルさん、ありがとう。私、何にもできなかった。」

 

「セリア、あの時サツキを追ってなくて、カンナが少しでも遅れたら本当に危なかった。判断は間違ってなかったよ。カンナとモグラは?」

 

「二人とも、回復薬は飲ませた。モグラさんは気絶してるだけだよ。セリアちゃんは、致命傷は治癒してるけど、まだ安全とは言えないと思うな。」

 

「だろうな。セリアも足がまだ治癒しきってないだろう。少し休んだら、すぐに出発しよう。」

 

ミルさんは振り向いた。

 

「・・・こいつは、一体なんだったんだろうか。」

 

毒の霧は晴れ、黒い体に赤い斑点が露わになっている。私は、いつか見た都市伝説を思い出した。

 

モンスターの凶暴化や操作の技術。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありえない。でも、もしありえたら・・・その時は、誰かがこの異変をおこしたことになる。この時期にアマツマガツチが活動を活発化したのにも、きっとわけがある。そして、この時期にやっと探し求めていた人物の手がかりが見つかったことにも、必ずわけがあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

外では吹雪が吹き荒れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この後、私たちの村に、太陽の光が降り注ぐことはなくなった


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