その、原因を作ってしまったサツキは…
暖かくなってまいりました。
続き、久々に更新です!
様子のおかしいギギネブラを討伐した私たち紅葉がギルドに召集されたのは、それから2日後のことだった。
今、白光は遠征中とのことで、今いるのは私とセリアさんとミルさん、そして、車椅子のカンナだけである。
カンナはしばらく休むように医者のおじいちゃんから言われている。
つまり、今実質狩りができるのは3人ということだ。
「リュウ、どうしたの?」
「…この異変の原因がわかったかもしれない。」
「なんですって!」
異変の原因がわかれば、何かしら対策が打てるかもしれない。私たちは活気だった。
「あのあと、紅葉が討伐したギギネブラを、いつものように調べたんだ、こっちで。そうしたら、明らかにおかしいことがあった。」
「何がおかしかったのー?」
リュウは、一枚の紙を手渡してきた。
ミルさんが受け取る。
横から覗き込んでも、数字がいっぱいで何が何やらわからない。
「これ何?」
「まあ、モンスターの血液とかの数値だよ。でも、その中に明らかにおかしな数値が出てる。」
リュウは指をさしてくる。
「これ。こんなの、自然界にこんなに存在する物質じゃない。明らかに人工物。つまりだな、薬だ。」
「薬か…。」
ミルさんの顔が曇る。
あたりの人気のなさが、不気味だった。
その事実の意味を理解するのに、時間はいらなかった。
「成分はよくわかっていませんが、人工的なものであることだけは確か。何者かがこいつになんらかの形で投与したのでしょう。」
「・・・一体誰が、こんなことを。」
「許されるわけない・・・」
そう。
この異変は、自然的なものではない。
何者かによって引き起こされたもの。
そういうことだ。
わかることは、あの都市伝説が存在する可能性が高まった、ということだ。そして、それを実際にモンスターに使ったものが必ずいる。
「この時期に、アマツマガツチが活動を起こしたのも、きっとそれが原因ですよね。」
「そう、自分は思うんですが。でも、アマツマガツチより先に、まずは地盤を固めなければ。皆さんのすべきことは、メゼポルタから救援が来るまで持ちこたえること。まだ時間があります。」
あの日からも、リュウはずっとメゼポルタからの救援待ちをしている。
ハンターからはちらほらと不安の声も上がってるけど…。
私は、リュウを信じる。
「とにかく、身の回りのモンスターの狩猟をしましょう。
…特に気をつけてください。
本来、カンナのいない3人の皆さんを向かわせるのは非常に危険です。何より、サツキは戦闘においてあまり活躍できませんしね。ですが、時間は待ってはくれません。既に依頼が届いています。」
リュウはクエストの紙を取り出した。
「ケルビという鹿型モンスターがいますね?そのモンスターが変死するという事件がここ最近、水没林でおきています。」
それを聞いて、モンスターの見当がつく。
闇に紛れる真っ黒な体が頭に浮かんだ。
「ナルガクルガ、だな。」
ミルさんがため息をつく。
私もそのモンスターは知っている。
メゼポルタ付近にも生息する、中型の飛龍だ。しなやかな体。大きさに釣り合わない高速での移動を得意とするモンスターである。
森の中のハンターとも言われている。私も何度も対峙し、実質逃げ帰ったこともある。でも、慣れればそこまで強い相手でも無い。
ただ…今回もまともな奴だとは限らない。ギギネブラの件もある。
…誰も死んではいけない。
誰も殺してはいけない。
気を引き締めなければ。
カンナのあれを思い出した。
ーーーもう、私のやることで足を引っ張るわけにはいかないんだ。
「迷ってても仕方ないね、行こっか!」
セリアさんの声に、私達も頷いた。
「…よし!」
「サツキ、ちょっといいか?」
リュウが耳打ちしてきた。
「何?」
「サツキ、これはお前にしか言わないぞ。いいか。モンスターに薬を使う。これがどういうことかわかるか?」
「え?」
「モンスターに近づかなきゃいけないんだよ。
だが…それができる人間は少ない。」
「リュウ、あんた何を言って・・・」
「わからんわけないだろう。」
「そんなバカなこと!」
「俺だって本気で言ってない!可能性の一つだ!」
リュウの言いたいことはすぐわかった。
「犯人が、裏切り者がいるかもってことだ。ハンターの中にな。」
それは、重い宣告だった。
私たちの出発を告げる雨の音は、今までと変わらず、ざあざあと不吉に鳴り響いていた。
集合場所の村の玄関口に向かう途中、ウラジのーー。医者のじいさんのところに寄った。
「おお、サツキちゃん。いらっしゃい。」
「カンナに会いに。」
廊下は、やけにひんやりしていた。
ギギネブラの一件が、頭を駆け巡っていた。
奥の部屋に、カンナはいた。
包帯を体に巻いて、雑誌を読んでいる。
鼻歌交じりだった。
はあ、とため息が出てしまう。
ほんと、人の気も知らないで。
「何してんのよ、ほんと。」
「サツキ!お疲れ様。これからクエスト?」
「そーねー」
「そっか。頑張ってきてね!・・・」
そう言うと、カンナは外を見た。
私もそっちに目をやる。
雨粒が、降り注ぐ。
「雨、止まないね。」
あのギギネブラの日から、雨が止むことはない。いよいよ時間が残されていない。
メゼポルタの救援はこの雨、そして、ハンターの結集に苦戦しているらしい。
「ねえ、サツキ。本当にごめん。」
カンナは、ポツリと言った。
「何がよ。」
「私、あの時迷惑かけちゃった。
…それだけじゃない、たとえ私にすごい力があったとしても、ゾーンに入らない私は、いつも紅葉のみんなに迷惑かけて、助けてもらってばかり。
しかも、そのゾーンだって、あの時以来入ってない。私、ほんとダメだね。」
「…バカじゃないの。」
違うわよ。あの時無茶をして周りを見なかったのは私。
あんたが責任を負う必要はない。
ほんと、余計な気を遣わないでほしい。
だけど、一言が出てこない。
ごめんなさい、の一言が。
昔からこの気の強さだけ、なんとかならないものかしら…。
「私のせいよ。気にしないで、あんたは早く怪我治しなさい。」
待ってるから、と言って部屋を出る。
「ありがと、私、次は頑張るから!」
そんな声がする。
後ろ向きで手を振った。
<ーーーハンターの中に、裏切り者が…>
「馬鹿馬鹿しい。」
カンナ、あんたは…違うわよね?
「・・・ひどいな、これは。」
私たちがやったきたのは、いつかドスフロギィを討伐した水没林だ。
ここにやってきて約4時間。
しばらく歩いて、いくつかの集落に聞き込みをした結果辿り着いた場所は、ひどい有様になっていた。
ミルさんが指差すのは、倒壊した樹木。それも一本や二本ではない。
辺りそこらで、なぎ倒された木が、雨の中、不気味な雰囲気を与えて横たわっているのだ。
そこに、動物のいる感覚はない。
ただ、大きな生き物のようにも見えるどす黒い色を放つ木々が、折り重なって倒れているだけ。
根元から断ち切られた木の断面は、無残に荒れ果てていた。
まるでその木々が全てを喰らい尽くしたかのように、ほかの生命の痕跡が感じられなかった。
そして、その空いた空間は、道のように森の奥に続いている。雨に紛れる薄暗い森の道が、ずっと奥に続いている。
並みの破壊力ではない。
明らかに、普通ではない。
「で、でも、これを追っていけば辿り着くからね!」
明るくセリアさんだけが声を出す。
まあ、前まで聴いてた声とは全然違うんだけど。
今はセリアさんのこういう高いノリだけが雰囲気をよくする唯一つのものだ。
ミルさんはふう、と一息ついた。
「行こう、これならすぐに見つかると思う。」
そして、私たちは走り出した。
ところどころに水が溜まっている。落ち葉はもう浮いていない。
長引く雨で土も心もとない。
そんな中、私たちは大胆に森の中を駆けていく。
モンスターに気がつかれる恐れはないだろう。
濡れた落ち葉に音はしないからだ。
これならそう気配を悟られることなく進んでいける。
それに、相手は五感に発達し、音もなく襲ってくる、森のハンターとも呼ばれるナルガクルガ。まして、ほぼ間違いなくまともではない個体。
どっちにしろ気がつかれたところで、こっちが察することなどできはしないだろう。
私は、再び気を引き締めて、森の中に現れた道を進んでいった。
しばらく走った。
ぽっかりと空いた道はまだ続いている。景色も変わらない。
でも、警戒は怠らない。
過去にあったいくつもの事例。
私は、ナルガに急襲された例をいくつも知っている。
油断したら背後をとられてた、なんてザラなのだ。
私はベテラン二人に挟まれる形で歩いているが、横の警戒は怠らない。
「ねえ、二人とも。」
進んでいると、セリアさんが不意に声を出した。
3人で立ち止まる。
道の端に、何か転がっていた。
「…ケルビだな。」
セリアさんくらいの大きさの、小さな鹿型モンスターが転がっていた。
ケルビ。
ナルガクルガの、大好物だ。
ピクリとも動かない。
腹のあたりが、引き裂かれているのが見てわかる。
死んでる。
だけど、食べてない。
それは、そのモンスターがもはや、食べるために殺してなどいないってことだ。
武器を取り出すと、前後の二人も構える。
あたりにモンスターの気配はない。
聞こえるのはただ、木々を叩く雨音ばかり。
ただ、それは文字通り、「気配が無い」だけである。
そして、その状況はこの相手の専売特許だ。
全神経を雨の音にまぎれた、一つの物音に集約していく。
ーーーザアザアザアザアザアザア
ーーーザッ
耳をとらえた雨以外の音。
微かに聞こえた音。
どこを狙っているのか、私の耳はギリギリ捉えてくれた。
「セリアさん!」
その音とともに、左から大きな塊が飛び出してきた。私の声を聞いて、セリアさんもわかっていたようだ。
しゃがむとその上を大きな影がが通っていく。セリアさんは片手剣を伸ばして、逆に足のあたりを切った。
血が飛び散る。
しかし、相手は何ともなく着地した。
素早く態勢を立て直す。
だが、その後ろ姿を見て、私たちは戦慄した。
ナルガクルガというモンスターの色は本来黒色。
闇に紛れるための色だ。
だが、目の前のナルガクルガは明らかに違う。
鮮やかな緑色の体色を持つナルガクルガが、そこにはいた。
「やっぱり…!」
予想通りだった。
「普通の個体じゃない・・・!」
「サツキちゃん、援護よろしく!」
二人はすぐに体を前に進める。
ナルガクルガも森の方へ横っ飛びした。
まず前提として、私は奴の目を見てはいけない。
正面からの攻撃はまず無理。
そして、カンナがいなくて、ミルさんは指揮。要するに、今回の狩りではセリアさんしか純粋な攻撃力を持ってない。
ナルガクルガは、こちらを向き、咆哮をした。
通常の個体より迫力がすごい。
頭をよぎるのは、前のギギネブラの戦闘。あの時も、こんな個体に動揺していた。
それでは、同じことになってしまう。
考えちゃいけない。
忘れなきゃいけない。
頭から余計なことを追い出す。
いや、追い出そうとした。
ナルガクルガは、尻尾をあげて、ゆらゆらと揺らす。わかる。この時は…
「散れ!」
ミルさんの声で同時に分かれる。後ろにザクザクと棘が飛んできた。
こんな感じで、ナルガクルガの尻尾には棘が仕込まれている。
その棘は、よくしなる尻尾に似合わないほど重量がある。
こんな個体のやつに当たれば危ないのは明確だった。
「ミルさん!あの棘盾で止めれる!」
「わからんが、咄嗟の時は任せとけ!セリアは攻撃!
左側はぬかるみすぎてて危ない!
右から行くぞ!」
セリアさんはそのままつっこんでいく。
私は突っ込むふりをしてこっちを向かせ、逆に逃げた。
こうすることで、セリアさんから意識を完全に逸らすことができる。
頭が低いので、私は正面から戦えば目を見てしまう。
「ナイスサツキちゃん!」.
ザクザクと音がするので、セリアさんの攻撃自体は通っているだろう。
いかにして攻撃の中心となるセリアさんに意識を向けさせないか。
それが最も大事なことだ。
私は、後ろ向きのまま、閃光玉を投げた。これでしばらくの間はセリアさんの助けにはなるだろう。
私も反転して斬りかかる。
肉質自体はそこまで硬いわけではなさそうだった。
そのまましばらくは雨の中の肉弾戦となった。
普通の個体を優に超える速さで動くナルガクルガを相手にしても、セリアさんの活躍がすごい。
私もなんとかくらいつけていた。
ミルさんも攻撃に参加しながら、的確に指示を出してくれている。
15分くらい経ったろうか。
相変わらず、緑のナルガクルガは自在に動きながら私たちに飛びかかってくる。
ある時は棘を飛ばし、ある時は手についた鋭利な刃翼で切りかかってくる。
あたりの木々は巨大なモンスターになぎ倒され、踏まれ、もはや原型をとどめていない。
地形を変えてしまっていた。
そしてこの頃になって、深刻な問題が生じていた。
「セリアさん!大丈夫ですか?」
横に戻ってきたセリアさんに声をかける。
「ハァ、ハァ。うん、だいじょぶ。ほら、またくるよ!」
今度は右から。
とっさにしゃがむ。
速い、ということは、躱すのに、いつもより更に動かなければならないということだ。
そして、戦いは少しずつ長期戦になりつつある。
だが、それが私たち、特にセリアさんの体力を奪っていくのも事実だ。
さらに降り続く雨もそれに影響している。
まあ、天候の変化くらい、メゼポルタから来た私にとっては想定内だ。
ただ、セリアさんは一人でその重みと戦う必要がある。気を抜けば死ぬ。それが、余計に精神力を奪っていく。
必死に戦うセリアさんが消耗しているのは明らかだった。
「…くっそ!」
カンナがいれば。
だが、彼女はいない。
カンナを削ったのは誰といえば、それは私だ。
「ああもう!」
飛んだきた棘をギリギリでかわす。
危ない。
また余計なことを考えてしまった。
ホッと安堵する。
ダメよ、私。
とにかく今は集中。
と、突然ナルガクルガは横に飛んだ。
咄嗟に身構えるが、これはよくあるナルガクルガの旋回行動だ。
その巨体ゆえ、10メートルほどしか飛べないが、この速さなら十分武器になる。
ただ、ここからなら飛びかかられても射程外のはずだった。
だが、その読みが甘かった。
私は、忘れていた。
ーーーそれが、予測のつかない、普通とは違うナルガクルガである、ということを。
キョオオオオオオ!
目の前に、大きな音とともに真緑の影が現れる。
「…!!!!」
声が出なかった。
その巨体が、もう一度目の前に現れたのだ。
2連続での旋回行動だった。
それは、明らかに通常個体にはない動き。
この濡れた地面で、大きな体のモンスターがそんな動きができるはずない。
ただ、目の前に突然現れたナルガクルガは、平然とやってのけた。
あまりにも咄嗟のことで、私は、驚きを隠せなかった。
動揺した。
ーーーそして、顔を上げてしまった。
そこにあったのは、赤い目だった。
バッチリと目が合う。
そのナルガクルガの赤い瞳に、吸い込まれていく。
ーーー逃げて。速く!ーーー
ーーーありがとう。ーーー
ーーーなんで?なぜ?ーーー
なぜ、お前なんだ?
何度も夢で見たあのモンスターの目が、脳裏で目の前の光景と重なっていく。ナルガクルガは止まっている。
グニャグニャとねじ曲がる目の前の景色。
「サツキ!サツキ!」
「サツキちゃん!」
2人の声が遠ざかる。汗が止まらない。心臓が早くなって、そして、何も考えられなくなって・・・
ーーー死ね。
ドクン。
アアアアアアァァァァ!
私は、あの悪夢にまた突き落とされた。
————————————————
3人でこのおかしな個体に挑むのはきついことだというのはわかっていた。
現に、攻撃の機会がなかなかがこない。セリアに指示を出し、サツキに声をかけながらも、私も攻撃をかわす必要がある。
そして、この個体はやけに速い。
確かに、ナルガクルガの持ち味はこの移動速度にある。
だが、こいつはどう推し量ってもその個体の1.5倍は速い。
それでも、時間をかければ。
体力さえ尽きなければ、戦える。
それは、そう思った矢先だった。
まさかのこの足元での二段階旋回。
それは、あっという間だった。
そして、回り込まれたのはよりによって、サツキだった。
「サツキ!サツキ!」
ナルガクルガはまるで品定めでもするように威嚇している。目が、合ってしまっている。
アアアアアアァァァァ!
その声とともに、サツキはその場に倒れこんだ。
「セリア!」
頭を瞬時に切り替える。
どうやら、私の頭は、追いついてくれたようだ。
セリアも同じ。
その声とともに、セリアはナルガクルガに向かって走り出す。
私も、重いランスを背負って走った。
ナルガクルガはセリアに一瞬気を取られたが、すぐに目の前の倒れているサツキに的を絞った。
だが、セリアに気を取られた一瞬。
それさえあれば。
すぐさま盾を構え、出て来た手をガードした。重い衝撃がからだ全身に響く。
「…くっ!」
力も強い。
最近の練習通り、うまく力を散らしてもこの火力。
紅葉に入ってからは、昔の太刀による攻撃的な姿勢を封印していた。
ユクモでも随一の双剣使い。
これだけ成長したセリアがいれば、火力は問題ない。
そしてむしろ、太刀に目覚める前よく使っていたランスを練習していた。
うん、それはいい判断だったようだな。
後ろに飛んで距離をとったナルガクルガは、今度はジャンプして飛びかかって来た。
サツキの上に覆いかぶさって上に盾を構える。
凄まじい衝撃とともに、足が悲鳴をあげた。
「いったい!」
だけど今は仕方ない。
とにかく今はサツキの命の保持が最優先。
「ほら、こっちこーい!」
セリアに引きつけられたナルガクルガは、一旦私の上から飛び上がっていった。、
サツキは、横を向いて倒れている。呼吸は荒くて、真っ青な顔色。雨の中でもわかる、異常な汗。
いつかアオアシラの時に見たのと同じ症状だ。
相当まずい。
本来、相手のモンスターについてよくわかっていない時、油断することは命取りだ。
それに、普段の冷静沈着なサツキからは、何をしてくるかわからない相手にあの失策はありえない。
だが、出てくる前にリュウさんに言われたことを思い出した。
<ミルさん、少し。>
<なんです?>
<サツキは、多分カンナのことでかなり罪の意識を持ってます。狩りの時に、影響が出るかもしれません…。
サツキは、強い。
余りにも、ハンターの模範すぎる。
だから、例え自らのせいでチームに迷惑をかけたとしても、今自分が何をしなければならないのか。
なってしまった後、どうすべきかを考えることができるハンターだ。動揺なんてしない。
それが彼女がFの名を背負えた理由なんです。
ですが、彼女の心は…
そんな強くできてないんです。
幼馴染として側で見てた方がいいのかもしれませんが、俺には無理です。
どうか…気をつけて。>
ちくしょう。
私が余りにも注意を怠っていた。
それがこんな形で出てしまった。
最悪だ。
「セリア!撤退したい!時間を稼げるか?」
「ミルさん!でも、こいつのスピード、逃げ切れる?」
ナルガクルガの猛攻をガードで捌きながら、思考を働かせる。相手はこの圧倒的な機動力を持ってる。
普通に逃げても追いつかれる。
だけど、セリアにひきつけを頼んでも、そのセリアは一人では逃げ切れない。
絶対に一人の方が危ない。なら、一体どうすればいい?
「・・・ちくしょう。」
またそんな言葉が頭に浮かぶ。
この個体も、きっと一連の異変、おそらく誰かの投薬によって生まれた個体だろう。
そして、それがハンターによって成された可能性が一番高いのもわかっている。
姿の見えない敵。そして、それは私たちの身内にいるかもしれない。
森を破壊し、ユクモを破壊しようとしてるだれか。
今、私たちはそいつの思う壺だ。
「ミルさん!逃げて!」
「セリア?」
「絶対私は死なないよ!キャンプで待ってて!」
「おい!逃げられるわけないだろ!」
「私、最近迷惑かけてばっかだし!」
ナルガクルガの棘を回避しながらセリアが叫ぶ。
たしかに、セリアは最近離脱も多い。
でもそれは、明らかにサツキとカンナのが原因のことが多い。
その考えは間違っている。
「それはちが…。」
「でも、私はエースだから!」
とても、決意のこもった声だった。
ハッとした。
「きつい時に、頼りにされるのは私のはずだよ!」
セリアの笑顔にカンナの笑顔。サツキの仏頂面。4人で私達はチームだ。
考えろ、私。
誰よりも落ち着く。
そして、誰よりも非情であれ。
リーダーとして。
そして、今チームを守る最適解。
今の状況。
「セリア!!」
仕方ない。信じるんだ。
「頼むぞ、必ず帰ってこい!」
私は、サツキを担いだ。
サツキか痙攣しているのがわかる。
ナルガクルガもこっちを狙っている。二段階旋回で、直ぐに寄ってきた。
「君は私が相手だよん!」
だが、セリアが頭に思い切り攻撃を叩き込む。たまらずナルガクルガが引いた時に、私は走り出した。
頼む。この世にいるっていうハンターの神とやら、頼むから私たちを助けて!
そんな祈りを遮ったのは、聞き慣れた、でもなんだか腹立つ声だった。
「おいおい、ミル?お前、なんて顔してんのよ、かっこ悪いよ?」
小さい頃から馬鹿みたいに騒ぐのが上手なあいつの声がした気がした。
ドォン!
爆音とともに、背後のナルガクルガの体が爆発した。同時に、誰かがナルガクルガの腕を切りつける。しかも二人で。一人は女の子で、一人は若い男性。それも両腕同時だった。
それに耐えられず、ナルガクルガが一歩引いたところで、煙玉が投げ込まれた。途端、一面が白い煙に覆われる。
「走れ!ミル!」
「セリア!こっちに!」
「ベースキャンプまでとにかく撤退するぞ!」
無我夢中で走りながら、その声の主を確信した。
それは、現状で世界で一番欲しかったもの。
不思議と、笑みがこぼれた。
隣を走る、青い髪のチャラ男。
「…助かったわ、ありがと!」
横を走る完全に悪いやつみたいな髪の毛の幼馴染に、声をかける。
「今は逃げることだけ考えな!」
ベガが、そこにいた。
白光の救援だった。
ここ、水没林のベースキャンプは崖の出っ張りの下にあるので、雨が降らない。濡れた体を焚き火で温めながら、まずとにかく命があることに感謝していた。
セリアは、幸い致命的な傷を負ってはいない。あの相手に、前線でこのダメージは、流石と言うしかない。
「セレオ、皆さん、本当にありがとう!」
「もー!セリアはいっつも無理するんだから!」
そしてこの二人は並ぶとほんと見分けがつかない。
防具が白い方がセレオで、緑がセリア。顔は同じ。
焚き火に照らされた同じ顔は、ニコニコと笑顔だった。
さっきまで死にかけていたとは思えない。
「ほんと、生きててよかったわぁ、お疲れ様。」
外して拭いていたメガネをもう一度掛け直す女の人。この人がサーサさん。ボウガン、つまり銃を背負っている。影が薄くて、おっとりした人。
「・・・全く、あの若造ときたら。」
そして、この筋肉モリモリの渋い顔した男がミナミさん。
「まーまー!とにかく、生きて帰ってこれてよかったよ!それに、ミルのあーんなヘタレな顔も見れたし!」
そして、この空気読めないクソやろうがベガである。
「ベガ、あれを見てもそう言える?」
私は、ベッドを指差した。
そこには、サツキが横たわっている。
あの時の症状は変わっていない。
発熱、痙攣、動悸、発汗。
特に汗がすごい。水を口から流し込んでいるが、とにかく早く帰るべきだ。
「そもそも皆さんは、どうしてここへ?」
セリアが尋ねる。
「あいつだよ。」
ミナミさんが答えた。
「リュウだ。あいつ、被害の状況だけを見て、変異なナルガクルガだと見抜いてた。
それで、念のためとか言って、我々に救援を求めてきた。無線が雨で通じなくなった地点から判断して、どこで狩りが行われてるかまで、バッチリ合ってたよ。」
「ほんと、あの人すごすぎるわ。」
「セリアを助けれたのも、ぜーんぶリュウさんのおかげだよ!」
「まあ、サツキちゃんは誤算だったけどね。」
サツキのことは既にリュウに伝えてある。
彼は、現地に決断を委ねた。
「ギルドを治めるものとして、貴方達には生きて帰ってきてほしい。…しかし、貴方達が、決めてほしい。その先のことは、任せます。」
ただサツキは、できるだけ早めに返して欲しいらしい。
じゃあ、どうすべきか。
「とにかく、戻ろう。」
いや、考えるまでもない。
この状態で狩りは続けられない。
一旦態勢を整えるのが吉だ。
相手がまだ何をしてくるかわからないのだから。
「どこへ?」
だが、ベガの声がそれを遮った。
「村に決まってるだろう。どちらにせよ、我々が逃げ帰った時点でクエストは失敗してるわけだしな。」
「それでいいのか?」
ドキリ、とした。
ベガの声は、いつものおふざけモードではなかった。
「お前、何を言ってるんだ?」
「ミルの方こそ。いいの?暴れるあいつをほっといて。」
「だめに決まってる。だから、また狩りに来る。」
「いつ?その間に、村が、どこかの集落が襲われたら?」
ーーーー。
正論すぎた。何も返せない。
「なら、ベガさん。何かいい考えでも?」
サーサさんが尋ねる。
ベガは頷いた。
「サーサちゃんと、ミナミさん。二人で気をつけて、サツキちゃんを村へ連れてって。もう紅葉のアイルーの・・・リュートちゃんは呼んであるでしょ?」
「ベガさん、それって・・・」
「ま、緊急事態だしね。そして、こっちに決断は委ねられてる。」
それは、簡単な話だった。
ベガはにやり、と笑った。
「俺ら4人のチームで、あいつを狩ろうか。」
…。
そんなことだろうと思った。
私とベガと、セリアセレオの双子たち。
ユクモギルドが発足したのは、約10年も前。
その時集ったのが、私たち4人だった。
そんな私たちは、昔は4人でチームを組み、狩りをしていた。若い私たちにも、名前が付けられた。
「チームワークに問題はないっしょ?」
「さんせーい!私もそうしたい!」
「セリアと狩り?やりたいな!」
「んじゃ、ミルちゃん?指揮よろしくぅ!俺、ほんと向いてなくて困ってんだよねぇ。」
…もう確定したらしい。
さっきの真面目なベガは何処へやら、今はヘラヘラ笑ってる。
こうなったらこいつは何を言っても聞かない。
…だけど、不思議だ。
なんか、懐かしい。
もう諦めよう。
このクエストを達成するのが、リーダーとしての私の仕事なのなら。
危険を冒す価値が、今あるのなら。
「・・・太刀を、頼む。」
ベガ、セリア、セレオ。そして私。
昔、『清流』と名乗っていた私たち4人。
少し雨が、弱くなった気がした。