quest!   作:resot

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過去編二作目。天廊といえばあのモンスターだと思ってますが、そんなお話です。


第15話 天廊!

「・・・なるほどね。

双星か。双子の星とはよく言ったもんだね。」

 

ベガさんの言葉に、私も納得した。

穿龍棍の風を受けたことが何回かある。

あれは、すごい風力だった。防具をつけた人一人を自在に動かすのだから、無理もない。あれに合わせられる人間が、いるなんて信じられない。

 

それを可能にしたのが、幼馴染のミツキさん、ってことなんだ。

それに、サツキがあの「忍面」ホームズの弟子だった、なんてことも初めて知った。

 

そりゃあ、狩りも上手いはずだよ・・・。

全ハンターの第3位に上り詰めた腕は、この村のハンターとは比べ物にならないだろう。雑誌に載ったわずかな情報からでも、その凄さはガンガン伝わってきたほどなんだから。

すごい、羨ましいんですけど・・・

 

 

「そうです。サツキさんは、確かな才能などなかった。ですが、ホームズさんに従い、そして相方のミツキさんとともに数々の死地を超え、成長していったと聞いています。今の彼女も、彼女自身の努力の賜物なのですね。」

 

「まあ、そこまではわかったぞ。

だが、問題はそこからだ。」

 

「3つの天と、天廊の悲劇。」

 

「これが、どう関係するというの?」

 

 

というか、そもそも3つの天ってなんだったろうか。

 

 

「あの、3つの天って何でしたっけ?」

 

「何でわかんないんだ、カンナ。ここに住んでいるのに忘れたのか?」

 

「3つの天・・・それは、天につながる3つの道と、遠い昔から言い伝えられてきた3つの場所のことです。

順に、『天廊』『天剣』そして、『霊峰』。

天剣はここから遠く離れた、ポッケという村のはずれに祀られた、巨大な剣のことです。それは、とある洞窟の中にあり、到底人間が持てないほどの大きさの謎の剣。

言い伝えでは、ハンターの祖とも言われる神が使った剣ということだけが私たちが知ることです。そして、霊峰。あの山は、古くから神が地へと降り立つ際に使った山とされています。

 

天剣に霊峰。その二つが神と通ずる二つの遺物と言われて来たのです。

・・・ですが、そもそも天廊というのがなかったことから、『3つの天』伝説はただの言い伝えの産物、語り草程度のものでした。

ですが、5年ほど前。ギルドが調査を進めていた樹海の奥に、調査団一行が見つけたのは、何だったと思いますか?」

 

「・・・天まで伸びる一本の塔。雲に隠れた頂上。外周は何キロメートルあるかもわからない、巨大な塔を、ギルドは見つけた。それが天廊だと推測されてるんだったな?」

 

 

ミルさんのいう通り。

それは「狩りに生きる」でも大きく特集されていた。外周数キロメートルはある超巨大な塔は当時みんなをびっくりさせたし、この小さな村でもみんなそれについて喋ってた。

私はハンターの学校に行ってたけど、先生たちもだいぶ大騒ぎしていた。

こんなの嘘だって騒いでる人もいたっけ。

まあともかく、ずっと噂だけの存在だった天廊らしきものが見つかって、伝説は現実味を帯びていたのだ。

うん。

難しい話だったし、全然そのくらいしか印象なかったけどね。

 

 

「その通りです。そして、天廊にはいくつかの出入り口がありました。

中は、空間があって、階段があった。人工物だということは間違いなかった。

しかし、それほどの大きな建造物です。

誰が作ったのか?

言い伝えでしかない、神が本当にいるのか?

 

それが多くの議論を呼びました。

そして、天廊の中にはたくさんのモンスターが生息していました。まるで、人間の侵入を拒むかのように。

天廊の調査が進めば、言い伝えられて来た伝説の手かがりが掴めるかもしれない。

そして、神と呼ばれる存在について、何か知ることのできることがあるかもしれない。

メゼポルタのギルドは、その調査を最優先事項として行い始めました。天廊の中に巣食うモンスターを、ハンターを派遣して狩りながら、少しずつ奥へと進んでいきました。

幸い、現れるモンスターも周りにいるものと変わりなかったようです。

あまり強いモンスターも現れなかったと聞きます。そしてメゼポルタのギルドはとうとう、大遠征隊を組織して、天廊に派遣しました。そこで起きたのが、例の事件です。」

 

 

少し前の事件だったけど、その事件はすごく良く覚えている。

 

 

 

「天廊の、悲劇・・・。」

 

 

 

 

それは、何年か前、世界を騒がせた大事件だ。

天廊とで、ハンターが100人ほど死んだのだ。

それも、オールラウンダー1人を含む、メゼポルタでギルド様々なクエストをこなしてきたいわゆるFハンと呼ばれる人たち。

 

メゼポルタのギルドの対応に問題があったのではないか?どうしてこんなことが起こってしまったのか?

遺された人たちの怒りは、凄まじかった。

一部の遺族がギルドを訴えたってとこまでは知ってる。でも難しい話が苦手な私には、そこから先のことはあんまり覚えてない。

 

 

「あの事件の死者は102人。その中には、オールラウンダーも含まれていた。

当時、世間は軽率に派遣団を出したとしてメゼポルタのギルドを批判し、大きな騒ぎになりました。そして、もう一つ、話題に上ったことがありましたよね?」

 

他・・・?

 

「えー?他なんかあったっけー?」

 

「セリア、忘れたのか?まあ、だいぶ前のことだしな。でかでかと出てたぞ。」

 

「ミル、俺も忘れた・・・。」

 

「おいおい。全く・・・本当に覚えてないのか?いいか?

当時有名になったのは・・・」

 

私は思い出そうとした。確か、その事件のことから、ハンターの学校で散々聞かされていた。

ハンターは常に死と隣り合わせだということを散々教えられた。

 

その時に、話題になったこと。

みんなが驚いたことがもう一つあった。

 

 

 

 

 

そっか、思い出した。

 

「・・・生存者がいたこと!」

 

 

 

 

ミルさんと私の声が重なった。そして気がついた。

この話の流れでわからないはずがない。

 

「そうです。そして、私の言いたいこともわかりますね?」

 

みんなが、眠るサツキを見ていた。

そんなことが・・・?

 

「そう、その生存者こそが、このサツキさんなのです。」

 

-------------------------

 

「天廊の調査?」

 

私は、聞いた言葉が冗談にしか聞こえなくて、もう一度聞き返した。

 

「そ、天廊の調査だ。俺がお前とミツキを推薦しておいた。」

 

天廊。それは数年前に見つかった、超巨大構造物のことだ。中にはモンスターがたくさん湧いているらしい。

ただ、そんなに歯が立たない感じでもないらしいので、最近では半分腕試しの攻略みたいな捉えられ方をしているらしい。

 

そしてその危険度を低いと判断したギルドが、近いうちに大派遣団を送るっていうのは、もうハンターみんなが知ってる話になっていた。

 

でも、それは結構長く家を空けることになるようだし、正直神様とか胡散臭い話が嫌いな私は興味を持ってなかった。

もし話が来ても断ろうと決めてたくらいだった。

 

 

「なんでよー。」

 

 

「この巨大派遣団にはメゼポルタギルドにとって、かなり重要な意味があるんだよ。ここにお前らが入って、成果をあげてくれれば、俺としても嬉しいしな。」

 

「でも、あれってかなり上位のハンターしか呼ばれてないでしょ?私みたいな新人が入っていいの?」

 

「何言ってんだ、双星さん。新人ハンターの代表格は、こういう時に活躍しなきゃな。」

 

「えー、めんどくさい。」

 

「まあ、そういうな。オールラウンダーも参加するらしいし、いい勉強になると思うぞ。」

 

ちょっと待て、今なんて?

 

食いついた私を見て、リュウはニヤリとした。

・・・まあ、オールラウンダーがくるのなら勉強になることもあるかもしれない。

それに、ここで名を挙げることができれば・・・

 

 

「わかったわ。とりあえずミツキに相談してみる。」

 

「おう、よろしくな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ってことらしいよ。」

 

「わあ、あの天廊に?でも、ちょっと怖いかも。」

 

 

話をしてみると、予想以上にミツキは笑顔で答えて来た。

 

 

「何言ってんの。あそこには、そう大した敵もいないみたいだし、大丈夫よ。それに、私たちもどんどん名を上げてかなきゃ、ハンターになった意味ないよ。

・・・それに、ミツキ、あんた前言ってたじゃない。オールラウンダーになりたいって。」

 

 

それは、突然だった。

ギルドでご飯を食べていた時、急に真剣な目になったミツキがオールラウンダーになりたい、などと言ったのだ。

半分冗談ではあると思うけど、流石に壮大な夢だ。

もし本当になったら歴史が変わるだろう。

女性オールラウンダーは一人しかいないんだから。

 

 

「確かに、そうだね。私、もっと強くなりたい。」

 

「そうでしょ?だから、がんばろ?」

 

うーん、とうなって水を飲むミツキ。

 

「なんか、私たち運がいいね。」

 

そういってミツキは笑ったけれど、ミツキが不安になっているのはすぐにわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、みんな!今日は頑張ろうじゃないか!俺がアイクだ、よろしくな!」

 

それは知ってる、と思いながら顔を上げる。

正面に見えるのは巨大な壁だ。

そこにパックリとあいた口。

その前で私たちはアイクさんという人の話を聞いている。

上を見上げると壁ははるか高くまで見えて、雲の上に続いている。

 

 

・・・ここが天廊か。

辺りを見回しても見慣れた樹海が広がってる。

ジメジメした空気は樹海お馴染みなんだけど、ここは目の前の構造物が異様すぎるせいで余計空気が悪く感じた。

 

そして、目の前で指揮をとるこの男。

アイクさん。

アイクさんというのは、ランクで言えばハンター中第5位のオールラウンダーだ。

ランクは確か、940。

特に大剣を得意としていて、根っからの力自慢。

双剣や片手剣も、力の限り振り回す。その火力は計り知れない。湖を割ったとか、山を叩っ斬ったとか、色々囁かれているが、それほどに実力は高い人だ。

それに、熱い性格と相まって、ギルドでも、そしてハンターの中でも、人気が高い。

 

そして今回集められたハンターは120人。

いずれも名がそこそこ上がっているハンターばかりだが、二つ名のついた人はあんまりいないかな。

どの人も、この遠征で名を上げようと必死なのだろう。

 

「いいか、この遠征はギルドにとって

大きな意味を持つ!各々、頑張ってくれ!」

 

おおおお、と上がる叫び声。

私はそれを聞きながら、隣のミツキに、

 

「ま、まぁ、がんばろ?」

 

と声をかけた。

 

「サッちゃん、緊張する・・・。」

 

「何言ってんの、まだ始まってもないじゃない。」

 

私は前を向く。こいつらなんかに、負けない。

絶対に名を上げてやろう。

それに、ずっとミツキも一緒だ。何も怖くなんかない。ハンター達の武器がガチャガチャと鳴り、前に進み始めた。

そしてそれが、天廊でおきた事件の始まりを告げる音だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「このように、オールラウンダーアイクを中心として、ギルドの派遣団は天廊に挑みました。

階段を登り、中のモンスターを倒しつつ進む。

途中崩れた壁を見つけながら補給を受け、一週間ほど進んだそうです…。

・・・まあ、ほとんどの人のランクは少なくとも100はあり、それで120人です。

この遠征は、大成功かのように思われました。

しかし、ある階段を登った先で、遠征隊は扉を見つけたのだと言います。」

 

「扉・・・ですか?」

 

「はい。それは、10メートルはあろうかという扉でした。遠征隊は、扉を開き、中へ入った。

その先は大きな広間になっていたといいます。」

 

広間・・・天廊は、やはり人工物なのだろう。

ここまでの話は多分だけど、公式に発表された事実には無い。その証拠にみんな、興味ありそうに聞いている。

 

「中には、何が?」

 

「・・・最初はわからなかったそうです。

中はがらんどうで、何もなかった。

 

しかし、突然でした。

モンスターが上から飛びかかってきた・・・そうです。」

 

 

背筋がゾワっとした。

 

 

「黒い体に、赤い目。二枚の翼。

絵に描いたような凶悪な姿のモンスターがそこにはいました。

誰も見たことのない、異形のモンスター。そして、そのモンスターが翼を一振りした瞬間・・・惨劇が始まったといいます。」

 

————————————————

 

「何よ、こいつ!?」

 

私の叫びも、モンスターの咆哮でかき消された。私の本能がこいつはヤバイと言っている。

 

ハンターたちの間にもどよめきが広がる。

みんな、慌てて武器を取り出した。

 

隣のミツキもそれを感じ取ったらしい。一歩後ずさりした。これは・・・一回引いた方がいい。

だが、目の前のモンスターが翼を振り下ろした瞬間、とんでもないことがおきた。

 

最初はパキパキと音がしただけだった。

そして、そいつの足元が水色に染まっていく。

氷?

 

「氷が・・・」

 

といいかけるや否や、一気にそれが加速した。私たちの足元に向かって地面が瞬く間に凍っていく。恐ろしいほど冷たい冷気が頰を伝った。

と、見る間に、目の前に氷の柱が立つ。前の方にいたハンターの何人かが、氷の中に閉じ込められた。

悲鳴が上がる。

 

このままここにいてもまずい。

私は、咄嗟に危険を感じ取った。

 

「ミツキ、こっち!」

 

私は咄嗟にミツキの手を握って、穿龍棍の噴射をかけた。ふわっと体が浮く。その下を、氷が駆け抜ける。後ろでも、断末魔を上げる暇もなく、何人かが氷の彫刻になった。

更に、その後ろ。

 

「・・・!!」

 

開いた扉が、そのスペースを埋めるように凍りついた。ミツキの悲鳴が、耳に届く。

 

「閉じ込められた・・・。」

 

ミツキはそう呟いた気がしたが、そんなことはわかっている。そして、周りもそれを感じたらしい。瞬く間に、悲鳴が上がった。

 

「落ち着け!皆!」

 

アイクさんの声も虚しく響いていく。

そのモンスターは、信じられないスピードで動き出した。前にいたハンターの一人に前足の爪を振り下ろす。そいつは、避ける間も無く爪に貫かれた。そして、体が凍りついていく。瞬く間に氷の柱が出来上がる。更に、次のハンターも、左の爪にやられた。

 

「サッちゃん!」

 

「ミツキ、こいつを狩るしかない!」

 

ここから出て、とにかく撤退するしかない。だが、わかることは、とにかくこいつはヤバイということだけ。勝てるのか?

ガクガクする膝をなんとか抑え込む。

怖がってる暇なんてない。

 

モンスターは尻尾を振り回し、ハンターを薙ぎ払う。恐ろしいスピードだ。

そして、触れられたそばから氷の柱が立つ。

 

余りにも寒い。

 

冷気が辺りに充満している。

私は、これまでの狩りを思い出す。

氷を扱うモンスターは何度も見てきた。

 

だけど、この同じ空間にいるだけで凍りつきそうな威力。

 

 

「こんなの、どうすれば・・・!」

 

 

こっちを向いて、さらに息を吸い込む。

 

 

「サッちゃん、上へ!」

 

「た、助け・・・」

 

 

ミツキの声で、私はまたもミツキを連れて舞い上がる。

その下を、太い氷のブレスが通っていった。

恐ろしい冷気で靴が凍る。

後ろにいたハンターが氷の中に閉じ込められる。

その生々しい最後の言葉を振り払う。

 

恐怖に押しつぶされそうな心をなんとか取り戻そうと必死だった。

 

 

 

着地はなんとかうまくいった。

 

 

「ミツキ、ありがと!」

 

「どういたしまして。でも、まだ来そう!」

 

もう周りには多くの氷の柱が立っている。中の人間を早く助けないと命がまずい。

胸が痛い。

折れそうな心を必死に保つ。

目の前の相手に集中しろ。名を上げるんじゃなかったのか?

 

「おいおい、俺を忘れるな!」

 

どこからか声がすると、ものすごい音がした。

途端、冷気を帯びた白い風がぐにゃりとゆがむ。

 

空気が揺れる。

その瞬間、物凄い風が吹いてきた。

 

 

「キャッ!」

 

「ミツキ!」

 

 

凍った地面に足を取られ、思わず後ろに倒れそうになるミツキに何とか手を伸ばす。

 

そのまま見えたのは、白い斬撃だった。

白い空気の斬撃がモンスターにささる。

たまらず、モンスターが悲鳴をあげた。

 

 

「効いた・・・!」

 

 

空気を歪めるほどの力。

 

 

「アイクさん!」

 

「双星だな?まだ戦えるか?」

 

「はい、!」

 

「残りは25人か・・・。みんな、聞け!いや、その前に避けろ!」

 

 

残りに向かって、モンスターがものすごいスピードで突進する。地面に足がつくたびに氷が伸びていく。何とか避けている者もいたようだが、いくつかの柱がまた立った。

それだけじゃない、そのいくつかがポッキリと折れた。

背筋が凍る。彼らがどうなったのかは、考えなくてもわかった。

 

「そん、な・・・。」

 

「ミツキ、気をしっかり!」

 

今は逃げなきゃ。

このままでは、殺される。

 

さっきまでの闘争心は最早何の役にもたってなかった。

 

狩れる狩れないではない。無理だ。ここからの脱出を考えるべきだ。

氷の扉を何とかして割れないか?

 

アイクさんならいける気がする。いや、それにしても隙がいる。

 

「アイクさん!」

 

「おう、任せたぞ!」

 

理解が早い、流石百戦錬磨の勇将だ。って、今は感心している場合ではない。

 

「ミツキ、行くよ!」

 

モンスターはこちらに突進してきた。

集中、集中・・・。

よく見ろ。足を凝視する。右、左。そのタイミングに合わせて、うまくかわす。

そのまま空気の噴射を行なった。体が浮く。

その風圧にビクともせず、ミツキも切りかかった。殴りつけると、鈍い手応え。

モンスターは、尻尾を振り回す。通り過ぎた地面から、氷の柱が立った。

ミツキは、風圧に上手くのって、自在に動くことができる。

 

確かに、今までのモンスターの比じゃないくらいは速い。

でも、死にたくないという思いだけが私を動かした。

 

まだ、死にたくない。

 

 

 

見た所、氷を使うだけだろうし、狩れなくても、時間稼ぎはできるはずだ。

恐怖に飲み込まれそうになりながらも、少しずつ分析していく。

 

 

ブォン、という音とともに、信じられない空気の波動が扉を直撃している。

なのに、氷の壁は中々壊れていない。

攻撃をかわしながら、その時を待つ。

 

「皆さんはとにかく避けてください!」

 

ミツキが周りの生き残ったハンターを誘導しつつ、攻撃を加える。

 

よく見える。

死にそうな時に人は本領を発揮するってのは本当なんだろう。

少しずつだけど、慣れつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、その時までは。

 

突然、モンスターが咆哮とともに、体を振り回す。一旦離れたが、その周りから、紫の液体が飛び出した。

紫の液体・・・

判断が、一瞬遅れた。

 

「毒・・・?」

 

「サッちゃん、足元!」

 

ハッと下を見ると、足元がボコボコと液体化している。飛び退くと、そこから紫の液体が吹き出す。

 

「何よ、これ!」

 

だけど、バリン!という音がした。

見ると、アイクさんの向こうで扉が割れ、扉の奥が見える。

 

「こっちだ!」

 

周りのハンターたちも、扉に向かって走り出す。

これが何だかわからないけど、とにかく助かる見込みが見えた。

 

「ミツキ、急いで!」

 

「うん!」

 

私たちは背を向けて走り出した。後ろを振り返ると、あいつはこっちをむき始めている。

 

間に合うか?扉までは50メートルほど。全力で走る。間に合え!

 

その時だった。ふと後ろを見ると、モンスターが翼を振っている。最初の時の光景が蘇る。

また、塞がれてしまう?何かしてくる?

 

あと20メートル。

 

頼む、頼む、頼む・・・

 

「サッちゃん、ごめんね。」

 

「・・・?」

 

 

ミツキの声がした。

ミツキは私の穿龍棍の風力操作スイッチを押した。

 

「何を・・・」

 

言い終わる前に、信じられない風圧が体を扉に向かって押した。

 

「キャアアアアア!!!!」

 

途端、モンスターから紫の風がこっちに吹いてくる。反射的に、ミツキの手を掴んだ。すごい風で、扉に一直線に向かう。

 

「急げ!双星!」

 

アイクさんの声がする。アイクさんは、その白い波動を思い切り風に向かって放った。

 

そのまま、扉を抜けた・・・はずだった。どしんという衝撃とともに、ミツキの手が離れる。

 

その瞬間、宙に浮いていた体が地面についた。

うまく着地できずに、体がゴロゴロと転がる。

 

そのまま、壁にぶつかった。

 

「いった・・・」

 

助かった・・・

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、そう思ったはずなのに。

顔を上げると、扉のところには、下半身が紫色の氷で凍りついたミツキの姿があった。

そして、その氷が信じられない速さでミツキの腰まで登っていく。

 

 

「ミツキ!」

 

「来ないで、サッちゃん!」

 

 

ミツキの体の氷は、どんどん胸のあたりまで侵食している。すぐに行かなければ。

だが、体が痛んで、うまく動かない。

ズルズルと足を引きずって進む。

さっきの着地を完全に間違えていた。

 

「ミツキ、諦めないで!」

 

「えへへー…。」

 

ミツキは、にこりと笑った。

でも、その目からは涙が流れ落ちている。

 

「サッちゃん・・・私、サッちゃんといれたこと、サッちゃんを守れたこと、

えーと、それからね・・・サッちゃんに恩返しできてよかったよ。

 

・・・私、もう、無理みたい・・・。」

 

目から生気が失われていくのがわかる。

 

 

「バカ、言わないの・・・」

 

この泣き虫が。

そんなの、認めない。何としても助けてみせる。

ずっとそうだったんだから。

 

「サッちゃん、絶対、生き残ってね。」

 

「ミツキ!」

 

手が触れられそうな位置まで来た。だが、氷はすでに顔にまで広がっている。

 

 

 

 

「サッちゃんーーー。ありがとう。」

 

 

 

 

それで、ミツキの体は完全に凍りついた。

 

 

「ミーーーー」

 

口がパクパクとしているのがわかる。

 

ミツキ?

ミツキ?

 

 

奥を見れば、アイクさんも、逃げようとしていたハンターも凍りついている。

アイクさんが最後に放った斬撃までも。奥には、その元凶のモンスター。

 

「あ、ああ。」

 

最初から、穿龍棍の風圧を使っていれば?

ミツキにスイッチを押されるまで気がつかなかった。

 

「あ、あああ。」

 

ミツキが、声をかけてくれなかったら、今回の狩猟、私は生き残っていなかった。

ミツキが、私と引き換えにーーー。

 

「あ、ああああ。」

 

ダメだ。死ぬ。私一人じゃ、こいつは倒せない。ミツキの犠牲も、私の力じゃ意味がない。

逃げなきゃ。逃げなきゃ。

モンスターの目と私の目が合った。冷たい目だった。

赤い目が、光った。

 

ーーー何で、今私は生きてるの?

 

「ミツキィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、目が覚めた。まず目に入ったのは、青い髪の毛。

 

「サツキ!サツキ!」

 

「リュ、ウ・・・?」

 

こうして、私は生き残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後で聞くと、異変に気がついた救援隊が駆けつけた時、私が一人で倒れていて、奥のモンスターはいなくなっていたらしい。

 

その扉は、誰一人として侵入を許されないことになった。

中に閉じ込められたままの100人ほどの遺体も、家族の元に帰ることは叶わなかった。

 

ただ一人、扉の外で氷に閉じ込められた彼女を除いて。

 

ミツキの遺体は、凍ったまま持ち帰られた。

家族の意向で、今でも、ミツキはギルドの冷凍室で眠っている。

 

 

 

私はミツキのお母さんに、一晩中謝った。

泣きながら何度も頭を下げた。

 

 

「サツキちゃんに悪いところなんてないのよ。」

 

 

そう言ってくれたけれど、凍ったミツキの前で泣くお母さんを見ていたから。

 

 

 

 

 

だから、私は自分のしたことをひどく責めた。いや、今でもそうだ。

 

なぜ私は生き残ったのだろうか。

たった一人の幼馴染しか守れなかっハンターに何の価値が?

 

私に、価値なんて存在するんだろうか。

 

そして、私はモンスターを狩れなくなった。モンスターの目を見れば、あの時の光景がフラッシュバックしてくる。

 

周りは、唯一の生き残りである私を責めたて、面白がり、寄って来た。家に引きこもった。

リュウや、姉にも関わらなくなった。私は、もう生きる意味すら見失っていた。そんな時ーーー。

 

 

私は、唯一の希望に出会ったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こうして、サツキさんはハンターを辞めました。

それから、少しずつ精神も回復しましたし、世間の熱も少しずつ冷めた。

だから、おそらく普通の生活ができるまでなったのでしょう。」

 

そうして、村長の長い話は終わった。でも、一つ違うと思うことがある。

サツキは、世間の熱が冷めたから生きているんじゃない。

雑誌のことを思い出していた。

 

 

 

多分、だからサツキは都市伝説の死者を蘇らせる手段を探していたんだろうな。

 

その唯一見つけた希望にすがるようにして。それしか、今まで見てこなかったんだろう。

なんて、残酷なんだろう。

なんて、私はナメていたんだろう。

 

私は、狩りをするハンターがかっこいいと思ったから、楽しそうだと思ったからハンターになった。

だけど、同い年のサツキは、もっと過酷な狩りの本当の姿を知ってる。

でも。だとしてもーー。

 

「村長、皆さん!大変です!」

 

突然、村人が飛び込んで来た。

 

「ど、どうしました?」

 

「村のすぐそこで、巨大なモンスターが!」

 

反射的に、身構えた。空気が一気に変わる。

 

「行くぞ!」

 

ベガさんの声に応え、私は飛び出した。

怪我をしていたはずの体は軽い。

 

 

 

 

 

 

ううん、サツキに比べれば、私はずっと軽いもん。

 

 

 

 

サツキ。見ててほしいな。今度は私のことを。

今度は、私があなたに見てもらう番だ。今までの狩りで、何度もサツキの姿を見て、かっこいいと思ったんだ。

だから、贅沢かもしれない。

 

こんなの私が言うのも、本当はおかしいのかもしれないけどさ。

 

 

 

 

 

今度は、私のことも見てくれないかな。

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