続きです!
少しずつ、霧が晴れていく。
でも真っ白な霧ではなく、むしろ真っ黒な霧。
もう何度繰り返したかもわからないあの悪夢が、ようやく晴れていくのがわかった。
身体がわずかに動く。
うん、大丈夫そう、かな・・・
「サツキどの、サツキどの?」
しわがれた声に名前を呼ばれた気がした。
薄眼を開けると、そこにはどこかで見たようなおじいさんの姿。
「モグラさん・・・?」
いつかに見た、モグラさんの顔だった。
「おお、目が覚めたか。」
私は起き上がった。
頭が痛い。
でも耳につく雨は依然として降り続いている。
あれ?私、なぜこんなところに・・・?
ふと目の前に、赤い目が現れた気がした。
戦慄が走る。
汗が一気に噴き出して、呼吸が乱れる。
「サツキさん、これを!」
手渡されたコップの水を飲み干した。
ダメだ。必死に頭から記憶を振り払う。
こんなとこで、また倒れるわけには・・・
ゆっくりと呼吸をする。
「スーッ、ハーッ。」
少しだけ、落ち着いた。
顔を上げる。
生きてる・・・。
どうやら私は、また助けられてしまったようだ。
「目覚めましたか、サツキさん。」
ふとドアの方を向くと、村長さんがいた。
さっきの声・・・
そっか、村長さんがお水を・・・
悲しそうな顔をして、髪飾りをいじっている。
「ありがとうございます、本当に。そして、申し訳ありませんでした。」
「いいんですよ、サツキさん。
それよりも・・・許してください。」
「何か?」
「あなたの過去のことを、皆さんに話しました。」
「え・・・」
ドクン、と胸が疼く。
「なぜです?」
次に私の口から出たその言葉は、喧嘩腰だった。
・・・あのことは人に言うことじゃない。
それに、村長さんが知ってるはずがなかった。
「誰かから、聞いたんですか?」
「ええ。サツキさんの、お姉さんから。」
「なんで・・・」
「おかしいと思ったんです。あなたがリュウさんと共にやってくると聞いた時から。
だって、あなたが元ハンターだってことは知ってましたから。
・・・そして、あんな姉がいるハンターがどうしてやめたのか。
もしかして、ハンターになりたいのではないかとも思ったものですから。
だから、メゼポルタに聞きましたよ。
直接、お姉さんが話していただいたことにはびっくりしましたけどね・・・。」
「そんな・・・でも。」
「理由は単純です。あなたを助けたかったんですよ。」
「助けたかった?」
「お姉さんは、ただ一つ言いました。
リュウさんとサツキさんを、解き放ってあげてほしいって。」
解き放つ・・・?
確かに、私とリュウはミツキのこと、ずっと気にしてる。
私が、縛られてる?
いや、でもこれは縛られるべき罪だ。
たくさんの人が死んで、私だけが生き残った。
そして何より、私をかばって、家族ある女の子が死んだんだから。
そんな私の耳に、村長さんの言葉が降ってきた。
「あなたは、戦いすぎなのですよ。」
「は?」
「だって、そうじゃないですか。一人であの事件を背負って、一人で戦う。
リュウさんもそうです。あなたたちを派遣したことに、ずっと負い目を持ってたった一人で戦っている。
苦しんで前を向くことが正しいことだと思い込んでいる。
ミツキさんのためだ。彼女の影にずっと囚われている。
・・・しかし、ここにいる人を見てください。
彼らは、なぜ狩りをしているのかわかりますか?」
「なぜ・・・?」
「守りたいからですよ。」
「大切・・・」
「はい。彼らは、守りたいだけなんです。
この村、そこに住む人。ギルドの人も、この自然も、そして、仲間も。
あなたもなんですよ、サツキさん。
あなたも、仲間なんです。」
「・・・そんなの、認めてもらえるはずないでしょう?」
「・・・確かに、受け入れられやすい話をしたとは思ってません。
でも皆、あなたと共に戦ってきたでしょう?
彼らがなんで狩りをするのか。
あなたがどういう思いでいるのか知った彼らが、どうするのか。
・・・普通だったらいい反応ではないでしょう。
だからこそ、今までと変わらず、あなたの戦いを支えてくれるハンターたちだと、私は賭けてみたんです。
そして、その答えをあなたは聞かなければなりません。」
みんなが、あれを聞いて、答えを・・・?
考えてもわからない。
怖い。
みんなが、守りきれないハンターを、迷惑しかかけていないハンターを、どう思うのか。
考えたくもない。
その時だった。
バンっ!!
ドアが勢いよく開いて、リュウが入ってきた。
「村長!なぜ、モンスターの襲来が私に報告されないのです?」
「リュウ?」
「サツキ、目が覚めたか。よかった。だが、そうも言ってられない。
・・・村の門のど真ん前、30メートルほど前でモンスターが暴れているらしい。」
「な・・・!」
信じられない。私も行かなければ。
無理矢理にでも、身体を起こそうとする。
でも、ふらついてしまった。
ベッドに倒れこむ。
「サツキ、無理するな。
・・・それより村長、説明してください!
まず我々に報告するのが筋なはずでは?」
村長さんは、にっこりと笑って私たちを見た。
「私は心配など微塵もしていません。皆、私の村のハンターです。
村に危害が及ぶことはありません。」
「どうして、そこまで・・・?」
そんなの間違っている。100パーセント村に危害が及ばない保証はない。
彼らを、どうしたらそんなに信じられるというの?
「村長!それはおかしいです!」
「あなたたちは、この狩りを見ていてください。
・・・出過ぎた真似だと理解しています。
でも、どうかお願いします。
ついてきてください。」
深々と頭を下げる村長さん。
リュウも黙ってしまった。
モグラさんもうんうんと頷いている。
「大丈夫ですよ、本当に。」
その声に、迷いはなかった。
「ドボルベルク、それがあのモンスターの名前です。」
村長さんが教えてくれた。
見たところ、尻尾のハンマーによる叩きつけ攻撃。巨体を活かした体当たり攻撃。
これが主な攻撃で、途中で何度か回転攻撃もするようだ。カンナは、足元に潜り込んで足を切りつけている。
双剣がキラリと光った。すると、突然巨体が転倒した。
「足の怯み・・・」
足を攻撃することによって稀に引き起こせるモンスターの転倒。
怯みを引き起こしたのは、間違いなくカンナだった。
「カンナのあんなの、初めて見た。」
「カンナさん、さすがですね。」
6人もハンターがいれば、優勢に戦いを進められるだろう。
でも、なぜだろう。
外から見ていると、何故か視線はカンナに吸い寄せられた。
いつも中にいて、気がつかなかった。
そのままカンナは、尻尾に向かって走り出す。双剣が輝いた。
「鬼神化!」
ズバンッ!という音とともに、尻尾の先が切り落とされた。
「なんで?」
彼女に視線がいってしまう理由。
しばらく見ていれば、わかった。
笑ってる。雨と血が舞う中、カンナは笑っていた。
「どうして・・・そんな笑顔でいられるの?」
たまらず、ドボルベルクは後ずさる。だが、続いて回転を始める。
だが、すでにセリアさん、セレオさんが足下に潜り込んでいる。足を切りつける二人。
「カンナ!」
見ると、カンナが一人、遠く離れたところから走り始めた。その先にはミルさん。
両腕を前に出し、ドボルベルクを顔だけで視認している。
「それ!」
ジャンプしたカンナに、ミルさんの腕が乗る。そのまま、ミルさんは思い切りカンナを、ドボルベルクに放り投げた。
いくら大きいとはいえ、その回転の尻尾の高さはせいぜい人の頭の高さ。
高さ的にそれより高い尻尾は無意味だし。
だから、それより高く飛んでしまえば、確かに楽に近づける。
そのまま、カンナはドボルベルクのコブに、思い切り二本の剣を突き立てた。
「ガアアアアアアア!」
たまらず倒れるドボルベルク。
「乱舞!!!」
そう叫んだカンナが、コブに向かって剣を振る。
血の出方が尋常じゃない。
多分、あそこは弱点なのだろう。
そして、その数秒後。
「ウガアアアアアアア・・・!」
ドボルベルクは、倒れ伏した。
・・・・
「よおおおおおおし!!」
ハンターたちの歓声が上がる。
勝った・・・!
うおおおおー!
後ろから、雨音に負けない叫びが上がる。振り返れば、ユクモ村の人々がいつの間にか集まっていた。
「やいカンナー!カンナのくせに!」
「ミルさん、ベガさん、かっこいいー!」
みんな、異変の中、モンスターの襲来まで受けて不安だろう。
でも、こんなにたくさんの人が応援してくれている。期待してくれている。
カンナは相変わらず笑っている。
確かに、思い出した。そうだった。
こんな中で、戦うのが私は好きだった。
目の前が、少し滲む。
「サツキ。」
いつの間にか、カンナが目の前にいた。
「サツキも、ミツキさんから解放されよう。忘れなくていい。
・・・でも、囚われてたら、いつまでたってもミツキさんは悲しいまま。
大丈夫。必ずミツキさんを生き返らせることはできる。
私たちも手伝うから。だから、サツキもありったけの力でさ。
今はさ。狩りを楽しもうよ。」
「・・・うん!」
カンナは、リュウの方を向いた。
「リュウさん。私たちで、この異変を解決しましょう。
事態は一刻の猶予もありません。もう何日連続雨だと思ってるんです?
大丈夫です。」
カンナはにこりと笑った。
「私たちは、強いですよ。」
後ろには、笑顔のハンター達。私たちは、顔を見合わせて、笑ってしまった。
「生意気なカンナだな・・・
サツキ・・・もっかい信じていいか?」
答えは、決まってる。
「任しときなさい、当然じゃない。」
リュウはみんなの方を向いた。
「守りましょう。この村を。そして、この世界を!」
ふと、後ろに誰かいる気がした。振り向こうとしたら、背中を押された。
わかったよ。
私も、好きに歩くから。もう少しだけ、待っててね。
私の、大切な相棒さん。
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「・・・、なんだ、もう出発してたんですか。」
俺は、その報告を聞いてさっきみんなに言ったことを思い出した。
サツキを、もう一度信じる。そして、今度はもう大事なものを失わないようにするんだ。
この異変は、我々だけで解決してみせる。と、メゼポルタに連絡しようとしてみたら、この連絡だ。
先鋒隊が、もう出ているらしい。
しかも・・・驚きだ。
「しかも、あなたたちが出るんですね。いいんですか?
メゼポルタギルドは、自分たちの
「うーん、まあ、いいんじゃないかしら?
それが上の判断らしいし。何かあっても、あっちには戦力溢れてるしね。
・・・それに、いい話も聞けたしね。私にとっては、最高の。」
「サツキのことですね。」
「そう。・・・カンナちゃん、か。うん、サツキちゃんがね・・・」
電話の向こうでは、涙ぐむ女の人の声がしていた。
「何か、やっぱり嬉しいな。」
「全く、あやつもつまらぬことを考えるものだ。」
今度は男の人の声がした。
「まあ、くだらぬことに気を取られていて、それが取り払われたのだから、悪いことではないがな。」
「そういうこと言わない!ねえ、リュウくん。カンナちゃんによろしくと言っておいて。私たちもできるだけ早く向かうからさ。」
「ええ。お待ちしていますよ。」
この人たちが来てくれるなら、正直後は待っているだけでもいいかもしれない。だが、彼らの覚悟を信じるなら、我々も動かなければ。
「こっちも、ベストを尽くします。だから、お願いしますよ。『血陰』のお二方。」
雨が、少し弱まった気がした。
サツキがやっと自分の気持ちに気がつくお話でした。
この話が書きたくて今まで長々とやってきたんですね、はい。
ごめんなさい。
そして、謎の二人の正体は・・・?