quest!   作:resot

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ハンターとして過去から決別することを決めたサツキ。
一方、リュウは謎の人物たちと会話していて・・・?


第17話 彗星!

最近、砂原の方で奇妙な事件が起きているらしいーーーー。

 

 

 

 

 

それを聞いたのは、カンナたちがドボルベルクを撃破した翌日のことだった。

 

 

「それで、オスロさん。砂漠から、残らず生き物が消え失せた・・・

ということですね?」

 

「ええ、そうです。」

 

以前、ボルボロスに敗れ、やっとのことでベースキャンプにたどり着き、私たちが助けることに成功したオスロさん。

彼が、使者としてやってきたのは朝早くのことだった。

 

あの時彼はしばらくユクモに残っていたが、すぐに帰ってしまった。

そして、今回はあのボクトさん・・・

ドスジャギイの一件で村を襲われていたあの村長さんの使者という形でこの村にやって来ている。

 

「それで、こちらのハンターさんに頼もうかと。

・・・あれほど頼もしい方々なら、例え強大な敵が出てこようと安心に進みそうです。

私も、長く自分にギルドを空けてはいられません。

ここは一つ、あなた方にお願いしたく。」

 

机に座ったまま、頭を下げるオスロさん。

 

 

「頼もしいなんて・・・えへへー、照れます!」

 

 

そして使者に対して思い切り笑顔で振る舞う女の子。

 

一晩休んだ私も、そしてドボルベルクとの戦いを無傷で終えたカンナもようやく復帰したのだが、しばらく見ないうちに、そして昨日のことがあったとしてもこういうところはちっとも変わっていないわね・・・。

 

 

・・・でも結局この子のおかげでまたハンターに戻れそうだし。

先の見えない闇の中にいた私に、手を差し伸べてくれた女の子。

 

・・・無下にはできないけど。ほんのちょっとだけなら見直したのも本当だし。

 

 

 

 

それに、この子は今は鳴りを潜めているが、天才ハンターの専売特許、ゾーンに入れるハンター。

ということは、潜在的にはこの子は、きっと私よりすごいわけだし。

 

この子より下とか、自分で言っておいてムカつくわね、なんか・・・

 

 

 

「お話は承りました。では、我々で調査を進めましょう。」

 

 

 

リュウはあっさり引き受けた。

 

 

 

「うんうん、やっとリュウくんも俺の実力に気がついたかなぁ。」

 

「ベガ、うるさい。」

 

「ミルちゃん、顔怖いよ?そんなんだから、結婚でk」

 

 

 

即座に拳骨が振り下ろされる。

緊張感がない・・・

 

そしてその中心は間違いなくこの人。村一番の天才だっていうのに。

・・・まあ、ミルさんとの相性はバツグンだけどね。

 

 

夫婦漫才的な意味で。

 

 

 

「ともかく、これは白光、紅葉両陣営で対応しましょう。砂漠へ全員、派遣します。」

 

「えー、村の防備は大丈夫なのかしら?」

 

 

サーサさんが声をあげた。

 

 

「ええ、大丈夫です。今は、あなたたち二チームで動いてください。」

 

「何か考えがあるんだな?」

 

 

ミナミさんが言う。

前まであんなにバチバチしてたのに、今は何だか二人とも雰囲気がいい。

 

 

「任せてください。

・・・実は、昨日連絡があって、メゼポルタからハンターが派遣されました。本来我々だけで対処をしようと言ったんですがね。

ですが、彼らが到着すれば、村の防備は万全です。」

 

「何だって?それなら話は早いな。」

 

少し驚いた。

あれほど遅れていた救援がようやくきたのか。

まあ、救援が間に合うのなら私たちが頑張りすぎることもない。

それはそれでよかったわね。

 

 

「戦力は多いに越したことないしね。ってことは、援軍が来るまで耐えればいいのかな。」

 

「ちなみに、そのハンターって?」

 

 

カンナが聞く。メゼポルタからFハンが来るなら、そりゃ気になるだろう。

 

 

「『血陰』です。」

 

 

ドンガラガッシャーン!その場にいた全員が後ろへひっくり返った。

わたしも含め。

 

「い、いや、そんなわけ!」

 

「なんでそんなビッグネームが?」

 

「いや、あり得ないっしょ!」

 

「ま、まあ、驚かれるのも当然ですよね・・・」

 

リュウが頭をポリポリと掻く。

 

 

 

「ってか、サツキ!」

 

「・・・わかってるわよ。」

 

 

 

血陰・・・。この世界でその名前を知らない人はいないだろう。

ハンターは基本的に4人一組で行動するのが原則。

ただ私とミツキの「双星」みたいに、稀に人数関係なく組まれるチームもある。

そしてその血陰っていうのは、オールラウンダー二人による究極のチームのの愛称だ。

今現在、ハンター界における最強のチームだ。

 

そしてその片方は紛れもなく、私の師の『忍面』ホームズ。

正確には、私が師だと思っている人。

向こうがどうだか知らないけど・・・。

 

 

「まあ、ともかく、そういうことなんで、安心です。」

 

「ま、まあ、確かにそれが来るなら安心だねー!」

 

「すごい、血陰に会えるなんて!」

 

「カンナ、騒ぎすぎだぞ。」

 

「超有名人ですよ、当たり前じゃないですか!ああ、異変ありがとう・・・」

 

「感謝してどうすんのよ!」

 

 

カンナがおかしくなっているので話を進める。

 

 

「それで?具体的には何をすればいいの?リュウ。」

 

「まあ、簡単に言えばその調査だ。古龍アマツマガツチを倒すには、おそらく全戦力の投入が必要だし、その間に周りの村がやられては困る。最悪でも、この一件だけは片付けたい。

もし何かあって、必要があれば、狩りに移行してくれればいい。」

 

「了解。」

 

「・・・皆さんを、信じます。

どうか、お気をつけて。」

 

 

リュウはにこりと笑って、私たちを送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうちゃーく!!!!」

 

「うるさい!」

 

カンナにツッコミを入れて、私も砂を踏む。

 

村から数時間。

私たちは、以前ドスジャギィの件で世話になったボクトさんの村に到着した。

・・・一年ほど前と何も変わっていない。砂の中、水が沸く数少ない場所。そこに、転々と煉瓦造りの小屋が立ち並んでいる。

人も忙しそうに行き来している。

 

ユクモ村の方角を見ると、厚い雲が見える。

割とここは村からも離れているせいか、雨が降っていない。

ただ、曇ってはいるが、それでもクエストで濡れなくて済むのは久しぶりだ。

 

 

「お久しぶりです、ボクトさん。」

 

「どうも、ベガさん。今回もありがとうございます。調査、お願いします。」

 

 

二人が固く握手を交わした。

白髪の優しそうなおじいちゃん、といった装いをしたボクトさん。前来た時と何にも変わらない、茶色のマントを羽織っている。

そのまま、一番大きな小屋に案内された。中に入ると、大きな机に椅子が並んでいる。私たちはそこに座った。

 

 

「それで、状況を伺いたい。」

 

 

ミルさんが、代表して話し始める。

 

 

「はい・・・それが、最近村の近くでモンスターを見かけないのです。」

 

「それは聞いたけど、むしろそれはいいことではないのか?」

 

 

ミナミさんが声を出す。

確かに、それならそれに越したことはないのではないかとも思う。

 

 

「ええ、でもあまりにも妙で。

このような辺境の村ですし、我々も武装しつつ、ハンターの皆さんの力も借りつつ、うまくモンスターとは付き合ってきたのですが、最近は必要もなくなっていて・・・何か、嫌な予感がしたんです。

それに、村人の何人かが、砂漠で何か黒い生き物を見た、と言っていて・・・」

 

「黒い、生き物・・・?」

 

「真っ暗でよく見えなかったそうですが、黒い、巨大な何か・・・。

村人は怖くて逃げ帰ってしまったようですが。

私の予想なんですが、おそらく、何かがいるのだと思います。

この砂原に。」

 

「・・・うん、私もそれはわかるよー、多分、あの時のハプルボッカもそうだよね・・・」

 

 

セレオさんが口を開く。

そう。突然積荷を襲ったハプルボッカ。

やけに弱っていたあの個体。あの狩りはあまりにも楽だった。

 

 

「随分ハプルは弱っていた。」

 

 

ミナミさんが言う。

 

 

「それは、多分ほかのモンスターにダメージを受けてたからだ。

あの死体を見たんだが、明らかに剣なんかじゃつかないような傷が混じってた気がする。

特に腹の下側に、どでかい穴が空いてたぞ。

・・・あれは完全に人間のつけれる傷じゃない。」

 

「ってことは・・・」

 

 

つまり、この付近に何かがいるのだ。それも、大型モンスターに大ダメージを与えるような何か。

おそらく、とんでもなくヤバイ。

久々に狩猟の前に鳥肌がたった。

 

 

「実害が出ていないのに、あなたたちを呼ぶのは誠に心苦しいのですが・・・」

 

「いえ、我々も早くカタをつけなければなりません。

この地方で起きている異変は、すでに一刻の猶予もないですから。」

 

 

ミルさんが立ち上がる。私も立ち上がった。

 

みんなの顔を見渡す。

 

背中に背負ったボウガンに弾を込めるサーサさん。

大剣に一度手をかけるミナミさん。

隣に立ってると髪留めのあるなし以外でほとんど見分けのつかないセレオさんとセリアさんは、互いの双剣を確認している。

いつになく真剣な顔で目を閉じるベガさん。

ミルさんはそんなベガさんの背中を思い切り叩く。

 

「・・・わかってる。」

 

そう呟いた。

そして、カンナは・・・

 

笑っていた。少しだけ、微笑むように。

 

「・・・何笑ってんだか。」

 

8人のハンター。それぞれが特徴を持ち、戦う精鋭たち。

この辺鄙な村に、異変が襲来して、このメンバーが揃ったこと。

私には、なにかの巡り合わせに感じてならなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時刻は夜8時を回った頃だろうか。腰につけた電灯であたりを見渡しても、殺風景な岩と砂の山のみ。

雲に覆われて、月明かりのない砂漠に、その塊たちはもう噂の黒いモンスターに見えるんだけどな。

 

随分寒くなってきた。砂漠の夜は冷える。さっき、ホットドリンクを飲んで体をあっためたんだけど、それでもその寒さをはっきりと感じ取れる。気温は多分だけど、氷点下にはいってるかな?くらいだろう。

 

それにしても・・・

 

 

「本当に、人っ子一人いないなぁ。」

 

呟いてみる。

 

「いや人間はいないわよ。」

 

「いいツッコミ、サツキ!」

 

予想通りのツッコミが返ってきた。

やっぱサツキとは相性いいな。

 

「・・・はめられた気がする。」

 

「・・・二人とも、緊張感って知ってる?」

 

ベガさんに叱られて黙り込む。

うん、それはどうでもよくて。話に聞いていた通り、モンスターは一匹もいない。

ハプルの時時群れていたデルクスすら見ることができなくなっている。

 

 

「うーん、ダメだ。いないな。」

 

「こう暗くっちゃねー!」

 

「また明日にするか。」

 

「でも、できるだけ時間をかけたくは・・・。」

 

「サーサちゃん、こればっかりは運だよ、運。焦っても仕方ないって。」

 

「でも、村を離れすぎるのも・・・」

 

 

ミルさんは少し考える。

そして、手元から地図を取り出した。

 

 

「わかった。念のため、二手に分かれて帰ろう。捜索範囲を少しでも広げるためだ。

ベガたちはここから向こうを回って帰ってくれ。

私たちはこっちから行く。」

 

 

ミルさんは私たちが通ってきた道から二手に別れて帰る道を示した。

 

 

「りょーかい。でも、途中で何か見つけたら?」

 

「無線の電源を入れとこう。いざって時は、その音を聞いて判断する。

多分雑音が激しいけど、異変に気がつくくらいはできるだろう。」

 

「へーい。そしたら白光は行こうか。

じゃあ、ミルちゃんまた後でねーん!」

 

「うっさい、さっさと行け!」

 

「セリア、また後でねー!」

 

「セレオも気をつけてねー!」

 

 

あの班はほんと賑やかだな、といつも思う。

4人に手を振って、見送った。

 

「じゃ、私らも行くぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ほんと、あいつは・・・」

 

歩いていると、ミルさんが独り言をつぶやく。

いや聞こえてたら独り言でもなんでもないと思うんだけどな。

 

「ミルさん、あんまり嫌じゃなさそうだねー!?」

 

「セリア?お前、からかってんのか?」

 

 

耳のあたりを真っ赤にするミルさんを見て、つい笑ってしまった。

 

 

「あの・・・」

 

 

途端、声を出したのは少し後ろにいたサツキだった。

 

 

「サツキ、どったの?」

 

「・・・いえ、少し思ったことがあるんだけど。」

 

「何だ?言ってみな。」

 

「えと・・・もしこれがモンスターの仕業だったとして、そこまで強大なモンスターが、ですよ?

姿をほとんど見せてないってのはつまり・・・」

 

「つまり?」

 

「地上にいないってことじゃ・・・」

 

 

地上に、いない?ってことは・・・

ってことは、さ・・・

結論として考えられるのは・・・

 

 

「・・・なあ、セリア。私たち、今までこんな音出してたっけ?」

 

「ううん、ずっと黙って静かに歩いてた、かも・・・」

 

 

突然、砂の中から何かが飛び出した。それも、私たちの中心から。サツキが私を突き飛ばした。

 

 

「いったい!」

 

 

硬い感触。下から何かに突き上げられた。地面と空が逆転して、鈍い痛みが体を襲う。

何とか受け身をとった。見ると、全員四方に飛ばされている。

 

 

「あぶな・・・」

 

 

痛みはあるが、何とか致命傷はさけたようだ。回復薬の小瓶を取り出して飲み干す。

体の痛みが抜けていく。

 

目に入ったのは、まっ黒い何かだった。慌てて光に照らす。

小型懐中電灯。

夜の暗さに対抗するためにと、村の方にもらったものだった。

 

真っ黒な体色に、フリルのついた頭。緑の小さな点のような目に、二本の長い角。

15メートルはあろうか。

見た目的には真っ黒な悪魔・・・にしか見えないモンスターがそこにいた。

 

 

「ディアブロス!」

 

 

それは、この世界ならお馴染みのモンスター。絵本でもなんでも見たことない人なんていない。

 

だが、その体色は砂と同じ黄土色のはず。

目の前の真っ黒に染まったディアブロに、私は戦慄した。

ナルガクルガは、聞いたところによると真緑だったそうだ。

ギギネブラは部分的に色が違った。

 

 

「特異型・・・こいつも!」

 

 

地響きにも聞こえる唸り声を、ディアブロスはあげた。

 

 

「うるさい!」

 

 

そのままディアブロスは、その二本のツノをこっちに向けて、突進してくる。

 

 

「速・・・」

 

 

避けたが、足が掠めた。

 

振り向いたが、見えない。真っ暗な闇の中に、やつは完全に溶け込んでいる。

目を凝らすと、ディアブロはサツキの方へ向かっていた。

 

 

「サツキ!」

 

 

サツキはうまくかわす。

別に立ち直ったといっても、サツキは目が見れないことに変わりはない。

彼女はとにかく視野を下に下げなければならない。

 

 

さっきの速さを頭の中で描く。

あの速度で動く相手をそんな近い視野で見切るなんて・・・

 

いや、私なら無理!

 

 

 

「気をぬくな!」

 

 

 

ミルさんの声。

素早く頭を切り替える。

狩りは始まった。だが、明かりを灯し、ディアブロスの姿を捉えていては、武器など使えない。

目を凝らすと、突然ディアブロは現れた。今度はとっさに右に避ける。

剣を抜き、振るが、もう既に闇の中に消えていた。

 

 

「どうしよう、暗すぎる!」

 

「任せなさい!」

 

 

サツキの声が暗闇からする。

 

 

「こんな時のサポートじゃん!」

 

 

不意に、辺りがパッと明るくなった。ディアブロの姿がはっきり見える。

サツキが、照らしていた。

 

 

「さあ、3人とも早く!ベガさんたちの到着まで、なんとかしましょう!」

 

「ってか、ベガ!さっさと来い!」

 

 

ノイズが混じって聞こえないが、何か聞こえた気がした。

やっぱり、これだけ激しく動いていては、無線も機能しない。

 

ディアブロが思い切り吠えた。耳が破れそうなほど大きな音。

だけど、迷わない。狩るんだ。こいつを。

 

 

 

しばらく攻撃してわかったこと。このディアブロスはとにかく速い。

 

普通の個体の数倍の速度を感じる。

いつもは難なく見切れる速さも、ここまで来ると集中力が鍵になって来るくらいだ。

 

だが、明るければとにかく何とかなる。ミルさんがランスでうまく鋭い角を受け流し、私とセリアさんがダメージを与える。

基本的な紅葉の狩りは、前からこの一連の流れだ。

 

今は足や腹にダメージが集中している。徐々に手応えをつかんでいる、はずだった。

だが、突然ディアブロは足をふみ鳴らし始めた。

 

 

「離れろ!」

 

 

ミルさんの声で、私たちも離れる。その口から、どす黒い息が出ていた。

わかる。

ディアブロスがああなった時は、あんまりいいことがない。

極度の興奮状態になってるって証明なんだよね。

 

 

 

「おーい!来たぞ!」

 

 

 

同時に、後ろから声。振り向くと、白光が来ていた。

 

 

「みなさん!」

 

「お待たせ!・・・チッ、またこんなやつか。」

 

「セレオ、いける?」

 

「大丈夫だよ!」

 

 

私は、横を見る。

 

 

「本当、飽きないわね・・・

何であんたこんな時に笑ってんのよ。」

 

 

その顔を見て、何だか嬉しくなってしまったってことを、あとで言おうと思った。

 

だって、サツキは、笑みを浮かべていた。いつもの仏頂面じゃなかった。

 

 

「サツキ、笑ってるよ?」

 

「……ほんと?ふふっ、誰かさんのせいね。」

 

「へ?」

 

「カンナ、あんたのせいだって言ってんのよ?狩りの間、ずーっと笑顔のくせに。」

 

「それは褒め言葉だって。」

 

 

ニッコリと笑っておいた。

 

ディアブロは、黒い息を弾ませながら、こっちに狙いを定める。

 

 

確かに、死ぬかもしれない。でも、この命のやり取りが、私は嫌いじゃない。

 

 

これが、狩りだ。

 

 

ディアブロが、こちらに走り出す。

そして私たちは、必ず、こいつを狩るんだ。

 

—————————————————

必ず、狩る。カンナの笑顔を見ながらそう思っていたが、それは甘かった。

 

黒い息を吐き始めたディアブロス。

その速度は、正直次元を超えていた。

視認しているのに、気がつけばもう目の前に角が迫っている。

私たちもギリギリで躱しているが、避けるので限界だ。

 

 

「ああもう・・・穿龍棍さえ使えれば!」

 

 

カンナのおかげである程度乗り越えられたとはいえ、多分目を見たらまたあの症状が出る。

私が戦うにはまだ遠い。

てか、そもそもこのメンバーじゃ無理か・・・

 

 

「大丈夫か?」

 

 

ミルさんが隣に来た。

 

 

「はい!」

 

「少し作戦を実行する。

これから、スピードのあるベガ、セリア、セレオが軸。あとは全員囮だ。

ガンナーのサーサを筆頭に、支援に回ること。」

 

 

それと同時に、ディアブロが突進してくる。

私は、目さえ見なければいい。

 

とりあえずかわすことができた。

 

私は、振り向きざまに閃光玉を投げた。眩しい光とともに、ディアブロから悲鳴があがる。

3人が突っ込むのが見えたので、とりあえず支援は成功しただろう。

 

ディアブロはいったん離れたベガさんに向くが、今度はミナミさんが閃光玉を投げる。

当たらなくても、注意を引きつける。

 

これが閃光玉というものの一つの力だ。

ディアブロスはミナミさんに向き直り、突進を仕掛けるも、最初から避ける気のハンターを捕捉できるほどの速度はない。

というかそうなったらただの不可能というやつだし。

 

今の私たちはベガさん、セレオセリア姉妹を囲んだ円形の布陣。

文字通り「円形陣」と呼ぶ。

人が多く、さらに中に入った人の特性が活かされる時にはかなり有効だ。

 

 

ギャアアッ!

激しい悲鳴とともに、その黒い尻尾が切れた。

 

 

「よっし!」

 

「流石、3人だね!」

 

 

となりのカンナも叫ぶ。

このままいけば・・・

 

だが、ディアブロは新たな行動をとった。角を地面に擦り付けている。

 

すると、みるみるうちに体が見えなくなっていく。

 

 

「地中へ・・・」

 

 

あっという間に、その姿は地面に消えた。

ここにきて、新しい行動か。

 

地面に潜ったディアブロス。今度は何を・・・

 

 

「どーしたの!」

 

 

セレオさんが叫ぶ。…待て、最初のやつからすると・・・

 

 

「セレオ!」

 

 

セリアさんも何かを察したようだ。セレオさんも咄嗟にそこから離れる。

だが、ディアブロは逃さない。少し離れたところから、突然地上に飛び出す。セレオさんはとっさに双剣を突き立て、勢いを殺した。吹っ飛んだセレオさんを横目に、またディアブロは地中へ。

 

「みんな、無闇に動くな!」

 

そう声を上げたミルさんの元へディアブロは現れた。ランスの盾と角が正面からぶつかる。盾は壊れなかったが、ミルさんはそのまま吹っ飛び、後ろの岩にぶつかった。

 

 

「ミルさ………!」

 

 

カンナが叫ぼうとしたので口を塞ぐ。

 

 

「ばか、ちょっと静かに・・・」

 

 

今、ここは奴が支配している。迂闊に叫べば、どこから現れるか分かったものじゃない。

ミルさんは動かない。気絶したのはむしろ幸運だろうか。

 

しばらく静かにしていると、ディアブロは少し離れたところに現れる。とっさに体がそちらへ向きかけたが、目は見れない。

 

カンナが斬りかかったものの、すぐに潜ってしまった。そして、動いていたカンナが次の的になる。

 

 

「カンナ!」

 

 

慌てて突き飛ばす。

だが、動いてしまっては次はこちらだ。

ミルさんの方へ目をやると、セレオさんがついてくれている。

あっちは任せよう。

 

私はいい。最悪、穿龍棍を使った風の回避で何とか間に合う。

 

だけど、他の人はそうはいかない。

黒い息を吐きはじめてから、奴は全体的に能力が鋭敏になったみたいだし。

 

だめだ、みんな動けない。

一歩でも歩けば的になる。

 

 

みんな、疲弊している。

一発食らえば、死ぬかもしれない。

精神的にもかなりきているだろう。

 

このままじゃジリ貧だ。打開する方法は、奴についていくこと。

そのためには・・・

私にできることは何だ?

そして、託せる人は、誰だ?

 

ふと思いついた。

あの天廊でやってたことを今できれば・・・

 

 

「カンナ!」

 

 

回避体制に入りながら言う。

ディアブロはすぐそこから飛びかかってくる。角がライトを浴びて、キラリと光る。

 

そのまま片方の穿龍棍をカンナの方へ向けて、出力をあげた風を送り込む。

 

「きゃあっ!」

 

カンナは強い風を受け、ぐるりと1回転した。

 

 

「よし、予想通り!」

 

私は何とか回避すると、無線を取り上げる。

みんなは標的にならないように黙っていたが、無線を取り上げる。

 

 

「皆さん、静かに聞いてください。」

 

 

喋り始めるとディアブロスは飛びかかって来る。

何とか回避しながら喋る。

 

 

「私の穿龍棍の風なら、皆さんの回避の手助けができるかもしれません。

私の近くに来たら必ずジャンプでかわしてください。

そのまま攻撃に向かってください。他の人は懐中電灯で視界の確保を!

私も余裕がないので・・・っと!」

 

足の先を角がかすめる。

 

 

「了解!」

 

叫んだベガさんの近くに来ていた。その途端ベガさんは飛び上がる。

ディアブロスが出て来ると同時に、思い切り噴射をかけた。

 

空気の塊に押されたベガさんはそのまま回避。

着地と同時に攻撃を仕掛ける。

 

よし、これだ。

 

そしてそのままカンナの方へ転がり込む。

今度は私が、と叫びかけたカンナの口をふさぐ。

 

 

「声を落として。」

 

「どしたの?」

 

「あんただけが頼り。この状況じゃみんな死ぬわ、いずれ。」

 

「でも、この作戦なら!」

 

「このまま攻撃してても埒あかない。ベガさんだって2、3発入れれればいい方だし、私の体力にも限界がくる。

これは時間稼ぎなのよ。」

 

 

全員が肩で息をしている。そう、スタミナが切れたら死ぬのだ。

 

 

「えと・・・?」

 

「ゾーンよ。」

 

 

結局、それしかない。

今瞬間的な力なら、右に出るもののないゾーンという力。

それに頼る。

 

打開できるとしたら、それしかなかった。

 

 

「でも、私、あれそんな簡単に入れないと思うけど・・・」

 

「でも、入れなきゃ死ぬわ。みんなのために。」

 

「…わかった!」

 

「とにかく集中しなさい。それがゾーンに入るコツ。それまで少しでも時間稼ぎと攻撃はしておく。頼んだわよ。」

 

 

カンナは目を閉じる。

ハンターである以上、今私にできることをする。

 

もう後悔しないために。死なないために。

 

ミツキに誓ったんだから。

必ず待っててって。

 

だから私が死ぬわけにはいかない。

 

 

「皆さん、行きますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは消耗戦だった。

私がディアブロスの攻撃を避けながらみんなの回避を手助けする。

ひたすらに私は走った。

 

砂埃のせいで喉が焼け付くように痛む。

足だって砂に取られながら全力で走ってるんだし、もうかなり足にきている。

 

「ハァ、ハァ・・・」

 

でも足を止めない。

だって、この人たちのためにやってるんだから。

 

 

私を支えてくれる人に何とか報いたい。

 

ただ、それだけなのよ。

でも何としてもやり切ってみせる。

 

 

 

そんな中、セリアさんを飛ばした直後、私の目が視界の端であるものを捉えた。

 

ミルさんが目を覚ましている。

 

彼女は立ち上がった。

 

まずい、今動いたら・・・

 

「すまな・・!」

 

声を上げた瞬間、砂柱が立ち上がる

 

 

「ミルさん!」

 

まずい。

 

「ミル!」

 

ベガさんが何とかミルさんを抱きかかえて逃す。だが、ディアブロが通り過ぎた瞬間、嗚咽が上がった。

 

「グアッ………」

 

こっちにディアブロの追撃を避けつつ走ってくるベガさん。

 

「ああもう、さっさと逃げなさい!」

 

サーサさんが銃弾を放つ。

その球は、少し離れた岩に命中した。大きな音とともに、岩が崩れる。

ディアブロは今度はそっちに向かって突っ込んで行った。

 

ミルさんの足から血が流れている。

流れてくる血は止まる気配がない。

 

「早くこれを!」

 

声を潜めて、すぐに回復薬を飲ませた。

 

 

「ウッ……すまない。

二度も・・・」

 

「大丈夫ですか?」

 

「いいから早く飲んで、ミル。」

 

 

薬の力でみるみるうちに足は治っていく。

でも、この傷だともう激しく動くのは無理そうだ。

 

かといって、ミルさんを庇いながらでは、この先も危うい。

 

 

「状況を、教えてくれ。」

 

「はい……今、こんな感じで・・・」

 

 

とりあえず私は説明した。

誰も動いていないため、今ディアブロスは地中に潜ったままだ。

 

 

「……私は放置しろ。」

 

「そんな。」

 

「大丈夫、動かなければ狙われない。さっき、気絶していた私は狙われなかったろう?」

 

 

だからって、負傷者をほっとけるわけがない。私が付きっきりになるのは無理だ。

どうしたものか・・・今、動くこと自体危険行為なのだ。

でも、私もかなり限界に近い。

 

 

「クソッ・・・」

 

どうしたらいい?

状況は刻々と変わるのが狩場の常識。

その場で一番いい選択肢を・・・

ぎゅっと目を瞑る。

 

何か、何か、何かあるはず。

カンナがゾーンに入るまでの辛抱なんだから・・・!

 

 

 

 

「おい・・・ベガ?」

 

 

 

ふと見上げると、さっきまでミルさんの方を向いていたベガさんが上を向いていた。

 

 

「ベガさん?」

 

 

声をかける。

返事が曖昧だった。

 

 

「・・・ああ。」

 

「おい、お前・・・」

 

「ミル……任せとけよ。」

 

「ベガさん、一体何……」

 

 

言いかけてハッとした。こっちに顔だけ向けたベガさん。

 

目が赤色に染まっていた。

 

まさか。

 

「ベガ・・・」

 

多分間違いない。「入っている」

 

 

この人が何と呼ばれていたのか、私はようやく思い出した。

村一番の天才。

 

この人も、選ばれた人。

 

ゾーンという領域に立ち入ることを、許された人・・・。

その赤い目が、それを物語っていた。

 

 

「任せて。」

 

そう言い残したベガさんは、走り出した。

 

 

「・・・っ、速い!」

 

 

その速度は段違いに速い。

ベガさんは彗星と呼ばれるだけあって、普段からとんでもなく速い。

さっきから、攻撃までは行かなくても、ディアブロの突進は全て自力で避けていた。

だけど、その2倍は速い。

というか、あまりにも人間の限界速を超えている?

 

 

 

ディアブロスがその動きを察知して飛びかかる。だが、すんででかわす。そのまま、地中へ潜り込み、また飛び出す。

だが、ベガさんには当たらない。

 

 

そして、そのままベガさんはディアブロスを追いかけて行って、追いついた。

 

 

「おりゃあああああ!!!!!!」

 

 

大剣が唸る。あの動きに、追いつくのか。もう私たちが交代で照らすライトなど、ベガさんの動きには間に合ってない。

でも、チラチラと見える光景はその圧倒的な移動速度を伝えていた。

 

 

 

 

圧倒的な力で、ディアブロを押していた。

 

 

 

たまらずディアブロスは、そのまま角でベガさんを突き上げようとする。

動きが鈍い。

 

それはそうだ。

奴だって、かなり動き回っている。

地上に出て多少動きが鈍くなってもおかしくはない。

所詮は生き物なんだから。

ベガさんはそのままかわすと、剣を思い切り振り上げた。バキッ!という大きな音とともに、角が吹っ飛ぶ。

 

 

「沈めええええぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

そのまま、剣を振り下ろした。

 

がアアアァァ!

 

そう言って、ディアブロスは崩れ落ちた。

 

 

 

 

「やっ、た・・・?」

 

 

 

ベガさんが倒れこむ。

 

「べがさあアァァン!」

 

カンナがベガさんに突っ込んでいく。私たちも、駆け寄った。

 

 

「勝ちました!」

 

「あれ?みんな・・・」

 

「ベガさん、すごかったよー!」

 

「あなたも、ゾーンに・・・」

 

「俺が、ゾーン?」

 

「そうです、流石でした。」

 

 

全く、すごい。

こんな小さな村に二人も、いるなんて。

 

 

「……全く、勝手なやつだ。」

 

 

そう言いながらも、ミルさんは笑っていた。

 

 

「足は?」

 

「薬ですぐに傷は塞がった。歩くくらいなら問題ないよ。」

 

「そっか・・・無事なら良かった。」

 

「残念ながら無事だ。」

 

 

ふふっとベガさんも笑う。

 

 

「帰ろう。」

 

「……そうだね。あれ、立てないや。」

 

 

ゾーンは体の消耗が著しい。特に最初は、そんなもんだろう。

 

二人のリーダーが肩を貸しあって歩き出す。私たちが先導した。

最後尾からついてくる二人。いい絵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その奥に灯を、目をやって戦慄した。

 

いない。さっきまで倒れていたはずの、黒い悪魔が。

 

 

「な……」

 

 

と言った時。突然、ディアブロが飛び出してきた。最後尾の二人めがけて、真っ直ぐにこちらに向かってくる。

二人は後ろを振り向いた。

 

そして、それは一瞬で起こった。こちらに突然ミルさんが飛んでくる。

私はミルさんに思い切りぶつかられて、倒れ込んだ。すると、ドォン!という爆音。

 

そして、ディアブロスが倒れる。

 

ドサリという音。すこし離れたところで、ベガさんが仰向けに倒れていた。

 

 

「ベガさん!」

 

 

近づいて、言葉を失った。

腹の周りを、真っ赤な血が染めている。

不気味なほどの静寂の中を、冷たい風が吹き抜けていった。

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