quest!   作:resot

21 / 22
カンナ 「いやー、ここまで長かったねぇ。」
resot 「はい、正直しんどかったですね。でも、やっぱり小説書くのって楽しいって思いますよ。」
カンナ 「今回は私活躍するでしょ?」
resot 「頑張ってくださいね」
カンナ 「任せといて!」
resot 「というわけでタイトル通り決着です!」


第21話 決着!

黒く体色を変えたアマツマガツチの攻撃は、私たちの想像を絶していた。

何より、攻撃力が大きすぎる。

 

 

 

 

「サツキ、ブレス!狙われてる!」

 

 

 

カンナの声をよく聞く。

目が見れない以上、当然視野が狭い。

 

普通に認知していたら間に合わない。

回避すると、すぐ横を水が通過していった。そのまま右側に走る。

 

地面がめくれ上がっていく。

 

一撃一撃で地形を変えるようなやつだ。

 

絶対に攻撃を受けられない。

 

 

「…っ!」

 

 

だから思い切って懐に入れない。

今だってそう。

攻撃の機会はなくはない。

でもこの回避行動で近寄って、もし一撃もらったら・・・

 

恐ろしい速さで体制を立て直したアマツマガツチは、グルグルと回転を始めた。瞬く間に、4つの竜巻が弾き出される。

 

問題は攻撃力だけじゃない。

さっきから、風が一段と強い。

それだけじゃなくて、竜巻が所々で発生する上、こうやってアマツマガツチが竜巻を起こしたりもしてくる。こうなっては近づけない。

 

 

要するに、完全にジリ貧状態だった。

 

 

さらに問題は重なっている。

戦闘開始から既に2時間は経っただろうか。

なによりも私たちを困らせているのはアマツマガツチの体力だった。

 

 

アマツマガツチがまた巨大竜巻攻撃の構えを見せる。

 

 

「ミルさん!」

 

「…任せろ!」

 

 

ミルさんのランス秘伝書の絶対防御。

確かに強いのは私も知っている。

 

その盾の有効範囲に入ってしまえば、どんな攻撃をも通さない絶対防御は、メゼポルタではすごく人気の高い秘伝書だ。

 

この全てを引き寄せる竜巻攻撃にももちろん強い。

 

でも、それが負担にならないはずがない。息も絶え絶えなミルさん。

 

 

「く・・・!」

 

 

苦しそうにミルさんが息をする。

あと2回ってとこだろう。

なのに、目の前の古龍はまだまだ元気だ。腹から血が流れ落ちているが、いっこうに構わない、といったように動き回る。

 

吸い寄せられていくミルさんと、それに捕まる私たち。そして、腹の下に辿り着いた時、巨大な竜巻が発生する。

だが、赤い壁に岩や木は弾かれ、私たちの元には辿り着かない。

 

 

「せえええええい!」

 

 

3人での一斉攻撃を腹に叩き込んだ。

たまらず悲鳴をあげ、アマツマガツチは距離を取る。

 

 

「まだ、倒れないのかよ・・・!」

 

 

苦しそうに息をするミルさんを横目で見る。

もはや残された道はただ一つ。

 

 

「後2回で終わらせるわよ、カンナ!」

 

 

じゃないと、私たちの体力がもたない。アマツマガツチは叫んで、遠ざかる。

竜巻もすぐに消えた。

でも、そう上手くもいってくれなかった。

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

「ミルさん!?」

 

 

声をかける。

だけどミルさんの体は、その場に力なく倒れこんだ。

 

 

「ミルさん!」

 

「サツキ!きてる!」

 

 

ミルさんを抱きかかえ、横に逃げる。だが、足が残ってしまった。水ブレスが足を直撃。弾き飛ばされて、地面に叩きつけられる。

 

 

「ウッ…」

 

 

懐から回復薬をすかさず飲む。

あと2瓶・・・そのうち一本をミルさんに飲ませる。

 

足の、体の痛みがとりあえずは引いていく。

後、一瓶・・・!

 

いや、それよりも!

 

 

「サツキ・・・大丈夫だ。」

 

「大丈夫じゃないですよね。」

 

 

ミルさんの限界が思ったより早かった。

唇をかむが、ミルさんは体に力が入ってない。

これは、ダメだ。

 

 

「とにかく一旦下がってください。まだ、ミルさんは必要なんです。」

 

「…わかった。」

 

 

カンナなら構わず突っ込んだだろうが、ミルさんはわかってくれた。

 

 

しかし、困った。

 

 

アマツマガツチの水ブレスを今度は回避。だが、足が重い。

ミルさんだけではなかった。

回復薬で治癒力が高まったとはいえ、かなり疲労の面で、効きが悪くなっている。

なのに、こちらから攻撃をする暇がない。

 

 

竜巻が多すぎる。

 

 

「さて、どうしよっか?」

 

「セリアさん、耐えるしかありません。あれじゃ近づけないですよ。アマツマガツチの体力もきっともう少しです。ミルさんの回復を待ちましょう。」

 

「ええ!きついよそれ!」

 

「やるしかないでしょ、カンナ!打開策他にあるの?」

 

 

耐える。ここからは私たちの体力勝負だ。

ミルさんの復活を待ってから一斉に・・・!

 

 

「ねえ、サツキ。」

 

「何?あんたも集中しなさい。」

 

「あのさ、向こうになんか、鉄の器具に土台ついたやつがあったんだけど、何か知らない?」

 

「はあ?」

 

「いや、気になったんだけど、流石に何もないかなーって。でも、なんか砲台みたいにも見えてさ…」

 

「何言ってんの、そんなの、・・・?」

 

 

突進攻撃をかわしてハッとした。

 

 

少し、心当たりがある。

メゼポルタにいた時に、ほんの何回か使ったことあるあれだ。

 

まさか。それって・・・いや、でもありえない。なんでそんなものがこんなところに?

 

 

「カンナ!それって、本当に砲台みたいだった?」

 

「うん!」

 

 

いや、待てよ。

 

メゼポルタの探査機がそういえば嵐に巻き込まれて墜落してた。

もし、それに積まれていたとしたら?

そして、今の状況を打開できるとしたら、もしそれが本当にあの器具なら・・・!

 

 

「セリアさん、少し引きつけていてください!」

 

「わかったよ!」

 

「カンナ、どこだ!」

 

「あっち!」

 

 

カンナの指差した方に目を凝らす。ある。

雨と暗さでよく見えないけど、気をつけて見れば何かある。

 

 

「だいぶ体も戻ってきたぞ、サツキ。」

 

 

回避を続けていたミルさんが声をかけてきた。

 

 

「大丈夫です!もう少し休んでてください!」

 

 

そう言って走った。頼む、壊れてないでよ!せっかくあるなら役に立ちなさい!

 

 

 

 

バリスタ!!!

 

 

 

 

 

駆け寄ると、間違いなかった。バリスタ。

いくつかの街に設置されてるモンスターの迎撃装置の一つだ。恐ろしい速さで弾を放ち、また拘束弾まで放てる優れもの。

ただし、扱いが難しい。

練習しないと放てない。

メゼポルタの学校くらいでしか教えてないだろう。だから、使えるとすれば私だけだ。

 

あとの問題はただ一つ。弾があるかどうか。

急いで確認する。

砲身の根元に走る。弾がいくつか装填されていた。

 

 

「いける・・・!!!」

 

 

10発の弾に、1発の拘束弾。十分だ。

横のスコープを覗いて狙いを定める。

 

暴れまわるアマツマガツチとセリアさんやカンナを見ながら、私は弾を放った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ズドォン!

 

すごい音がして、アマツマガツチが血を吹いた。

 

何が起こったかわからなかった。でも、サツキが何かしたらしい。

 

思えば、たしかになにかの砲台のようにも見えた。あれがやはりそういうものだったのだろう。サツキがいてくれて助かった。

 

アマツマガツチはブレスの構え。だが、今度は尻尾に命中した。

 

 

ヒョォ!

 

 

叫び声とともに、アマツマガツチの体がグニャリとのけぞる。すごいダメージ。メゼポルタの新兵器かなんかなのかな?

 

 

「カンナちゃん、私たちも!」

 

「はい!」

 

 

アマツマガツチに突っ込む。あちこちで起きている竜巻は不規則に動いている。右から一つ。認知して左へ全力で。通り過ぎると、後ろを竜巻が横切っていく。飲まれたらどこへ飛ぶかわからない。もしこの山の端から落とされたら…

 

上手く腹の下に潜り込めた。

サツキが注意を引いてくれてるおかげで、ずいぶんと楽チンだった。

 

 

もはや腹は無残に切り傷がついているので、そこを鬼神化して容赦なく切りつける。アマツマガツチの周りを流れる風の壁はかなり強い。

 

でも負けない。引いて駄目なら押してみな!

 

 

「セイヤァ!!!」

 

 

突き上げた双剣はうまく腹に突き刺さった。

 

 

なのに、アマツマガツチは倒れない。

またサツキの弾が当たる。今度は頭だ。

 

 

「ナイスコントロール!」

 

 

サツキが気を引いてくれているおかげで、私たちの方への攻撃が幾分楽になってる。

 

簡単に懐に入り込むことができるようになった。

 

 

これなら!!!

 

 

 

だが、アマツマガツチは踵を返す。

 

弾の飛んでくる方向を向いた。

 

 

サツキが、狙われてる?

まずい、そっちを狙われたら!!!

 

 

 

慌てて鬼神化し、目の前の尻尾を切りつけるが、アマツマガツチは意に介さない。水ブレスの構え。

サツキは見えていると思うけど、あの砲台が壊されたら終わりだ。

 

 

その時だった。

 

 

 

「そっちは絶対に行かせないんだから!」

 

 

 

聞き慣れた声がした。

その声とともに、アマツマガツチがのけぞる。空中から着地したセリアさん。

体に、赤いオーラを纏っていた。

 

 

「セリアさん!」

 

「カンナちゃん、悪いけど、あとの私の体は任せるね。」

 

 

前にも、ドスフロギィの時に見た輝き。

強鬼神化。自らの肉体と引き換えに、異常な攻撃力を引き出す双剣の秘伝書解放をした、セリアさんだった。

 

 

「そんな・・・!

セリアさん、それって!」

 

 

覚えている。

あれを使ったセリアさんは、しばらく動けなくなった。セリアさんが危ない秘伝書を使わなくてもいいように、私も頑張ろうって思ったのに。

 

 

「あぶないですよ!

今は、そんな無理しなくても!」

 

「じゃあいつするのさ!」

 

 

セリアさんが叫ぶ。

 

 

「私、かっこ悪いんだ。カンナちゃん。

サツキちゃんとカンナちゃんはどんどん成長するし。ゾーンに入ったベガさんもそう。

村のために必死に頑張る人だっている。

 

・・・それなのに、私は何にもしてない!

紅葉にいて、エースの名前をもらっている私ができること、何かなってずっと考えてた。

でも、ここなの。

ここなんだよ。

どうしようもない時。

残った希望を守りきるのが、私の使命なんだって!」

 

 

セリアさんは動き出す。

この風の中なのに、前に見たゾーンと変わりない速さ。アマツマガツチは体をくねらせ、竜巻を起こそうとした。

だが、セリアさんはアマツマガツチと逆に移動。

途端に、アマツマガツチが叫んだ。

 

 

「そんな・・・速すぎて!」

 

 

アマツマガツチと逆に移動しながら、斬りつけたのだ。信じられない。短い双剣が届くギリギリの位置。その間合いを保ち、更に切りつけるなんて。

 

そのまま、飛び上がったセリアさん。アマツマガツチの体は、その通ったあとの通りに切りつけられた。すごい。

 

 

やかましく叫びながら水ブレスを吐くアマツマガツチ。でもまるっきり見当違いだ。

動きも少しずつ鈍くなってくる。

あの古龍が、そもそもセリアさんを追いきれない。

 

ズドン!とサツキの狙撃も命中した。

これなら…!

 

しかし、アマツマガツチは竜巻攻撃の構えを見せた。まずい、掴まらないと・・・

 

 

「沈め!」

 

 

遠くからサツキの声がした。と思うと、アマツマガツチの背中に何か刺さる。そのまま縄が伸びてきて、アマツマガツチを捉える。そのまま、地面に体を叩きつけた。

 

すごい…さすがサツキ!

そこを逃さないセリアさん。

 

 

「行けええ!」

 

 

私とミルさんも突っ込んだ。頭を切りつけるセリアさん。その動きが益々上がる。

 

 

「・・・そっか、セリア。」

 

 

 

私の横で、ミルさんが呟いた気がした。

気がつけば、それは乱舞と呼ばれる最強の双剣武術の動きだった。

 

 

「あれって、もう!」

 

「はあああああ!」

 

 

私たちの攻撃に、アマツマガツチは悲鳴をあげる。そのまま、ボキン!と音がして、もう一本の角が折れたかと思うと、アマツマガツチは動かなくなった。

 

 

「ハァ、ハァ………」

 

 

私たちはしばらく放心していた。すると、セリアさんの体が血を吹いた。そのまま崩れ落ちる。

 

 

「セリアさん!」

 

 

駆けよって、私の回復薬を飲ませる。傷は、少しずつ塞がっていった。

乱舞。

その別名は、腕おとしだ。

 

あれは、双剣の中で一番激しいと言われる連続攻撃の名前。

攻撃回数が桁違いの代わりに、特に鬼人化してる時に無闇にやると、あまりの負荷に腕を落とすと言もわれている。

 

 

そして生憎、セリアさんの腕は、血まみれだった。

 

 

「へへ…私、活躍できた?」

 

「当然ですよ…」

 

「セリア・・・よくやった。」

 

 

サツキも駆け寄ってくる。

 

 

「サツキ、よくやった。流石だな。」

 

「いえ…セリアさん、見てました。解放のタイミングといい、完璧です。」

 

「終わったんだね・・・」

 

 

色んなことを思い出した。兄さんのこと。村で応援してくれた、じっちゃんや村長さん、モグラさん。

ソニアさんとホームズさん。リュウさんに、白光の皆さん。

 

 

「ベガ…やったよ。」

 

 

ミルさんの漏らす声。

・・・私たち、何とかやり遂げられたみたいだよ、ベガさん。

 

 

「・・・帰りは、全部終わったらむかえが来るらしい。」

 

 

そんなミルさんの声。そう。それで終わったはずだった。

 

 

だけど。次の瞬間の風のような音は、私たちを驚かせるには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

ヒョオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

 

!!!

慌てて、振り向いた。

 

 

 

「ちょっと…」

 

「嘘だ、そんなの・・・」

 

 

アマツマガツチが、身体を起き上がらせている。

 

少しずつ、だが着実にその体は宙に浮かび上がっていた。

血まみれの体なのは間違いない。

でもそのまま、私たちを見据えると、更に高く浮き上がった。見上げると、アマツマガツチは遥か高くにいる。

そのまま、水ブレスを吐き出した。

 

 

「危ない!」

 

 

セリアさんを背負ったミルさんが横へ。私たちは縦に動く。

 

そんな。まだ、倒れないの?

あれだけ食らわせて、まだ?

 

 

「カンナ、ぼーっとするな!」

 

 

サツキの声。

横に飛びのく。すると、地面がめくれ上がった。岩が宙を舞う。

途端、岩が私たちめがけて降ってきた。

 

 

「きゃあああ!」

 

「バカ!」

 

 

サツキに抱きかかえられ、体が浮く。さっきまでいたところに大きな岩が落ちた。

明らかに今までの攻撃力じゃない。

そんな、まだ上があるなんて。

 

 

「よく見ろ!」

 

「ご、ごめん…」

 

「動揺するな!」

 

 

ミルさんの声。セリアさんは気を失っているようだ。無理もない。

体に負担をかけすぎたんだ。

 

 

さて、どうしよう。

 

こっちはもうセリアさんが戦えないのはもちろんだし、とっくに回復薬なんて切れちゃってる。

 

これでも相当攻撃はかわしている。

むしろこんだけよくもったと私は思ってる。

 

それに体力だってとっくに限界が近い。

こんなに長い時間雨に打たれたら流石に・・・!

 

 

「サツキ!」

 

「わかってるって!ちょっと待ちなさい!」

 

 

上空から降り注ぐ水流をかわしながら頭を少しでも働かせる。

 

頭にあるのは、私が習得したばっかのアレ、なんだけど。

 

 

「あんだけ上空にいられたら・・・!

それにゾーンにも入ってないし!」

 

 

後ろに飛んで目の前を横切る水ブレスをまた避ける。

 

 

「畜生!」

 

 

頭がまとまらない・・・!

 

 

「サツキ!カンナ!」

 

 

後ろから、ミルさんの声がする。

 

 

「振り向かなくていい!よく聞け!」

 

「なんですか!」

 

 

アマツマガツチは狂ったようにブレスを吐き続ける。その一撃一撃で岩盤がめくれ上がる。あたりはゴツゴツした岩の塊で覆い尽くされかけてる。

 

足場の悪い中、集中していた。

ミルさんの声なんか聞いてる場合じゃなかった。

 

でも、その時のミルさんの声はやけにしっかりと耳に響いた。

 

 

「いいか、絶対に死ぬな!

こんなとこで情けない死に方したら許さないからな!

 

お前らなら、大丈夫だ!

 

お前らが、紅葉の、ユクモの、最高戦力だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は正確に狙われたブレス。

でも、サツキも私も難なくかわす。

 

 

落ち着いている。

わかる。

 

ああ、私、何だか冷静だってわかる。

 

 

体はボロボロ。

温泉に入ったのなんて数週間前に感じるくらい。

 

いたるところが悲鳴あげてるし、息も上がっちゃってる。

 

なのに、アマツマガツチは超元気。

 

 

でも、私の頭は冷えてる。

 

 

 

・・・最高戦力だなんておこがましいけど。

絶対、二人の方が強いのは間違いないんだけど。

でも、もう動けるのは私とサツキだけ。

 

 

 

 

 

そうだよね。

やるしかないんだから、私がやらなきゃ!

 

 

 

 

 

 

次のブレスを避ける。コースはおろか、岩も完璧に見えた。

 

 

「サツキ。」

 

「わかってるわよ、ほんと。」

 

「私、あいつ狩るから。狩って、ユクモを救うの。」

 

「わかってるわ、そんなの宣言しなくていい。」

 

 

サツキの横に並ぶ。まだあちこちで起きている竜巻は、風の流れにしか見えない。

 

 

・・・あ。

 

 

 

音が、消えた。

空高くに飛ぶアマツマガツチの様子がわかる。

 

血が流れて、苦しそう。

あと、一息。

 

随分、ゆっくりだなぁ。

都合いいや。

 

 

ああ、良かった。

 

 

ゾーンに、入っている。

 

 

「行くわよ!」

 

「うん!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とは言ったものの・・・

どうしようか。私は、ピンチを前にして、おかしいほど落ち着いていた。ミルさんには下がってもらって、セリアさんを任せた。

空中高くに浮いているアマツマガツチ。

 

チラッと横目でカンナを見る。

赤い目だった。

 

 

「・・・。」

 

 

ってことは、間違いない。

ゾーンだ。

 

でもこのままじゃ攻撃などできない。

あの高さにいる的にどうやって・・・!

 

 

あまりにも苛烈な水ブレス攻撃だった。

一向に降りて来る気配がない。

このままでは、いずれゾーンも効果時間を過ぎて、意味がなくなっちゃうな・・・。

 

 

 

どうする。どうすればいい。

 

 

 

頭だ。

私はこのチームのサポートで、こういうことで役に立たないといけない。

 

アマツマガツチに攻撃を当てる。

そのために、カンナをあの場所へ・・・!

 

 

「・・・そっか!」

 

 

 

あそこに辿り着ければいいのなら。

カンナに賭けるなら。

さっきのセリアさんの速さを見て思ったのだ。カンナのゾーンの速さは、軽くセリアさんの強鬼人化を超えていると思う。

 

 

もし、その速さに賭けるとしたら。

 

 

「カンナ!」

 

「何!」

 

 

信じられないスピードでブレスをかわしたカンナが声を出す。

 

 

「今から作戦話すぞ、30秒で理解しろ!」

 

「わかった!」

 

 

これが最後。これでアマツマガツチが倒れなければ、多分負ける。勝つ。必ず。サーサさんと、姉さんと、リュウと、約束したんだ。

 

 

「勝つわよ!

行くよ、カンナ!」

 

「おっけー!」

 

 

私たち二人は、アマツマガツチのブレスをかわす。この後、少しの間はあいつは攻撃してこない。

その間に、私たちは走った。

 

 

 

目指すのは、適当な大きさの竜巻だ。

 

 

 

そして、私は穿龍棍を取り出す。

そのまま竜巻に飲まれた。

 

 

「うひっ…!」

 

 

体がふわりと浮く。同時にカンナと手を繋いだ。体が回転をはじめ、どんどん空中へ。

 

同時に、穿龍棍を使う。

体制を風で整える。

 

 

穿龍棍の扱いでなら私でも戦える。

体の体制を、カンナ含めて保つ。

 

 

「右、左、そんでこっち・・・!」

 

 

右。左。そしてまた右。不規則な風に、次々と体が振られる。風を操る私の手に、汗が滲むのがわかる。

そのまま、私たちの体は思い切り空中へ浮き上がった。そのままカンナに私を踏ませる。

 

 

アマツマガツチが斜め上に見える。

 

 

「いっけええええ!」

 

 

思い切りカンナは踏み切った。同時に、思い切り空気を打ち出す。

後は、任せた。

 

 

「やあああああァァァァァ!!!!」

 

 

 

同時に、カンナの身体が赤く輝いた。

 

 

 

「いっけええええええ!!!!!!」

 

 

 

目にも留まらぬ速さで剣を振るカンナ。

アマツマガツチまで、あと3メートル!

 

 

「行けええええええ!カンナ!」

 

 

カンナは目にも留まらぬ速さで剣を振る。

最早残像になっている。

 

 

そのまま、カンナはアマツマガツチの上に乗った。同時に、私の体も落下して行く。

 

だが、

 

 

 

ヒョオオオオオオ!ギャアアアア!

 

 

 

その声から、何が起きているかはわかった。

着地して、上を見る。アマツマガツチは、カンナを振り落とそうと必死らしい。

くねくねと体を曲げている。

血しぶきが雨に乗って舞っている。

 

その時だった。空から何か、落ちて来た。

慌てて受け取る。

 

 

「何・・・?」

 

 

それは、なにかの容器だった。

雫の形をしていて、中に液体が入っている。

 

 

 

 

ぎゃああああああああァァァァァ!!!!

 

 

 

慌てて上を確認する。

 

ふわり、とアマツマガツチの身体が浮く。

そのまま、アマツマガツチが落下して来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドシャアアアン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に白い身体が落ちて来た。もう、その体は黒くない。

カンナが、その上に横たわっている。

 

 

「カンナ!」

 

 

すぐさま駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りの竜巻が止んでいく。

 

少しずつ、雲が晴れていく。

そのまま、明るさが増していき・・・

 

 

太陽が、顔を出した。

 

 

アマツマガツチは、ピクリとも動かない。

しかし、そんなこと今はどうでもいい!

 

 

ミルさんも駆け寄って来る。

 

 

「カンナ、あんた・・・!」

 

 

アマツマガツチに飛びかかる前の赤いオーラ。

間違いない。

 

 

「ゾーンと秘伝書、一緒に・・・!」

 

 

セリアさんが普通の秘伝書でああなったんだ。

カンナが無事なわけない。

 

 

現に、カンナの身体の至る所から血が出ている。

やばい。骨、何箇所いってるだろうか。

 

 

「くっそ!」

 

 

すぐに口から最後の余ってた回復薬を流し込む。傷は塞がっていく。

だが、出た血が多すぎる。

 

 

 

ふと目をアマツマガツチにやると、すごいことになっていた。

 

 

「そんな・・・!」

 

 

ミルさんの驚きは私も一緒だった。

無数の切り傷がアマツマガツチの背中を真っ赤に染めていた。あの一瞬でついた傷とは思えない。

 

 

「…!くっそ!!!」

 

 

ちくしょう。こんな、ここまでした英雄をここで死なすわけにはいかない。

私は手で止血に入った。

 

 

死ぬな、死ぬな、死ぬな!!

 

 

「カンナ、あんたの夢は、まだ始まったばっかでしょうが!

 

こんなとこで、死ぬんじゃないわよ!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。