おかしいな。
私って、ハンターだったよね?
なんで武器と、籠持ってるんだろう?
家でその二つを背負いながら首をひねる。
鏡に映る自分を見ても、籠が異質すぎて、何だか逆に笑えてしまった。
状況としては、今朝、ユクモを拠点に活動してるという行商人さんから依頼が入ったのだ。
「はちみつを取りに森に入ったの。ほんの村の前よ?蜂の巣が見つかったんだけど、何か物音がして。怖くて帰って来ちゃったから、代わりに頼まれて?」
たしかに、ハンターといえど、狩猟ばかりが常ではない。周りも含め、地域の人々の生活を支える依頼もくるのだ。
ただし。ハンターになってから2週間。私たちに周ってくる仕事はそんなのばかりだった。
ベガ班は今日も狩りに赴いているらしい。
それなのに私たちはキノコやら、虫取りやら、炭鉱作業やらばかり。途中、何頭かブルファンゴーー
イノシシ退治をしたが、それくらいだった。私は狩りがしたくてハンターになったのだ。流石にストレスがたまっていた。
それでも、仕事だ。やっと掴んだ夢への第一歩。そう簡単に文句は言ってられない。
「よしっ、頑張ろ!」
気合いを込めて、家を出た。
すると、
「うわっ!」
「へっ、ごめんなさい!」
誰かとぶつかりそうになって、慌てて飛びのく。
サツキだった。
「あら、カンナさん。今からクエスト行くの?」
「サツキ、お疲れ!そうだよ、これから。サツキは何するの?」
サツキはちょっと変な顔をして、
「あー、ちょっと森に、ね。」
サツキはよく見ると、運動する時のような格好に、籠を持っていた。
そして、袋を一つ。何をするのだろう。
「おーい、サツキ?」
見ると、石階段の上からリュウさんが降りて来た。
いつも通りの正装だった。
「リュウ。どうしたの?」
「こっちのセリフだ。お前何しに行くんだ?」
「私が何しようと勝手よ。ちょっと村の周り散歩するだけ。」
「それだけならいいがな。いいか?今は村の周りも危ないんだ。気をつけろよ。モンスターにあったら、必ず助けを求めろ。いいな?」
「わかってる。」
親しく話す二人を見て、少し呆けてしまった。
「あのー、リュウさんとサツキって一体・・・」
「ああ、幼馴染よ。」
なるほど、そういうことか。やけに仲が良さそうで、納得がいった。
やましい想像をしてしまった。
それなら、会議の時間をサツキが知ってたのも納得がいく。
「ああ、ひょっとして付き合ってるのかと・・・」
「それはない。」
2人の声が綺麗に重なったところで、
「カンナ!何してる!集合時刻は過ぎてるぞ!」
ミルさんの声がこっちに向かってくる。
あかんあかん。慌てて、
「それじゃ、またね!」
と言って走り出した。
昔何があったかは知らない。
でも、絶対にサツキと狩りがしたかった。
その時、サツキを私が止めていたら、どんな未来になったのだろう。
私たちは全速力で村へと戻る。ミルさんの背には顔を真っ青にして、苦しそうに息をするサツキ。
外傷がないことは確認した。
なら、一体どうしてこんなことになっているのか。
わたしにはわからないけど、医者に見せなければ。
村に戻ると、すぐに村唯一の病院に運んだ。
馴染みのハンターの背中に、明らかに様子のおかしい女性。村の人たちも、道を譲ってくれた。
「ウラのじっちゃん、急病人だよ!」
奥から顔を覗かせた一人のおじいさん。
その歳は本人曰くだれも把握できておらず、つまり本人でさえも把握していない。
黄色い服を見に纏い、いつもぼうっと外を眺めている。
患者が来るとき以外は。
名前はウラジさんと言う。腕は確かなのだが、少しボケている。
ちなみに私は昔からこの病院にも出入りして、構ってもらっている。
少しボケてるけど、優しいおじいちゃんみたいな人だ。
「あれ、カンナちゃん。給料日?はて、わしに給料なんて・・・」
「急病人!いいから、こっち来て!」
「すみません、すぐにお願いします。」
ボケをかましてるじいちゃんの手を強引に引いて、サツキの前へ。
じっちゃんはサツキを見ると、目が変わった。
これもいつものことだ。人を助ける時には、まるで別人のようにキビキビと動く。
「ミル殿、そこの棚からハサミと、それから、そう。その赤い瓶を取ってくれ。カンナちゃん、少し下がっていておくれ。」
サツキは相変わらず息が荒い。
ハアハアと何かにうなされたように息をしている。
じいちゃんは、何かに取り憑かれたようにブツブツ言って、薬を注射したりしている。
「はて、この子、何で倒れたのかの?原因がさっぱり・・・」
「わからないんですか?」
「うむ、怪我も特にしておらん。なのに、この症状・・・」
原因はたしかに謎だ。
アオアシラに襲われたはず。それは間違いない。なのに、怪我がない。かすり傷一つないのだ。なのに、サツキは現にこうなってる。一体どうなってるの?
その時、ドアが開いた。
バタバタと入ってきたのは、リュウさんと村長だった。
「サツキ!」
「サツキさんは大丈夫ですか?」
「村長、リュウさん!それが、何が原因がわからなくて・・・」
リュウさんは私の声も無視してサツキの元に駆け寄った。
ちらりと見て、顔を曇らせた。
「またか・・・大丈夫、皆さん安心して。水をかければ起きます。というか、水をかけてください。」
「はい?」
えーと?何言ってるんですか?
突然のリュウさんの提案に頭が混乱した。
ミズヲカケル?
「カンナさん?聞こえなかったのですか?水をぶっかけるんです。早く!」
その勢いに押され、水道場に向かった。
わけもわからぬまま、流しに置いてあったコップに一杯水を汲んで、リュウさんに手渡す。
あーもう!どういうこと?
リュウさんはそれを思い切りサツキの顔にぶちまけた。
容赦なかった。
「ちょ、リュウさん!!?」
水が飛び散り、床に溢れる。
「プハァ、ゲホゲホ!」
でも、その瞬間、サツキは目を覚まして飛び上がった。
気管に入った水を、咳をして出している。
あっという間だった。
なぜか、あんなに重体に見えたサツキは、一瞬で元に戻った。
それでも、顔は真っ青で、うつろに私たち、主にリュウさんを見ている。
「目が覚めたか?」
リュウさんが声をかけた。
まるで、いつものことだ、というように。
しばらく咳をしていたが、サツキも目をしっかりと開き、
「…うん、大丈夫。私、生き残ったのね。」
と言った。
「ミル班がたまたまお前の近くにいたらしい。助かってよかったな。」
サツキは頷いた。そして、私たちの方を向いて、
「そうなんですか、本当にありがとうございました。カンナさんも、ありがとね。」
と言った。
顔色は悪くて、息も荒い。
一体、今のは何?
でも、とにかく助かった、らしい。うん。
とりあえず、大丈夫だよね?
「う、うん・・・とにかく、無事でよかった!」
ミルさんもセリアさんも呆然としている。
わかんないことが多いけど、リュウさんの謎の治療が効いたらしい。
まあ、とにかく私は人を救えたのだ。
まさか最初がサツキになるとは思わなかったけど。
とにかくよかった。ホッと一息、ようやくついた。
一人で休ませた方がいいというじっちゃんの話で、私たちは外に出た。そのままギルドに戻る。
移動中も、特にさっきのことについて会話はなかった。
無言のまま、ギルドに到着する。
二人とも、疲れ切っているのが見て取れた。
アオアシラは、すでにギルドによって解体されたらしい。私たちの配分となる素材が、山のようにギルドの前に積まれていた。
「おおー!カンナちゃん、初素材でしょ?」
セリアさんの明るい声が響く。
「はい、ありがとうございます!」
とりあえず受け取った。
ずっしりとした重み。狩猟の実感が湧いてくる。
こうした素材は、加工屋のおじさんに出せば私たちの武器や防具にしてもらえるし、売れば換金してお金になる。
それとは別に、報酬も受け取れる。
ハンターというのはかなり儲かる仕事なのである。
命という、払う対価に見合ってはいる。
私たち3人分に配分された素材は、かなりの量がある。中々に質のよいものも多く、いい武器や防具になりそうだった。
一件落着。また、こういうクエストができればいいな。
さて、これをとりあえず持って行って、武器と防具、作れるかな?
ワクワクする。新しい武器か…どんなのにしてもらおうかな?
「ところで、カンナ?はちみつの籠は?」
………………ん?
「あ、ああああ!」
こうして、すっかり陽が落ちた森を、私はまた走らされることになったのだった。
オリキャラ紹介
カンナ
姿は金髪ショートカット。瞳は黒で、いわゆる貧乳。
歳は24。ユクモで育ち、幼い頃からハンターを志して今夢かなう。兄が一人。家族は他にはいない。